史上最短での「梅雨明け」で、夏の水不足は心配されるが、ここ標高約1600mの高層湿原では、「シシウド/猪独活」「ヤナギラン/柳蘭」が開花しはじめるなど、夏の「八島湿原」がはじまっている。
❖ 八島湿原 「八島湿原」(諏訪郡下諏訪町東俣)は、標高約1,600メートルに位置する高層湿原で、国内高層湿原の南限にあたる。
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約12,000年前に誕生したという同湿原は、1939(昭和14)年に国の「天然記念物」に指定されているが、面積は約3,000ヘクタールで、寒冷地のため植物の腐敗と分解がしにくく、約8メートルの厚さとなった泥炭層が堆積しているという。
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周辺の森林化や降雨量減少による乾燥化、水生植物繁茂や土砂の流入などによって、湖沼は面積の後退が続いているが、一帯は繊細な花を咲かせる湿原植物や亜高山植物、過酷な環境の中でいのちを繋ぐ昆虫などに接することが出来る癒しの環境が広がっている。
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周辺からは「富士山」「八ヶ岳」「中央アルプス」「南アルプス」などへの眺望が開けている。
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高原中央部の「御射山遺跡(みさやまいせき)」は、鎌倉幕府が全国の武将を「諏訪大社下社」の「御射山祭」に参加させて祭事を執行し、一帯で武芸を競わせたりした場所で、階段状の地形は桟敷だったと考えられるという。
❖ 霧ヶ峰 再掲(写真は更新)
「八ヶ岳中信高原国定公園」に指定されている火山で、主峰「車山」から噴出したという溶岩により広がった大規模な高原をいう。火山活動は「八ヶ岳連峰」とほぼ同時期の約140万年前からで、現在のような地形になったのは約30万年前と言われている。
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「亜高山帯針葉樹林」境界付近の存在で、例年5月下旬「コバイケイソウ/小梅蕙草」、6月中旬「レンゲツツジ/蓮華躑躅」、7月中旬「ニッコウキスゲ/日光黄菅」(ゼンテイカ/禅庭花)、8月には「マツムシソウ/松虫草」などが見ごろを迎える。
❖ シシウド/猪独活 本州や九州などの高地の草原に生えるセリ科の多年草で、茎は高さ1~2メートルになる。根は「ドッカツ/独活」と呼ばれ、掘り起こした根を洗浄し陰干して、頭痛薬や薬酒として用いるが、「シシウド属」は、古くからヨーロッパを中心に薬用・食用のハーブとして用いられているという。
❖ コバイケイソウ/小梅蕙草 本州中部地方以北から北海道の亜高山帯の湿地などに分布し、ユリ科シュロソウ属に属する多年草で、高さは1mほどになる。和名は、花が「ウメ/梅」葉が「ケイラン/恵蘭」に似ていることに由来するという。
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アルカロイド系の有毒成分を持ち、誤食すると嘔吐や痙攣を起こし、血管拡張・血圧降下から重篤な場合死に至るという。
❖ ヤナギラン/柳蘭 本州中部以北の亜高山帯などの草地や礫地に広く分布し、7~9月に4弁の赤桃色の花を開花する多年草で、田中澄江は著書「花の百名山」で霧ヶ峰を代表する花のひとつとしている。和名は葉が「ヤナギ/柳」に似ていて、花を「ラン/蘭」にたとえたことに由来するというが、海外種も含めて山野草として、流通している。
❖ ノアザミ/野薊 本州から九州の山野や河川敷などの日当たりのよいところに自生するキク科アザミ属の多年草で、5~8月に赤紫色や淡紅色などの花を咲かせる。若い茎は山菜として食用になり、油炒めや煮物に調理して食べられるという。
❖ ノリウツギ/糊空木 北海道から九州の山野に自生する樹高2~3メートルのアジサイ科の落葉広葉樹で、和紙を漉く際の糊に樹液を利用したことからこの和名がついたという。7~8月に開花するが、多くの人が花と思う白または淡紅色の花弁4枚は装飾花の萼片で、枝先に白色の小さな両性花が円錐状に多数つく。
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「ノリウツギ/糊空木」の園芸種として流通する「ミナヅキ/水無月」「ライムライト/ピラミッド紫陽花 」はほとんどの部分が装飾花で、原種の「ノリウツギ」が「ガクアジサイ/額紫陽花」に似て素朴な雰囲気であるのに対して、園芸種の「ノリウツギ」は華やかに見える。