陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

一流大学へモグリ受講してみたときの話

2024-03-07 | 教育・資格・学問・子ども

細田守監督のアニメ映画「おおかみこどもの雨と雪」は、絶滅危惧種の狼男と女学生のロマンスと、その彼女がシングルマザーとなったその後を描いたものです。
私の二学年上の先輩でも学生結婚して子持ちになったので六回生で卒業しちゃった、なんていう女性もいました。研究テーマが同じだったので、コラボして研究誌の企画をしたりして、なかなか楽しかったです。それはともかく、くだんの映画では、狼男の青年はヒロインの大学で出逢うのですが、実はモグリ受講なんですよね。

このモグリ受講、大学もぐりとも言いますけども、その昔、私も率先してやっていました。
大学もぐりとは、正式な学生ではないにもかかわらずに受講すること。他大学もそうですし、他学部ということもある。そもそも高校生や一般人だったりもいたりするとか。

モグリ受講が罪になるかどうかはグレーゾーン。
よほどの少人数ゼミでもない限りは、大教室の隅にいても気づかれない。先生も追い出したりはしないし、大学側もわざわざひっとらえて処罰したりしないともされています。ただ、大学や教官にもよりけりでしょうけれども。でも、さすがに講義をただで盗み聞きしていたと思われてもしかたがない。なのでやはり許可を得た方がよさそうです、不審者と思われてしまいますし。身分証の携帯提示は必至ですね。

京大の山中教授の講義にはあらかじめモグリ受講を見越した席が用意されていたとか。
大昔、江戸の儒学者の講義でも、他の学者が自己研鑽のために参加したとも言われています。

先に弁解しておきますと、私は二流の国立大学所属。
通っていたのは電車で二時間の圏内になる関西の旧帝大と呼ばれる名門大学。もともと、そこが志望先だったんですね。もちろん、モグリの許可は得ていました。

私の大学の講義に、その一流大学の女性助手が講師に来ていました。
そこで彼女に相談をしまして。その一流大学の美学や美術史の講義にさりげなく参加。教官や院生の方々とも親しくなって、研究室に出入りしたり書庫の資料を借りることも許してもらえました。私の方が低いですが、同じ国立大学どうしだから大目に見てもらえたのかもしれません。

その一流大学の講義は、私の母校のものとはレベルが段違いでした。
美学でも、西洋哲学、東洋思想、現代、映像、演劇などなどジャンル豊富です。美術史も学部生の頃から一般的な教科書めいたのではなく、学者の研究成果の発表そのもの。教養基礎科目レベルの概説的な講義はもちろん、ゼミ形式の専修特講も参加を許されましたが、フランス語の文献の読み下しは毎回予習復習がかなり大変でした。母校では英語の研究書しか読ませなかったので、あれでかなりの海外文献の読解力と執筆力がついたはずです。

実は私の母校の研究室もそうですが、あきらかに他専攻のひとや私立大学在籍者もゼミに参加していました。卒業生などもたまに顔出しするんですよね。そういう大らかさがあったんです、昔は。のちに大学院生としてこちらに通った方もいます。大学教官からしたら自分の門下生が増えて予算配分も潤うから万々歳なのですよね。

私はその一流大学に三回生あたりから大学院二回生まで通い続けました。
特に大学院は自分の研究が主体なのでコマ数が少なく、自由時間が多いもの。向学心旺盛でとにかく学びに飢えていた私は、せっせとその一流大学に通いつめ、研究会にまで参加させていただきました。

ほんらいの志望校なので、三回生あたりには転学しようかとか、大学院から入学しようかとも考えていた時期もありました。それをやらなかったのは、経済的な事情もありましたし、旧帝大だからこその上下関係の厳しさに自分は慣れないだろうなと考えたからでした。男性の方が比率が高いので、どこか窮屈な感じもしました。今から思えば、やはり自分の母校どまりでよかったと思っています。校舎が新しいから、雰囲気が明るかったんですよね。それに、自分の研究テーマは、ストライクゾーンの広い指導教官のものと相性がよかったからです。

私は修士課程までで、他の大学を含めてたっぷりと美学美術史の講義を味わい尽くしたため、そのうえの博士課程にまで進みたいとは願いませんでした。修論でやり尽くしたので、博士論文でさて新しい研究テーマを探そうにも考えつかず、ただ無駄に時間と学費を費やすのが惜しかったからです。先の見えぬ研究に疲れていて、生活のできる仕事を探したかったらでもあります。

なお、私が卒業してから、大学間で連携して科目受講したら単位認定できる制度ができたようです。どうしても卒業に必要な科目だけども、その担当教官がアカハラ気味で単位をくれない、なんてこともあるかもしれませんから、他学部とか他大学での単位互換は進めてほしいものですよね。学位の資格はどうせ、その在籍大学でしょうし。

ただ、このモグリ受講は、現在のリモート授業が多い大学ではもはや幻の文化になってしまうのでしょうね。
学外者のセキュリティがうるさいので不可能なのかもしれませんね。現在でも経験者がいらしたら教えてほしいものです。教官や在校生の知人だから同席したなんてのもありえるかもしれませんね。私の母校では、一時期、教官の留学時代の友人だったフランス人男性が参加していて、フランス語でやりとりするので学生総勢唖然としていたりもしました。そうそう、正式な大学生や院生でなくとも、科目履修生として仮の学生身分となって通う方もいました。あんがい、部外者(身元保証がされている)が参加するのは刺激になっていいのではないか、とも思うのですけどね。

MOOCなどで大学の講義を無料公開していたりして、学外の人間が講義に触れるチャンスも広がりましたけれども、やはり正式な学生としての受講には代えられないものがあるでしょう。まあ、私はもう社会人入学するような時間の余裕もないので、図書館で本を読む程度の学問への親しみしかできなさそうです。


(2021/09/17)

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