エッセイ 予選会
「駅伝の話になると、早口になりますね」と友人が言う。
10年前、息子の通う大学の父母会役員をしたが、活動の中に、箱根駅伝の応援も含ま
れていた。
箱根駅伝には長い間出場していたが、その時期、2年連続、本選には出ていなかった。
OBが立ち上がり、植木等さんを会長に「箱根駅伝で優勝させる会」」が発足し、父母会も
協力するよう申し合わせた。
シドニーオリンピックマラソン代表の川嶋伸次氏を監督に迎えた。氏は、基本から鍛え直し、
4年生の部長を競技に集中させるため、3年生のK君を部長に指名するなどの改革を行っ
た。
シード権のない大学は、秋の予選会で、上位の成績を取らなければならない。
立川の昭和記念公園で、私は初めて、選手の走りを間近かで見た。500人近くの、息子
と同年齢の選手たちが、夏合宿から備えてきた走りに息をつめた。誰にと言うこともなく、
ただ「がんばれ」と声をかけた。
成績は2位通過、報告会で、新部長のK君がはにかみながら、正月の箱根駅伝の応援を
お願いしますと挨拶した。
翌年から、父母会の旗を持って沿道で応援し、機会があれば、走った後の選手たちと話を
した。K君に「就職決まったの」と聞くと「旭化成に決まりました、オリンピックに出たいです」
と言った。以前川嶋監督がいた陸上部で、マラソンを頑張るつもりだと思った。
今年も予選会を見に行った。
ある大学の旗の下に、大柄なK君が、選手に挨拶されている。「大学の父母会の者だけど
、監督になったの」と聞くと「いや、コーチです」という。K君の活躍した箱根の事や、最近は
上位校で、父母会の皆も喜んでいるなどと話したが、一緒の写真にと頼むと気軽に入って
くれた。
夫が、「おまえ、随分早口でしゃべっていたぞ」と言った。そりゃ同じ高知生まれの、坂本竜
馬みたいな青年には、誰だって早口になるはず、「へへ」とごまかした。
15夜さんのイラストより 寒椿
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます