陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

キャラクタービジネスは偶像崇拝の最先端

2025-03-13 | 二次創作論・オタクの位相

人気アニメのキャラクターをプリントしたお誕生日ケーキだとかマカロンだとかを専門に発売するビジネスがあるのを、X(旧ツイッター)経由で知りました。もちろん版権契約を交わしているので、公式サイトがしっかり宣伝しています。消えものなのに、どうやってプリントしているのでしょうか? 板チョコの上? たんに紙をおいているだけ?



私が子どもの頃のキャラクタープリント商品といえば、レターセット、下敷き、クリアファイル、ペンなどの文具。ジッパー付きの小銭入れ、カレンダー、手帳など日常使いできそうなもの。だけど手垢で汚れるのがいやで飾っておいてしまう。しまいこんだまま、20年経っていたものなんてザラにあります。もったいないですね。

地元のアニメイトがちょっと遠くて。
数箇月にいちど、お小遣いをためて通うのが楽しみでした。そんなに買い込んだわけではなかったけれど。当時はそんなに商品は店舗に置かれていなかったですし、オンライン通販なんてものもありませんでしたよね。自分で商品を手に取れるほうが安全でいいですよね。

昔、とある作品の立体人形を購入したときに明らかに出荷できないレベルの不良品を送られたことがあったので、実物がみれない商品は信用していません。受注生産を締めきったあとに、サイズを小さくするなんて詐欺も見かけましたから。いい物語を描いてくれた著作者さんやアニメの制作現場でがんばった人を応援したいのに、なんで無関係な企業をもうけさせないといけないのだろう?

そもそも、キャラクタービジネスときけば。
サンリオのキティちゃんとか、ミッキーマウスだとか、スヌーピーだとか商品化に特化した、お子様に夢をあたえる愛らしい丸っこいキャラのはず。オタク向けではなくて。いかがわしさで売る絵でなくて。射幸心をあおるようなビジネスではなくて。

ところが今はどうでしょう。オタク向けの人気アニメなどに、ブランドが確立したキャラクターが歩みよりして協働したキャンペーン戦略をおこなっています。たとえば深夜のロリ向けアニメだったはずの魔法少女リリカルなのは。互いの太い客筋をかけあわせ、広範な販路をいかした戦法で売り抜こうというしたたかさを感じます。サンリオ、いつから萌えアニメに走ったのよ、だいじょうぶか? デザイナーがアニオタだったんだろうなあ。





美少女戦士セーラームーンが大人気だった30年ほど前は、掲載誌の月刊なかよし誌面の応募者全員サービスで、原作絵が印刷された巾着だとか、ポーチだとかをゲットしていました。懐かしい、まだ持っていますよ。

特撮戦隊ものやプリキュアなどニチアサキッズ番組のマニアックな方は、幼児向けの下着まで買っていたとか、いないとか。
お子様がいる人は、プレゼントを言い訳にして魔法少女ものの変身アイテムが買えるとか、なんとか。

最近のキャラクタービジネスは購買層が高年齢化し、社会人も多くなってきたせいか、価格帯もお高め。
ブランドバッグや高級化粧品、ジュエリーとコラボした女性向けのオシャレなもの。もともと男性向けならば抱き枕カバーや精巧なフィギュア、プラモデルなどがありましたが、これはなかなかフェティッシュなものですね。安価に製造できて利益率のいいアクリルスタンドや缶バッジも量産されています。

ケータイのダウンロード壁紙だとか、LINEスタンプ絵だとか、あるいはガチャくじだとか。データ販売のものまで現れたのは、平成に入ってから。これらはコレクションというよりはコミュニケーションツールとして流用しはじめた世相を反映していますね。

