8.9kmだった。
前回よりはマシに走れたと思う。
入口でかあちゃんと待ち合わせていたが、オヤジの方が早かったので、ストレッチして飲み物など飲んで待った。
「明神の湯」は午前中に入ると安いので、洗い場待ちができるほど混んでいた。
サウナと温泉で汗をたくさんかいて、膝をよくマッサージして出て、体重をはかったら、59キロに戻っていた
隣のロッカーから着替えを出しているオジサンが(推定年齢62歳)、体重をはかって戻ってくると、ハイトーンの小声でポツリとつぶやいた。
「よしとするかぁ・・・」
その声は例えて言うと、「寅さん」に出てくるタコ社長の声に似ていて、軽い諦めまじりのつぶやきは、思わず振り返ってしまうほど切ない感じだった。
オジサンはつねに何ごとかつぶやきながら着替えているのだが、ときどきその手をとめて、うっすら笑いを浮かべて、
「よしとするかぁ・・・」
と言うのだった。
やがてオジサンは着替えの袋から湿布を取り出し、膝に貼ってサポーターをつけ、再び、
「よしとするかぁ・・・」
とつぶやくのだった。
着替え終わって休憩所でかあちゃんと落ち合うと、開口一番怒られた。
さっき飲んでいたドリンクのスクリューキャップを、ちゃんと締めずにかあちゃんのバッグに入れちゃったもんだから、バッグの中で中身がこぼれ、サイフやらなにやらを濡らしてしまったのだ。
風呂から上がってからそれに気づいたかあちゃんは、ぷんぷんしながらドライヤーで乾かしたのだそうだ。
どうも、不注意でごめんなさい。
だけど、もう乾いたのだから、
「よしとするかぁ・・・」
しまった、オジサンの口癖がうつってしまった。
ランチに入った店で、エビのアンチョビガーリック焼というメニューに惹かれて、ご飯をたのまずに生ビールをオーダーしてしまった。
せっかく体重が戻ってきつつあったのに・・・、でも、
「よしとするかぁ・・・」
完全に擦り込まれてしまった。
まあ今日のところは、
「よしとするかぁ・・・」
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