邦題『ハーバート太田とカイマナ・アイランダース 唄: リンダ・グリーン / ハワイ ウクレレの魅力のすべて』1969年、ミノルフォン (Harvest Records)よりリリース。ミノルフォンとは60年代創業の日本のレコード会社で、後の徳間ジャパンである。よって後年、徳間ジャパンコミュニケーションズから本盤もジャケットを変えてCD化もされている(TMC-1001)。自身のグループを連れて来日した際の吹き込み、という事であるから恐らくはリンダ・グリーンも帯同しての公演であった事だろう。
メンバーは以下:
リンダ・グリーン(ボーカル)
ジェームス・イトビアス(ギター)
ロビン・パラス(ベース)
ジョージ・オキモト(ドラム)
日本から、小沢恒(スティールギタ-)が客演している。
さて本盤、英語クレジットのHerbert I. Ohta = Herbert Ichiro Ohta つまりオータサン本名のフルネームである。ボーカル担当のリンダ・グリーンはハワイの歌手だが60年代の時流に乗って『Surfing Village』というグループサウンズ(ロック)の45回転シングル・レコードも出していて、なんとその作曲がオータサン!またオータサンの楽曲をフィーチャーしたLP『Shades Of Green』も1970年代にリリースしている。どちらもオータサンが専属だったSurfside Recordsからのリリースという事でオータサンとはこの時期に縁が深く、他にも別のロックバンドと組んでのシングル盤や、有名なハワイ歌謡『ちょっと待ってください』を日本でシングル盤をリリースするなど、この時期多方面に活躍したハワイの女性歌手だ。
A
1 南国の夜
2 ワン・パドル・トゥ・パドル
3 ハワイアン・ウエディング・ソング
4 マウイ・チャイムス
5 可愛いフラの手
6 ブルー・ハワイ
7 あなたのことばかり
B
1 真珠貝の歌
2 ナ・レイ・オ・ハワイ
3 ラハイナ・ルナ
4 ヒィラヴェ
5 珊瑚礁の彼方
6 小さな竹の橋
7 アロハ・オエ
演奏はいつものハワイでの吹き込み盤と比べるとオータサンのウクレレが控え目で、バンドのアンサンブルを重視したアレンジとなっている。当時の日本のハワイ音楽リスナーの好みに合わせたものだろう。選曲は多くの和製ハワイアン音盤と同じく、典型的なハワイアンの名曲レパートリー集となっている。こんなにどの音盤も同じような曲ばかり取り上げていたら聴衆にすぐ飽きられるだろうに、と今の感覚だと老婆心ながら思ってしまうのだが、恐らくは当時の日本のリスナーが求めるものもまさにこうした知名度の高い名曲集の演奏だったのだろう。なにしろレコードという音楽コンテンツがとても高価な娯楽だった時代のこと、当時のレコードは一過性の消費アイテムではなく、大切に何度も何度も繰り返し楽しむためのもの。本盤もなにしろ定価1,700円である。参考までに一説によると当時の貨幣価値の換算式は以下のようになるらしい。
消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)102.3(令和元年)÷24.4(昭和40年)=4.2倍
本盤は装丁も豪華で、見開きのダブルジャケットに冊子風のカラーイラストでハワイのイラストマップ(「ハワイ諸島パノラマ・ガイド」)が印刷されている。この時代にハワイ旅行に実際に行く事のできる日本人はまだそう多くなかったろう。オータサンの奏でる音楽と相まって、レコードを手にする当時の若者を夢のハワイへと誘ってくれたはずだ。
収録楽曲の全曲紹介、オータサンのバイオグラフィー紹介、さらにはハワイ語の小辞典とアイデアをこらした、大変に夢のある楽しい内容。こんな企画、現代の日本では通らないだろう。いやはやミノルフォン、良い仕事してますねぇ。