陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「愛と哀しみのボレロ」

2009-01-08 | 映画──社会派・青春・恋愛
十二月三〇日深夜に放映されておりました。去年最後にして最高のTV視聴映画といえましょうか。
クロード・ルルーシュ監督の傑作との誉れ高いバレエ映画「愛と哀しみのボレロ」です。

この映画、おそらく数年ぶりの再会です。学生時代、大学の図書館でLD盤で視聴しました。その頃はいまのように画像を修正することもなかったので、やたらと狐いろがった画面がとても時代を感じさせていました。

この映画はほんとうに大部なもので、いちど観たかぎりではお話をとらえるのは難しいです。ですので、ここで仔細は申し上げますまい。
これといったドラマティックに場面をもりあげるBGMもなく、音楽はむしろ劇中音楽として存在します。したがって音楽のない、人物ドラマのシーンは淡々とすすむのです。ナレーションの男の冷静な声が悲しさを掻き立てるようです。静かなる悲歌、歓喜に湧く音楽と踊り。その二層構造によって編まれた音楽映画といえそうです。

一九三〇年代後半から一九八〇年代はじめまでの四十五年、四つの芸術家一家──ソビエトのバレエダンサー、ドイツの指揮者、フランス在住のユダヤ人楽団、そしてアメリカのミュージシャン──の波乱にみちた生涯をたどります。おもしろいのは、同一人が二役演じていることで、その演じ分けがみごととしか言いようがない。ただし混乱するところではありますが。
単調なリズムがくりかえしあらわれるボレロを要所ごとに挿入しているのは、まさにこの家族が知らずしらずにふしぎな運命と芸術家としての才をうけつぎ、再現してしまうことをほのめかしているのです。

この四人の芸術家にはモデルがあります。ヘルベルト・フォン・カラヤン、グレン・ミラー、ルドルフ・ヌレエフ、エディット・ピアフの人生に材を得たといわれています。
また、あの喜劇王チャップリンの次女で女優のジェラルディン・チャップリンも、重要な役どころを演じております。

この四家族になんらかのかたちで関わる者たち─ドイツの指揮者と一夜をむすんだ歌手、米国の音楽家の近所にすんでいた双子の若者──もふしぎな蘇りで、関わってきます。
ただし、難をいえば、この二役というのを若干強引にすすめたために、かなり年齢としては無理があるような設定もあります。たとえば、ソビエトのバレエダンサーの息子は最後には四十を超えているはず。その肉体であそこまで踊れるのか。バレエダンサーの引退年齢は三十代と言われています。(ただし、四十を過ぎても現役で活躍する日本人バレリーナなどもいる)

しかし、あけすけにいえば、この大作を史上まれに見る戦争ドラマせしめているのは、なんといっても、はじめと終わりを飾る舞踊でありましょう。それを見守るのは、奇跡的に一同に会した四つの家族──大戦によって人生を狂わされた者、犠牲者やからくも生き伸びた者とその余裔たち。

つごう四〇名のダンサーをしたがえて、円舞台の上で自在に舞うジョルジュ・ドンの演技はまさに圧巻。奇しくも彼はのちにモデルとした、ダンサーのルドルフ・ヌレエフと同じに病に倒れます。モーリス・ラヴェルのバレエ音楽「ボレロ」のせりあがるような音のくりかえし、そして男女ふたりのハミングによる歌声。民族の垣根を超えた、平和と愛の讃歌なのです。


芸術的な完成度としてはかなり高い位置にあり、かつ戦争の記憶を風化させないプロパガンダ映画としても成功しているといえるでしょう。

(〇八年十二月三十一日 記)


愛と哀しみのボレロ(1981) - goo 映画愛と哀しみのボレロ(1981) - goo 映画

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