なんといっても有権者の直接的な関心事は、やはり「消えた年金問題」、次に「政治とカネ」の問題ではないか。実は、これらの問題は、安倍政治とは何かという本質を孕んでいるからだ。
40年間支払う義務を課しながら、一方で管理責任を全うしてこなかった社会保険庁の体質が最も非難されなければならないのは自明のこと。それを払ったか払わなかったかの証明は収める側にあるなどとして平気な顔をしてきたのは、役所の最も悪しき習慣が言わしめる言葉であると同時に、責任転嫁以外の何物でもないと。そういう意味では今度出来た第三者機関は、その原因追及を是非徹底してやって欲しい。
安倍さんはいわば「性善説」に立って、不合理ではなく、一応確からしければ支払う、という方針を出した。これまでは「年金問題に踏み込んだら国民の中にパニックが起きる」などといって消極的な姿勢だったことを思い出すと、これはまさに今日から始まる参議院選挙向けのものだと思わざるをえないが、それだけで終わらせてはならないのは当然だ。
消えた年金問題の責任はひとえに国側にあり、従ってそれは「救済」ではなく、当然の「支払い」。そのことを考えれば、安倍さんの姿勢は当たり前と言えば当たり前のことだと思う。
これと関連してもうひとつ。5千万件の消えた年金といっても記録が消えた訳で、実はお金は収められている。一般論的に言っても、収められた年金は、60歳以上となった人たちに支払われる年金以外に、一体どのような目的に使われたのか?
納めた年金をごまかして社保庁の職員が自分のものにした、というケースもあって、これからそのあたりも調べると言うことだが、そればかりではなく、地方のハコモノ造りにも、何かの運用にもかなり使われている、そういったこともこの際、やはりはっきりとさせるべきではないか。
つまり、国民から年金という形でいったいいくらのお金を集め、そのお金はいったい何に使われてきたのか、というこだ。そして最も重要なことは、年金制度自体、少子高齢化時代では立ち行かなくなるのでは、という不安が増す中で、これで本当にいいのかという議論がないと、年金そのものへの理解も得られなくなるのではないか。
もうひとつは、先週明るみに出た赤城徳彦(のりひこ)農水大臣の事務所経費疑惑。自民党の幹部は、参議院選突入で一丁終わり、と言いっているが、そうはいかないのではないか。もしそう思っているとしたら、相当有権者をないがしろにしているとしかいいようがない。
何しろ安倍政権発足以来、これまでに事務所経費が問題化した閣僚は、辞任した佐田前行革担当大臣、複数の事務所を合算したものだと言い続けている伊吹文部科学大臣、自殺した松岡前農水大臣と3人もいる。
つまりは安倍政権は「政治とカネ」に甘い内閣だという印象がすでにある。しかもその印象を薄めようと、前回の国会で政治資金規正法の改正をした直後に、今度の赤城農相の問題が起こった。
しかも赤城農水大臣は、領収書の提出を義務づけられていないことを根拠に、「法律に則って処理している」と主張し続けたあげく、死を選んでしまった松岡大臣の後釜として座ったわけで、これは二重の意味で安倍内閣の「政治とカネ」に対する甘さを露呈してしまった。
ひとつは改正された政治資金規正法が、結局はザル法だったと言うことと、もうひとつは任命権者としての安倍さんのわきの甘さという意味で。
消えた年金問題と政治とカネ、これは結局安倍政権が、どちらに対してもきっちりとした対応をせずに来たことが、問題をさらに大きくしてしまった。逆の言い方をすれば、世論の読みを誤ったということだ。
そういうことに気がつかないで、憲法改正だとか、戦後レジームからの脱却と言っても、それは空虚に響くだけで、だれも本気になれないと思う。国民が望んでいるものが何か、もっと足下をしっかりとしてくれ、と言うのが有権者の本当の思い。
今度の参議院選は、有権者のそういうやりきれなさが票になって表れるだろうと私は思う。問われているのは、有権者の見識ではないか、と本当にそう思う。
最新の画像もっと見る
最近の「ニッポンの政治」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事