風呂につかりほてり気味な体を冷ましながら、夜の道後商店街をねり歩く。辺りには近くのホテルや旅館の名前が入った浴衣をはおっている人がある。みな袖の下に両の腕を通し、最後の売り時とばかりに張り切る土産物屋を子供のように物色している。通りの端にさしかかったとき、ほんのり甘く香ばしい醤油の焼けた香りがある。香りにつられて歩を進めると、そこには青い小さなのれんがかかった店がある。軒先で炭火の上に薄く四角い煎餅たちが、一味や醤油で赤や黄色に姿をかえ所狭しと並んでいる。ふと焼き網の隅へ目をやると、串に刺された小さな、なんともいびつな四角をしたおかきがある。四面に香ばしい醤油をまとい、どうにも食をそそるいい照り具合である。
一串購入。
ひとつ、口のなかへ運んでみる。頭のなかで描いた味覚が口のなかいっぱいに広がっていく。
美味。
何とも言えない餅餅とした食感が、かみしめるために新たな喜びを生み続けてくれる。ふたつ、みっつとたて続きに口に運ぶ。ふくれあがる体積のなかから、甘い醤油の香りがあふれてくる。よっつ、いつつと口に運ぶ。うますぎて言葉も出ない。気付かないうちにすべてのおかきを食す。
あとひく香り。
もう一串買おうかちらりと軒先に目を向ける。
のれんの「ぬれおかき」の文字がゆれている。
(つづく)
一串購入。
ひとつ、口のなかへ運んでみる。頭のなかで描いた味覚が口のなかいっぱいに広がっていく。
美味。
何とも言えない餅餅とした食感が、かみしめるために新たな喜びを生み続けてくれる。ふたつ、みっつとたて続きに口に運ぶ。ふくれあがる体積のなかから、甘い醤油の香りがあふれてくる。よっつ、いつつと口に運ぶ。うますぎて言葉も出ない。気付かないうちにすべてのおかきを食す。
あとひく香り。
もう一串買おうかちらりと軒先に目を向ける。
のれんの「ぬれおかき」の文字がゆれている。
(つづく)