プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 芦原すなお「青春デンデケデケデケ」(私家版)

2010年02月14日 | ◇読んだ本の感想。

この人の作品はしばらく前から何冊か読んでいた。
「ミミズクとオリーブ」シリーズが、コージーミステリとしてお薦めされていたので、
コージー好きのわたしには向くかもしれないと思って。



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が、実際に読んでみると、「コージーにもほどがある」という作品だった……。
言うたら、毒にも薬にもならん。
香川県出身の地味な夫婦(夫は作家、妻は専業主婦)が、東京近郊に住み、
同郷出身の刑事が持ち込む事件を推理していく、という連作短編集。

短編なので小粒になるのは仕方ないとして、ミステリの部分の薄さがどうにも気になる。
キャラクターのほのぼのな造型と、香川弁&香川の郷土食が毎回出てくるのは
魅力的と言っていいんだろうが、やっぱりミステリならミステリの部分をもうちょっと
ちゃんと書かないとー。
多分この人、別にミステリを書きたい人じゃないんだと思う。連作短編で一番成立しやすい
スタイルがミステリなので、そうしてみただけの感じ。

ただでさえコージーミステリは、ミステリジャンル内で軽んじられているというか、
幅が利かないものであるのに、こういう作品を書かれてしまうとますます拍車がかかるー、と
……まあこれは要らぬ心配だけど、ちょっとイヤ。



※※※※※※※※※※※※



本作は、「そんなに香川のことを書きたいのなら、もう少し別なテーマの作品の方が
いいんじゃないか?」という疑問に対する正解。
そもそもミステリより、こっちがこの人の王道。これがデビュー第2作※だし、これで直木賞だしね。
(※しかし正確に言えば、直木賞を取った第2作は、本作を約半分に縮めた短縮版で、
――なぜなら文藝賞に応募する際の規定枚数に合わせるため――私家版とは別物)


これは、香川の男子高校生がベンチャーズの楽曲からロックにはまり、
ロックバンドを結成し、その活動を中心にした高校3年間の記録小説。
私小説として読みました。わたしは私小説の存在意義があまりよくわからない、
むしろアンチ私小説的な立ち位置の人間だが、これは私小説であって欲しい。
ほんとにこういう、楽しい幸せな高校3年間があったんだ、と思いたいから。

ミステリとしてはほのぼのにもほどがある、とむしろマイナスに感じられる部分だが、
このテーマの小説ではそこがきれいに反転し、わたし好みのほのぼのさになっている。
ベタなユーモアもこの作品ならプラス評価。
場合によってはずいぶん冗漫に感じられる会話部分も、
高校生の不器用さと相俟ってちょうどいい湯加減じゃないですか。

登場人物では、なんといっても合田富士男がお気に入りだ!
病弱の父親に代わって寺を切り盛りする少年僧で、無免許でスクーターは乗り回すわ、
檀家との付き合いで酒はたしなむわ、法事では並みいる大人相手に堂々たる説教を行い、
人情の機微に通じ、主人公にエロ本を貸してくれるその方面の師匠で、
将棋も強く、読書家で、運動神経も良く、成績優秀、
アルバイト斡旋などの手配師としての人脈・能力にも事欠かない。
当時の合田さんには是非会ってみたかったよ。(実際にいたものなら。)


ユーモラスで、みんないい人たちで、ギャグ漫画のような味わいがある。
と思ったら、漫画化もされているらしい。
60年代が舞台の話なのだが、漫画が始まったのは2007年だそうだ。
そのままの年代で漫画化されているのかな。読者層はいくつくらいの人たちなんだろう、と少し疑問。
ちなみに、映画化もされている。1992年、大林宣彦監督。



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……だが、大変残念なことに、わたしは洋楽はほとんど知らないのだ……。
なので、ベンチャーズの楽曲には1つも心当たりがなく、ビートルズの曲も、
タイトルを言われてメロディが浮かぶものほんの数曲……。
洋楽好きはもっと楽しめる本のはずだ。




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