『天上天下唯我独尊』鬱を消す絵本
原作:サン=テグジュペリ『星の王子さま』
宇宙から来た王子
それまで、ぼくはずっとひとりぼっちだった。
だれともうちとけられないまま、6年まえ、ちょっとおかしくなって、サハラさばくに下りた。
じつは、あさ日がのぼるころ、ぼくは、ふしぎなかわいいこえでおこされたんだ。
「ごめんください……ヒツジの絵をかいて!」
かみなりにうたれたみたいに、ぼくはとびおきた。
すると、へんてこりんなおとこの子がひとり、おもいつめたようすで、ぼくのことをじっと見ていた。
その子がどこから来たのか、なかなかわからなかった。まさに気ままな王子くん.
こうして、だいじなことがもうひとつわかった。
なんと、その王子さまのすむ星は、いっけんのいえよりもちょっと大きいだけなんだ!
王子さまがちょっとにおわせた〈べつの星〉のことが、ぼくはすごく気になった。
できるなら、このおはなしを、ぼくはおとぎばなしふうにはじめたかった。
こういえたらよかったのに。
「むかし、気ままな王子くんが、じぶんよりちょっと大きめの星にすんでいました。その子は友だちがほしくて……」
王子さまはぼくを、にたものどうしだとおもっていたのかもしれない。
怖ろしくて危ないバオバブの種
日に日にだんだんわかってきた。どんな星で、なぜそこを出るようになって、どういうたびをしてきたのか。
とりとめなくしゃべっていて、バオバブのこわい話をきくことになった。
バオバブっていうのはちいさな木じゃなくて、きょうかいのたてものぐらい大きな木で、
つまり、王子くんの星も、ほかの星もみんなそうなんだけど、いい草とわるい草がある。
とすると、いい草の生えるいいタネと、わるい草のわるいタネがあるわけだ。
でもタネは目に見えない。土のなかでひっそりねむっている。
でもわるい草や花になると、見つけしだいすぐ、ひっこぬかないといけない。
そして、王子くんの星には、おそろしいタネがあったんだ……それがバオバブのタネ。
そいつのために、星のじめんのなかは、めちゃくちゃになった。
しかも、たった一本のバオバブでも、手おくれになると、もうどうやってもとりのぞけない。
星じゅうにはびこって、根っこで星にあなをあけてしまう。
それで、もしその星がちいさくて、そこがびっしりバオバブだらけになってしまえば、星はばくはつしてしまうんだ。
バオバブがあぶないってことはぜんぜん知られてないし、ひとつの星にいて、そういうことをかるくかんがえていると、めちゃくちゃきけんなことになる。だから、めずらしく、おもいきっていうことにする。
いくよ、「子どものみなさん、バオバブに気をつけること!」これは、ぼくの友だちのためでもある。
そのひとたちはずっとまえから、すぐそばにきけんがあるのに気がついてない。
だからぼくは、ここにこの絵をかかなきゃいけない。ここでいましめるだけのねうちがある。
この王子くんにまつわるなぞが、ひとつあきらかになった。その子は、なんのまえおきもなく、いきなりきいてきたんだ。
「じゃあ、トゲはなんのためにあるの?」
「トゲなんて、なんのやくにも立たないよ、たんに花がいじわるしたいんだろ!」
「ウソだ! 花はかよわくて、むじゃきなんだ! どうにかして、ほっとしたいだけなんだ! トゲがあるから、あぶないんだぞって、おもいたいだけなんだ……」「だったらどうして、それをちゃんとわかろうとしちゃいけないわけ?」
なんで、ものすごくがんばってまで、そのなんのやくにも立たないトゲを、じぶんのものにしたのかって。
どういっていいのか、ぼくにはよくわからなかった。じぶんは、なんてぶきようなんだろうとおもった。
どうやったら、この子と心がかようのか、ぼくにはわからない……すごくふしぎなところだ、なみだのくにって。
、ある日、どこからかタネがはこばれてきて、めを出したんだ。王子くんはまぢかで、そのちいさなめを見つめた。いままで見てきた花のめとは、ぜんぜんちがっていた。またべつのバオバブかもしれなかった。
「この花、あまりつつましくもないけど、心がゆさぶられる……と王子くんはおもった。
「トラなんてこわくないの、ただ、風にあたるのは大っきらい。ついたてでもないのかしら?」
『風にあたるのがきらいって……やれやれ、こまった花だ。』と王子くんはおもった。
『この花、とってもきむずかしいなあ……』
こんなちょうしで、ちょっとうたぐりぶかく、みえっぱりな、その花はすぐに、その子をこまらせるようになった。
これだから、王子くんは、まっすぐ花をあいしていたけど、すぐしんじられなくなった。
たいしたことのないことばも、ちゃんとうけとめたから、すごくつらくなっていった。
「きいちゃいけなかった。」って、あるとき、その子はぼくにいった。
「花はきくものじゃなくて、ながめて、においをかぐものだったんだ。ぼくの花は、ぼくの星を、いいにおいにした。でも、それをたのしめばいいって、わかんなかった。ひどくいらいらしたけど、気もちをわかってあげなくちゃいけなかったんだ。」
あまのじゃくな花の優しい愛
まだまだはなしはつづいた。
「そのときは、わかんなかった! ことばよりも、してくれたことを、見なくちゃいけなかった。
あの子は、いいにおいをさせて、ぼくをはれやかにしてくれた。ぼくはぜったいに、にげちゃいけなかった!
