建築・環境計画研究室
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(有料老人ホーム「新(あらた)」メインアプローチより)
先週、仙台で多世代複合施設「アンダンチ」さん(サービス付き高齢者向け住宅、保育所、就労支援、レストラン、地域交流スペース・カフェ・手工芸作品展示販売、駄菓子屋) → 須賀川市民交流センターtette → 那須塩原市まちなか交流センター「くるる」→ SHOZOカフェ(黒磯本店) → 栃木県小山市の有料老人ホーム「新(あらた)」さん → 特別養護老人ホーム「栗林荘」さん を訪問しました。
盛りだくさんで楽しい二日間だったのですが、地域の人にたくさん訪ねてほしい、というコンセプトがどれも共通しています。
そのための方法として複数の事例に共通していること,提案・実践されていること。これまでもいろいろ見てきた事例と併せてまとめようとしているところなので,考え中メモを。今年度9月の建築学会大会の研究協議会でお話しするのと,執筆構想中の本の内容の走りです。
・まずはただ居られる場所をつくる
(→「居る」からはじまる個の居場所の集積としてのコミュニティの場)
・カフェ,レストラン,工房,レンタル教室スペース,駄菓子屋 のように,「だれでも使える場所」「安い金額で(質の良い空間を)利用できる場所」をつくる
(→利用縁コミュニティ)
・混在の価値
(佛子園さんの「ごちゃまぜ」)
・学び,遊び,食べる・飲む,という日常の生活を取り込むこと
(→衣食住ライフコモンズ・コミュニティ≒日常生活の場を共有することによる“結果としての”コミュニティ形成)
・まちと建物(主機能)を取り持つ存在としての外構・ランドスケープデザイン・植栽を大事にすること
・デザイン(いわゆる「福祉」「公共施設」らしい堅くないセンス)で一見さん・地域利用者に対するwelcomeの意志を表す
・時間と物語を取り込む
(→リノベーション,コンバージョン,古材利用,リサイクル品・アンティーク品の利用,手工芸品の展示・販売)
今回,「時間と物語を取り込む」について,かなり共通項があった・・というか,複数の取り組みや思想を「時間と物語を取り込む」というワード(概念)で捉えられそうだな,と考えた次第です。
福祉の分野,コミュニティづくりの分野で「顔の見える関係」という表現があります。顔の見える関係性,距離感が地域だと(加藤悠介@『福祉転用による建築・地域のリノベーション: 成功事例で読みとく企画・設計・運営』)。
そういった,人や地域の「顔の見える感じ」,ものがやってきた背景に共感したり興味をもったりする感じ,その感覚です。
スーパーの野菜コーナーで,あるいは道の駅などの産直コーナーで「○○さんがつくったほうれん草」「■■さんがつくった松前漬け」など書かれていると,親近感ないし信頼できるなという感覚を持つことがあると思います。カフェやレストランで,「これはこういう地域文化の文脈で,このようにつくられたものです」「こんなエピソードがあって」のように書かれたメニューは気になるもの。手作りなんだろうなと思われる家具や住民さんが育てているのだろうなと思う草花,キチッと刈り込まれた植栽に残る刈りたての枝口の白さと樹の香り。それもまた物語。○○さんや■■さんや,△△地域の物語が取り込まれている。
アンダンチ内のカフェ・地域交流スペース,就労支援「アスノバ」さんの一角に置かれた地域の方や障碍者授産施設の作品等の展示・販売コーナー。
お気づきと思いますが手前の家具は色や形,素材もバラバラなリサイクル品,ユーズド品。
アンダンチレジデンス(サービス付き高齢者向け住宅)さんのロビー・ラウンジスペースに置かれている家具も,ユーズド品を織り交ぜて。「全部新品だと,きれいすぎる。きれいすぎると,いわゆる施設っぽくなってしまう。」という感覚から,ユーズド品を使おうと考えられたとのこと。
施設っぽい,というのはいろいろ施設を見ている方にはだれでも多かれ少なかれ共通の感覚だと思うのですが,堅くて・統一されていて変化や差異がなく・機能性がそのまますがたになっている(汚れにくい,壊れにくい,掃除しやすい,燃えにくい)・テクスチャが浅い・経年変化が=劣化,などの雰囲気です。私はこれを言語化しにくいのですが,イメージ共有できるでしょうか。
(もっといい表現があったらぜひ教えてください)
こちらは有料老人ホーム新(新)さんに併設のカフェ「くりのみ」さん。 *写っているのは今回動向の先生方と学生さん,設計者さん
こちらも同じく,人と人の距離が近くなる場として設計したかった,だから「きれいすぎない落ち着いた雰囲気」を狙って,形も色も素材もバラバラなユーズド家具を入れて,コーディネートされているとのこと。
こちらにも,地域の作家さんの作品の展示・販売コーナー。
外観もご覧いただくように,経年の味わいが出る外装です。
新(あらた)さん本体も,居住施設では多くなる「窓」がキツい雰囲気にならないようにリズムが出るような大きさ・高さのバラツキを出す(=統一・画一からの脱却),窓枠を木製として雰囲気を和らげる,ことを企図した設計をされたそうです(わくわくデザイン・八木様)。
人間の存在,時間,物語を取り込むこと。宮脇檀先生も「アクティビティを設計せよ」の小島一浩先生も,関係や活動や動線,居方,過ごし方を設計するということをおっしゃっていたわけですが,その概念はいま,「いまここ」を豊かにするために「いままで」と「これから」を取り込んでいくことへの概念と進化して,共有されていると言えるのではないでしょうか。これはそうあって欲しいという私の希望的な解釈ですが。記憶と評価の蓄積が人の価値観や人格の土台の一つを形成している,また三次元的存在である人間は記憶とその共有によってもう一次元を内に持てるので。
リノベーションやコンバージョンされた建築物についても感じる「良い感じ」さ,暖かさやなじみ感,そういったものも,根底にあるところは同じなのではないかと思います。
また少し,深まりました。今回の見学会をご一緒いただきましたみなさま,ありがとうございました。
そして,この記事のタイトル,このメモを書いておこうと思った頭のなかの一群のもやもやの中心にある「記憶」がこれです↓
学生当時、20歳そこそこの頃、建築材料の講義で経年劣化しない材料などについて講義で学び、材料についてのレポートを自由に書きなさいという課題に「経年」礼賛というレポートで返しました(建築仕上学会の学生寄稿の企画?に載っています)。
若いころ考えたことはその先もずっとテーマになると言われますが(雀百まで踊り忘れず、三つ子の魂百まで)、当時リノベーション、コンバージョンというキーワードは出始めで、その概念もこんなに普及していなかったけれど、通じるところは同じだなあ、とも20年くらい経っても私あんまり進歩していないんだなあとも。苦笑。