結末の違うシャボン玉
悲しくて 胸が痛くて 目が覚めた
夢の中で 少女の一途な思いに
僕は はじめて気がついた
彼女の許嫁から 揶揄の言葉を浴びせられた
彼女の父親から 自重を求められた
若気とか 熱に浮かされた一時の迷いとか
夢の中で そんな古くさい言葉が飛び交った
夢の中で 彼女は家を飛び出した
僕は 夢の中で決心した
今すぐ 彼女を迎えに行こうと
目が覚めると 五十年 経っていた
そんな事実は なかった
彼女の許嫁という人と 話をしたこともないし
彼女の父親と 会ったこともない
彼女の言葉通り 彼女は 許嫁と結婚したし
彼女の言葉通り 僕はふられた
時間と刻の分かれ目から
派生する無数のパラレル宇宙のひとつ
結末の違う小さなシャボン玉が
五十年後の夢の中に
浮かんで はじけて きえた