[6]です。これは改正法がいきなり出題されて、ちょっと厳しかったかもしれませんね。
説明がちょっと長くなってしまいました。
(誤記を直しました。18:21)
【問題文】
〔6〕特許権の侵害に係る訴訟における秘密保持命令に関し、次のうち、正しいものは、どれか。
1 裁判所は、特許権の侵害に係る訴訟において、当事者が保有する営業秘密について、その当事者の申立てにより秘密保持命令を発する場合には、裁判官の全員一致でなければ命ずることができない。
2 当事者の保有する営業秘密が準備書面に記載されている場合には、当該書面が提出された後であっても、秘密保持命令の申立てをすることができるが、その営業秘密が証拠の内容に含まれている場合には、当該証拠が取り調べられる前でなければ、秘密保持命令の申立てをすることができない。
3 秘密保持命令は、裁判所により秘密保持命令を受けた者に対する決定書が作成された時から、効力を生ずる。
4 秘密保持命令の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができるが、秘密保持命令の取消しの申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができない。
5 秘密保持命令が発せられている訴訟に係る訴訟記録につき、秘密記載部分の閲覧等の制限の決定があった場合において、秘密保持命令を受けていない当事者から当該秘密記載部分の閲覧等の請求があったときは、裁判所書記官は、閲覧等の制限の申立てをした当事者のすべての同意がない限り、その請求の手続を行った者に、請求があった日から2週間を経過する日までの間、当該秘密記載部分の閲覧等をさせてはならない。
【コメント】
1 特許法105条の4第1項によれば、1号と2号のいずれにも該当する場合には、当事者の申立てによって秘密にするよう命令ができるということになっています。ここで、1号は、裁判における準備書面や証拠に営業秘密が書いてあること、2号は、その営業秘密が漏れると事業活動に支障が生ずるおそれがあること、という条件があがっています。
この105条の4の秘密保持命令の決定について、問題文にあるように裁判官の全員一致でなければ命ずることができない、などという話はないですね。よって誤りということになります。条文がないので、誤り、と言い切るためには「ない」という確信がなければならないので、そういう意味では難しい問題だといえるでしょう。
2 上記105条の4第1項1号をより詳細に見てみると
1号 既に提出され若しくは提出されるべき準備書面に当事者の保有する営業秘密が記載され、
又は既に取り調べられ若しくは取り調べられるべき証拠の内容に当事者の保有する営業秘密が含まれること
となっており、既に取り調べられた証拠の内容に営業秘密がある場合でも秘密保持命令の申立てができることは明らかです。よって誤り。
3 弁理士試験においては伝統的な短答的問題といえますね。「決定書が作成された時から」効力を生ずるのではなく、秘密保持命令を受けた者に対する「決定書の送達がされた時から」効力を生ずることになっています(105条の4)。よって誤り。
4 誤り。条文の内容そのままですね。
105条の4第5項 秘密保持命令の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
105条の5第3項 秘密保持命令の取消しの申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
5 これが正解だったわけですが、ここは条文を含めてきちんと見ておきましょう。
まず、民事訴訟法92条を見ましょう。
☆民事訴訟法92条1項 次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
二 訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第2条第4項に規定する営業秘密をいう。第132条の2第1項第3号及び第二項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。
→これは、「訴訟記録に営業秘密が書いてあるので、閲覧等できる人を当事者に限ることにしてくれ」という申し立てができる、との規定です。
次に特許法105条の6を見ましょう。