その昔に、ビックリマンチョコのシールや仮面ライダーのお菓子の付録カードみたいなおまけコレクションもありましたが、子供騙しの食玩としてではなくて。しっかり大人テイストを打ち出しつつ食べものとタイアップしている企画もあります。コーヒー缶やペットボトルに印刷されたりとか。こうしたビジネス界隈が手に取るものに印刷されることで露出度が高まり、爆発的な知名度を得たのが、あの「鬼滅の刃」でありましょう。





最近だと、セーラームーンが明治のチョコとバレンタインでコラボしていたりしました。都会限定販売だったみたいですが、公式ストアによると、海外展開もすさまじいらしい。海外のフィギュアスケート選手にもファンがいて、コスプレ衣裳で公式戦で踊ってしまうぐらいですから(笑)





近年は実用性を考慮してか、キャラクター絵そのものよりも、作品カラーを示すロゴ(少女革命ウテナの薔薇の刻印だとか、ヱヴァンゲリヲンのネルフのマークだとか)をあしあらった商品も増えている模様。

鬼滅の刃の各自の羽織のデザインをもとにしたマスクなどもコロナ禍の衛生ブームにのってバカ売れしたはずです。
緑と黒の市松模様だけであるキャラを連想させるなんて、鬼太郎のちゃんちゃんこと同じインパクトがあります。すぐれた物語の中のデザインは人口に膾炙すると、極度の抽象化がすすみ、とてもよい象徴となるのです。これはもはや宗教に近い、そう、十字を描けばイエス・キリストの磔刑像になるといったふうに。あるいは、ピエト・モンドリアンのブギウギシリーズのように。

昭和の前半まで、古き良き家庭には天皇陛下の肖像が掲げられていたのです。いまも祝日になると日章旗が掲げらえるのはその名残といえましょうか。仏壇にはお釈迦様の仏像か禅僧の似顔絵がありますし、ご先祖様の肖像画や遺影までかけられているお宅もあるのでしょう。

ギリシア正教会で聖人を描いた像のことをイコンといい、イスラム教が禁止する偶像崇拝とは区別されていたはずですが、8世紀ごろ論議を呼び、聖像崇敬が弾圧された歴史があります。ビザンツ帝国各地で行われた聖像破壊運動(イコノクラスム)は激しさを増し、この時期に多くの美術的価値をもつ板絵が失われてしまったのでしょう。9世紀にはイコンは復活したものの、平面像はよくて立体像は許されないなどの制限があったらしく、この聖像崇拝問題はやがて11世紀のキリスト教会の東西分裂を招くことになります。

すなわち、ひとびとが信仰の対象としたはずの絵がひとを結ぶのではなくいみじくも分断のトリガーになってしまった、というわけです。
日本でも江戸期のキリシタン弾圧に踏み絵が用いられたように、イメージに神性がやどると信じられたふしがありました。ただの古びた石像にすぎないのに道端のお地蔵さんに手を合わせたくなるのも、その美的価値ではなく、礼拝的な価値を感じているからに他ならない。

不思議なことに、イスラム圏の国々、アラブの大富豪のあいだでは日本のロボットアニメが人気。東南アジア圏でも昭和アニメが放映されて大喝采。
現地ではお台場のガンダム像よろしく、巨大なモニュメントまで建設されてしまったらしい。もはや、日本のアニメ作品は自由の女神像、エジプトのスフィンクス、奈良の大仏に肩をならべるほどの歴史上の世界文化遺産として後世に残っていく可能性まであります。

だって、キャプテン翼を知ってサッカー選手になったり、宇宙戦艦ヤマトに憧れて宇宙飛行士になったり、アニメに子どもの夢をはぐくまれた大人も出てくる時代なのですから。
私たちはいつの間にか、そんな時代に生きているのです。太平洋戦争の空襲が古都の京都や奈良を焼け野原にしなかったように、日本のオタク文化はじつは平和維持に役立っている可能性まであります、知らんけど。

もし宇宙人がいたら、人類のこのちゃかちゃかした文化の最先端をどう思うのか聞いてみたいところですね。



(2025.02.22)








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