研究テーマの設定と、研究を進めたあとの論文まとめのあたりで(初学者は)特に取り組むことになると思われる既往研究レビュー。
先日,既往研究レビュー(論文引用)を終わらない食物連鎖に例えましたが,具体的にはどんな感じでやってますでしょうか。
論文読んでね調べてからゼミで発表してねと言われて「えっ、どうすれば?」な学生さんが大量発生する季節が間近では?
いろいろ思想も流派もあると思うのですが、それぞれ自分はこういう風にやってるよ、を開陳するといいかなと思いまして。
経験則なので、またこの分野ではということなのでどなたにでもあてはまるわけではないと思いますが、一例まで。
1、何で調べる?
2、まず関連分野の論文の概要を把握したい!
3、主要な論文をピックアップする
4、関連論文が見つからないときは?
5、「検索」を超えるのは…
の順で簡単にまとめます。
1、何で調べる?
まずは検索ですね。
分野にもよりますが、日本の論文を探すのに、初心者にとっても使いやすいサイトとして,個人的には CiNii をお勧めします。好みがあると思いますが、個人的にはこのサイトが見やすいと思っています(慣れかも?)。
廃止の危機を乗り越えてくれて良かったです。
他に、 J-STAGE も日本の論文検索では基本。
* 手前の話で恐縮ですが,建築関連の論文を調べるならば日本建築学会の論文検索を使ってみてください。上記サイトよりも幅広く,学会関連の論文(査読付論文集である各系論文集や技術報告集の他に,準査読付論文誌である各委員会が開催するシンポジウムや支部大会などを含む)がヒットします。
海外文献も含めて調べるには、 Google Scholar 、 Web of Science がスタンダードかと。
検索の際には,キーワードが想像と異なると,思うような内容がヒットしないことがあるので要注意。できるだけ,「他の言い回し」を想定して調べます。
例えば,「集合住宅」の「改修」について扱った論文を調べたいときは「集合住宅/マンション/共同住宅」「改修/リフォーム/リノベーション」のように,語の幅を広く設定します。
* /(半角スラッシュ)は or検索(○○または△△の語を含む)です → サイトごとに入力のガイドラインないしフォーマットがあるので,その方式に従います。
なお,論文等の文献を検索したときは,「どのような設定で,何月何日に検索したか」を,必ず記録しておきましょう。再現性がない結果は信用できないからです。検索した結果(検索結果の画面)を「pdfに印刷」してデータとして残しておくことでも,替えられます。
2、まず関連分野の論文の概要を把握したい!
上記のサイトのいずれか(複数のサイトで調べることをおすすめしますが,まずは一つだけでも)で,論文が30件ヒットしたとします。
その「本文」を全て読むのは正直なところ大変だと思います。もちろん読んだ方が良いのは間違いないですが,それを最初からやってみよう!というのは素人が準備もなく富士登山に出かけるようなものかな,と思います。サンダル薄着で富士登山はちょっと待った。
まずは富士山も含めて,どんな山(論文)があるのかを知りたいですよね,登るにしても登らないにしても。
それで 「ざっくり読み」のコツ ですが,まずは論文の「目的」「手法」「まとめ」だけ読む。査読付の論文って8pとか10pとかあります,小さい字で。最初はとっつきにくし,読みにくいものです。ですからざーっくりいってみましょう,最初は。
- なんのために(目的):だいたい,第1章の最後の方に書いてあります。研究の「背景」を受けて,「そこでこの論文は〜を目的とする。」とか,「本稿では〜を明らかにする。」などのように書いてあります。そこが目的。
- どのように(手法):だいたい,第2章くらいに書いてあります。「研究方法」とか「研究の手法」などの章/節タイトルがついています。観察,実験,アンケート,インタビュー/ヒアリング,などの手法が記載されています。
- まとめ:論文の最後の章です。「本稿のまとめ」「まとめ」「成果と提言」などの章/節タイトルがついています。
ここだけ! まずは ここだけ読む=その論文の目的・手法・まとめ(成果と提言)を見つけられるようになる ことを目指してみましょう。これなら本文をまるまる1本読む時間で,10本の論文の概要を把握できます。