へたなけいさんのうらにも、やさしさがあったのに。あの花は、あまのじゃくなだけなんだ!
でもぼくはわかすぎたから、あいすることってなんなのか、わかんなかった。」
星から出るのに、その子はわたり鳥をつかったんだとおもう。
ななつめに訪れた星が、ちきゅうだった。
ちきゅうのほんのちょっとしか、にんげんのものじゃない。
王子くんはちきゅうについたんだけど、そのとき、ひとのすがたがどこにもなくて、びっくりした。
それでもう、星をまちがえたのかなって、あせってきた。
すると、すなのなかで、月の色した輪っかが、もぞもぞうごいた。
「こんばんは。」と王子くんがとりあえずいってみると、
「こんばんは。」とヘビがいった。
「ぼく、どの星におっこちたの?」と王子くんがきくと、
「ちきゅうの、アフリカ。」とヘビがこたえた。
「えっ、まさか、ちきゅうにはひとがいないの?」
「ここは、さばく。さばくに、ひとはいない。ちきゅうは、ひろい。」とヘビはいった。
「ここへ、なにしに?」
「花とうまくいってなくて。」と王子くんはいった。
「ふうん。」とヘビはいった。
それで、ふたりはだんまり。
「ひとはどこにいるの?」と、しばらくしてから王子くんがきいた。
「さばくだと、ちょっとひとりぼっちだし。」
「ひとのなかでも、ひとりぼっちだ。」とヘビはいった。
王子くんは、ヘビをじっと見つめた。
「きみって、へんないきものだね。」と、しばらくしてから王子くんがいった。
「ゆびみたいに、ほっそりしてる……」
「でもおれは、王さまのゆびより、つよい。」とヘビはいった。
「おれは船よりも、ずっととおくへ、きみをつれてゆける。」とヘビはいった。
ヘビは王子くんのくるぶしに、ぐるりとまきついた。金のうでわみたいに。
「おれがついたものは、もといた土にかえる。」と、ことばをつづける。
「でも、きみはけがれていない。それに、きみは星から来た……」
王子くんは、なにもへんじをしなかった。
「きみを見てると、かわいそうになる。このかたい岩でできたちきゅうの上で、力もないきみ。おれなら、たすけになれる。じぶんの星がなつかしくなったら、いつでも。」
王子くんは、じぶんがみじめにおもえてきた。そうして、草むらにつっぷして、なみだをながした。
世界でいちばん切なくて綺麗な景色
「そうか。」と、ぼくは王子くんにいった。
「あの家とか、あの星とか、あのさばくが気になるのは、そう、なにかをうつくしくするものは、目に見えないんだ!」
「うれしいよ。」と、その子はいった。
すごく、ものすごく、ふしぎなことだ。
あの王子くんが大すきなきみたちにも、そしてぼくにとっても、うちゅうってものが、ただそのどこかで、どこかしらないところで、ぼくたちのしらないヒツジが、ひとつバラをたべるか、たべないかってだけで、まったくべつのものになってしまうんだ……
そうしたら、きみたちは、まったくべつのものが見えるはずだ……
そして、おとなのひとは、ぜったい、ひとりもわからない。それがすっごくだいじなんだってことを!
これは、ぼくにとって、せかいでいちばんきれいで、いちばんせつないけしきです。もし、いつかきみたちが、アフリカのさばくをたびしたとき、ひとりの子どもがきみたちのところへ来て、からからとわらって、こがね色のかみで、しつもんしてもこたえてくれなかったら、それがだれだか、わかるはずです。そんなことがあったら、どうか! ぼくの、ひどくせつないきもちを、どうにかしてください。すぐに、ぼくへ、てがみを書いてください。あの子がかえってきたよ、って……
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