お好み夜話-Ver2

よねさま

人は老若男女を問わず「約束」という信義を重んじて毎日を生きてゆくことが正しい。

たとえそれが飲み屋で、ビールや焼酎をさんざんかっ喰らったあげくの宣言であったとしても。


さてここに、一人の男がいる。

彼の外見は、わるくない。

今どきの若者として、ダサくはないし、ちゃんと仕事もしていて、義理堅いところもあり、先輩後輩のケジメもつけられる男だ。

それに最近ではマラソン大会にも参加し、アフターの酒つき合いもよい。


今どきの若者は車やバイクを運転したいという欲望や、酒を飲みたいという渇望がわかないのだそうだが、彼はそうではない。

仕事にはバイクで通っているし、酒席にはヒョコヒョコ出向き、毎朝毎晩チョモランマなくらいだ。

少々付き合いが良すぎるきらいがあり、人によってはそんな彼をチャラいと評する向きもあるが、本性は生真面目な男なのだ。


そんな彼だが、残念なことに車の免許を持っていない。

バイクの免許だけで、教習所に行くタイミングを逃してしまったという。

大勢で車に分乗して何処かへ行く時は、そんなわけで彼はいつも戦力外通告なのだ。

彼の仕事上でも車を運転できた方がいいので、ここ数年教習所に通いたいとボヤいている。

毎年暮れになると、来年こそ免許をとると意気込むのだが、半年も立たずにその決意は萎んでしまっていた。


ある晩のこと、ときどき行く飲み屋で、免許をとりたいとボヤく彼に、

「じゃあ教習所に行けばいいじゃないか」

「いつ行くの ? 」

「今でしょう ‼ 」

と皆んなからけしかけられ、

「じゃあ 来月から行く」

と宣言したのである。

それが4月のこと。

5月は終わり、もう6月。

私たちは信義を重んじているので、彼のこのセリフを疑ったことはない。

ただ、大人の飲み屋ばなしの常として、宣言通りのことを出来なかった場合のペナルティを課したのだった。

ペナルティとは言っても、皆んなが楽しめる企画なので、彼にとっても人生勉強になるだろう。



突然ですが、皆さんはすき焼きが好きですか?

「坂本九」ちゃんの大ヒット曲のアメリカ版タイトルではありません。

これです、これ👍

すき焼きちゃんの主役といえば、何をさておいても
牛肉👏

嗚呼、それなのにそれなのに、すき焼きと言えば何?

という質問に、「◯丸◯げ子」嬢や「◯っちゃん」のような女子が、

「しらたき !! 」「春菊 !! 」

などと悲しい回答をよこすので、野郎どもはみんな
「ええっ ?! 」

と、ぶっ飛んじゃったのである。

そりゃワテクシの子供の頃は貧乏だったので、すき焼きの主役は豚肉でしたよ。

でも大人になってから牛肉のすき焼きを食べて、こんなに美味いものなのかと虜になったものです。

ウマイお肉のすき焼きを食べましょうよ、アクのでない、柔らかく旨みのある牛肉で。


というような流れで、浅草の老舗「米久」の話しになった。

見よ ¡¡ このお肉。

見よ !! このお値段。

アクなんかでないのだ。

若者はみな「米久」をご存じないが、創業明治19年の牛鍋の老舗、牛鍋つまりすき焼きだ。

だから味は保証付きで、各界の著名人や観光バスが来るくらいで、詩人「高村光太郎」が「米久の晩餐」という詩を残すぐらいだと、「東海林さだお」せんせいの著書
「ヘンな事ばかり考える男 ヘンな事は考えない女」にある。

さらにその中の「春の浅草食い倒れ」54ページに「米久」の記述があり、店頭の古くて汚いショーケースを見て、「米久」はやる気があるのだろうかと感想をもらしている。

だがだが、老舗という店にあんまり行った経験のない若者には、佇まい、様式、内装、料理、接客、客層、それらすべてがいい人生経験になるに違いない。



というわけで、長々とこの話を引っ張ったが、つまり飲み屋でのペナルティというのは、件の男が、

「もし5月中に教習所に通っていなかったら、みんなに米久をご馳走する」

というものだった。

前述の通り、案の定約束は守られなかったので、「米久」は決定事項となった

それからは皆の者そろって、彼のことを「よねさま」と呼んでいるのである。

「よねさま」「よねさま」ありがたや、すき焼きすき焼きご馳走様。

「よねさま」「米久」へは、いつ行くの ?

今でしょう !!

お有難う御座います~~~。

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