☆特許法105条の6 秘密保持命令が発せられた訴訟(すべての秘密保持命令が取り消された訴訟を除く。)に係る訴訟記録につき、民事訴訟法92条1項の決定があった場合において、当事者から同項に規定する秘密記載部分の閲覧等の請求があり、かつ、その請求の手続を行った者が当該訴訟において秘密保持命令を受けていない者であるときは、裁判所書記官は、同項の申立をした当事者(その請求をした者を除く。第3項において同じ。)に対し、その請求後直ちに、その請求があった旨を通知しなければならない。
→これは特許法105条の4にて秘密保持命令が発せられた裁判の訴訟記録について、
1.訴訟記録の閲覧を請求する者を当事者に限る旨の申立てが一方当事者から出され、
2.訴訟記録の閲覧を請求する者を当事者に限る旨の決定がなされた、
という場合において、
秘密保持命令を受けていない当事者から秘密記載部分の閲覧請求がなされた場合には、書記官が閲覧請求ができる者を当事者に限る旨の申立てをした一方当事者(ただし、閲覧請求をした人ではない人)に対して、閲覧請求があった旨を通知するというものです。
☆105条の6第2項 前項の場合において、裁判所書記官は、同項の請求があった日から二週間を経過する日までの間(その請求の手続を行った者に対する秘密保持命令の申立てがその日までにされた場合にあっては、その申立てについての裁判が確定するまでの間)、その請求の手続を行った者に同項の秘密記載部分の閲覧等をさせてはならない。
→ここまで来るとわけわからなくなりますが、
話を整理しておきましょう。
事件の概要
特許権者は甲及び乙(共有)、侵害者丙
特許権者(原告)のうち甲は大学の先生、乙はライバルメーカー
事件の流れと105条の6の説明
1.裁判で出す証拠に秘密が含まれているという丙が秘密保持命令の申立てをするという状況を考える。
2.秘密保持命令の申立てをするには、秘密保持命令を受けるべき者を特定して申立てをしなければならないので(105条の4第2項第1号)、丙の営業秘密がライバルメーカー乙に利用されてしまうと困るので、秘密保持命令を受けるべき者を乙として丙が申立てを行ったところ、秘密保持命令の決定がなされた。
3.基本的にはこれで丙は安心できるわけですが、営業秘密が書いてある訴訟記録(訴訟記録というのは特許庁における包袋みたいなもんだと思ってもらえればよいです。)は、実は基本的に誰でも閲覧できることになっているわけです。丙はいくら乙に秘密保持義務を課すことができても関係のない第三者に営業秘密を見られては困るので、念のため訴訟記録の閲覧請求をすることができる者を当事者に限る旨の請求を行ったところ認める旨の決定がなされた(民訴法92条1項の決定がされた)。
4.丙はこれで安心と思っていた。
5.ここで、特許法105条の6が登場します。
いくら民訴法92条1項の決定がされていても当事者であれば閲覧ができてしまいます。秘密保持命令は乙しか受けていないので、もう一人の原告甲が閲覧した内容については秘密保持の義務がないということになります。
そこで第1項は、秘密保持命令を受けていない当事者甲が閲覧請求してきた旨を、秘密保持命令を申し立てた丙に通知するということです。
丙は、「そういえば甲に対しては秘密保持命令は発せられていなかったなあ。甲は大学の先生だから秘密保持命令をしなくていいと思っていたけど、最近ベンチャーをやり出したらしい。甲に自社の営業秘密を利用されては困る。」と考えた。
そこで、第2項では、秘密保持命令が発せられた訴訟の訴訟記録だということで、甲の閲覧請求をとりあえず2週間保留して、甲に閲覧させない。その2週間の間に、通知を受けた丙が「やっぱり原告甲に対しても秘密保持命令を発して欲しい」と申し立てたのであれば、その決定が出るまで甲に閲覧を認めない。これがかっこ書の内容で、秘密保持命令が出たあとなら甲が閲覧しても秘密保持義務があるので、丙は一応安心。
ということです。
ただ、丙が、「甲が閲覧するのは別に構わない。」と同意しているのなら、書記官も105条の6第1項の通知や第2項の閲覧制限をするようなことはしませんよ、というのが105条の6第3項。
以上を理解すれば、5は完全に正しい、ということが心から納得できることでしょう。
本問は「合格者だから正答率が高い」ということはなくて、合格者不合格者にかかわらず正答率は約5割でした。条文レベルだけれども、ここは出ないと思って条文の詰めが甘かった人には厳しい問題だったと思われます。
