Re-Set by yoshioka ko

■再考・靖国参拝 『汚名』(最終回)

 ワシントンにて一日。
 アメリカでも、たとえば「盗聴法」のようなブッシュ政権の政策を巡っては、恣意的な解釈がまかり通っている。「テロの脅威がある以上、それを取り除くためには、私的な権利は縮小されても仕方がない」という理屈である。この理屈の上に、いまアメリカにはマッカーシズム以来の無力感が漂っている、とアメリカに住む私の友人は解説してくれた。

 ことにワシントンは首都でもある。その友人が続けていうには、「首都はまさに警察国家になってしまった、ニューヨークとは大違いだ」と嘆く。そう思って議会議事堂やホワイトハウス、FBI周辺、それにちょっと離れたペンタゴン周辺を歩くと、これは言わずもがな、の風景である。その警備たるや物々しい。問題はそのあたりにあるのではない。ワシントンモニュメントのある公園付近や主要な通りでも事情は同じである。友人の嘆きが実感できる。

 ニューヨークとは大違いだ、という意味は、警察官たちの態度のことである。国家の安全を一手に担っている、という自負のせいなのか、あるいはまた「盗聴法」のように強権的な法律が後ろ盾になっているせいなのかは不明だが、とにかく彼らの態度はどこか尊大である。

 私のような外国人は「知らなかった、そうでしたか?」などと無知を装うのも手ではあるが、日々この首都に住む人々にとっては、リンカーンが高々と打ち上げた「民主主義」の宣言から遠く離れた逼塞都市に変わってしまった、と思っているのではないだろうか。

 「恣意」の怖さは、何もアメリカだけではない。私たちの足下でも見つけることはいくらでもできる。

 ということで「再考・靖国参拝」は今日が最終回。題して『汚名』の七回目です。

 2005年5月、私は4年ぶりに靖国神社を訪ねた。
 休みの日だったせいか、大鳥居の内側は親子連れが目立った。ほとんど変わらない境内の風景ではあったが、この4年間かかさず小泉首相は公式参拝を繰り返し、李熙子さんは合祀取り下げを求めた裁判(靖国参拝違憲確認等請求事件)に敗れたあと、2月から始まった大阪高裁での控訴審に臨んでいた。

 『どうして侵略戦争の首謀者(A級戦犯)と強制連行された犠牲者(父)を遺族になんの通知もなく、日本の宗教施設(靖国神社)に無断で安置させることができますか? 私の父の祖国は大韓民国で、父は決して日本国のために行ったのではなく、徴用を避けられず、強制的に連行された人で、日本によって戦場で見捨てられた哀れな犠牲者です・・・(原告李熙子さんの意見陳述書 2005年2月14日)』

 靖国神社にはA級戦犯とされた人々のほかに、李熙子さんの父親のように、遺族に全く知らされないまま厚生省による単なる〈名簿整理〉の結果、祀られてしまった人々がいる。

 小泉首相はことあるごとに『戦没者に対する考え方、神社の参拝には日本独自の文化があり、外国にはないかもしれない(2004年1月5日)』といい、韓国や中国がA級戦犯と指弾された人物が合祀されていることが問題だ、と指摘すると、『戦没者の追悼の仕方に他国が干渉すべきではない(2005年5月16日)』とかわしてきた

 だが、と私は思う。近隣諸国が小泉首相の靖国参拝を批判するのは、参拝に日本独自の文化があるからではない。参拝する神社に問題があるからである。そして戦没者の追悼に他国が干渉すべきではない、といわれても、そもそも戦争を始めたのは日本であり、韓国や中国はその被害国となったのである。干渉するな、といわれてもうなずける話ではない。

 戦後60年。そして日韓国交回復から40年という年月のなかで、ようやく普通の人々が韓国という国を、韓国人という人々を隣人として見つめるようになった。にもかかわらず、政治家がいつもちょっかいを出す。そのちょっかいも〈先祖返り〉をしているようではなはだ具合が悪い。(了)

 1週間にわたるご愛読、ありがとうございました。
 来週から国会では一般質問が始まるようです。首相の靖国参拝問題だけではなく、耐震偽装やライブドア問題、イランの核問題、それにパレスティナ議員選挙におけるハマス躍進がもたらす中東不安定化の問題など、議論百出の国会になりそうです。

 明日は、ワシントンDCからウイスコンシン州ミルウォーキー市郊外の田舎町に移動の予定。予約した飛行機はフィラディルフィア乗り換えだから、移動も一日仕事ではある。

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