小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

愛子と純(小説)

2015-07-31 07:17:36 | 小説
愛子と純

 ある海に近い養護学校である。そこは小児喘息治療のための体と心を鍛えるための施設だった。そこには全国から小児喘息児が集まっていた。喘息は精神的な、あまえ、も病気に関係していて、純の親は純の甘えた性格を治し体を丈夫にするために、純をその施設に入園させた。内気で人見知りの強い純は、なかなかそこに馴染めず友達も出来ず、いつも一人でポツンとしていた。同級に愛子という綺麗で男勝りな少女がいた。彼女はその施設で女番長的な存在だった。純ははじめて彼女を見た時から、彼女に恋焦がれてしまった。純は彼女と二人きりになって、彼女に徹底的にいじめられる事を夢想するようになった。その想いは、どんどん募って純を悩ませていった。
 ある時、とうとう純は勇気を出して彼女に話しかけた。
「あ、あの。愛子さん。お話ししたい事があるんですが、聞いていただけないでしょうか」
純は顔を真っ赤にして、どもりどもり言った。
「うん。いいわよ。なあに」
愛子は屈託ない笑顔で答えた。
「あ、あの。ここでは、ちょっと言いにくい事なんです。よろしければ今週の日曜の午後、教室に来ていただけないでしょうか」
「うん。いいよ」
愛子はごく自然に言った。
「あ、ありがとうございます」
純は深々と頭を下げた。

日曜になった。純は約束の時間より先に教室に行った。心臓がドキドキ高鳴ってくる。引っ込み思案で友達もいないような純の時間を割かせることに純は申し訳なさを感じていた。愛子は来た。そして純の前に立った。
「なあに。純。話って」
純は顔を真っ赤にして言った。
「愛子さん。お願いがあるんです」
「なあに」
「僕を虐めて下さい」
「なぜ私がいじめなきゃならないの」
愛子は眉を寄せて、疑問に満ちた顔で聞き返した。
「あ、あの。僕、女の子にいじめられると嬉しい変な性格なんです」
「ふーん。変なの。でも、いいわよ。どんな風にすればいいの」
「どんな風でもいいです。徹底的に虐めて下さい」
純は顔を真っ赤にして、小声でつづけて言った。
「あ、あの。僕、前から愛子さんにずっと虐められたいと思ってたんです。うんと虐めて下さい」
愛子はケラケラ笑った。
「わかったわ。いいわよ」
「あ、ありがとうございます」
純は深々と頭を下げた。
「どんな事をしていじめればいいの」
「どんな事でもいいです。うんといじめて下さい」
「そう言われても何をしたらいいのか、わからないわ」
愛子は眉を寄せ、困惑した表情で言った。
「じゃあビンタして下さい」
そう言って純は目を閉じた。
「わかったわ。じゃあ、純。叩くわよ」
愛子は純の頬っぺたを平手でピシャンと叩いた。純はよろめいて倒れた。
純は愛子の前で犬のように四つん這いになった。
「愛子さん。背中にのって下さい」
愛子は純の背中にドッカと跨った。
「ああー」
愛子の柔らかい尻の感触と、人には見せられない屈辱の姿がなんとも言えず純を興奮させ、複雑な気持ちにさせた。
「さあ。走れ。走れ」
愛子は拍車をかけるように腿を踵で蹴った。純は教室の中を愛子を背中に乗せて、四つん這いでのそりのそり歩いた。純はボーとなった。純は背中に意識を集中して、愛子の柔らかい尻の感触を感じとるよう努めていた。女の子の体を触った事など今まで一度も無い。愛子は背中に乗っかってるという事だけで、それ以外のことは考えていない。が、純は確実に愛子と体が触れている事に甘美な快感を感じていた。
「ああー。愛子さん。幸せです」
純は喜悦の悲鳴を上げた。
「ふふ」
愛子は尻を揺すって笑った。
「あ、愛子さん。お願いがあるんです」
純は背中の上の愛子に訴えた。
「なあに」
「あ、あの。裸になって愛子さんに見下されたいんです」
純は真っ赤になって言った。
「いいわよ」
もう愛子は、この悪戯を積極的に楽しもうという感じになっていた。
「あ、愛子さん。脱ぐ事を命令して下さい」
「いいわよ」
愛子は純の背中からピョンと飛び降りて、純の前に椅子を持ってきて、それに座って膝組みした。
「さあ。純。着てるものを全部脱いで裸におなり」
愛子は命令的な口調で言った。
「は、はい」
四つん這いになっていた純は、立ち上がって服を脱ぎだした。上着とTシャツを脱ぎ、ジーパンとパンツも脱いで丸裸になった。純はおちんちんを手で隠してモジモジしている。
「あ、愛子さん。幸せです。僕、こうされる事が夢だったんです」
純は愛子の前で体をプルプル震わせながら言った。
「ふふ。みじめな格好。純がこんな変態だったなんて知らなかったわ」
愛子は椅子に座ったまま女王の貫禄で目前の惨めな姿の純を揶揄した。
「ああっ。いいっ。幸せです。愛子さん」
純は愛子の侮蔑の言葉に興奮して体をプルプル震わせた。
「愛子さん。お願いです。この事は誰にも言わないで下さいね」
純は真顔になって訴えた。
「うん。誰にも言わないよ」
愛子は軽い調子で純の訴えに応じた。
「あ、ありがとうございます」
純はどっと倒れるように愛子の前に座り込んで正座した。そして膝組みしている愛子の片足をつかんで、足指をそっと口に含んだ。
「ああー。幸せです。愛子さんのような綺麗な人の足を舐められるなんて」
純はまるで犬のように愛子の足指を一心にペロペロ舐めた。
「ふふ。くすぐったい。でも気持ちいい」
「あ、愛子さん。お願いがあるんです」
「なあに」
「また、こうやって僕をいじめてくれますか」
「いいわよ。面白いもん。じゃあ、来週の日曜もまたやろうか」
「あ、ありがとうございます」
純は感謝のしるしのように愛子の足指をペロペロ舐めつづけた。
そのあと純は床に寝て、愛子に顔や体をさんざん踏み抜かれた。


翌週の日曜になった。教室には先週と同じように愛子と純が二人きりで向かい合っている。
「さあ。裸になりな」
言われて純は服を脱いでいった。愛子の意地悪そうな視線を気にしながら。上着とシャツを脱ぎ、ジーパンも脱いでパンツ一枚になった。純はもどかしそうにしている。
「さあ。それも脱ぐんだよ」
叱られるように言われて、純はパンツも脱いだ。もはや純は覆うもの何一つない裸である。純はボーと上気した表情で、そっと恥部の上に手をのせた。
その時、ドタドタと教室に二人の女が入ってきた。愛子の親友の銀子と圭子である。純は真っ青になって、腰を引いて、あわてておちんちんを両手でギュッと覆い隠した。
「わあー。これね。面白い事って」
二人は裸でオロオロしている純を見つけると囃し立てるように言った。
「や、約束が違うじゃないですか。愛子さん」
純は真っ青になって必死で訴えるように言った。愛子と二人だけという事は絶対の条件だった。愛子はフンと鼻でせせら笑った。
「細かい事はクダクダ言わないの。約束を破るって事も意地悪の一つじゃない」
愛子は突き放すように言った。
「うっ」
純はタジタジと身を揉んでいる。二人の女は好奇心満々の目つきである。
「さあ。二人とも、とくと純の裸を楽しみなさい。男の子の裸を見る機会なんて、めったに無いからね」
二人は愛子の両側に立って好奇心満々の目で純を見ている。
「愛子さんにここまで虐められるなんて、いったい何をしたの」
銀子が聞いた。愛子は笑った。
「何もしてないわ。純の方から虐めてほしいって言ってきたの。純は女に虐められると喜ぶ性格なんだって」
愛子は突き放すような口調で言った。純は腰を引き、両手でおちんちんをギュッと隠しながら、あわてて言った。
「愛子さん。ひどい。その事は誰にも言わないって約束してくれたじゃないですか」
「ふふ。だから純は約束なんか守る性格じゃないんだってば。だけどあんたもバカね。そんな事言ったら秘密を喋っちゃったようなもんじゃない。黙っていれば本心は隠し通せたかもしれないのに」
確かにその通りだった。だが、もう遅い。銀子と圭子は顔を見合わせた。二人はわからないものに対する好奇の目で愛子を見た。
「ねえねえ。愛子。純は愛子に何て言ったの」
二人は愛子の肩を揺すって聞いた。愛子は嬉しそうな顔で前回の純の告白を言った。
「純は私に一人でここに来てって言ったの。そして、『僕、前から愛子さんにずっと虐められたいと思ってたんです。うんと虐めて下さい』って言ったの」
「ふーん。それで愛子はどうしたの」
「私にビンタされたい、と言ったから、ビンタしたわ。その後、純は、私に裸を見られたいといって、裸になって、私の足をペロペロ舐めたりしたわ」
純は真っ赤になった。愛子の軽はずみな口をガムテープで貼りたい思いだった。どんどん自分の心が裸にされていくのは、体の裸よりも恥ずかしかった。
「愛子さん。お願いです。もう言わないで下さい。何でも言う事を聞きます」
純は半泣きになって訴えた。
「ふーん。純君て、そういう趣味があったの」
銀子と圭子は驚いたように言った。
「じゃあ、この二人も参加させてもいいでしょ。この二人の言う事にもちゃんと従うのよ」
「は、はい」
純はもう抜き差しならない立場になってしまったと絶望した。もう愛子に、これ以上喋られないでほしいと願う気持ちでいっぱいだった。もう自分の秘密はすべて知られてしまっている。しかし愛子がことさら言う度にその言葉は銀子と圭子の心に強い印象で刻まれていくような気がする。そしてそれは彼女らの口を軽くして、どんどん人に伝わっていくような気がする。それを思うと耐えられなくなった。せめて従順になって、彼女らが満足すれば、心に秘めておいてくれるかもしれない。人間は厭きたこと、退屈した事は人に吹聴しないものだ。純は絶望の中でその望みに藁をもすがる思いだった。
「あ、愛子さん。もう他の人には言わないで下さいね」
純はすがるように半泣きで訴えた。
「ふふ。言わないわよ。ただし、あんたの態度が素直ならね」
愛子は純の不安を楽しむかのごとく、笑いながら余裕の口調で言った。
「さあ。純。おちんちんを隠している手をどけて。この二人に男の子のおちんちんをたっぷり見せてあげなさい」
言われて純は恥部を覆っていた手をどけていった。
「そうそう」
純の手は腰の辺りでピクピク震えている。

純は腿をピッチリ閉じた。もう、見られる事は観念したとはいえ、自分の恥ずかしい物を三人の女が好奇に目を輝かせて見つめていると思うと純のおちんちんは勃起して、そそり立ってきた。
「わあー。すごーい」
二人の女は歓声を上げた。
「ふふ。これが勃起だよ。男は興奮するとおちんちんがこんなに大きく硬くなってせり上がってくるんだよ」
早熟の愛子が得意げに説明した。
「勃起という事は知っていたけど、こんなに大きくなるなんて・・・」
二人は目をパチクリさせて食い入るように見入っている。
「男は女のヌード写真やエッチなものを見ると、こういう風に勃起してくるんだよ」
「ふーん。でも、ここにはヌード写真は無いわ」
「別にヌード写真が無くても、エッチな事を想像すると勃起するんだよ。純は今、私達に裸を見られている事で興奮してるんだよ」
「愛子ってよく知ってるのね」
言われて愛子は苦笑した。
「もっと間近でよく見てみな」
言われて二人は純と体が触れるほど近づいて座り込んだ。二人の目の前には天狗の鼻のように勃起した純のおちんちんがある。
純のそそり立ったおちんちんを目の前にして銀子は、
「わー」
とあらためて叫んだ。そそり立った一物の下では袋がみじめにぶら下がっている。
「これが金玉ね。これって何をするものなの」
と銀子は愛子に向いて聞いた。
「ウーン。よくはわからないわ。でもその玉の中に何かの液体が入ってて、その液体がエッチな興奮を起こすらしいの」
「何でこんな風に体の外に出てるの」
「女にも、男の金玉に当たるものがお腹の中にあるらしいの。でも男の子の場合は体の外に出てるの」
「何で体の外に出てるの」
「冷やすためらしいわ。金玉の中の液体は熱に弱くて冷やした方がいいらしいんだって」
「じゃあ、どうして女の金玉は体の中にあるの」
愛子は眉をしかめた。
「ウーン。それは分からないわ。女の玉は熱に強いんじゃないの」
と愛子は言って苦笑した。二人はしばし目を皿のようにして、はじめて見る勃起したおちんちんと垂れた金玉を食い入るように見つめていた。
「触ってみなよ」
愛子は笑って言った。
「嫌よ。きたないわ」
銀子は笑った。

女二人にまじまじと見られる恥ずかしさから、純の手は少しずつ恥部に向かっていこうとする。両手がもどかしそうにピクピク震えている。それが、まだるこしく、気に食わないと思ったのだろう。愛子は大きな声で言った。
「純。手は胸の所で交差させな。裸の女の子が胸を隠すように」
言われて純は胸の上で両手を交差させた。それは裸の女が顕わになった乳房を隠すポーズのようでもあり、また敬虔な宗教者の祈りのポーズのようでもあった。しかし、その虐めは純には、むしろ救いだった。純は手にギュッと力を入れて胸をおさえた。苦悩の中にあってすがるものの無い事ほどつらいものはない。この場合、純の意志で選べる手のやり場があったろうか。こういう場合は、むしろ暴力的に命令された方が救われるものである。純は苦悩の逃げ場として胸の上で交差させた手にギュッと力を入れた。

