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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 夏目漱石「明暗」

2022年12月04日 | ◇読んだ本の感想。
わたしは夏目漱石が好きだ――が、大きな声で言えるほど作品をそんなに読み込んではいない。
多分若い頃にある程度の作品は読んでいて、蔵書には10冊。
蔵書は最低一度は読んでいるから、「明暗」も一度は読んでいることになるが、
内容は全く忘れている。今回水村美苗の「続明暗」を読むにあたって再読した。


全体的には面白く読めた。だが「この話はこれこれこういう話である」と
いいにくい。

津田という男が主人公。彼は「それから」の代助と似た系譜――
この人の方は勤め人ではあるが高等遊民的に生きている。
財産家の父の送金を当てにし。父の縁故で地位のある人々の世話になり。
その縁でお延という女を嫁にしているが、本当はお延の前に愛した人がいた。
清子。清子は津田には不明な理由で突然津田から離れ、別の人と結婚してしまった。

お延は利口な女。ナチュラルに自己本位の夫との生活に疑問を感じている。
しかしお延自身も情愛細やかな性格というよりは、プライドと自意識が強い。
津田を愛していないわけではないけれど、それを凌駕するくらい
ナチュラルに自分のプライドによって動く。

この夫婦を中心にして、周りの人々も含めた心理が細かく描かれる。
こういうの、嫌いな人は全然嫌いだろうなーという細かさ。
しつこいというのとはちょっと違うが、裏の裏の裏くらいまでは書かないと
済まない――漱石の性格の執念深さ。感情的というよりは端から端まで
分析しないと済まない頭の働き。
考えが重箱の隅、重箱の隅へ転がって行って止まらない。

こんなことをしているから胃潰瘍で若死にしてしまうんだよ。
でも考えすぎないようにしようと自ら努めても、元々の性格はなかなか直らないね。


この小説は周知のごとく未完。

漫然と読む能力しかないわたしは、解説にテーマを教えてもらおうと読んでみた。
しかし解説で驚いた。中村草田男という人が書いているのだが、
ものすごく大層な言葉でほめそやしている。

わたしはそれに全く共感できなくて。そんなに大層なことが書いてありましたか?
中村は津田をくさしているけど、漱石がそう描いていると思う?
わたしはむしろ津田を漱石の投影と見るよ。もちろん作家が生み出す人物は
全て作者の分身だ。津田は現実の漱石ではなく、心の奥底に隠れた人格だと思う。

そこからAmazonのレビューを見ると、面白いことに気づく。
この本を読んでの感想がみんな違う。みんな全然別のところを見ている。
1冊の本を読んで、ここまでばらばらの感想も珍しいのではないか。
これは、多分この小説が未完であることが大きく関わっている。
結末がわからないだけに、前半の道のりを見て人は自分の思う物語を作る。

そしてそれを実際に書いたのが水村奈苗。「續明暗」。
「私小説」を読む前はまったく期待してなかったけど、今は期待している。



漱石の好きな作品は初期の作品。
「猫」「三四郎」「夢十夜」「倫敦塔」。これらは読み返す。
「それから」と「門」も数回は読んだかな。
おっさんのロマンティシズムが好きなんです。知識人の苦悩よりも。






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