10年前。

48歳だった。

俺がソロの弾き語りで、ハコで歌い始めたときだ。

それまでは人前で歌ったことがなかったから、客の反応が気になって仕方がなかった。

うるさいとか、辞めろとか、下手だとか言われたこともあった。

絶賛されて、チップくれたお客もいた。

月に一、二度2時間ほど歌った。

お客がゼロという日も多々あった。

何故客が来ないか？いつも悩んでいた。

今は答えが出たけどな。

俺に花がない、恋愛対象にされるほどのイケメンじゃない、若さがないことが理由だ。

呑みに来ているわけで、流れる音楽はＢＧＭで充分なんだ。

客からしたら、音楽や、歌なんて何の価値もないんだよ。

少なからず言われてきたこと。

「人との出会いを大切に、人との付き合い方をうまくこなす人は必ず成功する」

多くの成功理論の著書が出版されているけど、この1行の文章に尽きることは事実だ。

「それができりゃあ、苦労しないよ」というのが、多くの人の言い分だ。

人って呆れるほどに不器用で素直じゃないんだ。

人は皆、人に好かれたいと思っている。

大人も子供も関係ないよな。

子供でも人に好かれている人は大人になっても話題の中心だし、何をやるにも、メンバーに加えられるものだよ。

この歳になると、子供を見ただけでこの子は将来明るいだろうなとか、分かるんだよな。

そのことを教えられることができたなら、先生や、親は素晴らしいと思うよ。

まあ、そんな人は稀だと思うけどな。

勉強よりも大切なこと、教えてくれる大人は少ないよ、だって、大人は皆ろくでなしだから。