「じゃあ、純をもっと興奮させて気持ちよくしてやりな」
愛子は銀子に目を向けた。
「銀子。物置きから縄を持ってきな」
「うん」
と言って銀子は急いでパタパタと教室を出ていった。
すぐに銀子は縄を持って戻ってきた。
「この縄でどうするの」
銀子は縄を手に愛子に聞いた。聞かれて愛子は、
「股の間をくぐらせるんだ。銀子は前で、圭子は後ろで引っ張るんだ」
言われて銀子は縄を持って純に近づき、純の前で屈み、縄の先を純のピッチリ閉じた腿の間を通した。
「さあ。銀子は純の前で縄を持って立って」
愛子に言われて銀子は縄の一端を持って純の前に立った。
「圭子は純の後ろに回って縄を持って立って」
愛子に言われて、圭子は純の腿の間に通された縄の端をとって、純の後ろに回って縄を持って立った。
「さあ。二人とも縄を持ち上げて、引っ張りあいな」
二人が縄を持ち上げて引っ張ってゆくと、縄は純の股の間に食い込んでピンと張った。
「ああっ」
純は悲鳴を上げた。純は思わず胸の上で交差させていた手をほどいて縄をつかもうとした。と、すぐ愛子が叱責した。
「手を動かしちゃダメだよ。手は胸で交差させたままだよ」
言われて純は元のように手を胸の上に戻した。純は腿をピッチリ閉じている。その谷間に縄が食い込んでいる。愛子には後ろの様子が見えない。
「どう。圭子。ちゃんと尻の割れ目に食い込んでる」
「うん。ちゃんと食い込んでるよ。お尻の割れ目に食い込んで面白い」
そう言って圭子はクスクス笑った。前では勃起したおちんちんが丸出しになったまま、股間に食い込んだ一本の縄がピンと張ったまま、銀子の手へ上がりながらつづいている。純はガクガク震えながら、腿をピッタリ閉じ、胸の上で手を交差している。
「さあ。交互にゆっくり引っ張りあいな」
言われて銀子と圭子は純をのせた縄をゆっくり引っ張り合いだした。
「ああー」
純は悲鳴を上げた。尻がプルプル震えている。
意地悪く食い込んだ縄が純の股にピッタリくっついたまま、股間をこすりながら前後に動く。愛子は笑いながら、
「どう。銀子。圭子。面白いでしょ」
二人は笑いながら、ほぼ同時に、
「うん。面白い。最高」
と言ってクスクス笑った。愛子は腿をピッチリくっつけて手をギュッと握って胸に当てて耐えている純を見た。
「ふふ。どう。縄が擦れる気持ちは。縄が食い込んで擦れて気持ちいいでしょ」
「あ、愛子さん。お願いです。許して下さい」
純は泣きそうな顔を愛子に向けて言った。
「ふふ。おちんちんがピンと立ってるわよ。縄が擦れて気持ちいいからでしょ」
純は答えられない。腿をピッチリ閉じ、胸の上でギュッと両手に力をこめて交差させている。
「そら。もっと、擦る速度を速くしな」
そう言われて銀子と圭子は引っ張り合いの速さを小刻みに早くした。純は、
「あっ。あっ」
と苦しげな声を洩らした。
しばしそれがつづいた。純のおちんちんはビンビンにそそり立っている。
「よし。銀子。圭子。もう疲れたでしょ。終わりにしてやんな」
そう言われて二人は縄の力を緩めた。二人が縄を離すと縄はパサリと落ちた。純はやっとほっとした様子で胸の上で交差させていた手を恐る恐る下ろそうとした。すると間髪いれず愛子が叱った。
「手を下ろしちゃダメだよ。手は胸の前で交差させたままだよ」
言われて純はあわてて手を胸に戻した。
「それとちょっとでも動いちゃだめだよ。ずっとその姿勢のままだよ」
言われずとも純は愛子の精神的な呪縛にかかっていた。小心な純は愛子が命令するまで自分から行動してはいけないように思えてくるのだった。
「ふふ。好い格好。まるで女の子みたい」
両手を胸で交差させて、腿をピッタリくっつけて立っている姿は確かに女のようである。胸の上で交差された手は胸を隠しているようでもあり、切ない恋の悩みのポーズのようでもある。
「銀子。圭子。純は動かないからね。たっぷりいたぶってやりな」
言われて二人は純に近づいてきた。
純は悪漢ふたりが近づいてくるにつれ、不安げな表情になって体をプルプル振るわせだした。
「愛子さん。もう許して下さい」
純は泣きそうな顔を愛子に向けて訴えた。が、愛子は聞く耳など全く持たない、といった様子で裸で腿をピッチリ閉じている純を笑って見ている。

銀子と圭子は胸で手を交差してピッチリ腿を閉じている純の目の前に来ると腰を下ろして座った。二人はそそり立っている純の一物を興味深そうに眺めている。
「うわー。すごーい」
銀子は純の一物を見ている事を純にことさら知らせるように、ことさら大きな声を出した。
「さあ。うんといたぶってやんな」
愛子はニヤニヤ笑いながら言った。
「どうするの」
「何をやってもいいんだよ。体をいじるなり、抓るなり。まず頬っぺたをひっぱたいてやりな。銀子」
そう言われて銀子は立ち上がった。銀子は純を見た。純は怯えた表情を銀子に向けた。銀子は、
「ふふふ」
と笑い、純の頬っぺたをピシャリと叩いた。
「ああー」
純は銀子に叩かれて悲鳴を上げた。銀子は面白くなってきたのか、またピシャリと純の頬を叩いた。今度はかなりの力を入れて。頬がピシャリと叩かれる、いきのいい音が教室に響いた。
「ああー」
と純はまた悲鳴を上げた。
「さあ。純。もっと脚を開きな」
愛子にそう言われても純は胸の上で手を交差させ、腿をピッチリ閉じて竦んでしまっている。
「開くんだよ。純」
愛子は怒鳴りつけた。
「よし。銀子。もう一回、純をひっぱたいてやりな」
銀子はよしきたとばかり、笑いながら、また、純をピシャリと強くひっぱたいた。
「ああー」
純は苦しげに眉を寄せた。よろめいて踏ん張るように足が開いた。
「ふふ。二人で足をつかんでもっと開かせちゃいな」
言われて銀子と圭子は純の足をつかんで、
「エーイ」
と声を掛けて引っ張った。二人の力にはかなわず、純は、
「ああー」
と声を洩らしながら足を開かされていった。肩幅ほどに純の足は開かれた。
「よし。純。足はそのまま開いてるんだよ」
愛子が厳しい口調で言った。
丸裸でも脚をピッタリ閉じる事によって、すべては見られないようにという羞恥心まで、もはや奪われた。ピッタリ閉じあわされていた尻の割れ目も開いた。すぼまった尻の穴も顕わになった。尻の割れ目から金玉へつづく股の底も、すべてが丸見えになった。開かれた脚の前で金玉がみじめにブラブラ垂れ下がっている。二人は顔を低くして興味深げに股の間を、前に回ったり、後ろに回ったりして下から見上げ、しげしげと純の恥部を見つめた。ブラブラ垂れ下がっている金玉を見たり、尻の肉を掴んでグッと開いて、すぼまった尻の穴をまじまじと見たりした。女達は興奮してきて、性器を見ては、すぐに純の顔を見たり、少し離れて性器と顔を両方、同時に見たりした。純はついに耐えられなくなって、
「ああー。もう許して下さい」
と叫んで顔を両手でバッと覆った。
するとすぐ愛子が、
「顔を隠しちゃ駄目だよ。手は胸の上だよ」
と、厳しい口調で叱った。言われて純は、やむなく手を胸の上に戻した。
「よし。じゃあ今度は純の体を鉛筆で突いてやりな」
愛子が言った。愛子は鉛筆を銀子と圭子に一本ずつ渡した。
銀子は純の尻の前に座り、圭子は純の勃起したペニスの前に座った。純は女二人に挟まれるような形になった。
圭子は、天狗の鼻のようにそそり立っているペニスの下でブランと垂れ下がっている金玉をそっと鉛筆の先で突いた。
「ああー」
純は悲鳴を上げた。圭子はだんだん調子に乗ってきて、鉛筆の先で腹やヘソを突いたり、柔らかい内腿を突いたりした。その度に、純は、
「ああー」
と悲鳴を上げた。後ろの銀子も圭子の真似をして純の体の後ろを、あちこち突いた。尻の割れ目を鉛筆の先でスッとなぞると純はビクッと尻を震わせた。
「ああー」
純は悲鳴を上げた。純が思わず足を閉じようとすると、愛子が、
「駄目だよ。足を閉じちゃ。ちゃんと開いてな」
と厳しく叱る。後ろの銀子は純の尻の肉を鉛筆の先でツンツン突いた。
「ああー」
純の悲鳴が上がる。銀子は後ろから純の太腿をつついたりした。圭子は前から笑いながら純の金玉をツンツン突いている。
「銀子さん。圭子さん。もう許して下さい」
純は泣きそうな顔で全身をピクピク震わせながら訴えた。しかし二人は純の訴えなど全く聞く耳を持ってないといった様子である。
後ろの銀子はニヤッと笑って、すぼまった純の尻の穴に鉛筆の先を入れた。純は、
「ひいー」
と悲鳴を上げた。踏ん張っていた脚がピンと伸び、一直線の爪先立ちになって、足がプルプル震えている。銀子と圭子はもう面白くてたまらないといった様子で純の性器や、その周辺の肉を突きまくった。
「よし。もうそろそろ立った姿勢は勘弁してやりな」
愛子は二人に向かってそう言った。
「純。もう疲れただろ。床に座りな」
言われて純は疲れきったという様子でクナクナと床に座り込んだ。
「仰向けになりな」
言われて純は背中を床につけて仰向けになった。
「膝を曲げて足を大きく開きな」
純は膝を曲げて足を大きく開いた。股間がパックリ開いて性器が女達に丸見えになった。
「さあ。銀子。圭子。今度はその姿勢で純をいじめてやりな」
「何をすればいいの」
「何をしてもいいんだよ。顔を踏むなり、電気アンマするなり。何でもやってやりな」
言われて銀子はそっと足を純の胸の上に載せた。揺すると純の体がそれにつれて揺れる。銀子はだんだん調子にのって、純の体をあちこち踏み出した。圭子も同じように純の体に足をのせた。二人はだんだん調子に乗って、猫をじゃらすように、純の体を踏みまくった。そっと頬に足をのせて顔を踏むと純は、
「ああー」
と、眉を寄せた。銀子は、
「ふふふ」
と笑いながら体重をかけていき、足の裏で口を塞いだり、目を踏んだりした。銀子と圭子が二人、同時に純の顔を踏むと純の顔は二つの足に覆われて見えなくなった。二人は足で純の勃起したペニスや金玉を踏んだりした。二人はもう全く遠慮がなくなっていた。
圭子が純の足を持ち上げて、銀子が純の股間を電気アンマした。
「ああー」
圭子に足をつかまれて銀子に電気アンマされて、純のペニスは激しく勃起した。
「銀子。純の顔に腰掛けてやりな」
愛子が言った。
「えっ。いいの。そんな事して」
「いいんだよ。純は女に虐められるのが嬉しくて嬉しくてしかたないんだから」
「でも、そんな事、私が恥ずかしいわ」
「いいから、やってごらんよ。気持ちいいから」
銀子は一瞬、ためらいの表情を見せたが、愛子の屈託ない笑いを見て純の顔に近づいた。そして純の顔を跨いでトイレに座るように膝を曲げ、純の顔にそっと尻をつけた。
「ああー」
銀子は眉を寄せ、尻をプルプル震わせて切ない声を出した。
「どう。銀子。どんな気持ち」
「は、恥ずかしいわ。でも何だかすごく気持ちいいわ」
「銀子。遠慮はいらないよ。体重を全部のせちゃいな」
「いいの。そんな事して」
「いいんだよ。やってごらん。もっと気持ちよくなるから」
銀子は体重をのせ始め、ついに体重を全部のせた。
「ああー」
純が苦しげな声を出した。
「尻をゆっくり前後に揺らしてみな。純はそうされると嬉しいんだから」
銀子は言われたとおり、尻をゆっくり前後に揺らした。しばし、そうしているうちに銀子はだんだん切なそうな表情になってきた。
「ああっ」
銀子は切なげな声を洩らした。
「どうしたの」
「な、何だか私もエッチな気分になってきちゃった。男の子にお尻を触られるのなんてはじめてだもの」
「ああー。気持ちいいー」
銀子はそう言って尻を揺すった。愛子は銀子の行為を余裕の表情で見ていた。
「ふふ。銀子。いっその事、純の手をあんたのまんこにつけてみなよ。すごく気持ちいいから」
銀子はしばし躊躇していたが、そっと床の上にダランと垂れている純の手をとって自分のパンツの中に入れた。そして純の手を自分のまんこに当てた。
「ああっ。いいっ。一度、男の子に、こういうエッチな事をされたいと思っていたの」
しばしの間、銀子はピクピク体を震わせていた。純の手を自分のまんこに触れさせながら。銀子の顔はボーとしていた。愛子はそれを笑いながら余裕で見ていた。
「銀子。いっその事、服を脱いで裸になっちゃいなよ。もっとエッチな気持ちになれるから」
銀子は言われたとおり、立ち上がって、いったん純から離れて服を脱ぎ始めた。上着を脱ぎ、スカートも脱いだ。そしてパンツも脱いで丸裸になった。
「じゃあ、銀子。今度は純にしっかり、まんこを見せてやりなよ」
「ど、どうやるの」
「四つん這いになって純の顔を跨いで、あんたのまんこが純の顔の上に来るようにするのよ」
銀子は、しばし、ためらっていたが、愛子に言われたように四つん這いになり、純の顔を跨いだ。銀子のまんこが純の顔の真上に来た。銀子の体はプルプル震えている。頬は紅潮している。
「銀子。どう。気持ちいい」
「ああっ。いいわっ。男の子に恥ずかしい所を見られると。なぜだか気持ちがいいわ」
「純。目の前に何が見える」
純は恐る恐る言った。
「割れ目が見えます」
「どんな気持ち?」
「初めて女の子のまんこを見て、びっくりしてます」
「ちゃんとしっかり銀子のまんこを見つめるんだよ。銀子はお前に見られて興奮してるんだから」
「はい」
銀子は純を見た。純は言われた通り、銀子のまんこをじっと見ている。それに気づくと銀子はますます興奮した。
「ああっ。見て。もっとよく見て」
銀子はプルプル体を震わせながら叫んだ。しばしたった。
「銀子。もうそろそろいいでしょ。圭子に交代してあげな」
「うん」
銀子は純の顔の上から体をどけた。
「圭子。今度は、あなたの番だよ。あなたも気持ちよくなりな」
「ど、どうするの」
「銀子と同じ事をするのよ。さあ。あなたも裸になりな」
「は、恥ずかしいわ」
圭子は頬を赤らめて言った。
「でも銀子だって裸よ。銀子ひとりだけ裸っていうのは、かわいそうじゃない。純は、こんな事、誰にも言えないから、絶対、誰にも知られることはないわ。さあ。勇気を出して裸になりなさいよ」
「そうよ。私ひとりだけ裸っていうのは不公平だわ。あなたも裸になりなさいよ」
純の横で裸で座っていた銀子が口を尖らせて言った。
圭子は、しばし思案げな表情で裸の銀子と純を見ていたが、
「わかったわ」
と言って、銀子と同じように服を脱ぎだした。上着を脱ぎ、スカートも脱いだ。そしてパンツも脱いで銀子同様一糸まとわぬ丸裸になった。
「どう。裸になった気持ちは」
「は、恥ずかしいわ」
圭子は頬を赤らめて言った。
「でも銀子も裸だから、そんなには恥ずかしくないでしょ」
「う、うん」
圭子は小声で言った。
休日の教室に、裸で仰向けにねている男の横に女が二人、裸になって座っているという異様な光景になった。愛子だけが服を着たまま、椅子に座って、裸の三人を楽しげに見ている。
「愛子。私達だけ裸にして自分は脱がないで、裸の私達を見て楽しんでるっていうの、ずるいわ。あなたも裸になりなさいよ」
銀子が口を尖らせて言った。
愛子は舌を出して、へへへ、と笑って銀子の非難をすりかわした。愛子は裸になった圭子に目を向けた。
「さあ。圭子。今度はあなたが気持ちよくなりな」
「ど、どうするの」
「銀子のように四つん這いになって純の顔の上に跨るのよ」
「は、恥ずかしいわ」
そう言いながらも圭子は銀子と同じように四つん這いになって、純の顔を跨いだ。
「純。圭子のまんこをしっかり見てやりな」
言われて純は圭子のまんこを見上げた。
「ほら。圭子。純があんたのまんこを見てるよ。どう。男の子に見られる気持ちは」
「は、恥ずかしいわ」
圭子は顔を火照らせた。
「純。圭子のまんこを触ってやりな」
言われて純は片手を伸ばして圭子のまんこをそっと触った。手が触れた時、圭子は、
「あっ」
と叫んで体を震わせた。
「純。圭子のお尻や太腿を触ってやりな。お前は二人を気持ちよくさせる奉仕をするんだから、お前が楽しんじゃ駄目だよ。優しくそっと、相手を気持ちよくするように撫でるんだよ」
言われて純は圭子のまんこや尻や太腿を触った。
「どう。圭子。どんな気持ち」
「い、いいわ。気持ちいいわ。恥ずかしいけど、それが気持ちいいわ」
圭子は目をきつく閉じ体をガクガク震わせながら言った。
「でも純。あんたは幸せだね。二人の女の裸を間近に見たり、触ったり出来るんだからね。こんな事、出来る男はあんただけだよ」

