A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

プロデューサーになり損なったアダムスだが、ミンガスとの長い付き合いを形に・・・

2014-07-11 | PEPPER ADAMS
Pepper Adams Plays Charlie Mingus

1962年のチャーリーミンガスのタウンホールコンサートにも参加したペッパーダムスだが、ミンガスとの付き合いは実は長い。アダムスがまだニューヨークに出る前、地元デトロイトに居た時、ライオネルハンプトンのバンドのメンバーとして来ていたミンガスと知り合い一緒に仕事をしたのが付き合いの始まりだという。

ミンガスは気性が激しく、怒りっぽくて乱暴者だと世間で言われているが、親しい付き合いをしていたアダムスの目から見るとそうでもないらしい。というのも、アダムスにとって自分をスタンケントンオーケストラに推薦してくれた恩人でもあるオスカーペティフォードから、彼がミンガスを一発のパンチでノックアウトした事も聞いていたし、それを知るアダムスにとっては「ミンガスの日頃の言動も多分にポーズだったように思える」と語っている。

アダムスは機会あるごとにミンガスから声を掛けてもらい、ミンガスが主宰するワークショップに参加するミンガス音楽の良き理解者の一人であった。出来かけの譜面を持ってきて演奏しながら仕上げていくミンガススタイルにも慣れてきていた。

アダムスにとってミンガスは、一方で経済的に色々面倒をみてもらった恩人であった。
ドナルドバードとのクインテットが出演していたクラブが倒産し、ギャラが貰えず途方に暮れた時、すぐに仕事をくれたのはミンガスであった。ある時、一緒にプレーをしていた時、痔を患って具合が悪く、保険なくお金もなくて治療ができずに困っていたアダムスに、すぐ手術代を払ってくれたのもミンガスであった。

2人の関係は、単なる知り合い以上の密な関係であった。
1963年アダムスはテディチャールスのアルバム”Russia Goes Jazz”作りに参加したが、このデディーチャールスもミンガスの良き理解者であり、このチャールズとアダムスとの接点もミンガス繋がりであったのかもしれない。

この年のアダムスは、前年に引き続きあまり目立った活動をしていなかったが、6月にあるレコーディングセッションに参加している。

先日紹介した、デトロイト出身の男性歌手、ハーヴィートンプソンを世に出したトランぺッター、マーカス・ベルグレイブのセッションであった。


レーベルはアダムスの地元デトロイトの新興レーベル「モータウン」の傍系レーベル” Workshop Jazz ”というレーベルであった。モータウンといえば、後にスプリームスなどを世に出したR&B系の超有名レーベルになったが、元々ミュージシャンであったベリー・ゴーディ・ジュニアは、設立時から「黒人向けのR&Bではなく、白人層にも自分たちの音楽の良さを理解して欲しい」という思いで作ったレーベルであった。個人企業から10年で大企業に育てた。コンコルドのカールジェファーソンとも相通じるところがあるが、ジェファーソンは地元の車のディーラーとして裕福な環境に合って趣味が嵩じたもの。一方のゴーディーは数百ドルの借金からスタートした苦労人でもあった。

ベルグレイブもレイチャールスのオーケストラで活躍したミュージシャン。コンセプト的にはピッタリだったのかもしれない。残念乍らこの時の録音はお蔵入り、世に出ていない。

実は、アダムスは、プレーで参加するだけでなく、このモータウンレコードと9月5日に、
exclusive recording contract with Motown and an exclusive management contract with their affiliate, International Talent Management.
の契約を結んでいる。

ゴーディーは新しい白人向けの黒人音楽を目指していたこともあり、ミュージシャンやスタッフに白人を多く採用した。アダムスが選ばれたのも、黒っぽい演奏も得意とする白人アダムスはピッタリだったのかもしれない。まさにモータウンが望んでいる新しいジャズアルバムの全権を委任されたことになる。

アダムスは、1963年12月に自らのグループでこのモータウンでのレコーディングに臨んでいる。サドジョーンズや、ジェロームリチャードソン、ジェリーダジオン、ロランドハナなどが加わっている。
ご存じ、後のサドメルのキープレーヤー達が多く参加している。モーテンスイングなど昔の曲を演奏しているが、何か「今までのジャズとは違ったもの」を求められたようだ。アダムスのとっては10枚目のリーダーアルバムになったはずだが、このアルバムも世に出ることはなかった。

モータウン傘下のWorkshop Jazzがカタログに残したアルバムは僅か20枚程度。それも、カタログ載り乍らリリースされなかった物も多かった。アダムスにとっては、この契約がプレーヤーとしてではなくプロデューサーとしての初仕事であったが、果たしてこの中で何枚のアルバムがあるのかは、寡聞にして知らない。

しかし、一枚だけこの契約に基づいたと思われるアルバムがある。
契約直後の9月9日、12日に録音された自らリーダーとなったアルバムがこのアルバム、ミンガスの作品集だ。



アダムスが温めていたのは、長年付き合いのあるミンガスの音楽を自分流の解釈を加えて世に出すという企画だった。これが、めでたく9枚目のリーダーアルバムとして世に残ることになったが、Workshop Jazzで世に出たアルバムの中で唯一アダムスが参加しているアルバムでもある。

メンバーはデトロイト出身の盟友サド&ハンクジョーンズ兄弟、ポールチェンバース等に加え、ミンガスのグループで一緒にプレーをしていた面々達。呼吸もピッタリと合い、ミンガスの曲を演奏するには最高のメンバーが集まった。

アレンジは、サドジョーンズとアダムスで半分ずつ、一曲だけIncarnationだけは、ミンガス自身が担当した。珍しくアレンジがレコーディングに間に合った。録音は2回のセッションに分かれ、サドジョーンズとのクインテットの演奏が9日に9曲、3曲は他のホーンプレーヤーを入れて12日に行われた。録音にはミンガス自身も立ち会った。

揃ったアレンジにメンバー達が目を通すと、録音は特に何の問題も無く淡々と進められた。
恨み節もなく、叫び声をあげることも無く、まして物が飛び交う事も無く収録が進むを様子をミンガスは口をあんぐりと開け、信じられないという面持ちで見入っていたそうだ。

それほど、アダムスの施したミンガス作品の仕上りが良かったということだろう。もしかしたら、ミンガス自身のプロデュースよりも。
ペッパーアダムスのプロデューサーとしての実力が発揮されたアルバムだ。

これにつけても、12月に行われた幻のセッションの演奏を聴いてみたいものだ。サドジョーンズやリチャードンたちがアダムスと一緒に知恵を絞った結果の作品のようだ。
何となく、この成果が後のアダムスとサドジョーンズのクインテット、そしてサドメルオーケストラへと引き継がれていったような気もする。



1.Fables Of Faubus          4:27
2.Black Light             3:42
3.Song With Orange          2:37
4.Carolyn               5:02
5.Better Git It In Your Soul       4:05
6.Incarnation              5:46
7.Portrait              2:56
8.Haitian Fight Song         7:54
9.Strollin’Honies           5:30

Composed by Chaeles Mingus

Pepper Adams (bs)
Thad Jones (tp)
Charles McPhearson (as)
Zoot Sims (ts)
Bennie Powell (tb)
Hank Jones (p)
Paul Chambers (b)
Bob Cranshaw (b)
Dannie Richmond (ds)

Recorded in New York on September 5 & 12 1963


PEPPER ADAMS PLAYS CHARLIE MINGUS
Pepper Adams
FRESH SOUND
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