この人の作品はしばらく前から何冊か読んでいた。
「ミミズクとオリーブ」シリーズが、コージーミステリとしてお薦めされていたので、
コージー好きのわたしには向くかもしれないと思って。
が、実際に読んでみると、「コージーにもほどがある」という作品だった……。
言うたら、毒にも薬にもならん。
香川県出身の地味な夫婦(夫は作家、妻は専業主婦)が、東京近郊に住み、
同郷出身の刑事が持ち込む事件を推理していく、という連作短編集。
短編なので小粒になるのは仕方ないとして、ミステリの部分の薄さがどうにも気になる。
キャラクターのほのぼのな造型と、香川弁&香川の郷土食が毎回出てくるのは
魅力的と言っていいんだろうが、やっぱりミステリならミステリの部分をもうちょっと
ちゃんと書かないとー。
多分この人、別にミステリを書きたい人じゃないんだと思う。連作短編で一番成立しやすい
スタイルがミステリなので、そうしてみただけの感じ。
ただでさえコージーミステリは、ミステリジャンル内で軽んじられているというか、
幅が利かないものであるのに、こういう作品を書かれてしまうとますます拍車がかかるー、と
……まあこれは要らぬ心配だけど、ちょっとイヤ。
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本作は、「そんなに香川のことを書きたいのなら、もう少し別なテーマの作品の方が
いいんじゃないか?」という疑問に対する正解。
そもそもミステリより、こっちがこの人の王道。これがデビュー第2作※だし、これで直木賞だしね。
(※しかし正確に言えば、直木賞を取った第2作は、本作を約半分に縮めた短縮版で、
――なぜなら文藝賞に応募する際の規定枚数に合わせるため――私家版とは別物)
これは、香川の男子高校生がベンチャーズの楽曲からロックにはまり、
ロックバンドを結成し、その活動を中心にした高校3年間の記録小説。
私小説として読みました。わたしは私小説の存在意義があまりよくわからない、
むしろアンチ私小説的な立ち位置の人間だが、これは私小説であって欲しい。
ほんとにこういう、楽しい幸せな高校3年間があったんだ、と思いたいから。
ミステリとしてはほのぼのにもほどがある、とむしろマイナスに感じられる部分だが、
このテーマの小説ではそこがきれいに反転し、わたし好みのほのぼのさになっている。
ベタなユーモアもこの作品ならプラス評価。
場合によってはずいぶん冗漫に感じられる会話部分も、
高校生の不器用さと相俟ってちょうどいい湯加減じゃないですか。
登場人物では、なんといっても合田富士男がお気に入りだ!
病弱の父親に代わって寺を切り盛りする少年僧で、無免許でスクーターは乗り回すわ、
檀家との付き合いで酒はたしなむわ、法事では並みいる大人相手に堂々たる説教を行い、
人情の機微に通じ、主人公にエロ本を貸してくれるその方面の師匠で、
将棋も強く、読書家で、運動神経も良く、成績優秀、
アルバイト斡旋などの手配師としての人脈・能力にも事欠かない。
当時の合田さんには是非会ってみたかったよ。(実際にいたものなら。)
ユーモラスで、みんないい人たちで、ギャグ漫画のような味わいがある。
と思ったら、漫画化もされているらしい。
60年代が舞台の話なのだが、漫画が始まったのは2007年だそうだ。
そのままの年代で漫画化されているのかな。読者層はいくつくらいの人たちなんだろう、と少し疑問。
ちなみに、映画化もされている。1992年、大林宣彦監督。
私家版 青春デンデケデケデケ (角川文庫)
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……だが、大変残念なことに、わたしは洋楽はほとんど知らないのだ……。
なので、ベンチャーズの楽曲には1つも心当たりがなく、ビートルズの曲も、
タイトルを言われてメロディが浮かぶものほんの数曲……。
洋楽好きはもっと楽しめる本のはずだ。
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