圭子は尻をモゾモゾさせ出した。
「どうしたの」
愛子が聞いた。
「ちょっと私、オシッコしたくなってきちゃった。私トイレに行ってくる。おりるわ」
愛子はニヤッと笑った。
「ふふ。圭子。トイレに行かなくてもいいわよ。そこでしちゃいなよ」
「ええー。いったい、どういう事」
「純にオシッコを飲ませちゃうのよ」
そう言って愛子は純を見た。
「純。圭子のオシッコを飲むのよ。あんたは私の言う事には何でも従うと言ったんだからね。どう」
「は、はい。飲みます」
純は弱々しい口調で言った。圭子は困惑した顔を愛子に向けた。
「そんな事できないわ。いくら何でも」
そう言って圭子は体をどかそうとした。すると愛子がピシッと厳しい口調で止めた。
「ダメ。動いちゃ。純は、飲む、と言ってるんだから。そこでしなさい。純も本当はあなたのオシッコを飲みたいのよ」
そう言って愛子は純に視線を向けた。
「そうでしょ。純。あんたは圭子のオシッコを飲みたいんでしょ。どうなの」
愛子は問い詰めるように言った。
「は、はい。圭子さんのオシッコを飲みたいです」
純は弱々しい口調で言った。愛子はニヤッと笑って圭子を見た。
「ほら。純もあなたのオシッコを飲みたがっているのよ。遠慮なく純の口の中に出しちゃいなさいよ」
圭子はしばし、ためらっていたが、だんだん尻の震えが激しくなっていった。
「ああー。もうガマンできない。出ちゃうー」
圭子は眉を寄せ、尻をブルブル震わせて叫んだ。
「純。口を大きく開けて圭子のオシッコをしっかり受けとめな」
言われて純は口を大きく開いた。
圭子は急いで大きく開いている純の口に照準を合わせた。
「ああー。出るー」
ついに堰を切ったように圭子の割れ目からオシッコが激しくほとばしり出た。
「純。一滴もこぼしちゃダメだよ。全部しっかり飲むんだよ」
純は咽喉をゴクゴクさせながら圭子の小水を必死で飲んだ。
ながく我慢していたため圭子のオシッコは大量に出た。
圭子は膀胱に溜まっていた尿を全部出しきった。圭子は純の体から離れると腿をピッチリ閉じて座り込んだ。
「純。どんな味だった。圭子のオシッコは」
「しょっぱかったです」
純は弱々しく言った。愛子は、ふふ、と笑った。
「圭子。どうだった。純にオシッコを飲ませた時の気持ちは」
「い、言えないわ。そんな事」
圭子は顔を赤くした。
「正直に言いなさい」
愛子が命令的な厳しい口調で言ったので圭子は恥ずかしそうに口を開いた。
「恥ずかしいけど、すごく気持ちよかったわ。私、純にオシッコをうんと飲ませてやりたいと思っちゃったの。私って、イジワルで悪い女なのね」
言って圭子は真っ赤になった。愛子は、ふふ、と笑った。

「じゃあ、今日はこれでおわり。二人とも服を着なさい」
愛子に言われて二人は服を着た。
「どうだった。今日は」
二人は顔を見合わせて恥ずかしそうに笑った。
「すごく楽しかったわ」
「そう。それはよかったわ。じゃあ、来週の日曜もまたやるからね。今度は銀子のオシッコを純に飲ませるわ。銀子。楽しみにしてな」
銀子はクスッと笑った。
「愛子。ありがとう。バイバーイ」
二人は手を振って教室を出て行った。
あとには誰もいなくなった教室に純と愛子がのこされた。
純は起き上がって裸のままヨロヨロと愛子に近づいた。そして愛子の前に座って愛子の手をギュッと握った。
「愛子さん。ひどいです。誰にも言わないって約束してくれたじゃないですか」
純の目には涙が滲んでいた。愛子は優しく純の頭を撫でた。
「ゴメンね。純。あの二人は今日だけ。これからは私が一人であなたをいじめてあげるわ。松林の中に物置小屋があるでしょ。あそこは誰も来ないから、これからは、あそこで二人だけで遊びましょ。今日はいじわるしちゃってゴメンね」
愛子はいたずらっぽくペロッと舌を出した。
純は裸のまま愛子にしがみついた。
愛子も裸の純の体をヒシッと抱きしめた。

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浜辺の物語(小説)

2015-07-30 05:35:42 | 小説
浜辺の物語

 それは、まだ海開きが始まっていないある六月のことだった。
ある少年が自転車で海沿いの国道を通っていた。少年は海が好きで、しょっちゅう自転車で海を見に来ていた。
何気なく海を見ながら走っていたが、と、ある光景に吃驚し、少年は自転車を止めた。
黒いビキニの美しい女性が海から上がってきたのである。髪が濡れ美しいなだらかな体から水が滴り落ちている。少年は一瞬、その女性は、人魚ではないかと思った。
黒いビキニが海水で濡れ、水を吸い込んで、収縮し、体にピッタリと貼りついている。
少年の心臓は、途端に、早鐘をうち、股間にあるものが、熱くなり、怒張しだした。
ゴクリと少年は、生唾を飲み込んだ。
ビキニの女性は、砂浜にビーチシートを敷いて、その上に仰向けになった。ピッタリ腿を閉じた女の体の稜線とピッタリと体に張りついたビキニの盛り上がりが、少年を、いっそう悩ませた。少年は、心臓をドキドキさせながら、女性にみつからないよう、そっと食い入るように、女性を見つづけた。幸い、女性は目を閉じて太陽が体を焼くのに身を任せている。
と、その時、女性はパチリと目を開き、ムクッと体を起こした。そして、少年に向かって、大きな声で、叫んだ。
「ねえー。ボクー。よかったら、こっちへ来ない」
ビキニの女性は大きな声で叫んだ。少年は吃驚した。彼女は少年に気づいていたのだ。
少年は、自転車をとめて、砂浜に降りていった。
少年が、ためらって、おずおずしていると、彼女は、ニコッと笑って手招きした。
少年は顔を赤らめて、彼女の隣にチョコンと座った。
「ボク。私をじっと見てたでしょう」
彼女はニコッと笑って、少年の手を握った。
「は、はい。ごめんなさい」
少年は赤面して答えた。
「ううん。別にいいわよ。ボク。どこへ行くの」
「あ、あの。市営の温水プールです」
「ごめんね。引き止めちゃって」
「い、いえ。いいです」
女性はしばし、赤面している少年を微笑して、見つめた。
「ボク。よかったら、一緒に遊ばない」
少年は、真っ赤になった。
少年が黙っているので、彼女はつづけて言った。
「でも、プールで泳ぎたいでしょ。ごめんね。引き止めちゃって」
「い、いえ。プールなんか、どうでもいいです」
少年はあわてて言った。
女性はクスッと笑った。
「じゃあ、一緒に遊ぼう」
「・・・は、はい」
「じゃあ、海水パンツ一枚になって。あそこにトイレがあるわ」
そう言って彼女はトイレを指差した。
「・・・は、はい」
少年は、パタパタと急いでトイレに行った。そして、海水パンツ一枚になって、もどってきた。少年は京子の傍らに座った。
「ボク。名前は」
「高橋純です」
「ふーん。いい名前だね。私は佐藤京子。よろしくね」
「僕の方こそ、よろしく」
純は丁重に挨拶した。
「純君。オイルぬってくれない」
えっ。
純は一瞬ドキンとした。
女の体に触るなんて、純には絶対とどかぬ神をもおそれぬ夢だった。
だが、京子は、無造作に日焼け用オイルを純に渡した。
京子はビーチシートの上でうつ伏せになった。
純は、無我夢中で京子の体にオイルをぬった。
京子の体は美しかった。
スラリと伸びたしなやかな脚。細い華奢なつくりの腕と肩。細くくびれたウェスト。それとは対照的に太腿から尻には余剰と思われるほどたっぷりついている弾力のある柔らかい肉。それらが全体として美しい女の肉体の稜線を形づくっている。
興奮のため、純の男の部分は激しく勃起していた。
京子はムクッと体を上げた。
「ありがとう」
京子はニコッと笑った。二人は海水をかけ合ったり、ビーチバレーや、追いかけっこをして遊んだ。
純にとっては、こんな事は夢のようなことだった。
二人はしばし、夢中で、ビーチバレーを楽しんだ。
「ねえ。純君。疲れたでしょう。少し休もう」
京子にそう言われて純と京子は、再びビーチシートの所にもどった。
京子はしばし、ビーチシートの上でうつ伏せになって、目を閉じた。
純は京子が目をつぶっているのをいい事に、京子の体をしげしげと眺めた。
小さいビキニがピッタリと貼りついただけの京子の体は裸、同然だった。
ビキニは尻を形よくおさめ、ビキニの縁からは、弾力のある尻が、半分近く出ている。
純はドキドキしながら、京子の裸に近い体を眺めた。
しばしして、京子がムクッと起き上がった。
「今度は何をして遊ぼうか」
京子が言ったが、純は、すぐには思いつかなかった。

「ねえ。純君。あの林の中に入ろう」
そう言って、京子は砂浜沿いの林を指差した。純は、はい、と言って、二人は林の中に入って行った。京子は、林の中の一つの松の木の前に座って、木にもたれかかった。純も京子の隣に座った。
京子は微笑して純を見た。
「ねえ。純君。面白い遊び、しない」
「どんな遊びですか」
「人さらいごっこ。純君が悪い人で、純君が私をつかまえちゃうの」
純はゴクリと緊張と興奮の唾を飲んだ。
「いい?」
「は、はい」
純は緊張した声で答えた。
「じゃあ、私をこの木に縛りつけて。縄は私のバッグの中にあるわ」
言われて純は京子のバッグを開けた。中には確かに縄があった。
純は、縄を持っておそるおそる京子に近づいた。
京子は微笑して両手を木の裏に廻した。そして手首を重ね合わせた。
「さあ。純君。縛って」
純はゴクリと緊張の唾を飲んで、木の後ろに廻り、京子に言われた通り京子の手首を縄で縛った。
京子は、体を揺すり、もがいて、抜けようとする仕草をした。だが、縄ははずれない。
「ああっ。純君。やっぱりこわいわ。縄を解いて」
京子は体を揺すって、訴えるように純に言った。
「お願い。純君。縄を解いて」
京子は泣きそうな顔で純に訴えた。
「ご、ごめんなさい。京子さん。今すぐ、縄を解きます」
純が、京子の縄を解こうと縛った手首の縄に手をかけると、京子のもがき、は、ピタリと止まった。
京子はペロリと舌を出した。
「ふふ。純君。ウソよ。冗談よ」
「ふふ。純君ってすぐだまされちゃうのね」
「やーい。鈍感男、純」
京子が、立てつづけに揶揄したので、さすがの純もムッと顔をふくらませた。
「よくも騙してくれましたね。京子さん」
そう言って純は、京子の腕を摘んでキュッとつねった。
「い、痛い。許して。純君」
京子は首を左右に振ってつらそうな顔で訴えた。
が、純は京子の訴えを無視して、つねる力を弱めようとしない。
「もう、その手にはのりませんよ」
そう言って、純は京子の腕をつねりつづけた。
「本当なの。純君。縄を解いて。私、本当にこわくなっちゃったの」
そう言って京子は、困惑した瞳を純に向けた。
「ふふ。京子さん。ウソをついてもダメです。なんか僕、本当に京子さんをいじめたくなっちゃいました」
そう言って、純はつねる力を一層、強くした。
「僕をたまして、莫迦にした罰として、僕は本当に京子さんをいじめます」
そう言って、純は、京子から、手を離した。そして、京子のバッグを開けた。
「ああっ。何をするの。純君」
「所持品検査です」
「や、やめてー」
木に縛められた華奢な肩を揺すって京子は訴えた。
「ふふ。そう言われると、よけい開けてみたくなりますよ」
そう言って、純はバッグから、財布を取り出した。
「な、何をするの」
京子は、不安げな顔つきで聞いた。
「京子さんの素性を調べるんです」
そう言って純は財布のポケットから、カードを全部、取り出した。
名刺があった。
「ドコモ横浜支店。お客様サービス係。佐藤京子」
と書いてある。
「ふーん。京子さんって、ドコモの受け付け嬢なんですね。僕、ドコモの受け付けの女の人を見ると、すごく興奮しちゃうんです。京子さんがドコモの女の人だったなんて、最高に嬉しいです」
そうなのである。純は、ドコモの受け付けの女性に、すごく興奮してしまうのである。おそらく、あの制服が好きなのであろう。
京子は、恥ずかしそうにうつむいている。
「へへ。今度、ドコモ横浜支店に行って、京子さんに、いっぱい難しい質問しちゃおう」
「や、やめて。純君。そんな、いじわる」
さらに純は、運転免許証を見つけた。
「やったー」
純は、小躍りして喜んだ。
「佐藤京子。生年月日、昭和63年8月3日。住所、横浜市港南区青葉町1-2-3サンハイツ501」
と書いてある。
バッグの中には携帯電話もあった。純はそれを欣喜雀躍とした表情で取り出した。
純は、あて先に、自分の携帯のメールアドレスを書き込み、本文に、京子の住所と本籍を書きはじめた。
「な、何をしているの」
京子は、一心に携帯を操作している純に、不安げに聞いた。
「京子さんの住所と本籍を書いたメールを僕の携帯に送るんです」
「や、やめてー」
京子は、体を揺すって叫んだが、純は書き込みをやめようとしない。
5分もかからず純は、メールを書き上げた。
純は京子の哀願を無視して、メールを送信した。
京子は、しょんぼりしている。
純はニヤリと笑って、携帯を松の木に縛められている京子の方へ向けた。
「な、何をするの」
「ビキニ姿で木に縛られてる京子さんの写真を撮るんです」
「や、やめてー」
京子は叫んだが、純は、京子の哀願など無視して、撮影ボタンを押した。
カシャ。
シャッターの音がした。
純はニヤリと笑って携帯を京子に向け、撮った写真を京子に見せた。
そこには、きわどいビキニ姿で、松の木に縛められている京子の姿がしっかりと撮影されていた。
京子は真っ赤になって、写真から顔をそらした。
「ふふ。凄くきれいですよ。しかも、とてもエロティックですよ」

