▶「諏訪大社上社本宮」北参道「大鳥居」脇には、「諏訪郡永明村」(現在の「茅野市」)に生まれた彫刻家「矢崎虎夫(やざきとらお)」(1904/明治37年7月25日~1988/昭和63年9月24日)の制作による「阿像(獅子)」と「吽像(狛犬)」が置かれている。氏は、「高村光雲(たかむらこううん)」門下「平櫛田中(ひらくしでんちゅう)」に師事、渡欧してキュビスムや黒人彫刻の影響を受け独自のスタイルを生んだといわれる「オシップ・ザッキン」(1890~1967)に師事して、仏典や歴史に取材した作品を多く手がけたという。
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1985(昭和60)年に奉献された「空想上の守護獣像」は、向かって右の口を開いているのが「阿(あ)像」の「獅子(しし)」、左の口を閉じているのが「吽(うん)像」の「狛犬(こまいぬ)」だが、現在は「獅子と狛犬」という呼称が消えて、両者合わせて単に魔除けのために置かれる像「拒魔犬(こまいぬ)」から「狛犬」(空想上の動物で「犬」ではない)という言い方が定着して来ているという。
起源は古代オリエントの「スフィンクス」まで遡るといわれるが、ガンダーラを経由して中国に入り、遣唐使が我国に持ち帰って、対の獅子像が寺院山門の仁王像の影響を受け、平安時代までに「獅子と狛犬」という独自の「阿吽」形式に変わったのではないかと言われているそうだ。
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▶「諏訪大社下社秋宮」の「神楽殿」正面両脇に従う「獅子と狛犬の像」は、諏訪郡原村出身で「日本芸術院会員」「文化功労者」だった「清水多嘉示(しみず たかし)」(1897/明治30年7月27日~1981/昭和56年5月5日)による1960(昭和35)年制作の作品だ。氏は、近代彫刻の父といわれる「François-Auguste-René Rodin(フランソワ オーギュスト ルネ ロダン)」(1840年11月12日~1917年11月17日)の助手をつとめて後継者と目されたフランスの彫刻家「Antoine Bourdelle(アントワーヌ ブールデル)」(1861年10月30日~1929年10月1日)に師事して、我が国戦後の具象彫刻をリードした一人だといわれている。
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形式を追うに過ぎず皮相の見と言われても仕方のない「獅子と狛犬」が世に多く溢れる中で、氏がここ「諏訪大社下社秋宮」に奉献した「獅子と狛犬の像」は、動と静の「阿像」「吽像」に生命の気迫をみなぎらせて、まったく別次元に仕上げた作品として置かれる。
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