これは,本文全てを読み込むのはそれくらい大変だということの裏返しでもあります。
最初から一つの論文の全てを理解することは難しいですし,その論文も書かれるためには他の多くの論文との関連の中で成り立っているので,「一つを深く」の前に「複数を概要で」理解してから,深く読むべき1本を決めることをお勧めします。
30の論文から論文タイトルだけで3本読もう!と決めないで,30の論文の概要だけでも把握することで全体像の枠組みを自分のなかにもつ。おぼろげでも。そこから始める方が良いと思います。
3、主要な論文をピックアップする
例えば30の論文の概要が把握できたところで,では3つの論文をピックアップしてじっくり読んでみることにした,とします。2つではなく3つです。相互の関係を理解するには3からです。
3つの論文のピックアップはどのようにしましょうか。作戦を考えてみましょう。
以下は例です。要は「その論文3つをピックアップしたのはなぜ?」と聞かれたときに,その理由をきちんと説明できるように決める=コンセプトを持つ,ということです。
- 直近からさかのぼって系譜で読んでみる:直近5年間の論文のなかで,興味のあるテーマに一番近いと思われる論文を一つ選ぶ。その論文の「参考文献」として挙げられている論文を一つ選ぶ(遡及1)。選ばれた遡及1論文の参考文献となっている論文から一つ選ぶ。ここまで行くと,おそらく最初のリスト(例で挙げた,検索でヒットした30本の論文)からは外れている可能性も高いと思います。そのくらいさかのぼることで,研究論文が幅広い関心や関連のなかで位置づけられていること,テーマの拡がり,に気づくことができます。
- グループの研究成果をたどってみる:論文リストの中で,著者(のグループ)が重複していることがあります。その数が複数である場合,そのテーマについてまとまった研究成果,特に一連の研究成果(○○に関する研究その1,その2 のようにナンバリングされているなど)がつくられていると判断できます。そのような一団の研究論文を読むと,大きなテーマの中での課題の設定(大きな問題を,小さな課題に切り分けて,研究を組み立てていく)の仕方や,研究の発展の例として,理解することができます。
- 研究論文の筆頭者が異なる場合でも,セカンドやラストの著者が同じ名前であることで,判断します。研究室のPI(Principal Investigator ラボの責任者)のもとで,学生さんや研究員さんが筆頭著者となって論文を書くので,同じ研究グループのなかで筆頭著者の名前が異なるのです。
- なるべく分散して読んでみる:著者(研究グループ),年代,着眼点,のいずれも重複しない論文を選ぶ。その読み方ですとお盆(設定したテーマの範囲)のなかに豆粒を投げ入れたような,「点」の読み方になりますが,これはこれで,テーマのなかの拡がりを散漫ながら眺めることができます。
- 指導教員に聞く!:なんだかんだ言って,最終兵器はこれ。指導教員は学生さんよりもたくさん論文を読んでいますし,著者を知っている=どのような研究テーマ/方針のもとで各論文を発表しているかを概観しています。そういう人でなければ学生さんを指導する資格はないわけですが。 ただ,手ぶらで行って「何を読めば良いですか?」という姿勢では,自分の身につきませんから,もちろん上記のような概観レビューがあって,このなかから「こういうことに興味がある」ので,「まずこの3つの論文を精読しようと思うが,ご意見ください」のような【方針案を提示した上で意見を求める】聞き方が良いと思います。
最初に3つ読んでみたら,つぎの3つ,となっていきますから結局はおおかたに目を通さないといけないのですが,最初の道筋があると,イメージがしやすいですね。
4、関連論文が見つからないときは?
「この研究テーマについて,関連研究はない」と断言している論文や発表が時々あるのですが・・「ないわけないでしょう」が大方の研究者の反応(心境)ではないかなと思います。
うまく見つけられない,というときは,次のような視点で考え直します。
・調査対象が異なっても同じ研究手法を使っている論文はないか?
- 調査手法や分析手法,評価指標などが例として挙げられます
・調査対象が全く同じではないが類似しているので,関連研究と見なせる(=むしろ「読まないといけない」でしょう・・)論文はないか?