純は、再び、携帯を操作しだした。
「な、何をしているの」
京子が不安げな表情で聞いた。
「この写真も添付して、僕の携帯に送るんです」
「や、やめて。純君」
純は京子の哀願を無視して、京子の写真を添付したメールを、自分の携帯に送った。
そして、それを示すため、携帯を京子に向け、送った送信メールを京子に見せつけた。
京子は、顔を赤くして、それから目をそらした。

純は調子に乗り出した。
純は携帯を京子の口に触れるほどに近づけた。
「さあ。京子さん。自分の名前を名乗って助けを求めることを言って下さい。僕の携帯は留守電になっていますから、京子さんの声も、とって起きます」
「や、やめてー」
「だめです。言って下さい」
純は強い口調で言った。
京子は純の押しの強さに負けて観念した顔つきになった。
「な、何て言えばいいの」
「こう言って下さい。『私は横浜市港南区青葉町1-2-3サンハイツ501に住む佐藤京子という者です。今、かわいい:けど、いじわるな男の子に木に縛られてしまいました。誰か私を助けて下さい』」
京子はガックリと観念した表情で携帯に言った。
「私は横浜市青葉区青葉町1-2-3サンハイツ501に住む佐藤京子という者です。今、かわいいけど、いじわるな男の子に木に縛られてしまいました。誰か私を助けて下さい」
言って京子は哀しそうな顔でうつむいた。
だが、もう、京子の声が純の携帯の留守電に送られてしまったのである。

純は、再び京子の携帯を見て、一心にカチャカチャと、操作した。
京子は、純が何をしているんだろう、という不安と疑問に満ちた目で、携帯を操作している純を見た。しばしして、純は、
「京子さん。出来ました」
と言って、純は携帯を京子に見せつけるように、京子の鼻先へ突きつけた。
それには、こう書かれてあった。
「今日、私はかわいい少年に松の木に縛ってもらいました。私はいつも、貞淑な女を装っていますが、本当はすごく淫乱で、マゾなんです」
京子は、真っ青になった。
「そ、そんなこと書いて、どうしようっていうの」
京子の声は震えていた。
「このメールを、京子さんの写真を添付して、携帯に登録してある人、全員に送るんです」
京子は、真っ青になった。
「や、やめてー。そんなこと」
京子は、木に縛められた体を激しく揺すって叫んだ。
「ふふ。どうしようかなー」
純は、携帯をふりかざしながら、余裕の口調で言った。
「お願い。純君。そんな事だけは、やめて。そんなことされたら、私、恥ずかしくて生きてられなくなっちゃう」
そう言って、京子は、木に縛められた体を激しく揺すった。
「ふふ。じゃあ、僕の言うことを聞くなら、考えてあげますよ」
「き、聞きます。何でも」
純は、しばし困惑する京子をニヤニヤ笑って見ていた。が、携帯をバッグにもどし、財布を取り出した。財布の中には、三万円、入っていた。純は、それを抜きとって、自分のポケットに入れた。
「ふふ。これは、もらいますよ」
「は、はい」
さらに、純はキャッシュカードを、財布から取り出した。
「京子さん。暗証番号を、教えて下さい」
「そ、そこまでは・・・」
京子は、言いためらった。
「教えてくれないなら、メールを皆に送りますよ」
そう言って、純は、再び、携帯を取り出した。
「わ、わかりました。言います」
京子はしばし、困惑していたが、ガックリと首を項垂れて小声で言った。
「4123です」
「ふふ。では、さっそくコンビニで、お金をおろしてきます」
そう言って純は、京子の財布を持って、林を出て、道路沿いにあるコンビニへ向かった。

