陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「君と舞う永遠の空」(五)

2007-09-24 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


コロナは、すこし甘えたトーンで猫のようにすり寄って、訴える。

「ねえ、あのさ、レーコ。今からでも、お願いできない?アンタのコネつかってさ、なんとか。このアタシがヒロイン役とドラマ主題歌担当ゲットすんの。アンタなら雑作もないでしょ?」
「主題歌はね、最初っからあんたを推薦した。けど、向こうの音楽事務所の圧力ってやつ。アニメと違ってドラマのテーマソングは、大手のプロダクションが介入してくるし、正直、あたしも手の出せない領域…」
「じゃあ、ヒロイン役の件はどうよ?巫女たちだって、ズブの素人じゃない。事務所なんて裏についてないでしょ」

レーコは観念したようにまた息をついて、かたい腕組みを解いた。

「あの役はドラマじゃヒロインじゃない」
「どういうことよ?」

レーコは机の引き出しから取り出したシナリオを、怪訝そうな顔をしたコロナへ渡した。パラパラと中身をめくったコロナの手は、あるシーンで凍ったようにとまる。

「な、ナニよ…コレ?あの漫画の展開とぜんぜんっ違うじゃないの。ヒロインは王子様のお迎えを待つ夢見がちな少女…?ハァ?」
「女の子どうしの恋愛ものって受容ないから。テレビドラマは別物につくりかえになった」

主人公の男の気障なセリフ回しが、どうも鼻について好きになれなかった。しかも、ヒロインが彼に迫るシーンは、彼女に昔のトラウマを思い起こさせる。レーコはもしかして、それを知ってわざと自分をメインキャストから外してくれたんだろうか。

「やたらと女の子が脱ぐお色気シーンが多くて。はじめてのドラマデヴューがそんなのだったら、そういうイメージつくし。真ヒロインともかく、この黒髪の天使の役どころも難しくて、長時間水浴びとか、けっこうハードな撮影になるから。喉を痛めたら困るし」
「レーコ、アンタって…」

そこまでアタシのこと考えてくれてたんだ。はっきり口に出せないけれど嬉しかった。コロナが頬を照れくさそうに赤く染めてみせた。営業じゃないかぎりけっして自分から折れて「ありがとう」を言ったりしないコロナの、それは感謝のしるしの表れだ。感情の発露を仕事にしてしまったせいで、お互いに素直な心持ちを面に出すのが不得手になっている。ふたりは器用にこころの不器用を演じている。幻術つかいの歌姫と、空想屋の漫画家とのフェイクな間柄。でも、まやかしだから本気が伝わることだってある。

「…コロナはあの天使役どうしてもやりたかった?」
「そりゃ、やりたかったわ」
「どうしても?なぜ?」
「なぜっ…て。しつっこいわね。さっきも言ったけど、このアタシにぴったしの華麗な役じゃない」

それに相手役の女の子は、絵描きの少女。コロナはそれをレーコの分身と思って親近感を湧かせていた。

「あの黒髪の天使にはイメージあってないと思うけど…それに、あたしは嫌だったから。コロナが誰かとキスする役なんて」

真顔のレーコの言葉に、思わずコロナは全身赤くなってしまった。




【目次】神無月の巫女×京四郎と永遠の空二次創作小説「君と舞う永遠の空」




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