説明がちょっと長くなってしまいました。
(誤記を直しました。18:21)
【問題文】
〔6〕特許権の侵害に係る訴訟における秘密保持命令に関し、次のうち、正しいものは、どれか。
1 裁判所は、特許権の侵害に係る訴訟において、当事者が保有する営業秘密について、その当事者の申立てにより秘密保持命令を発する場合には、裁判官の全員一致でなければ命ずることができない。
2 当事者の保有する営業秘密が準備書面に記載されている場合には、当該書面が提出された後であっても、秘密保持命令の申立てをすることができるが、その営業秘密が証拠の内容に含まれている場合には、当該証拠が取り調べられる前でなければ、秘密保持命令の申立てをすることができない。
3 秘密保持命令は、裁判所により秘密保持命令を受けた者に対する決定書が作成された時から、効力を生ずる。
4 秘密保持命令の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができるが、秘密保持命令の取消しの申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができない。
5 秘密保持命令が発せられている訴訟に係る訴訟記録につき、秘密記載部分の閲覧等の制限の決定があった場合において、秘密保持命令を受けていない当事者から当該秘密記載部分の閲覧等の請求があったときは、裁判所書記官は、閲覧等の制限の申立てをした当事者のすべての同意がない限り、その請求の手続を行った者に、請求があった日から2週間を経過する日までの間、当該秘密記載部分の閲覧等をさせてはならない。
【コメント】
1 特許法105条の4第1項によれば、1号と2号のいずれにも該当する場合には、当事者の申立てによって秘密にするよう命令ができるということになっています。ここで、1号は、裁判における準備書面や証拠に営業秘密が書いてあること、2号は、その営業秘密が漏れると事業活動に支障が生ずるおそれがあること、という条件があがっています。
この105条の4の秘密保持命令の決定について、問題文にあるように裁判官の全員一致でなければ命ずることができない、などという話はないですね。よって誤りということになります。条文がないので、誤り、と言い切るためには「ない」という確信がなければならないので、そういう意味では難しい問題だといえるでしょう。
2 上記105条の4第1項1号をより詳細に見てみると
1号 既に提出され若しくは提出されるべき準備書面に当事者の保有する営業秘密が記載され、
又は既に取り調べられ若しくは取り調べられるべき証拠の内容に当事者の保有する営業秘密が含まれること
となっており、既に取り調べられた証拠の内容に営業秘密がある場合でも秘密保持命令の申立てができることは明らかです。よって誤り。
3 弁理士試験においては伝統的な短答的問題といえますね。「決定書が作成された時から」効力を生ずるのではなく、秘密保持命令を受けた者に対する「決定書の送達がされた時から」効力を生ずることになっています(105条の4)。よって誤り。
4 誤り。条文の内容そのままですね。
105条の4第5項 秘密保持命令の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
105条の5第3項 秘密保持命令の取消しの申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
5 これが正解だったわけですが、ここは条文を含めてきちんと見ておきましょう。
まず、民事訴訟法92条を見ましょう。
☆民事訴訟法92条1項 次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
二 訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第2条第4項に規定する営業秘密をいう。第132条の2第1項第3号及び第二項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。
→これは、「訴訟記録に営業秘密が書いてあるので、閲覧等できる人を当事者に限ることにしてくれ」という申し立てができる、との規定です。
次に特許法105条の6を見ましょう。