   ☆   ☆   ☆

すぐに純は戻ってきた。そして京子の前に座った。コンビニの袋を持っている。何か買ってきたのだろう。純は、財布から、おもむろに札束を取り出した。一万円札が20枚ある。
「ふふ。これは、もらっておきます」
そう言って純は、ことさら、札束を京子の顔の前にチラつかせた。
「ああっ。じゅ、純君。そこまでは許して」
だが、純は京子の訴えを無視して札束をポケットに入れた。
純は京子のバッグから携帯を取り出すと、何か、カチャカチャと操作しだした。京子には見えない。
「な、何をしているの」
不安げな口調で、京子が聞いた。
純は京子の質問に答えず、携帯をカチャカチャと操作しつづけた。
「できた」
純が得意げな顔で言った。
「な、何をしたの」
僕の携帯に登録者全員のアドレスを送ったんです」
「ど、とうして、そんなことをしたの」
「こうしておけば、いつでも京子さんの恥ずかしい写真と文を皆に送る事が出来るじゃないですか」
京子の顔は真っ青になった。
「や、やめてー。純君。そんな事。お願い」
「今は、まだ僕の携帯に送っただけだから、大丈夫です。でも、京子さんが僕の言う事に従わなかったら、いつでも送れますよ」
純は京子に携帯を突きつけてニヤリと笑った。
「わ、わかりました。純君の言う事には何でも従います」
京子は諦念したような、さびしそうな面持ちでうつむいた。
「ふふ。京子さん。京子さんは判断を誤りましたね。僕がおとなしそうな性格だから僕を、いい人間だと思ってしまったんですね。確かに、僕は、おとなしい性格ですが、ものすごく悪い人間なんですよ」
「これから僕は一生、京子さんにダニのようにくっついて、旨い汁を吸わせてもらいますよ」
純は、ニヤリと口元を歪めて不敵な口調で言った。
「わ、わかりました。純君の言う事には何でも従います。で、ですから、もう、こわい事は、しないで下さいね。お願いです」
京子は目に涙を浮かべて訴えた。
純はニヤリと笑った。
「ふふ。京子さん。わかればいいんです。素直に僕に従えば、僕はけっこう、やさしいんですよ」
京子は、黙って、さびしそうに、うつむいている。
目から涙が、出ている。京子は、クスン、クスンと泣き出した。
「ふふ。こういうのを『軒をかして母屋をとられる』って、言うんです」
純は得意げに言った。
「京子さん。泣かないで。素直に言う事を聞くならば、僕はやさしいんです」
純は京子の涙をハンカチでふいた。そして、おもむろに、コンビニ袋を開けた。
中には、たこ焼きと、オレンジジュースが、入っていた。純はそれを、おもむろに取り出した。
「京子さん。お腹が減ったでしょう。たこ焼きを買ってきました。はい。口をアーンと開けて」
そう言って、純は、たこ焼きを爪楊枝で刺して、京子の口へ持っていった。
京子は、言われたように口を開けた。純は、爪楊枝に刺した、たこ焼きを京子の口に入れた。
京子は、口の中に入れられた、たこ焼きをモグモグ噛んだ。
そして、ゴックンと飲み込んだ。純は、その仕草をずっと我を忘れたような表情で、眺めていた。飲み込んだ後にする事はない。京子は、恥ずかしそうに頬を紅潮させて顔をそらせている。
「おいしかったですか」
純がやさしい口調で聞いた。
「はい」
京子は顔を赤らめて答えた。
純は、二つ目のたこ焼きを爪楊枝で刺して、また、京子に食べさせた。
京子は、また、モグモクと噛んで、ゴックンと飲み込んだ。それを見ている純の顔は欣幸の至りといった様子だった。
純は、映画、「コレクター」の男のように、女を人間として見ているのではなく、人形と見ているのだ。純には、「コレクター」の男のような変質的な性格があるのだ。
純は、京子がたこ焼きを飲み込むと、
「はい。京子さん。咽喉が渇いたでしょう」
と言って、オレンジジュースの缶を京子の口に圧しつけた。
純は、缶を逆さにしていくので、飲まないとこぼれてしまう。京子は眉を寄せ、ウグウグ言いながら、ジュースを飲んだ。
ある程度、飲ますと、純はジュースを京子の口からはずした。
「おいしかったですか」
「は、はい」
京子は、顔を赤らめて言った。
純はニコッと笑って、また、たこ焼きと、ジュースを交互に京子に食べさせ。
純は、ジュースを二本買ってきていて、一本、京子に飲ませきってしまうと、二本目のグレープフルーツジュースを京子に飲ませた。京子はウグウグ言いながら、苦しげな表情で飲んだ。しかし、飲み込む前に口の中に入ってきたジュースが口からもれ、頤から咽喉へと伝わって、京子の体を濡らした。
「ごめんなさい。京子さん」
純は、あわててジュースをはずした。
すぐに、謝るところをみると、純は強がってても、気が小さい性格なのだろう。
純はあわてて、京子のバッグから、ハンカチを取り出すと、京子の体のジュースで、ぬれたところを拭きだした。
口の周りをふき、咽喉をふいた。それから、胸や、腹をふいた。
「あ、ありがとう。純君」
純は、黙って口の周りと、咽喉をふいた。
そして、次に、胸や腹をふきだした。
しかし、ふいているうちに、おかしな事が、起こり出した。京子の腹をふいていた純の手がプルプルと震えだしたのである。
純は眉をしかめて、苦しげな表情になり、ついに京子の体をふくのをやめて手を京子の体から離してしまった。
「ど、どうしたの。純君」
京子が、聞いたが、純は答えず、真っ赤になってうつむいてしまった。
純はワナワナ震えながら、股間に手を当ててさすり出した。
京子はニコリと笑った。
「ふふ。純君。純君が何を考えているか、わかるわよ」
京子は余裕の口調で言った。しかし、純は答えられない。うつむいてブルブル体を震わせている。股間をさする度合いは、いっそう激しくなった。
「ああー。もう我慢できない」
純は叫んで、顔を上げ、京子の豊満なビキニの胸にピタリと手を当てた。
だが、当てただけで揉もうとしない。
「ご、ごめんなさい。京子さん」
純は、申し訳なさそうな口調で言った。
ここで純の性格はわかってしまったようなものである。そうなのである。純は、奥手でウブで、女と一度も付き合ったことがないから、女の心が全くわからないのである。純は女の体を断りなく触ることは、女に対して、大変な失礼な事だと思っていたのである。しかし、現実には、女は男に心を許したならば、触られる事は、何ともない、どころか、快感なのである。しかし純には、それがわからないのである。
「ふふ。いいのよ。純君。私にさわっても」
京子は、自分の胸に手をそっと当てている純に、やさしく言った。
「ご、ごめんなさい。京子さん」
そう言うや、純はビキニの京子の胸や腹、太腿などを触りまくった。そうなのである。純はビキニフェチなのである。もっとも、世の男は、ほとんどは、女のビキニ姿に興奮するから、ビキニフェチ、という言葉は、当を得ていない言い方である。しかし、世の男は、女のビキニ姿に、もう慣れきってしまっている男もいるから、ビキニフェチという表現も必ずしも間違っているとは言えない。ただ、純の場合、その興奮度が、あまりにも強いのである。ちょうど、飢えた犬に餌を与えたような状態なのである。
「ああ。京子さん。幸せです」
そう言って純はビキニの京子の体を触りまくった。そうなのである。純はスケベなのである。京子は、そんな純を微笑して余裕で見ている。
「ああー。京子さん。好きです」
そう言って、とうとう、純は松の木に縛められている京子の体にしがみついた。
そうなのである。純は甘えん坊なのである。
しばし、ビキニの京子にヒシッと抱きついていた後、純は手を離し、パッと飛びのいて京子の前で、頭を土の上に擦りつけて土下座した。
「ごめんなさい。京子さん」
純は何度も謝った。そうなのである。純は鈍感なので、まだ、京子に悪い事をしたと思っているのである。
「いいのよ。純君。そのかわり、縄を解いて」
「は、はい」
純は京子の後ろに廻り、京子の手の縛めを解いた。
京子は、やっと自由になって、ふー、とため息をついた。
純は決まり悪そうな表情である。
京子は、縄が解かれるとすぐに携帯の入ったバッグをとった。
「ねえ。純君」
「はい。何ですか」
「純君は一つ、重要な事を忘れていると思わない」
純は、首を傾げたが、わからなかった。
「なんですか。重要な事って」
京子はニコリと笑った。
「ヒント。私はドコモの受け付け係りよ」
純は、頭をひねったが、わからなかった。
「何なんです。重要な事って」
京子はニコッと笑った。
「純君は自分の携帯の留守電に電話して、私の声を吹き込ませちゃったでしょう。私はドコモの受け付け係りよ。純君の携帯番号がわかってるんだから、調べれば、純君の住所、氏名、年齢、全部、わかっちゃうのよ」
ああっ。
純は真っ青な顔になった。
「ふふ。純君は婦女暴行罪ね。かわいそうに。私、純君の家と学校と、警察に連絡するから、もうこれで純君の人生はおわりね」
京子は勝ち誇ったように言った。
「きょ、京子さん。言わないで下さい。もう二度と京子さんに悪い事、しません。嫌がらせのメールも送ったりしません。で、ですから、許して下さい」
「ダメよ。だって純君は、私の写真と声を、しっかり自分の携帯に送っちゃったじゃない。どう、悪用されるか、わからないもの。私、こわくてしようがないわ」
「そ、そんなこと、絶対しません。写真も京子さんの声も、ちゃんと消去します。で、ですから、警察には、言わないで下さい」
純は土下座して、頭を土に擦りつけて謝った。
「ダメよ。純君が本当に消去するか、どうか、わからないもの。私、こわくてしようがないもの」
京子は勝ち誇った王者のゆとりの口調で言った。
「お願いです。信じてください。僕は、悪い人間じゃないんです」
そうなのである。純は悪い人間じゃないのである。
だが、京子は、信用できない、という疑いの目で笑いながら純を見ている。
「わかったわ。そこまで言うなら。家にも学校にも警察には、連絡しないわ。でも、もう純君の身元は、わかっちゃってるのよ」
「あ、ありがとうございます」
純は何度も頭をペコペコ下げた。
「でも、私は純君に弱みを握られちゃったから、私も純君の弱みをとっておくわよ。いいわね」
「は、はい。わかりました。で、でも弱みって、どんな事なんですか」
京子は答えず、ふふふ、と、笑って純の手を掴んだ。
そして純を松の木の前に背中が木につくよう座らせた。
京子は純の手をつかむと、あっという間に、純が京子にしたように、純の両手を木の後ろに廻して両手首を縛り、純を木に縛りつけてしまった。
「ああっ。何をするんですか。京子さん」
京子は純の前に座って、困惑している純の顔を笑顔で見た。
「ふふ。純君が木に縛られた、みじめな姿を写真に撮るのよ。そうすれば、純君も私に意地悪できにくくなるでしょう」
ああっ、と純は切ない声を出した。
「や、やめてください。そんなこと」
純は顔を真っ青にして訴えた。
だが、京子はバッグから、携帯を取り出して、純の訴えなど無視して携帯を純に向けてかまえた。
「さあ。とるわよ」
そう言って、京子は、ホクホクした顔つきで、携帯のボタンに指を当てた。
カシャ。
シャッターがきられた音がした。
京子は、満足至極という表情で、撮った写真を見た。
そして、携帯の写真を純に見せた。
「ああっ」
純は真っ青になって悲鳴を上げた。
そこには、悲しそうな顔で海水パンツ一枚で、松の木に縛められている純の姿がしっかりと写されていたからである。
京子は、しばしその写真を満足げに見ていたが、パチンと携帯を閉じて、バッグに戻した。
京子は純の傍らへ行くと、両手で純の海水パンツに手をかけた。そして、海水パンツを、おろし始めた。
「ああっ。な、何をするんですか」
純は驚いて大声で言った。
「純君の丸裸の写真も撮っておくのよ。その方が、より安全でしょ」
「ああっ。や、やめて下さい。京子さん」
純は叫んだが、京子はかまわず、純の海水パンツを脚からスルスルと抜きとってしまった。
純は一糸纏わぬ素っ裸にされてしまった。
丸裸にされた純は、男の恥ずかしいものを見られないよう腿をピッチリと閉じた。
「ふふ。かわいいわよ」
そう言って京子は、またバッグから携帯を取り出して、純に向けた。
「さあ。撮るわよ」
京子は携帯のボタンに指を当てた。
「ああっ。や、やめて下さい」
純は叫んだが、京子はかまわず、携帯のボタンを押した。
カシャ。
撮影音がした。京子は、満足げに撮影された写真をしばし見つめていた。
京子は、純に写真を見せた。腿をピッチリと閉じている純の裸が、しっかりと写されてた。
純は真っ赤になって、それから目をそらした。
「でも、このポーズは、あまりいいポーズじゃないわね」
京子は、そんな独り言を言って、ニコッと笑った。
「さあ。純君。足を大きく開いて」
そう言って京子は閉じている純の太腿に手をかけて膝を開こうとした。
「ああっ。や、やめてください」
純は、叫んだ。
「言う事を聞かないと警察に連絡しちゃうわよ」
その切り札には、純は無力だった。
純は、京子に言われたように股を開いていった。
純は股を開いたM字の格好になった。股間の真ん中にある、おちんちんと、ぶらさがっている玉袋が、丸見えになった。
京子は純の正面に座り、裸の純をしげしげと見つめた。
「ふふ。かわいい、おちんちんね。丸見えよ。どう。今の気持ちは」
「は、恥ずかしいです」
純は、顔を真っ赤にして足をガクガクさせながら、京子に見られるという屈辱に耐えた。
「それじゃあ、写真を撮るわよ」
そう言って、京子は、丸裸のM字で足を開いている純に携帯を向けた。
「純君。もっと大きく足を開いて」
純は言われたように、足をガクガク震わせながら、脚を大きく開いた。
京子は携帯から純の姿を見ている。
純は、こんな姿を写真に撮られる事に耐えられなくなり、とっさに頭を下げてうつむいた。
「だめよ。純君。それじゃあ、顔が見えないわ。しっかり顔を上げて」
京子の命令には逆らえない。純は、ゆっくり顔を上げた。純は屈辱と羞恥から、目をつぶった。頬が紅潮した恥じらいの表情である。
「いいわよ。純君。その表情。とっても哀愁があって」
それじゃあ、撮るわよ、と言って京子は携帯のボタンを押した。
カシャ。
撮影の音がした。京子は、撮影された写真を見て、にっこり笑った。
「うん。よく撮れてるわ。これがあれば、純君も私に意地悪できないでしょう」
純は答えない。耐え切れないといった表情で、目を閉じている。
「用心のため、一枚だけじゃなく、何枚か撮っておくわ」
そう言って、京子は、カシャカシャと数枚、裸で足を広げている純の恥ずかしい姿を写真に撮った。
「さあ。これくらい撮っておけば安心だわ」
そう言って京子は写した写真を見た。
純は、もはや、あきらめきった、という諦念の表情である。
「でも、この写真は、ちょっと携帯やネットで出すには過激すぎるわ。過激さ、を弱めた写真も撮っておくわ」
そう言って京子は純の海水パンツをとり、足を広げて丸出しになっている純のおちんちんの上にのせた。これで、純のおちんちんは隠された。だが、丸裸で恥部だけ隠された姿は丸裸より、いやらしく見える。
「ふふ。純君。すごくエロティックな姿よ。さあ。おちんちんは見えないから、安心してうんと股を開きなさい」
京子に言われて純は股を開いた。それは、京子に命令されたから、というより、純の意志で開いているように見えた。
恥部を隠している純の海水パンツが盛り上がりだした。純は黙って顔を赤らめている。
京子は、海水パンツをそっとめくってみた。
なんと、純のおちんちんは大きくなって、激しくせり上がっていた。
「わあー。すごーい。純君。興奮しちゃってるのね。こんな格好にされて興奮するなんて、純君って、マゾなのね」
京子は小躍りして言った。
純は言い返さない。黙って顔を赤らめている。
京子はめくった海水パンツをもどした。
そして再び、携帯を、裸で恥部だけ隠されている純に向けた。
「さあ。撮るわよ」
そう言って、京子は写真のボタンを押した。
カシャ。
撮影音が鳴った。京子は撮影された、みじめな純の写真を余裕の表情で見た。
京子は、つづけて数回、写真を撮った。
「はい。純君。よく撮れてるわよ」
そう言って、京子は、携帯の写真を純に見せた。
そこには、丸裸で松の木に縛りつけられ、足を大きく開いて、男の恥部だけ海水パンツで隠されている、みじめな純の姿が、しっかり写されていた。
純は、顔を真っ赤にして、写真から目をそらした。
京子はニヤリと笑った。
「じゃあ、写真だけじゃなく、純君の声も録音しておきましょうね」
京子はゆとりの口調で言った。
「も、もう、許して下さい」
純は、もう耐え切れないといった様子で切実に訴えた。だが、京子は、聞く耳を持とうとしない。
「さあ、純君。こう言うのよ。『僕はすごくきれいな女の人に、悪戯をしてしまいました。その罰として、僕は、こういうみじめな写真を撮られてしまいました。でも、僕はそれが、嬉しいんです。僕はマゾで、女の人にいじめられるのが嬉しいんです』」
純は真っ赤になった。
「きょ、京子さん。も、もう許して下さい」
純は泣きそうな顔で訴えた。だが、京子はそしらぬ風である。
「だめ。ちゃんと、しっかり言いなさい。言わないと縄を解いてあげないわよ」
そう言って京子は携帯を純の口元に近づけた。
純は、哀しそうな声で京子に言われたフレーズを弱々しい口調で言った。
「僕はすごくきれいな女の人に、悪戯をしてしまいました。その罰として、僕は、こういうみじめな写真を撮られてしまいました。でも、僕はそれが、嬉しいんです。僕はマゾで、女の人にいじめられるのが嬉しいんです」
言って純は、涙に潤んだ目を京子に向けた。
「きょ、京子さん。もう許して下さい。お願いです。縄を解いて下さい」
だが、京子はニコリと笑っただけで、純の哀願に答えない。
「ふふ。純君は本当はマゾで、こうされているのが嬉しいんでしょう」
京子はゆとりの口調で言った。
「さあ。答えて」
京子は問い詰めるように言ったが、純は黙ったまま答えない。
「ふふ。答えなくたって、わかるわよ。こんなに勃起しているは、どうして。本当は気持ちよくて興奮してるからでしょ」
そう言って、京子は、覆いの海水パンツをとって、隆々と勃起している純の、おちんちんを指さした。
だが、純は答えない。
「よーし。じゃあ、答えるまで拷問しちゃおう」
そう言って、京子は、裸で木に縛られている純の体をくすぐりだした。
京子は、触れるか触れないかの軽微な感触で、純の脇腹や首筋、腋の下などに指を這わせた。
また、爪の先でスッと触れたりした。
「ああー」
純は苦しそうな表情で体をよじった。
「や、やめて下さい。京子さん」
純は叫んだが、京子は、容赦しない。
京子は、いっそう激しく純をくすぐりつづけた。
純のおちんちんは、いっそう、激しくそそり立っていった。
「ああー」
純は、大きな悲鳴を上げた。
純のおちんちんから、ピュッピュッと白濁した液が飛び出した。
「ふふ。やっぱり純君はマゾなのね。こんな事されて射精しちゃうんだから」
純は京子の揶揄を受けてもガックリと項垂れている。
「じゃあ、もう縄を解いてあげるわ」
そう言って、京子は木の後ろに廻って、純の縛めを解いた。
純は縛めを解かれて自由になったが、気まずそうにガックリしている。
「はい。純君。ティッシュ」
京子はバッグからティッシュペーパーを取り出して純に渡した。
純は、気まずそうに、おちんちんを拭いた。
「はい。純君。パンツを履きなよ」
そう言って、京子は純に海水パンツを渡した。
純は素直に海水パンツを履いた。
「京子さん。お願いです。写真と声は消してください」
純は泣きそうな顔で訴えた。
京子は、思案げな顔つきで、ちょっと純を見つめた。
「わかったわ。消してあげる。でも、純君は私の写真と声を、もう、送っちゃったでしょ。今度、純君の携帯を私の所へ持ってきて。それまでメールは、操作しないで。今度、会った時、お互い、確かめ合いながら、メールを消しましょう」
「でも、メールはパソコンに送れば、パソコンに保存できますよ」
京子はニコッと笑った。
「そういう正直な事を言うから、純君は悪い子じゃないと、信じてるのよ」
そう言って京子は純の頭を撫でた。
純は雲間から日がさす様に明るい表情になった。
「あ、有難うございます。京子さん」
京子はニコッと笑った。
「純君。私が好き?」
「はい。もちろんです」
「じゃあ、また、会ってくれる」
「はい」
純は元気に答えた。
「でも、今日のような悪戯、また、しちゃうかもよ」
「かまいません」
純は自信に満ちた口調で言った。
「ふふ」
京子は純の頭を撫でた。
「じゃあ、今日は、これで終わりにしよう」
そう言って京子は純の手をとって純の自転車の所へ連れて行った。
純は自転車に跨った。
「ごめんね。プールに行きたいのを引き止めちゃって」
「いいえ。何でもありません」
二人は手を振って分かれた。
二人は、それ以来、仲のいい友達になった。
会うと、二人は色々なエッチな遊びをしている。

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スニーカー(小説)

2015-07-29 00:39:02 | 小説
スニーカー

 信一は桃子を見るたびに思うのであった。桃子はクラスの人気者で、女とも男とも明るく話す。男友達もいるが、深いつきあいではない。
 その中の一人にハンサムで頭もよく、スポーツもできる三拍子そろったヤツKもいた。桃子は彼ともごくふつうに友達としてつきあっていたが、彼は少しマジだった。
 信一は内心、桃子を思い、苦しい想いでねるのだったが、自分はとてもKにはまける。Kとさえ友達以上の関係にはなろうとしないのだから、自分ではとてもかなわない。自分は彼女の笑顔をかげからみていられるだけで、彼女とめぐり会える機会をつくってくれた神様に感謝しなければと思うのだった。
 ある日のこと、信一は朝の通学電車の中で少し離れた所に桃子がいるのをみつけた。信一は気づかれないよう、うつむいた。彼女が気づいて、「おはよう。」などと、くったくのない笑顔で言われようものなら、きまりがわるくてしようがない。だが目を床におとしても、桃子の存在が気になってしまう。一瞬でも、特に今は、誰とも話していない自由な状態の桃子が、どんな表情でいるのか、気になってしかたがない。うつむいていると、そんな心が作用して、信一の目に彼女のくつがとまった。それは、白いクツ下を身につけた清楚な足をおおい守るような、かわいらしい、テニスにでもふさわしい、丈夫な白いスニーカーだった。
 信一は思った。あのスニーカーはいつも彼女の全体重をささえ、守り、彼女とともに行動しているのだ。夜はスニーカーも休み、朝、桃子がでかける時、彼女にふまれる重さで、目をさまし、よし、今日も彼女をころばないように、たのしく歩けるようにと、ほがらかな気持ちになり、彼女をささえる友達のような心をもっているかもしれない。彼女が走る時、彼女のパタパタする脚を守り、たえずだまって彼女にふみつけられながら、うれしく耐え、やがてすてられ・・・・と思うと何か彼女に履かれている白いスニーカーが生きもののように感じられ、うらやましく、何か自分があのスニーカーになれたら、などと想像していた。
 教室で信一は、彼女のななめうしろにすわっていたのだが、それ以来、たいくつなつまらない数学の時間などつい、自分がスニーカーになって彼女の重みをささえているような、想像をするようになって、想像が強まって、本当に自分がスニーカーになりきると、我を忘れて、夢心地になって、恍惚としている自分にハッと気づくのだった。
 そんなある日のこと、桃子はクラスで、さえない目立たない、存在感がうすい信一の視線が自分の靴の方にあるのに何度か気づいて、信一の方へパッと目をやった。すると信一は、反射的にサッと目をそらすので、桃子は何かうれしく思い、ある日の放課後のこと、信一が一人で帰りじたくをしているところへガラリとしずかに戸をあけ、教室にはいってくると信一のとなりにこしかけて、
「よかったら今度の日曜、映画にいかない。」
などと言って、信一の手をはじめてにぎる。と、たちまち彼女のぬくもりが伝わってきて、でも自分にはとても不似合いだ・・・と思って困って返答に窮していると彼女は手をはなさなく、信一は目をつむり、顔を赤くして顔を少しそむけ、すまなそうに首をたれていると、彼女は
「行こうよ。」
とおいうちをかける。信一が手をひこうとすると、反射的に彼女はキュッとそれをひきとめようとするのが伝わる。
「私のくつ、何かおかしい。私の思いちがいいかもしれないけど・・・。」
と言うので、信一は申しわけなさそうに、頭を下げ、背をひくくして、コソコソと帰った。彼女はそれをあたたかく見守っていた。それ以来、桃子は、時々、信一の視線に気づくと笑顔をみせるようになった。学年があらたになり、桃子は勉強ができたので、信一とは別のクラスとなった。同じクラスだった時の最後の終業式の日、信一は罪をおかした。彼女のくつ箱から、彼女のくつをとって、かわりに、同じサイズの新しいスニーカーを、「ゴメンナサイ」とワープロでかいた紙切れとともに入れた。信一は彼女のクツをそのままの状態で大切に、へやの戸棚の一角にお守りのようにおいて、彼女を想い、一生の大切なお守りができたと思うと無上の幸せを感じた。
 新しい学期がはじまった時、信一は桃子と校門でであった時、彼女は信一の入れた新しいスニーカーをはいていた。つい信一は、ハッとさとられたのでは、と思い、彼女のくつに目がいき、すると彼女はそれに気づいて、信一にかわらぬ笑顔をかけると信一は、はっと、自分の犯した罪がわかってしまったのでは・・・・と思い、顔をそむけようとしたが、その時こぼれみえた彼女の笑顔の中には、信一がしたことを知っていて、それをゆるした、少しきゅうくつそうな感情を彼女の顔の中にみた。信一は大学をでて、小さな出版社で校正の朱筆を走らせているが、彼のアパートにはかわらぬ桃子のくつのお守りが、高校の時とかわらぬ想いでおかれている。

