あなたの三国志はドコから? 私はNHKの人形劇三国志から。
川本喜八郎さん製作のあの個性あふれる人形の顔、渋い声のキャスト。OPとEDテーマ曲も好きで、今でも脳内リフレインしだすぐらい。1990年代には同じ川本喜八郎人形製作で「平家物語」も放映。どちらも原作は吉川英治なのですが、そもそも私が吉川の歴史小説ファンなのも、この人形劇あってといってさしつかえない。
三国志といえば、有史以来、中国をはじめとして数多く作品の題材にされました。映画で言えば世界的ヒットを飛ばした「レッドクリフ」が名高いでしょう。
しかし、三国志ファンならば外してはならないのは、なんといいましても横山光輝先生の漫画『三国志』! 今では、キリトリ画像がネタコラ化していてウェブでも大人気。私の中でのイチオシ横山作品は、その昔、MBSの深夜放送で出会った「バビル二世」。その後、リメイクアニメもあったみたいですが、初代の線の太さとOPの重厚な歌声が好きだったりします。
横山版「三国志」を知ったのは、1990年代に放映されていたアニメからでした。なんと荒木伸吾、姫野美智さんのキャラデザ! 原作だとシンプルな丸っこい造形が、アニメでは聖闘士星矢ばりの睫毛キラキラ、美形度アップ! ただし、このアニメ、実家の地元局では放映されていなくて、UHF局放映のビデオ録画分を友人経由で観させてもらっていた記憶があります。
かねてからこの原作漫画を制覇したい!と願っていたところ、なんと豪華な装丁の単行本版(潮出版社)が図書館にあることが判明。今年に入って、ぽつぽつ読み進めてきました。
劉備玄徳、張飛、関羽の義兄弟の桃園の誓いからではなく、その前の玄徳が親孝行な貧農だった時代からはじまる。
後漢王朝の衰退期、黄巾の乱をしずめ、群雄割拠の時代にその人徳を知られるも無位無官のままの劉備一向。諸葛亮孔明や龐統という名軍師を迎え、ライバルの曹操に抗するために、孫権と手を結び赤壁の戦いへ…。
この横山三国志で驚いたのは、玄徳ほか主要人物以外のキャラデザが似通っていてわかりづらいことです(爆)! サブキャラ、とくに曹操配下の著名な武将も顔のつくりが似ているので、鎧兜の違いで見分けるのですが、区別がついたとたんにお亡くなりになったり。しかし、さすがは横山大先生! 合戦シーンの迫力だとか、中国の山水図から学んだかのような遠大なロケーションだとか、石壁などの緻密な描きこみが半端ない! 台詞廻しはシンプルで、なにかあれば「むむむ…」「げぇっ」とうなるのはもはや十八番。
ただ長大な三国志ストーリーをさくさく読みこなすには、これぐらいのシンプルな線描の方がよろしいのかもしれません。なにせ、人物の数が膨大なんですから。私は人形劇の印象が濃いので、龐統など一部のキャラの雰囲気の違いには驚きましたけども。それにしても、この時代は権謀術数あれやこれや、だましだまされ、ときには味方をも欺き、老いた親やら妻子までも人質にして寝返らせようとする。
胸が痛んだのは、玄徳が蜀の皇帝になったあとの衰退。
魏や呉と拮抗する三国時代がくるも、関羽や張飛といった両雄を失い、失意の死。そして残された孔明が指揮を執って南部の遠征を果たすも、家臣の間に亀裂が…。孔明の死をもって三国志は幕引きとなるのですが、このあたりの流れは小説よりわかりやすかったですね。
この豪華装丁の単行本版は巻末に地図と識者の解説や、横山ファンの作家たちによる寄稿もあるので、資料としても読みごたえ十分。
ところでアニメ版の孔明のCVが速水奨さん。
名探偵コナンでやたら中国の故事かなにかをつぶやく軍師っぽいキャラがいるんですが、元ネタはここからなんでしょうかね? 玄徳が中村大樹さんで、曹操が松本保典さんなのも、「鎧伝サムライトルーパー」ファンならばニヤリとするキャスティングですよね。
横山光輝先生の代表作は「鉄人28号」「ジャイアントロボ」が有名ですが、「仮面の忍者 赤影」などの忍者や、山岡荘八や新田次郎原作の歴史もの、さらにはSFやいまやアニメの定番の変身美少女の古典というべき「魔法使いサリー」、さらには現代サスペンスも、と幅広いジャンルを手がけているんですよね。「史記」や「平家物語」などの歴史漫画は歴史の勉強にもなるので、受験生にもおすすめできます。歴史ものはオリジナルよりは下地があるとはいえ、資料を読みこんだり、描いたりするのも一苦労なので、あれだけ大量に作品を生み出せたのは天才としか言いようがないですね。
くしくも2024年は没後20周年、享年69歳。
ご存命であれば今年は御年90歳。手塚治虫御大ともども、あまりに早すぎる死ではありました。
(2024年7月頃読了 2024.11.03)