十一
奈々子がふれあい園で働くようになって2ヶ月が過ぎた。とても暑い夏の夜だった。その日も喫茶の仕事を終えて帰ろうかと職員室に入ろうとしていたとき、中でスタッフの山本さんと石川さんが話しているのが聞こえた。共にふれあい園の若手美人スタッフだ。
「アルバイトの藤野さん、がんばってるわねぇ。」
「ホント。できればもっと仕事入って欲しいわ。」
奈々子はうれしかったが、驚いた。
「喫茶も宏子さんとの二枚看板ね。」
「聞いた?男性メンバーの間では宏子派、奈々子派ってあるそうよ。」
奈々子はさらに驚いた。
「まあ、やっぱり奈々子ちゃんでしょう。」
石川さんがぶっきらぼうに言った。
「石川派、山本派は隅に追いやられているわね。」
「スタッフに恋してもダメだって気付き始めたのよ、男たちも。」
奈々子ははっと息を飲んだ。
「でも宏子さん、そんな可愛い?」
「年増で既婚で精神障害者なのにあの可愛さよ。病気にしてはいいほうよ。」
えっ、宏子さんが障害者? 奈々子は思った。
「健二クンも宏子さんのどこが良かったのかしら?」
「同病相哀れむ、よ。他にないじゃない。G大出身であのカッコよさで、ちゃんとお勤めもしてるのよ。精神障害者でさえなかったらきっともっといい奥さんもらえたのに。もったいないわ。まあ、朝倉夫妻はきぼう作業所からの移籍で・・・」
奈々子はドキッとした。健二さんも!と思った。
そのとき、やっと二人が奈々子に気付いた。
「あら、藤野さん、お疲れ!」
「は、はいっ。お疲れ様です。」
無理に平静を装って奈々子は応えた。
家への帰り道、奈々子はスタッフ二人の噂話を思い出していた。気がつくと奈々子は走り出していた。
健二さんと宏子さんも精神障害者だったなんて!自分の好きな人が障害者なんて!
どうしよう、これからどうやって二人と接しよう。奈々子は思った。
どうやって・・・答えはすぐに出なかった。
障害のことを心の中にしまいつつ、奈々子は健二、宏子と接した。実際にはその後何も起きなかったのだが、奈々子はずっと二人を色眼鏡で見ていた。健二たちはメンバーたちと同じだ、自分とは違う、と。火曜日の喫茶でも、秋のレクレーションである芋ほりに紅葉狩りのときでも。
やがて季節は冬になった。
奈々子がふれあい園で働くようになって2ヶ月が過ぎた。とても暑い夏の夜だった。その日も喫茶の仕事を終えて帰ろうかと職員室に入ろうとしていたとき、中でスタッフの山本さんと石川さんが話しているのが聞こえた。共にふれあい園の若手美人スタッフだ。
「アルバイトの藤野さん、がんばってるわねぇ。」
「ホント。できればもっと仕事入って欲しいわ。」
奈々子はうれしかったが、驚いた。
「喫茶も宏子さんとの二枚看板ね。」
「聞いた?男性メンバーの間では宏子派、奈々子派ってあるそうよ。」
奈々子はさらに驚いた。
「まあ、やっぱり奈々子ちゃんでしょう。」
石川さんがぶっきらぼうに言った。
「石川派、山本派は隅に追いやられているわね。」
「スタッフに恋してもダメだって気付き始めたのよ、男たちも。」
奈々子ははっと息を飲んだ。
「でも宏子さん、そんな可愛い?」
「年増で既婚で精神障害者なのにあの可愛さよ。病気にしてはいいほうよ。」
えっ、宏子さんが障害者? 奈々子は思った。
「健二クンも宏子さんのどこが良かったのかしら?」
「同病相哀れむ、よ。他にないじゃない。G大出身であのカッコよさで、ちゃんとお勤めもしてるのよ。精神障害者でさえなかったらきっともっといい奥さんもらえたのに。もったいないわ。まあ、朝倉夫妻はきぼう作業所からの移籍で・・・」
奈々子はドキッとした。健二さんも!と思った。
そのとき、やっと二人が奈々子に気付いた。
「あら、藤野さん、お疲れ!」
「は、はいっ。お疲れ様です。」
無理に平静を装って奈々子は応えた。
家への帰り道、奈々子はスタッフ二人の噂話を思い出していた。気がつくと奈々子は走り出していた。
健二さんと宏子さんも精神障害者だったなんて!自分の好きな人が障害者なんて!
どうしよう、これからどうやって二人と接しよう。奈々子は思った。
どうやって・・・答えはすぐに出なかった。
障害のことを心の中にしまいつつ、奈々子は健二、宏子と接した。実際にはその後何も起きなかったのだが、奈々子はずっと二人を色眼鏡で見ていた。健二たちはメンバーたちと同じだ、自分とは違う、と。火曜日の喫茶でも、秋のレクレーションである芋ほりに紅葉狩りのときでも。
やがて季節は冬になった。