笑いがおさまらずに、顎に手をあてて、顔を斜めに反らす。絞っても絞っても笑いの切れ目はこなくて、鈍いしずくのように笑い声を洩らしてる私に、姫子が困惑した顔をしている。次の言葉を紡ぐタイミングを奪われてしまったのだろう。悪いと思いつつ、やはり止まらない。
独りで泣いたり笑ったり。姫子のいないあいだ、そんな時間が多かったせいなのだろう、それは。誰にも摘まれないで感情の芽を解放することは、異国の独り部屋での日課だった。
おいてけぼりの姫子がたまらずに私の両頬をてのひらで包んで、ぐっと瞳を近づけた。それでやっと、ぴたりと笑いをやめる。姫子のきれいな顔に、ふざけた笑いをこぼすことなんてできっこないのだから。
「ごめんなさいね、ひとりで笑ってしまって」
「ほんとに、怒ってない? 笑ってごまかしていない?」
「ほんとよ。怒ってない」
私は姫子を抱き寄せて、額をくっつけた。許しの抱擁も、もう何度目だろう。私たちはいつもこうやって気持ちを測ってばかりいて、近づけないでいるのだった。姫子が私の衣服の端をぎゅっと掴んで、しおらしく胸元に顔を伏せた。
「嘘の花火をおみやげにするなんて、ひどいよね…でも、わたしは…」
「姫子は、私からほんとうを貰おうと思ってそうしたのね?」
姫子はこくんと頷いた。今度は私からありがとうのキスで元気づけて、姫子に笑顔が戻る。
あいもかわらず笑いの風呂敷をひろげて、なにごともなかったかのように私の不服を包んでしまう、あの笑顔が。姫子に笑顔でいてもらうためなら、私はなんだってする。そう、なんだって……。
「千歌音ちゃん、さっきの『好き』って言葉、わたしもほんとうにしたい。したいんだよ?」
「わたしも、ほんとうにしたい、姫子となら…きっと」
私は姫子に熱いまなざしを送った。姫子の裸のまなざしは、それを受けとめた。
私の胸の鼓動は、甘い期待でいちだんと早くなった。