前回のブログ『評価できる政党へ献金を-呼びかける経団連』のつづきとして今回は、『国際派日本人の情報ファイル』より伊勢雅臣氏の記事をご紹介する。
政治と経済の結びつきについて、財界トップの経営者たちの変わりゆく心情というものを、氏が危惧されての内容ともいえ、より具体的に経団連の実態というものが観てとれるのではないだろうか。そうした意味を込めて・・・以下。
格の違いを見せた御手洗富士夫・日本経団連会長
(H19.12.10)
昨平成18年5月に、経済同友会が小泉首相の靖国神社参拝自粛を求めた「今後の日中関係への提言」を採択した。
一財界団体が、政府の外交に口を挟むことに、強い違和感を覚えた。小泉首相は「(これまで)財界から『参拝してくれるな』という声もあったが、『商売と政治は別だ』とはっきりお断りしている」と述べたが、これが正論である。
財界団体が政府の経済政策について要望を出すというなら、まだ理解できるが、そもそも靖国問題は日本人の心情と歴史、そして国家主権に関わる問題である。そういう問題に、商売の観点から口を挟むということは、金儲け至上主義と言われても仕方がない。
さすがに経済同友会の中でも、こんな反対意見もあったようだ。
靖国問題で小泉純一郎首相が戦っているのに中国につけ込まれるだけではないか。同友会が舵(かじ)を切ったと思われたら大変だ。靖国には触れないのが適策ではないか。
日中関係は非常に大切だが、中国が教科書や靖国問題を(外交上の)論点として使っているのは事実だ。こんな時に、国家としての基本理念の問題について同友会が判断していいのか。もっと歴史の問題の検証が必要だ。提言には反対だ。
小泉首相が9月に退陣する間際にこのような提言を出すべきではない。退陣後にしたらどうか。(靖国問題は)中国の戦略で提言の中身も問題だ。9月まであと数カ月の今、追い打ちをかけるべきではない。
この最後の意見に関しては、北城恪太郎代表幹事(日本IBM会長)は、「提言は『小泉』と書いているのでなく、後継首相の問題もあることも含め書いてある」と述べた。
出席者の一人は「靖国参拝をしない候補を後押しする効果を狙ったといわれても仕方ない」とみる。提言に唐突感を抱く幹事もおり、大浦溥氏(アドバンテスト相談役)は「歴史の検証が不十分なままで、最初から結論ありきの提言だったのでは」と語る。
日本を代表する企業の経営者の中には、「商売と政治は別だ」という程度のことすらわきまえない人間がいたのである。
一方、この問題に関して、日本経団連の御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)は6月1日に記者会見して次のように述べた。
「小泉首相は適切に判断して行動している。経団連は過去に(靖国神社に関する見解を)とりまとめたこともないし、これからも予定はない。それは政治の仕事だ」と述べて距離を置く姿勢を示した。その上で、「靖国参拝が中国との経済関係で障害になっていることはない」と断言した。
ここで御手洗会長は、靖国参拝に関する意見を述べることは、経済団体としての仕事ではない、との原則を明確に述べている。
さらに現実の日中経済交流は急速に発展しつつあるという事実を指摘している。
御手洗会長の発言は、事実の正確な認識、そして財界と政治との立場の違いに関する見識において、北城代表幹事とは格の違いを感じさせた。
二人とも大企業の経営者で、その経営能力は非凡なものだろうが、人間としての深みにおいては、大変な違いがありそうだ。願わくば、良貨が悪貨を駆逐して、見識ある人が財界を指導して欲しいものだ。
以上。
〔 所 感 〕
かつて政治は江戸・経済は大坂と言われた時代には、そのどちらかが国家の利益、国民の幸福にそぐわないことを実施しようとした際には、互いに異論を唱え合い、正しき道へ質していくという繋がりがあったように思われるのだが、現代は政治も経済も自己の利益、自己の幸福だけを考える社会となり、国家の利益、国民の幸福などは二の次三の次に位置づけられるようになってしまった。
置かれている立場は違えても、その最終目的というものが共通しているからこその「提言」であり、国家の利益・国民の幸福を考えていればこそである。
しかし、自己の利益・自己の幸福を考えてのものは「提言」ではなく、単なる「要望」にすぎず、まさに近年わが国における政界・財界のあいだには、この「要望」ばかりが交わされているように感じて仕方がない。
これでは深い議論など叶うことはないであろう。
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