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三人の夏(小説)

2015-07-28 18:39:36 | 小説
三人の夏

 ある夏のイメージが思い出されるのであるが、その年は私にとって最も暗い年であり、一日中家にこもりきりだった。8月がおわってから、ある海岸へ行った。海には、一人の中学か、高校の女の子と、二人の男の子、きっと学校の友達だろう、が、いたが、その光景がすごくエロティックで、美しい。水をかけあったり、追い駆けっこをして、つかまえたり、もぐって水中からクラゲのようにチョッカイをかけたりしている。水着姿をみられることは、女にとって大変、恥ずかしい。同級生の男の子は、彼女に、海に行こう、と、ごく自然に、数学の時間のあと、言ったりして、彼女も、ごく自然に、うん、いいよ、なんぞと、言って、三人で海へ行ったのだが、彼女も男の子もうわべは、自然をよそおっていたが、彼女は、みられることに、刺されるような、恥ずかしい、ほのあまい、高校生くらいの年頃の子にとって、一番恥ずかしい、つらい快感を、そして、男は、近づきたいが、近づきすぎては、焼かれてしまう、イカルスのような切ない悩み、と、脳裏にやきついて、永遠に、死ぬまで、忘れない、いつもは、制服に、スカートの鎧で守っているのに、裸同然の姿を、みて、みられ三人は、たのしげに、夕風にふかれて、トロピカルジュースをのんだり、しているが、二人の男は、家に帰って、彼女の水着の輪郭を、思い出し、苦しく、何度も、はげしく自らを汚す。三人が二学期、学校で、あった時、彼女は、もう自分は、安全だとか、みせたのは、一度だけで、もうみせない、とか、二人が、あのあと、悩んだだろう、ことだとかを、優越感をもって、授業をうける。自分が女であることのよろこびを残暑に感じて。つまらない数学の授業だが、最高の夏だったと思いながら。

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ボディーボードの女(小説)

2015-07-27 01:14:11 | 小説
ボディーボードの女

 ある海水浴場である。一人の女性が毎日、その海水浴場へ来てはボディーボードを練習している。一人の少年がいつも座って文庫本を読んでいる。小さい体。青白い文学少年という感じである。女はピンクのビキニである。
女はボディーボードに夢中だった。が、時々、少年の視線がチラッ、チラッと女の方へ行く。女は浜へ上がった。そして海の家へ行ってアイスクリームを二つ買って少年の所へパタパタと走っていった。ビキニにつつまれた裸の体を揺らしながら。
「はい。これ」
女はアイスクリームを差し出した。海の家で買ってきたのである。女もアイスクリームを持っている。女は少年にアイスクリームを手渡すと、少年の横に座った。女の体からは水が滴り落ちている。
「あ、有難うございます。いくらですか」
少年はあわててポケットから財布をとりだした。
「いいわよ。私のオゴリ」
「で、でも・・・」
女はもうすでにアイスクリーム蓋をとって匙ですくって食べていた。
「いいから。早く食べないと解けちゃうよ」
「あ、有難うございます」
少年はあわててアイスクリームの蓋を開けた。そして食べはじめた。
「ボク、名前は」
「岡田悠といいます」
「フーン。いい名前ね。私は佐々木愛子。よろしくね」
「ボク。家はどこ」
「××町です」
「ちょっと遠いわね。自転車でどのくらい時間がかかるの」
「さ、三十分位です」
「海が好きなんだね。なぜここのビーチに来るの。もっと近くにもあるじゃない」
「・・・・」
「時々、私の方、見てたでしょう」
「・・・・」
「スポーツしてる時は無心の状態だから、かえって周囲がよく見えちゃうの。君の視線が時々、チラッ、チラッと私の方に来るの、私の方からは丸見えなの」
「ご、ごめんなさい」
女はクスッと笑った。
「ううん。別にいいわよ」
「もしかして、私に好意を持っていてくれたりして・・・」
「・・・・」
「もしかして、私を見るために、ここに来てるんだったりして。うぬぼれかな」
「・・・・」
「でも、ここ、人が少なくて静かだから、やっぱり違うかもしれないわね」
「・・・・」
「教えてほしいなー」
愛子は悠の手をギュッと握って、悠の目をじっと見つめて言った。悠はあせって、
「は、はい。その通りです」
愛子はクスッと笑った。
「ありがとう」
告白してしまったため、ことさら本心を言おうとする心理が起こって、悠は顔を赤らめて言った。
「はい。愛子さんの言うとおりです。僕は本を読みにここへ来ているのではなく、愛子さんを見たいためにここへ来ていました」
言って悠は真っ赤になった。
「嬉しい」
愛子は悠の手をギュッと握った。
「悠君にそんなに想われてたなんて嬉しいわ」
「僕も最高に嬉しいです。愛子さんにそう言ってもらえると」
「ねえ。悠君。せっかく海に来てるんだから遊ぼうよ」
「でも僕、海水パンツとか、持ってないですし」
「海の家で売ってるわ」
愛子は悠の手をとって海の家へ行った。愛子はしばし男用の海水パンツを選んでいたが、ひとつをとり、買った。愛子はそれを悠に手渡した。
「はい。悠君。着替えてきて。私はさっきの場所で待ってるわ」
服は自分のカバンと一緒にするため、番号札のついたリストバンドを手渡した。愛子は悠用にビーチサンダルも買った。

悠は恥ずかしそうな顔で戻ってきた。黒い小さなビキニパンツである。前はクッキリと男の輪郭が現われ、尻も半分近く露出している。動くと尻がますます露出される。
「ふふ。悠君。似合うわよ」
それは勇気ある大人の男がセックスアピールするものであって、悠には恥ずかし過ぎる。まるで女のビキニのようである。悠はビニールシートの上に横たわっている愛子の傍らにモジモジしながら座った。愛子は笑って悠を眺めている。
「あ、愛子さん。は、恥ずかしいです」
「ふふ。本当はちょっとイタズラして女のビキニを買おうかと思ったくらいなの。悠君は内気すぎるわ。海ではもっと開放的にならなきゃ」
愛子は悠に日焼け用オイルを渡した。
「さあ。悠君。オイルをぬって」
悠はコパトーンをうつ伏せになって寝ている愛子の体に塗った。悠の手はピクピク震えていた。

悠のおちんちんはカチカチに勃起していた。愛子は、ふふふ、と笑った。悠は出来るだけ愛子の体の端の方の、足の裏を指圧したり、脹脛を一生懸命、揉んだ。指圧の心地よさのためか愛子は眠ってしまったかのように、うつ伏せのまま微動だにしなくなった。

日が暮れだした。愛子はムクッと起き上がった。
「悠君。ありがとう。気持ちよかったわ」
悠は顔を真っ赤にしてうつむいた。
二人は海の家に戻り、シャワーを浴びて服を着て出てきた。
「悠君。よかったら私の家に来ない。マッサージしてくれたお礼に夕食をつくるから食べてって」
悠は小さな声で、
「はい」
と言った。
愛子はニコッと笑って、悠の手をギュッと握った。悠の手を曳きながら愛子は駐車場へ行った。白のカリーナが一台、とめてあった。愛子はトランクを開けて、ボディーボードとバッグを入れた。そして左側の助手席のドアを開けた。
「さあ。悠君。乗って」
悠は申し訳なさそうに車に入って、膝を揃えてカバンを胸の前に抱えて助手席にチョコンと座った。愛子はバタンとドアを閉めると、反対側に回って右のドアを開けて、運転席について、ドアを閉めた。
「悠君。シートベルトを締めて」
「はい」
悠はシートベルトをひっぱり出してカチャリとロックした。愛子はエンジンをかけた。眠りからさめたかのように車はブロロロロロと振動音をたてた。
「じゃあ、行くわよ」
愛子は勢いよくアクセルを踏んだ。

車は海岸通りの道を少し走った後、市街地へ出て、ある交差点で路地に入っていった。
「悠君。何を食べたい」
「な、なんでもいいです」
「じゃあ、ステーキでいい」
「はい」
愛子は路地に面したスーパーの駐車場に車を止めた。
「ちょっと買い物してくるから待っててね」
そう言って愛子は車を降りた。数歩、歩いて、愛子は立ち止まって踵を返し、パタパタと小走りに車に戻ってきた。コンコンと愛子が窓を叩くので悠はウインドを開けた。
「悠君。私、人さらいじゃないからね。悠君を監禁して身代金を要求したりしないからね。安心してね。逃げちゃわないでね」
悠はニコッと笑って、
「はい」
と返事した。愛子も相槌の笑いをしてスーパーの中に入って行った。
しばしして、愛子が戻ってきた。ビニール袋を提げて。愛子は悠を見るとニコッと笑った。愛子は車に乗り込むと、袋を後部座席に置いた。
「へへ。よかった。悠君が逃げないでくれて」
悠もニコッと笑った。愛子はエンジンキーを回し、車を出した。知らない街を車が走っていく。悠は地理に疎いので、ここがどこかわからない。しばしして、ある木造平屋建ての家に着いた。
「さあ。ついたわよ。降りて。悠君」
悠は愛子に促されて降りた。
二人は家に入った。
「じゃあ、悠君。食事をつくるから食卓で待ってて」
「はい」
「悠君。焼き具合はミディアムでいい」
「はい」
悠は食卓についた。緊張のため、膝が少しカタカタ震えている。キッチンでジュージュー音がする。しばしして、料理が出来たらしく、愛子が料理を持ってきた。焼きたてのステーキが皿の上で、ジュージュー音をたてている。それから、コーンポタージュスープとライスとサラダを持ってきた。料理を並べると、愛子はニコッと悠に笑顔を笑顔を向けた。
「悠君。お酒は飲む」
悠はびっくりした表情で首を振った。
「とんでもありません。僕、お酒なんて飲めません」
「じゃあ、ジュースにするわね」
そう言って、愛子はグラスを二つとオレンジジュースを持ってきてグラスに注いだ。愛子は悠と向かい合わせに食卓についた。愛子は悠のグラスにオレンジジュースを注ぎ、自分のグラスにも注いだ。愛子はグラスを持ち上げた。
「悠君も、もって」
言われて悠はグラスをそっと持ち上げた。
「さあ。今日は悠君と、お友達になったお祝い。カンパーイ」
そう言って愛子は自分の持っているグラスを悠のグラスにカチンと当てた。
「さあ。悠君。一緒に飲もう」
そう言って愛子は一口飲んだ。悠もゴクゴクと飲んだ。二人は料理を食べだした。
「どう。味は」
「はい。すごく美味しいです」
「そう。それはよかったわ」
悠は緊張して無我夢中でステーキを切って食べた。御飯は一粒も残さなかった。食事がすんだ。
「ご馳走様でした。とてもおいしかったです。有難うございました」
食べ終わって悠は深く頭を下げた。
「よかったわ。悠君に満足してもらえて」
愛子は笑顔で悠を見た。食べおわった後も悠は緊張してじっと座っていた。少し膝がカタカタ震えている。そんな悠を愛子は嬉しそうな顔で見た。
「ふふ。悠君。何を考えているか、わかるわよ。エッチな事、考えてるんでしょう」
悠は真っ赤になった。愛子は、ふふふ、とイタズラっぽく笑った。
「悠君。今までに女の子と付き合ったことある」
「な、ないです」
「でも女の子には、すごく興味があるんでしょう」
悠はまた真っ赤になった。愛子はつづけて言った。
「悠君は内気だから、女の子に声をかけられなかったのね。でも悠君の年頃は一番エッチなことをしたい時だから、我慢してたら神経が疲れちゃうわ。そうでしょう」
「は、はい」
悠は真っ赤になって言った。
「じゃあ、私が悠君の恋人になって、悠君の性欲を満たしてあげるわ。いや」
悠はうつむいて顔を真っ赤にして黙っている。
「いやならいいわよ」
愛子は、つきはなすような口調で言った。
「・・・い、いえ。・・・あ、あの・・・あ、ありがとうございます」
悠は声を震わせて言った。愛子はクスッと笑った。
「じゃあ悠君の性欲を満たしてあげるわ。強盗ごっこをやろう。悠君が押し入り強盗で、私の家に入り込んで、私を縛り上げて、私にエッチな事をするの。どう」
悠はゴクリと唾を飲んだ。
「キマリ。じゃあ、畳の部屋に行こう」
そう言って愛子は悠を寝室へ連れて行った。六畳の落ち着いた部屋である。
「ちょっと待ってて。押入れから縄を持ってくるから」
そう言って、愛子は部屋を出て行った。そして直ぐに縄を持って戻ってきた。
「さあ。悠君。縛って」
そう言って愛子は床柱の前に座って、両手を背中に回して手首を重ね合わせた。悠は言われた通り、背中で重ね合わされた手首を縄で縛った。
「あん。悠君に縛られちゃった」
愛子は鼻にかかった声で言って、縛められた胸を揺すった。
「さあ。悠君。あまった縄を前に回して胸の上下を縛って」
悠は言われた通り胸の上下を乳房を挟むように縛った。
「じゃあ、残った縄を柱に縛って」
悠は縄尻を愛子の後ろの柱につなぎとめた。

