舌先に乗せられた外身のカリッとした薄い感触。
噛み砕くとやがて鈍く厚い歯応えとなる。
中に程よく閉じ込められた旨味のある水分が滲み出て、ふんわりと口内に広がる。
適温だったのか、舌にしつこいほどの油分も残らない。
丹念に味わって、嚥下した千歌音は、まずその食べ物の正体を即座に口にした。
「これ、揚げだし豆腐ね」
双の瞳を開けて、千歌音はまず姫子の顔を見定めた。よかった、喜んでいる。手にした器の中身を確認するまでもなく、そのほほえましい笑み顔に答えの正否は明らかだった。
「そう。あ~、よかったぁ」
千歌音の顔から外した手で、姫子は胸を撫で下ろしている。
「料理の言い当てっこなの?変わった趣向ね」
「そうじゃないんだけど。まともに揚げだし豆腐の味になってるのかなって心配だったから。最初から何か判っていると少し味がおかしくても、納得しちゃうでしょ?」
姫子の言い分は理に適っている。食に関する思い込みというのは、案外多い。
料理は舌だけでなく眼や鼻でも味わうものだけれど。それは、いかんせん盛りつけ方で美味しさを過剰演出することにも繋がる。
「とても美味しかったわ。ごちそうさま」
「良かった…千歌音ちゃんの用意してくれた食器、とても高価だから。これに盛ったら美味しく見えるかな、なんて考えちゃったけど…」
「そんなことはないわ、それに、美味しさの基準なんて人それぞれでしょう。イタリアの紳士は、母親のつくったパスタ以上に美味しい料理はないと豪語しているらしいけれどね」
「家庭の味には適わないってことだよね」
でも、私にとっては姫子の手料理はなによりのごちそう。
世界にたった一つのすてきな調味料──姫子の愛情が降りかけられているんですもの。
美味しくならないはずがない。
いつだって、どこだって、なにをしても。彼女だけが私の幸せを最大限ひきだしてくれるひとなのだから。
【目次】神無月の巫女二次創作小説「最高の晩餐」
噛み砕くとやがて鈍く厚い歯応えとなる。
中に程よく閉じ込められた旨味のある水分が滲み出て、ふんわりと口内に広がる。
適温だったのか、舌にしつこいほどの油分も残らない。
丹念に味わって、嚥下した千歌音は、まずその食べ物の正体を即座に口にした。
「これ、揚げだし豆腐ね」
双の瞳を開けて、千歌音はまず姫子の顔を見定めた。よかった、喜んでいる。手にした器の中身を確認するまでもなく、そのほほえましい笑み顔に答えの正否は明らかだった。
「そう。あ~、よかったぁ」
千歌音の顔から外した手で、姫子は胸を撫で下ろしている。
「料理の言い当てっこなの?変わった趣向ね」
「そうじゃないんだけど。まともに揚げだし豆腐の味になってるのかなって心配だったから。最初から何か判っていると少し味がおかしくても、納得しちゃうでしょ?」
姫子の言い分は理に適っている。食に関する思い込みというのは、案外多い。
料理は舌だけでなく眼や鼻でも味わうものだけれど。それは、いかんせん盛りつけ方で美味しさを過剰演出することにも繋がる。
「とても美味しかったわ。ごちそうさま」
「良かった…千歌音ちゃんの用意してくれた食器、とても高価だから。これに盛ったら美味しく見えるかな、なんて考えちゃったけど…」
「そんなことはないわ、それに、美味しさの基準なんて人それぞれでしょう。イタリアの紳士は、母親のつくったパスタ以上に美味しい料理はないと豪語しているらしいけれどね」
「家庭の味には適わないってことだよね」
でも、私にとっては姫子の手料理はなによりのごちそう。
世界にたった一つのすてきな調味料──姫子の愛情が降りかけられているんですもの。
美味しくならないはずがない。
いつだって、どこだって、なにをしても。彼女だけが私の幸せを最大限ひきだしてくれるひとなのだから。
【目次】神無月の巫女二次創作小説「最高の晩餐」