情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

道新が「自殺」した経緯~労働組合の報告から

2006-01-14 22:09:32 | メディア(知るための手段のあり方)
道新が謝罪した件(ここここ参照)に関連して,労働組合が報告書を発行しているようだ。その報告書は,問題となった道警の泳がせ捜査記事に関する道新内部の対応が裏金疑惑報道を取材した記者たちの異動があった7月1日前後で大きく変わり,7月以降は一気に弱気になり,さらに,道新の売上金着服問題(※)のため,道警との手打ちに至ったということを示唆している内容らしい。

6月までは道警の道新に対する抗議に対して,もし道警が訴えてきたら堂々と受けて立つという考えだった。社内的に記事内容,取材経過などを検討した結果だっという。

ところが,7月に入ってから情勢が変わり,道新内部に調査チームを設けて,取材した記者から聴き取りが行われた。この聴き取りの際,記者が聴き取られた結果は道新内部に止まるのか,それとも,部外者である道警にも伝わるのかについて確認をしたところ,社内限りの保障がされなかったという。

その結果,記者の多くは聴取を拒んだというのだ。

そのような「不十分な」社内調査の結果を受けて,道新が【社内調査では、一連の取材経過などについて検証しました。その結果、捜査関係者の証言の多くは伝聞に基づくものであり、警察と税関との緊密な協力のもとで、十分な監視のために多数の捜査員や職員を投入するのが一般的な、麻薬特例法に基づいた組織的な「泳がせ捜査」が行われたとの確証は得られませんでした。  稲葉元警部が暴露し、記事にも明示した「覚せい剤130キロ、大麻2トン」という莫大(ばくだい)な道内への流入量についても、元警部の証言以外に十分な根拠はなく、流入後の行方も不明のままです。  こうした点についていずれも裏付け取材が不十分でした。】(道新)と安易に結論づけたのだとするとそれは非常に由々しきことだ。

労働組合の報告書では,本来は全く関係ないはずの広告費問題と泳がせ捜査記事の二つが道警の手の中で一つにされてしまったことが今回の調査,そして謝罪につながったのではないかと分析されているという。

内部のこのような意見について,道新幹部はどう受け止めるのか?
道新記者はこの困難にいかに立ち向かおうとしているのか?道民はどう判断するのか?
そして,私たちはこの問題から何を教訓とするべきなのだろうか?


記者に対する処分という最悪の事態は避けられたような感じもするが,道新は【社内処分については「するかしないかも含めて検討する」(経営企画室)】とのコメントを出している(朝日)。

560万道民をはじめ私たち市民は,スクープした記者を守りきれるだろうか?まさに表現の自由を傷つけるナイフが私たち市民の喉元に突きつけられているような感じがする。


※←訂正しました。勘違いしており失礼しました。
【北海道新聞社(菊池育夫社長、本社・札幌市)の元東京支社営業部長=6月に依願退職=が経費から約500万円を着服した問題で、元営業部長に支払われた退職金約2000万円全額を、同社の取締役以上の役員が会社に穴埋めすることを決めた。元営業部長に正規の退職金を支払ったことについて道新労組が「特別背任の疑いもある」と追及していた。同社は毎日新聞の取材に対し、「役員の自主的な行動でコメントすることはない」(経営企画室)と説明した。】(毎日


道新謝罪記事掲載~

2006-01-14 15:01:53 | そのほか情報流通(ほかにこんな問題が)
本日,道新が,「『泳がせ捜査』記事でおわび 裏付け取材が不足『組織的捜査』確証得られず」との見出しで,道警に対する謝罪を行った。この記事は,裏金疑惑を取材したチームによるもので(朝日:同社は、03年11月に発覚した道警の裏金問題についてのキャンペーンで、04年度の日本新聞協会賞を受賞。今回の「泳がせ捜査」の記事は「裏金問題」とは直接関係ないが、担当したのは裏金問題を取材した当時の道警担当キャップとデスクだった。),内部調査によっても記事内容が否定されたわけではないにもかかわらず,謝罪したことは,一連の裏金疑惑について,道警と手打ちをしたようなものだと批判されても仕方がないのではないか。

◆◆道新記事◆◆
 北海道新聞社は昨年三月十三日、朝刊社会面に「覚せい剤130キロ 道内流入?」「道警と函館税関『泳がせ捜査』失敗」などの見出しで、道警と函館税関が二○○○年四月ごろ、「泳がせ捜査」に失敗し、香港から密輸された覚せい剤百三十キロと大麻二トンを押収できなかった疑いがあるとの記事を掲載しました。
 これに対し道警から「記事は事実無根であり、道警の捜査に対する道民の誤解を招く」として訂正と謝罪の要求があり、取材と紙面化の経緯について編集局幹部による調査を行いました。
 その結果、この記事は、泳がせ捜査失敗の「疑い」を提示したものであり、道警及び函館税関の「否定」を付記しているとはいえ、記事の書き方や見出し、裏付け要素に不十分な点があり、全体として誤った印象を与える不適切な記事と判断しました。
 関係者と読者の皆さまにご迷惑をおかけしたことをおわびします。
北海道新聞社

