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特許法184条の12第1項について

2005-04-26 08:02:00 | 特許法
突然、全然関係ない話を一発入れます。注意すべきポイントとしてゼミでは何度か話しているかと思います。

特許法184条の12第1項は、「日本語特許出願については第184条の5第1項の規定による手続をし、かつ、第195条第2項の規定により納付すべき手数料を納付した後、外国語特許出願については第184条の4第1項及び第184条の5第1項の規定による手続をし、かつ、第195条第2項の規定により納付すべき手数料を納付した後であつて国内処理基準時を経過した後でなければ、第17条第1項本文の規定にかかわらず、手続の補正(第184条の7第2項及び第184条の8第2項に規定する補正を除く。)をすることができない。」というものです。

分解すると、

①日本語特許出願については
(i)第184条の5第1項の規定による手続をし、かつ、
(ii)第195条第2項の規定により納付すべき手数料を納付した後、
②外国語特許出願については
(i)第184条の4第1項及び第184条の5第1項の規定による手続をし、かつ、
(ii)第195条第2項の規定により納付すべき手数料を納付した後であつて国内処理基準時を経過した後
でなければ、
第17条第1項本文の規定にかかわらず、手続の補正(第184条の7第2項及び第184条の8第2項に規定する補正を除く。)をすることができない。

ということになります。読点の存在に注意して下さい。

②(ii)の「国内処理基準時を経過した後」とのフレーズは、「手数料を納付した後であって」との間に読点をおいていないため、「国内処理基準時の経過」は外国語特許出願のみにかかる要件ということになることは条文上明らかであり、それ以外の解釈はとれません。あとはこれをどう理解しておくか、という問題になります。

なぜ、外国語特許出願だけ、国内処理基準時の経過を待たねばならないのでしょうか。
従来(平成6年改正前)は、一旦翻訳文を出してしまうと、誤訳訂正ができなかったのでした。その条件の下では、最初に出す翻訳文は非常に重要だったわけで、出願人のために国内処理基準時経過前には翻訳文を差し替えることができる旨の積極的な規定があったのです。それを考えれば、外国語特許出願だけ国内処理基準時経過を条件としている理由は明らかゆえ、この条件は何の違和感もない条件でした(国内処理基準時経過ぎりぎりまで翻訳文をチェンジできたので、国内における補正はその後からでないと認められないということ)。

現在では、翻訳文をチェンジできる規定はなくなりましたが、現在でもそれに類することはありますね。それは特許請求の範囲の翻訳文についてです。
外国語特許出願の場合は、日本語特許出願の場合と異なり、国際出願日の特許請求の範囲の翻訳文を出した後であっても、まだ、19条補正後の翻訳文が国内処理基準時までに提出される可能性があり(184条の4第4項)、19条補正後の翻訳文が提出された場合には、その翻訳文の内容がわが国の願書に添付した特許請求の範囲となることになります(184条の6第3項)。すなわち、その19条補正後の翻訳文が17条の2第3項でいう新規事項(翻訳文新規事項)の判断の基準となる「いわゆる当初の特許請求の範囲」ということになります。

(一方、日本語特許出願の場合には、19条補正があった場合に補正書の写しを提出すれば、それは国内法上「補正」の扱いになりますね(184条の7第2項)。すなわち、国内処理基準時経過前に条約の規定によってすでに国内の補正がされた扱いになっているため、逆に国内の補正だけ制限するのはむしろおかしいわけです。)

だから、外国語特許出願の場合には、国際出願日の特許請求の範囲の翻訳文を出すなどして、一応、国内移行手続がされた場合であっても、国際段階の影響によって翻訳文新規事項の基準となる書類の内容が変更されてしまう可能性がなくなるまで、すなわち、国内処理基準時が経過するまで、国内の補正ができる機会を制限しているわけですね。

これで納得できればそれで終わりなのですが、もう少し考えてみましょう。

184条の12第1項の最後のフレーズは「第17条第1項本文の規定にかかわらず、手続の補正(第184条の7第2項及び第184条の8第2項に規定する補正を除く。)」となっています。これは、19条補正に関して言えば、184条の7第2項の日本語特許出願についての19条補正は国内法における補正に該当することとしているため、このままでは、補正ができない、といっておきながら補正を認めていることになってしまうため、適用を除外している規定です。ところが、184条の8第2項で34条補正についての補正書又は翻訳文の提出は国内法でも補正として扱われています。そこで、次に、国際段階の補正である34条補正についても考えてみましょう。

34条補正を考えると、外国語特許出願であっても補正書の翻訳文を提出すれば国内処理基準時経過前に「補正がされた扱い」になっているではないか。だから19条補正だけを考えて、外国語特許出願だけ国内処理基準時が経過しないと国内補正ができない、というのはおかしいのではないか、との考えも出てきそうです。外国語特許出願だけ国内処理基準時の経過という条件を課しているのは不当である、と考えてもよいかもしれません。

このことは、現行法においてはどのようなストーリーとして納得できるかということになるのですが、ここでは、184条の7第4項を見てみましょう。この34条補正の補正書の翻訳文の提出については「誤訳訂正書による補正」と擬制しているわけです。
さて、翻訳文新規事項の基準となる書類は、誤訳訂正書による補正があった場合には「当初の翻訳文又は補正後の明細書等の書類」の範囲でしたね(17条の2第3項かっこ書のかっこ書)。

そうすると、やっぱり国内処理基準時が経過するまでは、つまり、国際段階の影響によって17条の2第3項で規定する補正の範囲の基準(翻訳文新規事項の基準)が変動する可能性がなくなるまでは、国内補正を制限する、という考えはそのまま生きることになります。
この変動は、国内段階に入ってから誤訳訂正書を提出した場合であっても生じるわけですが、外国語特許出願については、国内処理基準時経過まで国内補正の機会を止めておく方が混乱がなくてよいというストーリーで納得することが可能かと思います。

なお、実用新案法では外国語実用新案登録出願の補正については、国内処理基準時の経過を要件としない旨読替が行われているんですね(実48条の8第4項の最終フレーズ)。
これは、条約28条や41条で認めるべき国内補正が国内処理基準時の経過を必要としていないことから、そのような補正との均衡を図るためであることが青本に書いてあります。

そういう意味では、184条の12第1項も絶対的なものではなく、場合によっては外国語特許出願の補正についても国内処理基準時の経過を待たなくてもよくなるような改正をしてもよいかもしれません

ただし、このように考えたとしても日本語特許出願の補正まで国内処理基準時の経過が必要であるとの解釈は出てきません

というわけで、深い理解をしようと思えば歴史を遡ることになってしまうものの、歴史を知らなくても、条文に「読点がない」ということをちゃんと見ておけば、「日本語特許出願の補正の場合にも国内処理基準時の経過が必要である。」などという問題文があっても、それが明らかな誤り(条文レベル)であることを見破れることでしょう。

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