コロナの強がった言葉の矛先が緩みはじめる。
「べ…別にイヤってわけじゃ…ないわよ。ただ、アタシは配役がシャクに触るのよ。アタシが『ミカの愛人C』、アンタは『博士愛人レーカ』。どー考えても、アンタのほうが出番多そうじゃない?!」
「代わって欲しい?」
「誰が、アンタの役なんかと!アタシが気に喰わないのは、メインキャラのキャスティングよ。あの陽の巫女と月の巫女がやるそうじゃない?しかも、月の巫女がけっこうな美少女役で派手な見せ場もあるってきいたわ。どうして、この役アタシにくれないのよ?」
「あんた、いろいろ負けてるでしょ?」
「演技すんのに、胸の大きさカンケーないでしょーが」
「…ちょっと、いろいろ大人の事情があってね」
「主題歌すら歌わせてもらえないのも?何で数年もキャリアがあるアタシより、こんな新人採用すんのよ」
「若いコがいいんでしょ。イロイロ染めやすいから。それに万年オリコン六十九位のコロナじゃ、水樹奈々にもかなわない」
「なッ?!この前出したベストアルバムは、五十位以内入りしてたわよ。有名曲のカヴァーだったけど…それに、あんなアニメ声優といっしょにすんな!アタシはもう『ジェニーちゃん』とか、『スールになってください、お姉さま』とか『サーヴァントにしてください、マスター』とか『部隊長、乳揉んでください』とかヲタクに付きまとわれるのゴメンなんだから!」
「……コロナ、けっこうしっかりアニメ声優してたんだ…」
瞳は動かさないまま呆れた声を出したレーコに、興奮の刃をひっこめるコロナ。いろいろまくしたてたから、ここらで一服。お、ちょうどいいところに飲み物あるじゃん、とばかりに、机にあったストローさしたユンケルを一気飲みした。レーコが恨みがましい声でつぶやく。
「…あたしの…飲みかけ…」
「ケチくさいこというんじゃないわよ、漫画家大先生。アタシよりもうかってるくせに」
栄養ドリンクが惜しかったんじゃなくて、すこしだけ嬉しかったんだけどな。でもそれを言うのはやめておいた。コロナは喉の渇きが癒されて不快指数が減ったのか、やや機嫌は上向き加減に修正されている模様。
レーコが深い溜息をついて、すこしだけ寂しそうに表情を動かした。いつものダウナーで無機質な顔つきから見れば、コロナだけがわかるおおきな心情の変化の表れだった。コイツ、絶対なんか隠してる。芸能界の荒波にのまれて人の顔色を窺う術に否が応でも身についてしまったコロナの勘が、働いた。
アタシがこの役をできない理由、それをレーコはしっているに違いないんだから。
【目次】神無月の巫女×京四郎と永遠の空二次創作小説「君と舞う永遠の空」