六
次の月曜日、いつものように朝学校へ行くと奈々子の一番の親友の岡田美香が奈々子に尋ねてきた。
「ナナ、誰なの? 男って・・・」
「えっ?! 何のこと?」
「知らないの? ナナのこと噂になってる。メールが出回ってて、絵里がメール転送してくれたの。ナナが駅前のカフェで30くらいの男の人と楽しそうに話してたって・・・」
そういって美香は奈々子に自分の携帯を見せた。
”藤野奈々子に恋人? 駅前のカフェ・ボンジュールで藤野が30歳くらいの男とデートしていたことが発覚!!男の左の薬指にはリングが!藤野、不倫の恋か?!”
奈々子は赤面して驚いた。
「何よこれ!」
「こっちが言いたいわよ。ナナ、この男って誰のこと?」
「か、彼はフランス語講座で一緒だった人よ。レッスンの後一緒にコーヒー飲んだの。最初は先生や他の生徒さんもいたけどみんな帰って私たち二人になったの。」
「ホントに?」
「そ、そうよ。それだけ。本当よ。」
「フランス語講座か・・・ナナ、フランス好きだもんね。夏には短期留学も行ったし。」
「そう、グルノーブルよ。」
「この男の人もフランス語出来るの?」
「彼は・・・まだビギナーね。でも奥さんがすごく出来るって言ってた。」
「やっぱり奥さんいるんだ!」
「そうなの。なかなかの愛妻家よ。仮に私なんかいったとしてもきっとダメよ。」
「ナナは、この人にいきたいの?」
「い、いやそうじゃないけど・・・」
「分かんないわ。男の人ってみんな若い娘が好きだっていうし。それにナナはビジュアルいいし。・・・」
「わ、私じゃダメだわ。」
「いってみなさいよ。あんたにその気持ちがあるなら。」
冷やかすように美香は言った。
その後も奈々子はニコラ先生のフランス語講座に出席し、健二もやってきた。工藤さんも来てみんなで先生のレッスンを受け、その後コーヒータイムを取った。コーヒータイムでは健二は奈々子にもたくさん話しかけてくれた。そしていつも最後には奈々子と健二の二人になった。
全6回の最終回となった。レッスンの後、思い切って奈々子は健二に電話番号とメールアドレスをたずねた。健二はちょっと考えたが、それでも教えてくれた。
「奈々子さんとお知り合いになれたのはここでの大きな収穫ですよ。」
帰り際健二はうれしそうに言った。「わ、私こそ。」と、思わず奈々子も付け加えた。
健二とも別れ、奈々子は帰り道、胸の高鳴りを感じた。これが恋? 奈々子ははっと思った。『ダメよ、奈々子。相手はずいぶん年上で奥さんのいる人よ。』自分に言い聞かせるのだが、まるで効き目がなかった。
確かに奈々子は恋をしはじめていた。