「ふふ。悠君に捕まえられちゃった」
愛子は横座りして柱につなぎとめられている。ミニスカートのためムッチリした太腿の奥にパンティーの盛り上がりが見える。悠は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。白いブラウスの胸のところが、乳房の上下を挟むように縄で縛られているため、乳房が絞り出されている。後ろ手に縛られた縄は柱に繋ぎ止められていてまさに悪漢に捕まえられた美女の図である。悠は興奮して勃起していた。生唾をゴクリと飲み込んで。悠が黙って動かないので愛子は体を揺すって催促した。
「さあ。悠君。何をしてもいいわよ。私は悠君に捕まえられちゃったんだもの」
「いいんですか。本当に何をしてもいいんですか」
悠は念を押すように聞いた。
「もちろんよ」
愛子は微笑して言った。悠はためらいがちにそっと愛子の体に手を触れた。温かくて柔らかい弾力が伝わってくる。
「あん」
愛子は小さな喘ぎ声を漏らした。悠はだんだん図に乗ってきて、触手をあちこちに伸ばした。胸をそっと触ってみたり、腿をその弾力を確かめるように触ったりした。愛子の尻も触った。悠がスカートの中へ手を伸ばそうとすると、愛子は、
「あっ」
と叫んでピッチリと腿を閉じた。
「ごめんなさい。愛子さん」
悠が素早く手を引っ込めると、愛子は笑って首を振った。
「いいのよ。悠君。何をしても。私は悠君に捕まえられちゃったんだもの」
悠は愛子の髪を撫でたり、鼻の筋や顎など、顔を丹念に触った。愛子は悠に弄ばれている人形である。悠はびんびんに勃起している。
「ああー。愛子さん。幸せです。僕、一度、女の人にこういうエッチな事をしたかったんです。それが愛子さんのような綺麗な人に出来るなんて。夢のようです」
悠は興奮してうわずった口調で告白した。愛子は、
「ふふふ」
と笑った。悠は愛子の髪や体に鼻先を近づけてクンクン嗅いだ。
「ああー。いい匂いだ」
「ふふ」
愛子は興奮している悠を余裕の表情で見ながら笑った。
「悠君。私の服を脱がせて」
「えっ。どうしてです」
「だって、私は悠君に捕まえられちゃったんだもの。捕まえられた女は逃げられないように裸にされちゃうでしょ」
悠はゴクリと唾を飲んだ。
「さあ。悠君。一度、縄を解いて」
言われるまま悠は愛子の縛めを全部といた。
「さあ。悠君。服を脱がせて」
言われるまま、悠は恐る恐る手を震わせながら、愛子のブラウスのボタンをはずしていった。Cカップのブラジャーがブラウスの中から見えてきた。悠は極度の緊張のため手がプルプル震えて竦んでしまった。それ以上先へ進めなくなってしまった。愛子はニコッと笑った。
「いいわ。自分で脱ぐわ」
そう言って愛子は微笑しながらブラウスを自分で脱いだ。そしてスカートのチャックをはずし、腰を浮かせて、スカートを足から抜き取った。愛子はブラジャーをはずした。豊満な乳房を片手で覆いながら。手の覆いからこぼれて見える乳房の下縁が美しく見える。愛子は腰を浮かせてパンティーも下ろして足から抜き取った。愛子は一糸纏わぬ丸裸になった。そして再び横座りにしゃがみこんだ。片手で乳房を、片手を秘所に当てて隠している。
「ああっ。恥ずかしいわ。でも私は悠君に捕まえられちゃったんだものね。仕方ないわ」
「さあ。悠君。もう一度縛って」
そう言って、愛子は秘所を覆っていた両手を背中に回して、手首を重ね合わせた。
「悠君。今度は手首を縛るだけにして」
悠は言われた通り手首だけを縛った。
今度は胸に縄がない。何一つ覆いのない全裸を後ろ手に縛られているだけである。この縛めは悪漢ごっこの遊びのものなので、愛子がむきになって抜けようと思えば抜けられないことはない。この縛めは愛子が捕縛されているということを形に表している象徴である。今、まさに全裸の美女が後ろ手に縛められて、じっと座っているのである。悠は食い入るように見つめた。顕になった二つの乳房は、はっきりと輪郭をあらわして、重力によってたわんだ下部が丸い輪郭をはっきりと虚空の中にあらわしている。乳房の上半部はピンと一直線になり。山の頂上には、屹立した乳房が顕になっている。その下には腹の真ん中に縦長の臍の窪み。その下では女の最も恥ずかしいY字の所が何の覆いも無く顕わになっている。悠が唾を飲んでそこをじっと見つめていると、
「あん。悠君。恥ずかしいわ。あんまり見ないで」
と言って、愛子はピッチリと腿を閉じ合わせた。悠は、はじめてみる女の乳房をじっと見ていたが、ついに耐えきれず、そっと手を伸ばして、乳房に触れ、手のひらを乳房にピッタリつけた。温かく柔らかい感触が手のひらに伝わってくる。悠は乳首をそっと摘んでみた。
「あん」
愛子が反射的に声を漏らす。悠は初めて触る好奇心から、乳首から腹、太腿、足の先へと触手を伸ばした。愛子は人形のようにされるがままになっている。

「ゆ、悠君。お風呂に入りたいの」
愛子がそう言ったので、悠は手を引っ込めた。愛子は腿をピッタリくっつけたまま、立ち上がった。愛子が後ろ手に縛められた全裸のまま、そろそろと風呂場へ歩き出した。悠は愛子の手首から伸びている縄尻を取ってついて行った。官憲が捕縛した犯人を連行するように。ムッチリとした弾力のある尻がピッチリと閉じ合わさって、割れ目がくっきりと見える。風呂場へついた。浴槽には湯がいっぱい満たされてあった。悠がどうするのだろうと思っていると、愛子は洗い場のマットの上に膝を折って腰をおろし正座した。
「さあ。悠君も来て。裸になって」
悠は言われるまま、服を脱ぎ、パンツも脱いで全裸になって浴室に入った。今では愛子も悠も同じ全裸であるが、愛子は後ろ手で縛られているため、自分では何も出来ない。観念した様子で、浴槽の前でじっと正座している。悠も裸を見られることは恥ずかしかったが、愛子の背後にいれば見られることはない。悠は愛子の背後に座った。
「私、縛られていて、手が使えないから、自分で洗うことが出来ないわ。お願い。悠君。洗ってくれない」
悠は嬉しくなった。愛子の体を丹念に洗うことが出来るのである。愛子の体の感覚を心地ゆくまで味わえるのである。悠は洗面器で浴槽の湯を一杯すくうと、愛子の項のあたりから、ざあっとかけた。麻縄に湯が浸み込んで収縮して縛めが強くなって、もう抜けられないように見える。
「熱くないですか。愛子さん」
「ええ。大丈夫。ちょうどいい温度で気持ちいいわ」
愛子が笑顔でそう言うので悠は嬉しくなって、二回、三回と愛子に湯をかけた。
「ゆ、悠君。洗ってくれない」
そこには体を洗うスポンジがあった。悠は洗面器で湯をすくってスポンジを湿らせて石鹸で泡を立てた。悠は嬉しそうに背後から愛子の背中を洗い出した。力を込めて、ゴシゴシ擦ると、愛子の体がそれにともなって揺れる。年齢の大きな差から、華奢な愛子の背骨が丈夫に感じられる。背中から腕、太腿から足の先へと移動していった。足の裏も丁寧に擦り、足指の股の間も一本、一本、丁寧に洗った。そして洗った後には湯をかけて泡を流した。
「あ、ありがとう。悠君。気持ちいいわ」
愛子は笑顔を見せてお礼を言った。後ろが終わったので、悠はいよいよ前を洗い出した。腹を擦り、スポンジを上行させて乳房をそっとこすった。やわらかい弾力が返ってくる。悠は興奮して勃起していた。悠のスポンジが愛子の腹の方へ下降していく。神経質な悠は、洗い残しの部分が無いよう、「洗って」と言われたからには、愛子の体をくまなく洗わなくては、という義務感にとらわれてしまっている。悠は尻からはじまって女の秘部もそっと洗った。スポンジのため、手はそこに直接には触れない。泡のため、恥ずかしい所も隠されて見えない。
「ゆ、悠君」
「何ですか。愛子さん」
「い、いいわよ。胸を触って」
悠はスポンジを置いて、愛子の乳房に触れた。泡のため、ツルリとしてたとえようも無く気持ちがいい。
「ああっ。愛子さん。気持ちいいです」
悠は叫んだ。
「悠君」
「は、はい」
「下も触っていいわよ」
悠は石鹸で泡をつくって女の秘部に手を這わせた。初めて触れる女の秘部に、悠の心臓はドキドキと高鳴った。そこは弱々しく、鶏のとさかのような弱々しい襞があった。悠ははじめて触れる女の秘部に驚いた。
「悠君」
愛子はおちついた口調で言った。
「割れ目があるでしょ」
「は、はい」
「そこに指を入れて」
悠は割れ目を開いて指を割れ目の間に当てた。悠は女の秘部に触っている事に心臓が破裂するほどドキドキしていた。それは、とろけるような甘美な快感だった。
「ゆ、悠君」
「は、はい」
「もっと後ろの方へ指をずらせて。そこに穴があるから指を入れて」
悠は指をピタと当てたまま、少し後ろに指を移動させた。そして言われたように指を入れてみようとした。しかし入らない。
「あ、愛子さん。入りません」
悠は申し訳なさそうに言った。
「穴がキュッと締まっているの。指を立てて、はじめちょっと力を入れて。指が通れば後は楽に入っていくわ」
悠は言われたように指を立てて力を入れて指を押し込んだ。すると愛子が言ったとおり、指が穴を通った。後はもうスルスルと楽に入っていった。穴はキュッと締まり、入った指をはなさないといった感じである。
「ああー。いいっ。気持ちいい」
愛子は体をブルブル揺すって、眉を寄せ、叫んだ。悠は指先で周囲を探検した。そこはヌルヌルしていて、キュッと指を締めつけてきて、女の体の中という感じがする。
「ああっ。気持ちいいわ。悠君」
愛子は眉を寄せ、切ない声を出した。
「愛子さん。この穴は何なんですか」
「それは女の一番大事な所なの。悠君もそこから生まれてきたの。私、もう、悠君に全て知られてしまったわね」
愛子は後ろ手に縛められた手をギュと握りしめた。尻がプルプル震えている。悠の指は入ったままである。
「ゆ、悠君」
「は、はい」
「指先をゆっくり動かして」
「は、はい」
悠は言われたようにした。
「ああー」
愛子は眉を寄せて叫んだ。
「ど、どうしたんですか」
「女はそこを刺激されると気持ちよくなるの」
悠は愛子の表情を見ながら、指を動かした。が、時々とめた。愛子と一体となっているような感じがして何とも言えず気持ちよかった。出来る事ならこのままずっとこうしていて、時間が止まってくれたらどんなにいいだろうと悠は思った。愛子も指の動きが止まったので余裕が出てきたのだろう。
「ふふ」
と、悠に笑顔を見せた。
「ごめんね。悠君。私だけ気持ちよくなっちゃって。女はそこを刺激されると気持ちよくなるけど、悠君は別に気持ちよくないでしょ」
「いいえ。愛子さんと体が一体となっているようで、すごく気持ちいいです」
「ありがとう。悠君。指を入れたまま好きな所を触っていいわよ」
悠は残った手で、愛子の尻を撫でたり、腹を触ったりした。そして乳房に手を当てて、そっと揉んでみたり、乳首をキュッと摘んでみたりした。そして時々、穴に入れた指先を動かした。
「ああっ。いいわ。気持ちいい」
愛子は後ろ手に縛められた指をギュッと握り締め、体をブルブル震わせて叫んだ。尻から腿がブルブル震えている。こうすると愛子は気持ちがいいんだ。愛子を喜ばそうと思って悠は女の穴に入れた指先を動かしながら、乳房を揉んだり、尻や太腿を撫でた。しばしして愛子は激しく体をブルブル震わせた。
「ああっ。いい。いくっ」
と叫んだ。そう言った後、愛子は死んだように動かなくなった。悠が指先を動かしても反応が無い。しばしして愛子は悠に優しい視線を向け、
「ありがと。悠君。気持ちよかったわ」
と言って、目を閉じた。愛子はしばらく快感の余韻に浸っているといったような感じだった。しばしの後、愛子は目を開けて、身を起こした。
「ありがと。悠君。疲れたでしょ。もう指を抜いて」
悠は指を抜いた。愛子は悠を見て、
「ふふふ」
と笑いかけた。悠は洗面器で湯をすくって、愛子にかけ、愛子の体の泡を落とした。

「悠君」
「はい」
「縄を解いてくれない」
「はい」
悠は愛子の後ろ手の縄を解いた。水を吸収していて、少し解くのが硬かった。が、悠は一生懸命解いた。自由になった愛子は湯船から洗面器で湯をすくって、悠にかけた。
「悠君。私を洗ってくれてありがとう。お礼に今度は私が洗ってあげる」
そう言って愛子は悠に何度か湯をかけた。
「目を瞑って。頭にかけるわよ」
愛子は悠の頭に湯をかけた。
「髪を洗うわよ」
愛子は悠の頭にシャンプーをかけ、ゴシゴシ頭を泡立てた。そして石鹸で泡をつくり、顔も洗った。そして一気に頭に湯を何杯もかけ、泡を落とした。
「大丈夫だった」
「はい」
悠は元気よく答えた。愛子は石鹸でスポンジを泡立てて、悠の体を丹念に洗っていった。背中、胸、腹。腕も、指先まで指を一本、一本、洗った。それから、勃起しているおちんちんと二つの玉も丁寧に洗った。
「気持ちいい」
「は、はい」
「そう。じゃ、あとでもっと気持ちよくしてあげるわ」
愛子は笑いながら、悠の尻の割れ目から、足先までくまなく、丁寧に洗った。悠の体は泡だらけである。愛子は、
「ふふふ」
と笑い、悠の腋の下の窪みをそっと揉んだ。悠は愛子に逆らえない。
「ああー」
悠は眉を寄せ、くすぐったさに耐えた。
「あ、愛子さん。許して下さい」
「どうしたの。悠君」
愛子はそっけない言い方で聞いた。
「くすぐったいの」
「え、ええ」
「でも、もうちょっと我慢して。そのくすぐったさが気持ちよくなるから・・・。力を抜いて」
言われるまま、悠は愛子にしがみつくようにして耐えた。だんだん慣れてきて、つらさが心地よい快感に変わってきた。何か、とろけるような快感が悠に起こってきた。悠は愛子に身を任せた。愛子は巧みな手つきで悠の体を撫でたり。乳首をキュッと摘んだりした。
「あっ」
と悠は声を漏らした。愛子は再び、手に石鹸をつけて、泡を立てて、今度は悠の玉を揉みながら、おちんちんをゆっくりしごき出した。悠のそれは、ただでさえ、はちきれんばかりに興奮して勃起している。愛子は片手で悠のそれをしごきながら、残りの手で指を立てて、悠の尻を撫でたり、尻の割れ目をスーとなぞったりする。悠はその度、
「あっ。あっ」
と悲鳴を上げた。頭がとろけそうな快感と、もどかしさに悠は歯をカチカチならしながら耐えた。愛子は笑いながら、ゆっくりしごきつづけている。
「あっ」
悠は悲鳴を上げた。愛子の指が悠の尻の穴にピッタリと吸いついたのである。それは吸いついたまま動かない。逃げようと腰を動かしても忠実に吸いついたまま、追ってくる。だんだんそれが窄まった尻の穴を撫でたり、意地悪い生き物のように刺激してくる。その間も、はちきれそうなおちんちんへの優しい刺激のしごきは続いている。悠は体内から、オシッコとは違う何かが出てきそうになるのを感じた。悠は全身をガクガク震わせて、どうしようもない甘美な、もどかしさに耐えた。悠は泣きそうな顔を愛子に向けた。愛子は静かに微笑しているだけである。悠は愛子にしがみついた。突然、愛子の指先が悠の尻の穴に入ってきた。
「あっ」
悠は悲鳴を上げた。体内にそれまでたまっていて、甘美にして意地悪く悠を刺激してきた何かが出てくるのを悠は直感した。
「ああー。出るー」
悠は悲鳴に近い声で叫んだ。同時に勢いよく、悠のおちんちんから、白濁液が大量に飛び出した。しばし肩で息をしていた悠は、ようやく落ち着くと愛子を見た。愛子は悠のおちんちんに湯をかけて洗った。
「どう。気持ちよかったでしょう」
「は、はい」
悠は顔を赤らめて答えた。
愛子は悠に湯を数回かけて悠の体を流した。大量に出た悠の精液も流された。

