再教育中心はほぼ監獄ですが、その警備体制は労働改造所ほどは厳しくなく、職員として潜入した「女子」が見張り番になって同僚に睡眠薬でも飲ませれば、大脱走もさして難しいコトではありません。
ここで特筆すべきなのはむしろ「脱走者の覚悟」で、それは中国共産党と完全に敵対するコトを意味するので、それだけ「党」を憎んでいる者だけが脱走するとします。
その数は全体の3割で300人とし、大脱走はとうぜん翌朝には発覚して執拗な追跡を受けるので、その逃走を支援するコトが最も大きな挑戦になります。
闇っ子達で構成された「女子鉄道突撃隊」は、ずっと社会には「存在しない人間」として生きて来たので、隠れて暮らす方法は熟知していました。
しかしそれでも300人もの人間を匿い続けるコトは出来ないので、随時彼等を国境線の外へ逃がして行きます。
その移送手段は四駆のハイエース(20人乗れる)とし、こうしたバン(Box Car)は「寝そべり族」がキャンピングカーにしていて、彼等の中で「女子鉄道突撃隊」の革命運動に賛同する者がドライバーを買って出ました。
バンは北へ200km程のモンゴル国境を目指し、ハミ市からモンゴル草原まではずっと無人の荒野が広がっています。
国境越えは地下トンネルを潜る必要がありますが、これは線路のアンダーパスよりも小さなトンネルで充分で、入り口は藪で隠せるとします。
そうして着々と脱走者たちをモンゴルへと逃がし、更に向こうでの生活の面倒まで見ます。
幸いモンゴルは「反中国」の国なのでウイグル人の亡命者は受け入れられ、国からの支援も少しは期待できますが、なにぶん貧しい国なのでそれだけでは心待ちません。
そこで同じく亡命者のパール-ソルジェニーツィンに一肌脱いで貰い、彼女に「ウイグル人大脱走支援」のクラウドファンディングを立ち上げて貰います。
「美の女神パールワティー」のフォロワーは世界中にいて、パール自らがモンゴルで難民支援事業を立ち上げるとあっては、資金援助だけでなく直接モンゴルまで来て手伝う者も多く集まります。
次回からはその事業について語りますが、舞台が変わるので物語は第四章の「賛」に入るとします。