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わたしたちは、こんな風に、たくさんの段階を踏んで、茶室に入ります。
にじり口から、小さくなって入ります。
縮こまって入ります。 躙り口
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自然と心も謙ります。
いつもとは違った身体部位、筋肉や感覚を使います。
それらも含めてすべてが体験です。
自分自身の身体を意識する瞬間でもあります。
身体とも会話しているのかもしれません。
そして、まずは中をうかがい、入室します。
すると、かすかに漂ってくるお香の香り。
香りに心が寄り添います。 嗅覚が目を覚まします。
でも中は薄暗くて、あまり様子はわかりません。
目が慣れてくる と、光の微妙な変化に気づくようになります。
視覚は少し普段より控え目な状態です。
そして、かすかに聞こえるお湯が沸く音。
気づくまではそこには、何も存在しません。
でも一旦気づくとそこは、本当に豊かな世界です。
気がつくまでは何もないのですが、
一旦気づくと何も無いと、考えられない、意識の世界が広がった瞬間です。
そのころになると室内の様子がわかるようになります。
やわらかい光りとその陰影…。
日本の家屋は、紙と木と土で出来ています。
光の微妙で、些細な変化に気づき始めます。
一番良く使う視覚が遮断されると、
急に他の感覚がそのセンサーとしての役割を発揮し始めます。
そして、体感覚。にじり口でかがんだ身体は、ここでほっと一息です。
すると、小さなにじり口から覗いた世界は、
にじり口から、外を見る!
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とてつもなく広い空間につながっているような、そんな感覚に驚きます。
自分自身が小さくなることで、
狭いはずの茶室という空間は、相対的に大きく広がっているように感じさせてくれるからでしょう。
そして、小さくなって垣間見た世界は、
なんだか不思議な世界。そう、不思議の国のアリス になった気分です。
ちょっとわくわくしながら、
覗いてはいけない世界、
初めてならなおさら、何があるのかしら、
どんなことが起きるのかなとドキドキしながら、
少しの緊張とともに入室します。
まずは、床に向かい、お軸に一礼いたします。
今日のお茶会のテーマがかけられています。
多くは、墨蹟といわれる書です。
書の持つ力、墨の色、勢いを感じます。
私たち日本人は、書を拝見すると、
足立泰道老師 書
「なんて書いてあるんだろう?」
とまずそちらに意識が行ってしまいますが、
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日本語を読み書きしない方々は、
その書の持つエネルギー、気のようなものに、圧倒されるようです。
かえって書の本質を直感で受け取っておいでなのかもしれません。
お軸に一礼するのも、とても新鮮です。
軸そのものはもちろん、その書を書いて下さった方に対する敬意、
書の原本、元になっているそのことばの作者にもです。
もちろん同時に、軸を選んでかけてくださった
その日のご亭主にも…。
たくさんの意味 が、こもっています。
誰もいない空間に向かって礼をする。
誰もいないけど、
たくさんのひと、もの、ことに向けて礼をしている、
敬意を表します。
そして、敬意を表している自分自身も、その中には、含まれているのかもしれません。
自分自身を大切になさっている方は、
他の方をも大切になさっているでしょう。
そして、お釜や道具を拝見して、自分の席に着きます。
畳を歩く感覚、その音。そして衣擦れ。扉が閉まる音。
人の気配、室内の温度と、湿度、空気が動きます。
この間私たちは、全く言葉を使わずにいます。
聴覚、視覚、嗅覚、、体感覚に加えて、
この後、懐石、お菓子、お茶を味わうことになりますから、
味覚も加わり、
五感のすべてを使い、
さまざまな感覚を研ぎ澄ましながら、
私たちの感性は、お茶室でゆっくりと開花し始めます。
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