 「泳がせ捜査」失敗疑惑に関する記事についての北海道新聞社の社内調査の内容を報告します。
 この記事の取材は、覚せい剤取締法違反などで逮捕され有罪が確定し服役中の稲葉圭昭・元道警警部が二○○三年三月に、自身の公判で明らかにしたのが発端で始まりました。稲葉元警部は「上申書」を読み上げる形で、自らが関与した「泳がせ捜査」が失敗したと暴露しました。元警部は、収監後も同じ内容を一部の関係者に伝えていました。本紙記者は、「上申書」の内容を確認するために、関係者らの取材を進めていました。
 二○○五年には、元道警釧路方面本部長の原田宏二氏が、著書「警察内部告発者」の中で、服役中の稲葉元警部からの私信につづられていた話として「泳がせ捜査」について紹介することが分かり、取材を加速させました。
 複数の捜査関係者などの取材をしたところ、稲葉元警部が暴露した話と矛盾しない証言が得られました。元警部の証言の信ぴょう性については、既に罪を認めて服役中の身でありながらあえて虚偽の話をつくる理由はない、とも考えられました。こうしたことから「泳がせ捜査失敗の疑い」として記事にしました。
 社内調査では、一連の取材経過などについて検証しました。その結果、捜査関係者の証言の多くは伝聞に基づくものであり、警察と税関との緊密な協力のもとで、十分な監視のために多数の捜査員や職員を投入するのが一般的な、麻薬特例法に基づいた組織的な「泳がせ捜査」が行われたとの確証は得られませんでした。
 稲葉元警部が暴露し、記事にも明示した「覚せい剤130キロ、大麻2トン」という莫大(ばくだい)な道内への流入量についても、元警部の証言以外に十分な根拠はなく、流入後の行方も不明のままです。
 こうした点についていずれも裏付け取材が不十分でした。
 泳がせ捜査は、密輸された覚せい剤や拳銃などの発見時に容疑者を逮捕せず、そのまま流通させ、密売グループ全体を摘発する手法です。薬物の場合は麻薬特例法、銃器は銃刀法で認められています。記事では、拳銃摘発のために薬物を見逃したとしましたが、これが事実とすれば合法的な泳がせ捜査ではなく、違法捜査にあたります。しかし、記事には違法か適法かの説明もありませんでした。
 一方、稲葉元警部が上申書でいうところの「泳がせ捜査」がなかったという確証も得られませんでした。
 掲載した記事は、泳がせ捜査をめぐる疑惑に関して報じたものですが、第一社会面トップという扱いの大きさや、「覚せい剤130キロ道内流入?」「道警と函館税関『泳がせ捜査』失敗」「大麻も2トン、密売か」などの見出しも含め、全体としては、法に基づいた道警と函館税関合同の泳がせ捜査があったという印象を読者に与えるものでした。

「泳がせ捜査」失敗疑惑の記事  2005年3月13日朝刊第1社会面に掲載。道警銃器対策課と函館税関が2000年4月ごろ、泳がせ捜査に失敗し、香港から石狩湾新港に密輸された覚せい剤約130キロと大麻約2トンを押収できなかった疑いがあると報じた。
 この覚せい剤と大麻は道内に流入し密売された可能性が強く、末端価格では計150億円以上と推定され、130キロという覚せい剤の量は、道内の年間押収量のおよそ500倍に相当すると、記した。
 「泳がせ捜査」については、道警、函館税関が合同で実施し、犯行グループから拳銃を摘発するためのもので、覚せい剤、大麻の計2回の密輸入は見逃し、3回目に摘発する手はずだったが、捜査は失敗し、押収できなかったとした。
 こうした内容は、複数の当時の捜査関係者らが証言したとし、捜査を担当した稲葉圭昭・道警元警部(覚せい剤取締法違反などの罪で逮捕され服役中)が自身の公判中に裁判所に提出した「上申書」でも明らかにしたと報じた。この「上申書」も併せて掲載し、道警と税関の「否定」も付記した。

 新蔵博雅編集局長 「泳がせ捜査」失敗の疑いを報じた本紙の記事について社内調査の結果、全体として説得材料が足りず、不適切なものであったとの結論に至りました。事の性格上、取材の困難さはありましたが、それは理由になりません。疑いを裏付ける続報を展開し得なかった力不足についても率直に反省いたします。編集局を挙げて取材力の向上に努め、読者の皆さまの信頼に応えていきたいと思います。

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