いまから7年ほど前の話し。
私が大阪市内でタクシー乗務員として勤務していた時のことです。
繁忙期である年末の深夜1時頃、ひとりの男が東住吉区桑津〇丁目付近の歩道を、歩きながら手を挙げ、私が運転するタクシーを停車させました。
私は後部ドアを開き、その男を乗せ、行先を尋ねました。
「〇〇〇商店街の入り口んとこ行ってくれや」
男はそう告げるや否や、すぐさま後部座席に横たわり、目を瞑りました。
「疲れとるんやな…?」と思いながら車を走らせ、しばらくすると男が
「あとどんなけかかるんや?」
「そうでんな。あと15分くらいかかりますわ」と答えると
「あほか!こっちは急いどるんや!5分で行けや!」と言われ
「は~?なんやこいつ…」と思いながら、後ろをみると、靴を履いたまんまの状態で横たわっており
「お客さん!んなことより、シーツ汚れまんがな!他のお客さんも乗ってくるさかい、足、降ろすか、靴、脱いでもらえまへんか」
「だまって5分で行けいうとんじゃ!ぼけっ!!」
ちょうど、信号待ちとなり、カッとなっていた私は
「お客さん、ほな、他のタクシー乗ってくれるか。トラブルの元やさかいにや。そうかこのまま、黙って乗っ取るんやったら行き先まで行くけど…、どないしまんのや?」
「ええから行けや!」
男は足を下ろし、また目を瞑りました。
そして、目的地に到着し
「着きましたで」
と言うと、男は目を開け
「どこやここ?」
「商店街の入り口ですがな」
と言うと、男は私を睨みつけ
「ツタヤじゃボケ!分らんのか!!」
と、くって掛かってきたのです。
「お客さん、商店街の入り口まで言うたがな!ツタヤかなんや知らんけど、初めから、そない言うたらええんちゃうんかい!」
と私もくって掛かってしまい、そこから10分くらいの口論となります。
その間に、二組ほどのサラリーマンがタクシーに近寄ってはきますが、当然、断るしかありません。
「ワレ見てみ!営業妨害やど!どないすんじゃ?」
というと、その男もまた
「おお!こっちもツレと時間約束しとるんじゃ!どないしてくれんや?」
と言って、両者譲らずです。しかも、このまま警察に願うと私の方にも不利益(繁忙期が故に)だと考え、
「分かった。ほな、じぇん(銭)はええよってに、はよ降りてくれや!」
と、折れる方向に向かうことにしました。しかし
「金は払うわ!ツタヤまで行けや!!」
「もう宜しいわ。じぇん(銭)要らんいうとんやから、ちゃちゃっと降りてくれたらそれでええねん」
しかし男は料金を置いたまんま、タクシーから降りようとはしません。
「客が行け言うたら行くのがお前らの仕事やろ!」
「アホか!じぇん(銭)もろて初めて客いうんじゃ!せやからはよ降り!ほんま警察沙汰なってもお互いに難儀やろ?こっちもはよ仕事したいんや。分からんか?」
男はしばらく、何やら考えこむ顔つきとなり
「おお!分かったわ。そやけど金は置いてくで」
男はそういいながらタクシーを降りようとしましたが、私はそのまま黙って完全に降りるのを待ち、置いてあった千円札数枚を後部ドアから車外へ放り投げ
「じぇん(銭)は要らんよってにな!」
と、男に聞こえるように叫びドアを閉め、タクシーを走らせました。
そして、私は、この一件以降、深夜にタクシーを走らせるのを止めました。
あれから歳月が絶ち、この男らしき人物が、世間を騒がせるような事件を起こし、指名手配され、そして逮捕されることになりました。
いずれ天罰が下るやろ…
そんな想いをこれまで抱いてきた私にとって、7年前の年末に遭遇した男に対する憎しみみたいなものが、薄れていくことへの喜びが沸き上がってくるのです。
そして、実際に被害に遭われた方々は、今後、きちんと損害賠償されるべきですし、加害者の男にはきちんと罪を償い、これまでを反省してほしいと願うところです。
常磐道あおり運転 逮捕の2人 事件後は大阪周辺で一緒に行動か #nhk_news https://t.co/kxvoEgsjVu
— NHKニュース (@nhk_news) August 18, 2019