陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

最低賃金法改正にともなうパラドックス

2022-11-05 | 仕事・雇用・会社・労働衛生

今年の10月6日に最低賃金法が改正されました。
最低賃金は都道府県ごとに違い、時給を単位としています。わが県は低い方ですが、それでも、関西在住での学生時代のバイト代よりも高くなりました。昔はわが県でも600円台なんてザラでしたけども。

労務管理者にとっては、この最低賃金法改正は神経を使う時期。
時給制の従業員で最低賃金以下かそれに近い人は昇給します。賃金締め日通りでなければ、改正前と改正後で時給が変わるので分けて計算せねばなりません。給与計算ソフトでは時給を登録すれば、月の総労働時間を入力しさえすれば自動計算だったはずが、手間がかかります。

私はExcelで改正前と後の労働時間を別々に集計し、それに時給をかけて基本給を二段階に合算。
給与計算ソフトではあらかじめ新しい方の時給に設定し、基本給の差額分をひく、という調整法で行きました。有休手当も時給で変わるので、改正前後で二段階の金額で計算できるようにExcelを組みました。

ところで、この最低賃金法改正にともない、困った事態が発生しました。
なんと、パートタイム労働者で昇給したとたんに、勤務時間を減らしてほしいと要求されたのです。夫の勤務先の配偶者手当がなくなるから、年収103万未満に抑えたい。もう90万越えてしまったから、なんとかしてくれ、と。

会社は二度三度説得しましたが、最終的の本人の要望通りにかなりの短時間労働に。
そのしわ寄せは、他の人、とくに固定残業代制の正社員がかぶることになります。他の人でも、ベテランなのに時給が上がらなかった人もいる。時給が10円あがるのに何年かかった人もいるのです。なのにもともと時給の低い新人さんがいきなり30円もアップして、古株と給与が変わらなかったりする。自分の方が仕事量は多いのに…という不満の声も、暗に広まりはしませんが、思っている人もいるわけで。こうした不公平感が現場の士気を下げやしないかと、私は気を揉んでしまうわけですね。

労働時間を削減するにも、労働契約書を作成し直せばならず。
また扶養控除内で働きたいから時間を管理してほしいという人もいますが、事務の負担が増えて、労務管理側としては、気分が複雑です。私も含め正社員でサビ残三昧の人は実労働時間で割ったら、最低賃金を下回ることだってありうるんですよね。

そもそも、103万以内にせよ、社保の扶養範囲内の130万の壁にせよ。
勤め先以外の所得が発生したら(保険金の受取などによる一時所得などで)越えてしまうので。会社側が配慮してあげるというのは不可能です。その壁を超えると社保加入等で損をするのはわかるけれども、あくまで個々人の家計の問題なので。

最低賃金があがるのは良いことです、もちろん。
けれども国は控除枠を上げない。──ということは、配偶者に扶養されていたひとにも相応の負担を強いはじめたということです。社会保険の加入も短時間パートへの適用拡大が10月から開始。今は従業員50人以上規模ですが、これがそれを下回る可能性があり、将来的にはもう専業主婦(主夫)向けの国民年金第3号者なんてなくなるんじゃないでしょうか。だって、会社員の妻と自営業者の妻とで年金の自己負担が変わる、なんておかしな話ではないですか? 配偶者に依存して働かなくなるなんて。死別や離別したらどうするのよ。 

それにいったん労働時間を削減したり、正社員からパートに変更したりしたら。
いざ子育てが楽になったのでもっと稼ぎたいと申し出ても、会社側が拒む可能性があります。働いてほしい時に貢献してくれなかった社員なのだ、という印象があるからです。育休も男性がとれる時代になったとはいえ、介護休暇での離職も社会問題となる昨今でもあっても、やはり人手不足の会社では厳しいわけですね。

以上、労務管理者のぼやきでした。
最低賃金はこれからも上がるでしょうけれども、昇給したからといって、一人ひとりの労働生産性が上がるわけではない。けれども給与をあげねばインフレ気味の暮らし向きはよくならない。なかなか悩ましいところです。

(2022/11/03)








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