皆さまは、ロスコー・アーバックルという人をご存知でしょうか。
アーバックルは、黎明期(れいめいき)のハリウッドの有名な喜劇俳優です。チャールズ・チャップリンやバスター・キートンと同じ時代の人ですね。 キートンはアーバックルとは親友だったそうです。
彼は日本でも人気で、〝デブ君〟という愛称で親しまれていたとか。私は淀川長治さんの本で知ったような気がする。
ロスコー・アーバックルは、当時、チャップリン、キートン、ハロルド・ロイド(〝ロイド眼鏡〟のロイドね)と並ぶほどの人気を誇りました。〝デブ君〟と言われるとおり、太目の体型で愛くるしい顔立ちをしており、そのわりに機敏かつ優雅な所作の持ち主でした。
ところが、人気絶頂のアーバックルを、とんだ不幸が襲います。
確か1921年のことだったと思うけど、アーバックルはパーティーをしていたの。そこに来ていた新進女優のヴァージニア・ラップという人が具合が悪くなり、数日後に亡くなったのです。
彼女の死因は膀胱破裂だったと言われていましたが、アーバックルはラップを殺害したとして逮捕・起訴されたのです。その後、裁判で彼は無罪となりましたが、完膚なきまでに傷ついたイメージは生涯払拭されず、裁判から12年後(だったと思う)に失意のまま亡くなりました。
今の映画ファンなら大抵の人は分かっていると思いますが、アーバックルの事件は冤罪だったようです。彼が開いたパーティーは、当時のマスコミが書き立てたような〝乱交パーティー〟などではなく、彼も泥酔などしておらず、単に気分が悪くなったラップを介抱していたにすぎず、それを周囲の人も知っていたはずだと聞きます。
ラップは元々膀胱が悪く、彼女の死因は病気の可能性が高いようです。
なのに何故、ロスコー・アーバックルは無実の罪を着せられてしまったのか??
当時のハリウッドでは、素行の悪さを糾弾する動きがあったそうなのです。俳優たちの乱れた振る舞いが、世の中に悪い影響を与えている。。。というような。(事件の前年に、麻薬が原因である女優が自殺したことが発端らしい) 今の〝MeToo〟運動と似ているのかも。
アーバックルは、その見せしめのために「生贄(いけにえ)」にされたみたい。
無罪判決を受けた後も彼に親切にしてくれたのは、バスター・キートンだけだったそうです。
この事件の問題は「冤罪」だけではなく、超人気俳優であったロスコー・アーバックルの出演映画のフィルムのほとんどが焼却処分され、今ではあまり観ることができない。。。ということにあります。
何も悪いことをしていない男の〝才能の証(あかし)〟を「存在しなかった」ことにする。
とても恐ろしいですよね。
これに似たことが、昨年ありました。
そう、マイケル・ジャクソンの例のドキュメンタリーです。
マイケルが亡くなって10年も経ってから、突然起こったこの事件でも、彼の存在をなかったことにしようとする動きがありました。
彼の音楽や映像などが、この世から消えてしまうのではないかと、私は真剣に心配したものです。
無実の罪を着せられるのも怖いけど、存在自体を〝無〟にされることの方が、もっともっと恐ろしい。
マイケルの場合は、ものすごぉく大勢のファンがいるし、あんなドキュメンタリーを本気で信じる人があまりいなかったこともあり、極悪人たちの思惑どおりにはならなかったようです。(まだ解決してないけど)
それどころか、マイケルの影響がいかに大きいのかが、よく分かりました。彼の存在を「消す」のは、簡単ではないのね。良かった。
今日、ある本にロスコー・アーバックルのことが出ていたの。その本にはアーバックルが殺人を犯したと決めつけたような記述がありました。これを読んだ人々の中には、事実だと思い込む方もいると思います。なんて罪深い行為なのでしょうか。
無罪判決を受けた人を、勝手に貶めてはいけません。状況から考えても、アーバックルは無実の可能性の方が遥かに高いのですから。
死の直前、彼には映画復帰のお話が出ていたそうなのです。これもマイケルと似てるよね。
とても気の毒だと思う。
アーバックルの映像は、今ではあまり観ることができないようですが、さすがYouTube。
こんな短編映画(?)があった。 ↓
*The Waiters' Ball (1916) - FATTY ARBUCKLE & BUSTER KEATON
すごいドタバタ喜劇。 結構面白いよね? なんかドリフみたい。(もちろん、サイレント映画だよ~~♪)
ラスト近くの女装、可愛い。
余談だけど、マイケルのこと。
〝カネの亡者〟ウェイド・ロブソンの2005年の裁判での発言を、よく読んでみて。
【「だから、何も起こらなかったと言っているじゃないですか」ロブソンは言った。
「ロブソンさん、寝ている間に何が起こったかは、分かりませんよね? 特に7歳ならなおさらです。違いますか?」ゾネンは皮肉めいた問いかけをした。
「そんなことが起これば、目を覚ますと思います」
ロブソンがそう言い放つと、数人の陪審員は肩をすくめ、不思議そうな表情で見つめあった。】(一部抜粋)
「そんなことが起これば、目を覚ますと思います」
「そんなこと」って、どんなこと?
分かってるじゃないの、コイツ。