山之上もぐらの詩集

山之上もぐらの詩集

老人は十五で死ぬ

2024年02月19日 | 日記

老人は 十五で死ぬ


私の手は 老人の手だ
アル中で震えていた 血管の浮き出た
大叔父の手だ
私の顔は 老人の顔だ
頬のたれた 白い無精髭がまばらだった
父親の顔だ

肉体は 成長し 壮年を迎え
そして 老衰してゆく
血管は硬化し 血液は巡りづらくなり
皮膚はたるみ つやを失ってゆく

しかし 私の心は 十五のままだ
十五のままで 私の心は 
だんだん 頑なになってゆく

私の心は 老いてゆかない
十五のままで 私の心は
ますます わがままになってゆく

未熟なままの制御できない心が
老成したはずの自分の世間面を
冷笑する

老人は 老人を演ずるが
十五のままの 自分の心は
いつか 肉体を破って表出する

老人を演ずるのをやめるとき
それは 自分が死ぬときだろうか
それとも ぼけて自分が分からなくなるときだろうか
それとも 狂って 何か犯罪を犯すときだろうか

老人のままで 死ねるか
十五のままで 死ねるか

私の肉体は 心よりも早く老いる
早老症を患っているのか
それとも 私の心が
肉体の老化に追いつけない
遅老症に罹っているのだろうか

老人は 十五で死ぬ


月のうた

2024年02月16日 | 日記

 

時代の手に 縊るらし 我れが首

眼球を磨く Dusr my bloom

鉄とゴムに生き 硝煙を知らず

月の海 パロロ DNAの踊り

払暁の ダリの海に 月辷る

夜嵐の 明けて満月 置き忘れ

満月に気付き お父さん お母さん

今朝は どうして高い 大安の月

夜働く者 たひらけく 月命(つきみこと)

安全靴と安全帽 月見上ぐ

月見上げ お父さん お母さん

葬式を 終える 月が出ていたね

弔いを終えて 真白き 土手の月

身半分 えぐられし月 母を恋う

立春の朝 おお エルンストの月

月を頂いて 働きに出る

星廻らせ 我をことほぐ 月天子

父母が 我に残せし かたみ月

慎みて 身つつしみて 月見上ぐ

ミロの夜 月踊る 星踊る

大乗の 生物学 月ご本尊

真っ暗な線路 見下ろすと 月のかけら

雪月夜 猫の尻尾に ぶら下がる

月が霧吐く 街に霧笛が 届く

彼岸の朝 かたみ月 探せで悲し

春夜月 桜献上 お母さん

お父さん 見守ってください 月見上ぐ

月半分 小鳥殺しの 桜の朝

とげ抜いて 月にかざす 血が甘い

うつ病の 海から月に 両手伸ぶ

せつない手紙 読み捨つる むごき春

春眠の 暁に 月のぼる 


2024年02月15日 | 日記


幾つものチューブを差し込まれ
穴から這い出てきたおれは
やがて穴に戻っていく

穴を厭い 穴を恋い慕う
穴は醜く 穴は美しい

人身得ること難し
たとえ人身を得くるとも
六根具すること
さらに難し

穴は宿命であり 
生物としての在りようだ
チューブにすぎない肉体の在りようは
ベッドの上で
さらに幾つものチューブの根をはる

出口に至るまでの 
胎内くぐりの穴を行く


春の日だまりの中で

2024年02月14日 | 日記

春の日だまりの中で


また むかしのように
春の日だまりの中で
おまえたちと 遊べたらいいな
あの頃は おまえたちも
おれも しあわせだったな

おれが死んだら 
また おまえたちと会えるかな
はやく会いたいよ

おまえたちの 孫かひ孫か
生まれかわりか 知らないけれど
町ねこたちは 忙しい
貧しくてさびしい者たちのために
かれらは 掛け持ちだ

元ヤクザのアル中のじいさんは 見送った
世話やきの餌やりばあさんに 愛想して
下校時間に合わせて 小学生の列を待つ
そして 今日はまだ無事かと
おれの顔を見にやってくる

あの元ヤクザのアル中のじいさんは
おまえたちと 再会できたかな
おまえたちは やさしかったな
死んじまったじいさんが うらやましいよ

また むかしのように
春の暖かい日だまりの中で
おまえたちと 遊べたらいいな

はやく会いたいよ


卒塔婆小町

2024年02月13日 | 日記

卒塔婆小町


大病院の会計の待合所の椅子に腰掛けて
僕は 順番待ちの列に並んでいる婦人方の後ろ姿に
目をやる

娘らしき人に付き添われている車椅子の婦人
バッグの中の何かをさぐっている婦人
杖をついてうつむいている婦人
片手でスマホを覆いながら 実は声高な婦人

自分と同じように 歳老いて病んだあの人が
そして その病が重ければ
やはり 来るのはこの病院であって
僕は その偶然の邂逅を思っているのだ

自分と同じように 歳老いたあの人を思い浮かべて
目の前の待合の列の人の中に
その人の面影をさがす

少将の病院への百夜通いは
九十九夜を待つまでもない
寿命の尽きの順番の列に
せめて名残の卒塔婆小町に 
あの人の面影をさがす