プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 宮尾登美子「序の舞」

2009年02月04日 | ◇読んだ本の感想。

上村松園の伝記風小説。人の名前は若干変えられている。
(主人公は上村松園→島村松翠、本名の津禰→津也など)


宮尾登美子は「蔵」が好き。「蔵」は相当に好きだ。
が、他に読んだ1、2冊はどうも湿度が高くて気に入らなかった気がするな。
何を読んだかはかなり昔なので忘れた。

今回のこれも、面白いことは面白かったが、好きかと言われると今一つ。
いかにも女の手のすなるものという感じで。でも上村松園の生涯を題材にしているわりには
むしろ湿度が低く抑えられている方なのかな。いずれにしても好きとは言えないが。

上村松園のエポックメイキングの絵がちゃんと思い浮かべられる状態で見た方が
ずっと面白かっただろうなー。それは残念だ。
「序の舞」くらいはわかる。(たしか「夕暮」もどこだかで見た覚えがある)他は全然。
「焔」も見たらわかった。が、上村松園だというのは初めて知った。
文庫だったから無理かもしれないけど、こういう内容なら、口絵で何枚かの絵を
見せてくれたら親切だよね。最初に賞をとったコンノート殿下お買い上げの絵が見たかった。


宮尾登美子は、主人公を舐めるように可愛がりながら書くタイプなのかもしれない。
(帚木蓬生と傾向的には同じ。)
こういう伝記的小説を、全批判的な立場から書かれたらそれはかなわんと思うけれど、
この母性本能全開?の姿勢が、わたしはちょっと苦手なのかなあ。

師である松渓とよりを戻すところなんて、行動としてアホなのにさー……
そこも「こうなってしまうのは仕方ない」という擁護的な立場で書いている。
無理を感じる。こういう部分はもう少し突き放して書いて欲しい。



※※※※※※※※※※※※



ところで、新聞小説。というのはどうなんだろうね。
小説の新刊に占める新聞小説の割合というのはどのくらいなのだろう。
古くは「シャーロック・ホームズ」「吾輩は猫である」なども生み出した形式なので、
それなりに長所はあるのかなあ。でもわたしは新聞小説のどこに意義があるのかわからないよ。


小説を細切れに読んで面白いか?
――というのが最大の疑問。新聞小説の1回分なんて、原稿用紙3,4枚くらい?
3,4枚ずつちまちま読んでいって、下手すると1年かけて読み終わるなんて……
……いくら考えても面白そうな気がしません。カレーライスを朝昼晩と一口ずつ、
3日かかって食べ終わるようなイメージ。美味いわけなかろーもん。
味を楽しむためには、勢いとある程度の量が必要でしょう。
特に小説は。そう思う。

毎日連載、というスタイルは作品にとっては百害あって一利くらいしかない形式ではないか。
全部書き終わってから連載を始めるとは思えないから、日々ちょこちょこ書いて行くわけで。
このスパンで“とって出し”だと、あ、しまった、ってことはないのかな。
まあスパンが短いだけで、実際は月刊誌週刊誌への連載とあまり変わらないのかもしれないけど、
毎日のことだと、ついうっかり書いちゃったことが後になって欠点になる、という
心配をしてしまう。

それに、一日分3,4枚だと、区切りは相当に縛られるよねー。
あるシーンを5枚で書きたいけれど4枚に収めなければならないってことだから。
それは一本の小説として見た場合、表現としては決してプラスにはならないと思うなあ。
言いたい台詞が言えない、とか無くてもいいことを書き足す、ということが
ずいぶんありそうだ。


うーん。でも小説としての内容はともかく、作家本人にとっては利点も多いのかな。

原稿料が出る。(でしょう、もちろん。)
コンスタントに書くようになる。
色々しばりがあるから、小説技法は上達しそうだ。

何より、「作品」ではなくて「広告」と割り切ればこれほどありがたいものはないかも。
掲載期間中、自分の名前と作品名を原稿料をもらった上で新聞紙上に広告出来ると思えばさ。
掲載終了時は(必ずなのかな?そうでもないのかな?)単行本にもしてもらえるし。
新聞で読んでいた人はおそらく本は買うだろう。新聞をその部分切り抜いて、
自分の手製の1冊の本を作る人も、中にはいるかもしれないけど、
通常だったらやはり一気に読みたいと思うはずだ。

作品としては、単行本にする時点で、けっこう手直しもするんだろうしね。
それに、やはりある程度以上の力量を持った作家でなければ、新聞小説なんて
お呼びがかからないだろう。結局、そんなに厳しく見る必要はないかな。
ベストではないけれども害悪というものではないしね。
常に活字離れの心配がされる出版界においては、大きな発表の場ではある。
うん。まあ、いいのか。



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