- 私どもの分野では例えば,「ユニットケア型特養のユニットの空間構成」をテーマにする時に,「グループホーム」の研究を調べないわけにいかない,とか,「認定こども園」をテーマにする時に「保育所」や「幼稚園」を外せないとか,そんなイメージです
・調べている論文誌が少ない,違う可能性があるのでは?
- 私どもの分野では例えば,「日本建築学会」にはなくても,「都市住宅学会」や「日本都市計画学会」ではメジャーなテーマである,など。また,例えば保育所の空間構成についての研究であれば計画系の論文の他,保育系の論文(保育学会,こども環境学会等)にもあたるべき
また,一つでも論文などの文献を見つけたら,その文献が参考文献としている論文・書籍等をたどります。
「ある」ことを言うのは簡単なのですが「ない」ことを言うのは本当に難しいです。どう調べても見つからない,というときは「管見では見られない」などと書くのが通例です。これは「自分の視野が狭いので見つけられません,査読者や読者諸兄には思い当たるかもしれませんが著者の調べではこれが限界なのでご寛恕ください」ほどの意味で,ことほどさように「ない」を断言することは難しいです。
5、「検索」を超えるのは…
以下は上級編です。卒論生の方は興味半分でどうぞ。修論生の方は無理にでも興味を持って,そして博論の必要のある方は興味があろうがなかろうが必要ですから,どうぞ。
上記で基本としたのは「検索」による論文の調べ方ですが,検索には限界にして最も大きな欠点があります。
それは,検索する人の経験や想像力を超える知識が得られない,「想定」の少し外側にある,または自分の想像を大きく拡げてくれる論文には出逢えないということです。
論文検索サイトには,大手通販サイトのような「その論文を読んだ人はこんな論文を読んでいます」というような お勧め は表示されません。
例えば集合住宅のことを「共同住宅(法律上の呼び名)」とも表記するということを,検索する本人が「知らない」場合には,そのキーワードを使った論文はヒットしません。実態としては自分の興味にぴったり合う論文であったとしてもです。
知識や経験のない人と,ある人とでは同じ検索サイトを使ったとしても見つけられる論文の数や質には大きな差異があります。まだ「検索」を十分に使いこなせない,すなわちキーワードとなりうる語,関連する分野の語彙に自信のない方,また自分の可能性を拡げたいと思っている人に個人的にお勧めするのは,
あまりにアナログで非効率的に思われると思いますが,結局のところ「全て読む」です。
全てと言っても世界中で発行されている論文の全てを知るのは不可能なので,まずは和文,自分の分野に最も近い学会の,それも主要な論文誌(どこの学会にも,複数の論文誌の中でもフラッグシップとなる査読付論文誌があります)だけでも,さらに目次(論文のタイトルの一覧)だけでも,そのうち最近の10年分だけでも,のように絞り込んででも全部読む。
=属性別サンプリング(興味を持った論文をピックアップ)ではなく,集落サンプリング(興味があるかどうかはともかくある範囲の論文を全てピックアップ)を試してください という意味です
論文のタイトルは,その論文の主題=やりたいこと分かったこと主張したいことのエッセンスが詰まった,最高のキーワード集です。論文タイトルには「対象(フィールド)・着眼点(視点)・調査や分析の手法・提言」がコンパクトにまとめられています。
(‥論文を書く側になったときにも思い出してくださいね,論文タイトルにはそれらをまとめます。)
どんな言葉が論文のタイトルとなりうるのか,そもそも研究方法や視点にはどんなものがあるのか。それを知るにも論文の「全部読み」は効きます。時間はかかりますが,研究を始めるとき(できれば卒論レベルからでも)と,論文をまとめるとき(想定するレベルは博論相当です)の2回,最初はタイトルだけ。論文をまとめるときにはより多くの論文が自分の興味関心の網にかかってくるでしょうからそのつもりで,本文まで。最低限その2回は機会をもつことをお勧めします。
既往研究レビューや文献探し,こんな風にやった方が良い,やるべきだ,こんなアイディアもある,等々あればぜひ教えてください。
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