日本も欧州のように富裕層も貧困層も気軽に利用できる鉄道を・・・ 2020-05-21 00:00:00 | 日記 2020年5月21日、2015年3月14日の最終「北斗星」の乗客の一人はつぶやいた。「こんなに人気があるのに、なぜ廃止するんでしょうね」青函トンネルを通り、上野と札幌を毎晩結んだ寝台特急「北斗星」が2015年3月14日限りで廃止された。切符は入手困難となり、最終日には別れを惜しむ数千人が沿線に…。だが素朴な疑問も湧くだろう、「人気があるなら残せばいいのに」と。どうやら真の廃止理由は「時代の流れ」ではなさそうだ。新幹線や超豪華列車に特化するJRの営業戦略、それに複数の鉄道会社間の経費調整という、利用者不在の事情が透けて見えるのだ。廃止の主な理由は車両の老朽化。最も古いもので製造後40年を超え、修繕を重ねて使ってきた。来春の北海道新幹線開業を控え、青函トンネルの通過が制限されることも一因という。「北斗星」の代替としてJR東が挙げるのが、2017年春に運行を開始するクルーズトレイン「四季島」だ。展望車やラウンジ、ダイニングを備えた全室スイートの豪華列車で、2013年秋に登場し富裕層や外国人観光客に人気が高いJR九州の「ななつ星in九州」が刺激となったのだ。ただ、代替というには値が張る。「ななつ星」の場合、3泊のコースで1人48万~130万円、1泊でも最低21万円。「四季島」の料金は発表されていないものの、「ななつ星」に匹敵すると想定される。上野-札幌間2万7980円の「北斗星」とは桁が違う。「一年に一度」と「一生に一度」ぐらいの差があるだろう。「北斗星のように、気軽に乗れる列車を今後新設する予定は?」との記者の質問に、JR東日本の運輸車両部は「今のところ計画はない」と断言したのだ。「北斗星」と同時に廃止されたのが、豪華な個室や食堂車などで高い人気を誇ったJR西日本の「トワイライトエクスプレス」(大阪-札幌)だった。JR西は同じく「老朽化のため」と説明する。しかし、運輸評論家は、2015年3月14日に開業した北陸新幹線との関連性に着目する。新幹線の開業に伴い、JRは並行する在来線の経営から手を引いていい、と国は定めている。北陸の場合はJR西、東にまたがる金沢-長野間の252・2キロが、沿線自治体の出資による4社の第三セクターに分割、移管された。「三セク化でJR西の“取り分”が減ることが主要な廃止理由だったはずだ」と指摘する。大阪-札幌間1495・7キロのうち、JR西エリアは444・8キロと3割を占めたが、三セク化で267・6キロと2割以下に。いくら経費をかけて列車を走らせても、距離に応じて得られる収入は大きくないのだ。とはいえ、それは鉄道会社同士の取り分が減るからの事情にすぎず、利用者には関係ないのだ。そもそも車両の老朽化は廃止の理由になるのだろうか、新しい車両に替えればいいのではないか-。「需要が一定数あるならば、車両を更新して続けるべきだ」と、JRの消極性に疑問を呈するのだ。背景には、長距離旅客を新幹線に誘導し、集約させようという戦略があるようだ。高速の新幹線と「ななつ星」のような超豪華列車という二極化。最近のJR各社の方針について、海外の鉄道事情に詳しい横浜出身の鉄道研究家は「日本の鉄道は選択と集中が進みすぎた」とみていたのだ。例えば首都圏から関西や東北へ鉄道で行くには、今や新幹線以外に選択肢がない。新幹線とは別に在来線があるのに、そのインフラが「宝の持ち腐れ」になっている。「欧州には新幹線のような高速列車も、日本円で3千円弱の追加料金で乗れる安い簡易寝台車もある」速さよりも安さを選ぶ人、あるいは寝ている間に移動して時間を有効活用したい人など、幅広い利用者像が想定されているのだ。既存の路線に、夜行列車や都市間輸送など、それぞれの目的に特化した運行専門会社が複数参入する「オープンアクセス」も、欧州では一般的という。一つの道路に複数の会社のバスが走るのに似ているのだ。一方でJRは「この20~30年ほど、欧州のようなチャレンジをほとんど行わなかった」足りないのは旅行手段の多様性である。さまざまなニーズに対応するのが公共交通の使命であるはずだ。その方が中長期的に鉄道の魅力を高めることにもなるのだ。このままでは、貧困層をはじき出すようなものだ。日本も欧州のような鉄道にすべきであろう。富裕層も貧困層も気軽に利用できる鉄道を・・・(井森隆)