☆特許法105条の6 秘密保持命令が発せられた訴訟(すべての秘密保持命令が取り消された訴訟を除く。)に係る訴訟記録につき、民事訴訟法92条1項の決定があった場合において、当事者から同項に規定する秘密記載部分の閲覧等の請求があり、かつ、その請求の手続を行った者が当該訴訟において秘密保持命令を受けていない者であるときは、裁判所書記官は、同項の申立をした当事者(その請求をした者を除く。第3項において同じ。)に対し、その請求後直ちに、その請求があった旨を通知しなければならない。
→これは特許法105条の4にて秘密保持命令が発せられた裁判の訴訟記録について、
1.訴訟記録の閲覧を請求する者を当事者に限る旨の申立てが一方当事者から出され、
2.訴訟記録の閲覧を請求する者を当事者に限る旨の決定がなされた、
という場合において、
秘密保持命令を受けていない当事者から秘密記載部分の閲覧請求がなされた場合には、書記官が閲覧請求ができる者を当事者に限る旨の申立てをした一方当事者(ただし、閲覧請求をした人ではない人)に対して、閲覧請求があった旨を通知するというものです。
☆105条の6第2項 前項の場合において、裁判所書記官は、同項の請求があった日から二週間を経過する日までの間(その請求の手続を行った者に対する秘密保持命令の申立てがその日までにされた場合にあっては、その申立てについての裁判が確定するまでの間)、その請求の手続を行った者に同項の秘密記載部分の閲覧等をさせてはならない。
→ここまで来るとわけわからなくなりますが、
話を整理しておきましょう。
事件の概要
特許権者は甲及び乙(共有)、侵害者丙
特許権者(原告)のうち甲は大学の先生、乙はライバルメーカー
事件の流れと105条の6の説明
1.裁判で出す証拠に秘密が含まれているという丙が秘密保持命令の申立てをするという状況を考える。
2.秘密保持命令の申立てをするには、秘密保持命令を受けるべき者を特定して申立てをしなければならないので(105条の4第2項第1号)、丙の営業秘密がライバルメーカー乙に利用されてしまうと困るので、秘密保持命令を受けるべき者を乙として丙が申立てを行ったところ、秘密保持命令の決定がなされた。
3.基本的にはこれで丙は安心できるわけですが、営業秘密が書いてある訴訟記録(訴訟記録というのは特許庁における包袋みたいなもんだと思ってもらえればよいです。)は、実は基本的に誰でも閲覧できることになっているわけです。丙はいくら乙に秘密保持義務を課すことができても関係のない第三者に営業秘密を見られては困るので、念のため訴訟記録の閲覧請求をすることができる者を当事者に限る旨の請求を行ったところ認める旨の決定がなされた(民訴法92条1項の決定がされた)。
4.丙はこれで安心と思っていた。
5.ここで、特許法105条の6が登場します。
いくら民訴法92条1項の決定がされていても当事者であれば閲覧ができてしまいます。秘密保持命令は乙しか受けていないので、もう一人の原告甲が閲覧した内容については秘密保持の義務がないということになります。
そこで第1項は、秘密保持命令を受けていない当事者甲が閲覧請求してきた旨を、秘密保持命令を申し立てた丙に通知するということです。
丙は、「そういえば甲に対しては秘密保持命令は発せられていなかったなあ。甲は大学の先生だから秘密保持命令をしなくていいと思っていたけど、最近ベンチャーをやり出したらしい。甲に自社の営業秘密を利用されては困る。」と考えた。
そこで、第2項では、秘密保持命令が発せられた訴訟の訴訟記録だということで、甲の閲覧請求をとりあえず2週間保留して、甲に閲覧させない。その2週間の間に、通知を受けた丙が「やっぱり原告甲に対しても秘密保持命令を発して欲しい」と申し立てたのであれば、その決定が出るまで甲に閲覧を認めない。これがかっこ書の内容で、秘密保持命令が出たあとなら甲が閲覧しても秘密保持義務があるので、丙は一応安心。
ということです。
ただ、丙が、「甲が閲覧するのは別に構わない。」と同意しているのなら、書記官も105条の6第1項の通知や第2項の閲覧制限をするようなことはしませんよ、というのが105条の6第3項。
以上を理解すれば、5は完全に正しい、ということが心から納得できることでしょう。
本問は「合格者だから正答率が高い」ということはなくて、合格者不合格者にかかわらず正答率は約5割でした。条文レベルだけれども、ここは出ないと思って条文の詰めが甘かった人には厳しい問題だったと思われます。
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