姫子はきょとんとして、私の曇った顔を眺めていた。なにげない言葉ひとつで地獄におとしこむような残酷さが、姫子にはある。しかしその残酷さを無邪気にやってのける姫子が、私の好きなところでもあった。
ひと言ふた言の気持ちでつまづいていく想いに、私はいくたびも自嘲してしまうのだった。
「勘違い? 姫子はこの花火を誰かと見て…それで」
私のあずかり知らぬ間に、姫子が誰かといっしょに、その青い花火を見ていたとしてもおかしくはなかった。なぜといって、私は不覚にも今年の夏の約束を忘れて、その花火の日、別の相手の手をとってダンスに興じていたのだから。青い花火を遠ざけていたのは私のほうなのだ。
「千歌音ちゃんといっしょに、はじめて見たんだよ、この花火」
「…えっ、はじめて?」
姫子はいたずらっぽく微笑んだ。目を丸くさせて驚いている私をおいて、姫子は他の花火を再生しはじめる。私が覗きこみやすいように姫子はカメラの画面を近づけた。
肩を寄せて頬を近づけた半透明のわたしたちの顔の向こう側で、青い花火の景色がくっきりと流れてくる。
瞳の位置に青い花火の星がかさなって、きらきらしていた。さっき花火の嘘を自白したときの姫子の目に散っていた青い光りのかけらに似ていた。
そのまぶしい瞳で言われたことなら、どんなことでもほんとうにしておきたいと思った。たとえ、ふたりをとりまく環境がどこかしらつくりものめいていて、仕組まれた感情のしかけがあったとしても……。
「ほら、よく見て。なにか気づかない?」
「そういえば、なんとなく…違う…」
ほかのシーンに比べると、さっきの花火だけ背後の夜空が異常に蒼白く輝いていた。しかも映した角度があきらかに違う。不自然といえば不自然すぎた。
「ごめんなさい。千歌音ちゃんを喜ばそうと思ってね。ちょっと加工してみたの。でも、こんな小細工してだまして、ずるいよね。だから、アメリカに来ても一日中悩んでたの。見せるべきか見せないべきかって」
もう、何度めのごめんなさいなのだろう。さっきの「ごめん」を勘違いした自分がおかしくて、そして嬉しくて。私はだまされたことなどどうでもよかった。だって、こんな可愛らしい嘘、姫子にいくら吐かれたとしても怒る気になれない。
お腹の底から、くつくつとこみあげてくる笑いの大波に呑まれた私を眺めて、姫子が首を傾げる。私たちはお互いに騙しあいっこをしていたのだ。
「…千歌音ちゃん?」