映画「嵐が丘」（1939年版＆1992年版）

『嵐が丘』（原題：Wuthering Heights）と聞けば、エミリー・ブロンテの大河小説。
過去いくども映画化され、日本では田中美佐子、渡辺裕之主演の「愛の嵐」という1986年の東海ドラマで、話題になりました。2002年には、藤谷美紀、要潤でリメイクされています。

今回紹介するのは、初の映画化となる1939年版の「嵐が丘」
メガホンを取ったのは、1953年の「ローマの休日」や、1966年の「おしゃれ泥棒」で知られるあのウィリアム・ワイラー。

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英国ヨークシャーの荒野、吹雪に見舞われて、やっとみつけた人家を頼って訪れた男は、その館「嵐が丘」の冷たい雰囲気にうちのめされる。館には主人と、よそよそしい妻、老いた下男と女中がいるが、客人をもてなすという様子もない。そして、二階の寝室からは女の叫び声が聞こえてくる。
恐怖をうちあけると、女中のエレンがこの館の主人ヒースクリフの愛と苦悩に満ちた生涯を語りはじめた。

「嵐が丘」の旧主人アーンショーに引き取られた孤児ヒースクリフは、アーンショーの娘キャサリンと兄妹同然にして育ち、やがて愛し合う仲に。しかし、アーンショーが亡くなり、邸がキャサリンの横暴な兄ヒンドリーのものになると、ヒースクリフは下男に貶められてしまう。
ヒースクリフを深く愛しながらも、上流社会への憧れを捨てきれないキャサリンは、名家のエドガー・リントンと結婚。失意のヒースクリフは出奔。

そして、数年後。成功して、ふたたび彼らの前に現れたヒースクリフは、財力を利用し、自分を捨てたキャサリンたちに復讐を果たす…。
注目のシーンは、リントン家での舞踏会。ヒースクリフとキャサリンがふたりだけで視線を絡めあう。それを悟った、エドガーの妹にして、ヒースクリフに恋心を寄せるイザベラは心中穏やかではない。背後に流れるモーツァルトの「仔犬のワルツ」がなんとも、三人のあいだに走る緊張感をかきたててくれる。
やがて、ヒースクリフとイザベラが愛のない結婚をしたことで、リントン家の夫婦の運命は嵐が襲ったように狂っていく。

なお私は、原作は未読ですが、数年前に92年作のイギリス版「嵐が丘」（監督：ピーター・コズミンスキー、主演：ジュリエット・ビノシュ、レイフ・ファインズ）を観たことがあります。

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こちらのほうは、復讐心に燃えるヒースクリフの残虐性を色濃く描き出すことに長けています。物語の舞台となったイギリス、ヨークシャーの、なだらかで羊のいろをしたような不気味な岩が顔を出している翠の丘でロケーションしていて、臨場感たっぷり。
本作はモノクロのせいもあってか、遠近感に詰まりがあって、風景の広がりを感じさせません。舞台劇をみせられているような感じですね。ヒースクリフも二枚目すぎて、ふたりの恋愛は復讐の一歩手前、キャサリンの病死で終わってしまいます。

92年版では、原作にかなり忠実に、ヒースクリフがキャサリンやヒンドリーの子どもたちにまで、憎悪の輪を広げていきます。しかし、元はといえば、ヒースクリフが純粋に愛を捧げ貫き通したのに、金銭欲にかられたキャサリンの裏切りからくる愛憎劇。「風と共に去りぬ」のスカーレットとおなじで、このヒロインには同情の余地はありませんね。
39年版は、ずいぶんと美化されてロマンチックに終わっている点が、すこしもの足りないですね。92年版だと、これでもか、とばかりに罪もない少年少女の人生に呪いをかけていくヒースクリフは、非道になればなるだけ愛に飢えた悲しさが増す。その心の痛さがひりひりと伝わってきたものですが。

主演はヒースクリフ役に、エキゾチックな美男子のローレンス・オリヴィエ。アルフレッド・ヒッチコックの「レベッカ」での主演が有名な英国の名優。
キャサリン役に、映画プロデューサーのアレクサンダー・コルダ、「ヘンリー八世の私生活」でデビューした、マール・オベロン。

（2010年１月22日）


嵐が丘(1992)(1992) - goo 映画