愛子は立ち上がって、湯船に足を入れた。悠の手を握って。悠も湯船に入れた。湯の中で愛子は、赤ん坊を抱くように、悠を背後から抱いた。愛子の豊満な乳房が悠の背中に当たって、悠は心地よい気持ちで愛子に身を任せた。

しばしして二人は風呂から出た。もう10時を過ぎていた。
「悠君。もう夜になっちゃったから、今日は泊まっていかない」
「はい」
悠は携帯を家にかけ、母親に、今日は友達の家に泊まる、と伝えた。
「悠君。もう寝ようか。いろいろやって、疲れちゃったでしょ」
「はい」
悠は元気よく返事した。愛子は悠をさっきの寝室に連れて行った。愛子は蒲団を並べて敷き、悠に着流しの浴衣を渡した。二人は浴衣を着て布団に入った。枕元には小さなスタンドがあった。愛子は悠を見てニコッと笑った。
「悠君。私、イビキがうるさいかもしれないけど、うるさかったらゴメンね」
「いえ。全然かまいません」
愛子はニコッと笑った。
「じゃあ、おやすみ」
そう言って、愛子はスタンドのスイッチを消した。悠は興奮して眠れるどころではなかった。

愛子はすぐに眠った。庭では鈴虫が鳴いている。愛子が眠ったと思ったのは、微かに小さないびきが聞こえてきたからだ。それは狸寝いりとは悠には思えなかった。悠は眠れるどころではない。愛子は寝相も悪く、「ううん」と言って、布団を跳ね除ける。悠は静かに行動を開始した。愛子が寝ているのをいい事に、愛子の顔をまじまじと眺め、鼻の穴や、半開きになった口を見た。布団の上に、開扇状に乱れた湯上りの髪に鼻を近づけて、においをかいでみた。全てが女の体臭である。着流しの寝間着の裾が乱れてパンティーが見える。悠は勇気を出して寝巻きの帯を解いて合わせを開いた。ブラジャーは着けてなく、横紐のパンティー一枚で、ほとんど全裸に近い。愛子が寝ているのをいい事に悠は女の体の曲線の美しさに見惚れていた。悠は勇気を出して愛子の胸に顔を近づけて、チュッと乳首に口唇をつけた。愛子はよほど深く眠っているらしく、刺激に対する反射で、「ああん」と言っただけで、起きなかった。悠は愛子の口唇をじっと見ていたが、半開きの口からは涎が出ている。悠はそっと顔を近づけて、愛子の口唇に軽くキスをした。が、愛子は無反応である。悠は愛子のしなやかな手の指先をそっと口に含んで見たり、くびれたウェストや臍をそっと触ってみたりした。次に悠はパンティーの盛り上がりをじっくり眺めた。それはあまりに悩ましかった。悠は愛子に気づかれないよう、パンティーの盛り上がりをそっと指で触れてみた。あまりの柔らかさに、ただただ見入るばかりであった。そしてパンティーの盛り上がりに鼻先を近づけて、匂いをかいでみた。風呂でよく洗ったため、ほとんどにおいはしないが、鼻をパンティーに当てて勢いよく吸い込むと、微かにむっとするような独特の少しくさい体臭がする。が、それは悠を失望させなかった。これが女の体臭なのだと思うと何かそのにおいが地上でもっとも神聖なものに思われた。悠はパンティー紐をそっとほどいた。愛子が深い眠りにあるのをいい事に、そっと股を開いてみた。悠はスタンドをパンティーの所へ持っていき、弱い灯りをつけた。スタンドの明かりでそっとそこを見た。女の毛はきれいに剃られていている。パンティーの盛り上がりの肉の下に割れ目がある。鶏のとさかのような襞が二つあって、閉じ合わさっている。色は少し黒い。これが大人の女の人のアソコなんだな、と、悠は息を呑んで、それをじっと見つめた。悠は少女のアソコは、以前、写真で見たことがあったが、ただ割れ目が閉じ合わさっているだけだった。それが大人になると鶏のとさかのようなものが、盛り上がってきて、色も黒くなってくるのだなと思うと、その実物を年齢不相応に見ている事にますます興奮してきた。色の黒さも、とさかのような肉も全てがこの世で最も美しいものであるというような啓示を感じた。悠はそっとその黒いとさかを開いてみた。中は外見とは違ってピンク色のきれいな肉があった。悠はしばしそこを開いたり、閉じたりして、脳裏に焼きつくほどに見つめてから、また、元のようにパンティーの横の紐を結び、愛子の寝巻きを合わせて帯を結んだ。そしてスタンドの光を消した。そのまま悠は眠りについた。

   ☆   ☆   ☆

 翌朝。まだ蒸し暑くない心地よい夏の朝だった。愛子と悠は向かい合わせに食卓について、トーストとコーンスープの朝食を食べた。
「悠君」
「はい」
「昨日の夜、私にエッチな事したでしょう」
「ご、ごめんなさい」
悠は真っ赤になってあやまった。
「お互い同意した上でエッチな事するのはいいんだけど、相手の同意なしでエッチな事するのは、いけない事なんだよ」
「こ、ごめんなさい」
悠はペコペコ頭を下げて謝った。
「私が警察に言ったら、悠君、少年犯罪者になって、少年院に入れられちゃうんだよ」
「ゆ、許して下さい。本当に悪い事をしてしまって申し訳ありませんでした」
どーしよーかなー、と愛子はしばし宙に目を向けていた。が、パッと視線を悠に戻した。
「いいわ。許してあげるわ。でも条件があるわ。それに従うなら許してあげるわ」
「はい。何でもいう事を聞きます。条件って、どんな事でしょうか」
愛子は両手を組んで、その上に顔をのせ、ニコッと笑った。
「それは、これからも悠君が私と付き合ってくれるってこと」
悠の顔が明るくなった。
「はい」
悠は元気に返事した。

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下着売りの少女(小説)

2015-07-26 01:14:05 | 小説
下着売りの少女


 むかしむかし、ではない。これはそんな昔にはなかったであろう。90年代か平成年代である。貧しい少女が東京の郊外のオンボロアパートに住んでいました。少女は九州から上京して東京の短大に入ったのです。少女の両親は老いた駄菓子屋だったので、短大の学費は工面がつきませんでした。しかし少女はどうしても都会の短大を出て、東京のOLになる事を夢見ていました。きっと東京ってすばらしい、きらびやかなところに違いないわ。原宿とか渋谷とか、日本のファッションの発祥地なのだわ。少女のあこがれは、このままこの土地のどこかの零細会社に就職して、アゼ道を通りながらモーモー泣いてる牛のモー太やジローをみて一生を過ごす勇気はやはりもてませんでした。
「モー太。ちょっとのお別れね。しっかり食べておいしい牛肉になっておくれ」
と言うと、モー太はモーと一声泣きました。この泣き声には二種類の哀しみが込められていました。さて少女が上京の日が来ました。少女はアルバイトをして学費と生活費を捻出しなくてはなりませんでした。
「京子や。すまないね。お金を出してあげられなくて。東京は寒いだろうけど気をつけておくれ。悪い男にだまされるんじゃないよ」
と言って見送りました。京子は都会の短大に通い、アパートは渋谷に借りた。何しろ学費も生活費も自分で働き出さなくてはならない。アパートは六畳一間のボロアパートで、建付けが悪く、冬は、すきま風がビュービュー入ってくるのでたまったもんじゃない。コタツにちぢかんでも、寒さのため、あまり集中して勉強できない。学費と生活費のため、一日中アルバイトをした。バーガーショップで、
「いらっしゃいませ。ポテトはいかがでしょう」
だが時給700円では、なかなか苦しい。スカートの裾を3cm詰めればその分時給900円にしてやろう、と、店長に言われた時はさすがに面食らった。言われてみれば他のクルーもスカートの裾が短く見える。東京とはこういう所なのだなと京子はおどろいた。学費は高い、が、何としても無事卒業して花のOLになりたい。で、卒業成績も良くして、出来るなら丸の内のような資本主義経済がもつコンドラチェフの波に左右されない安定したところへ入りたかった。が、こういう感じ方を荷風は嫌うだろうが、荷風とて、文学的資本主義の覇者であることを考えれば非難されるべきことではない。彼女が自分だけ良ければいいという性格でなかったことは、
「みんな一緒にガンバロー」
というのが、彼女のよく言うコトバでその気持ちに偽りはなかった。学校にもちゃんと出席したい。でもバイトもしなくてはならない。しかも書籍代も友達との付き合いの雑費もバカにならない。就職探しのため買った中古のパソコンのインターネットで、ある晩、ホームページの掲示板に、「誰か私の下着買ってくれませんか」と、切実な思いで書いてあった。「えっ」と、京子は驚いた。これはアソ山のふもとで健全に育った京子にとって驚きだった。東京では使用済みの下着を売り買いしているとは。どういう人が買うのかしら。京子はアソ山のもとで健全に育ったため、その意味がわからなかった。でも友達でアメ横で中古のジーパンを買って履いている人を知ってたため、きっとそんなニュアンスだと思った。ジーパンも新品より、履きならされているほうがアンティークな魅力があるらしい。なかには擦り切れて、膝が破けた、物乞い的な中古のジーンズを履いている人もいる。しかし、下着まで中古がいいとは。阿蘇山のもとで健全に育った京子はかなり首をかしげた。しかし京子は上京する時、郷に入れば郷に従え、と思っていた。よく分らないが東京では中古の下着が売れるらしい。季節はクリスマスの十二月で、街はきらびやかなイルミネーションで歳末大安売りで、道行くカップルはイブを楽しんでいる。しかし京子は家賃と水道代が滞りがちなくらいで、不動産屋はけっこう悪質で、取立てがキビしく、払えないんなら体で払え、というようなことをほのめかす。阿蘇山のふもとで健全に育った京子は、女の操は結ばれた夫にささげるものとだという55年体制以前の道徳観をもっていた。それで、やむなく京子は下着を手提げに入れて渋谷の通りに杜子春のようにたたずんでいた。どのようにして売るのかしら。値段のつけ方も分らないし、売り方もわからない。ので大通りで手製の飾り物を売っていた女の隣に腰掛けて、
「中古の下着です。よろしかったら買って下さい」
と札をおいといた。女が京子の顔を怪訝な顔つきで覗き込んで、
「あんた。勇気あんねー。その勇気はえらいよ。だけどサツに見つかったらどうすんの」
「えっ。おかしいですか?ではどのようにすればいいんですか?」
「その勇気はえらい。けど、サツに見つかったらヤバイよ。ティッシャーみたいにこっそり売りな」

しかし学費も生活費も尽きてきました。少女は、苦しい時、悲しい時、小説を書いていました。それがたまりにたまって行李一杯にまでなっていました。ある時、少女は書店に入ると「文芸ガイド」という月刊誌が目についたので手にとってみました。ページをめくると大きな広告が目に入ってきました。
「あなたの夢をかなえてみませんか」
「作家としてデビューさせます」
「あなたの本が全国書店に並びます」
少女にとって小説家なんて夢の夢でした。しかし少女は高校時代、文芸部で作品を発表して誉めてもらったことも多々ありました。お金が明記されていない。一体いくらくらいかかるのかしら。しかし、他に方法がありません。
もし私の小説を読んでほほ笑んでくれる人が日本に一人でもいるのなら。
ビッグセラーで売れなくても、どこかの出版社の編集者の目に止まってくれるのなら。
祈るような気持ちで少女は、書きためてきた小説を投稿し、二百万出して出版契約をかわしました。お金はクレジットカードの分割払いで払うことにしました。しかし本は一冊も売れませんでした。
少女は、本が置いてあるという書店に行ってみました。が本は見当たりません。いくら探しても見当たりません。とうとう店員さんに本があるかどうか聞いてみました。店員さんに連れられて少女は本のありかを見つけました。少女はガックリと首を落としました。誰の目にもつかないような隅っこに置かれている書棚でした。少女は店員さんに聞いてみました。
「ここの本て売れてますか」
店員さんはカラカラとカラス天狗のように笑い、
「売れるわけないじゃん。こんなんじゃ誰の目にも止まりっこないよ。しかもアマチュア作家の本なんて。これ、アウシュビッツ書棚、ホロコースト書棚って呼んでるんだぜ。1ヶ月後に全部、まとめて返本、裁断処分さ。いいかい。こんなものに決して手を出しちゃいけないよ。こんなの出版の現状を知らない人間につけこんだ悪質商法さ」
少女は哀しい思いで本屋を出ました。自信作のほとんどがもう応募資格がなくなってしまいました。クレジットカードの支払いはたまっています。親にも二百万の自費出版をしたとはとても言えません。しかし少女にはまだ一つ自信作がのこっていました。応募の枚数規定にもギリギリあいました。少女は何とか作品に手を入れ、完成させました。そしてそれを応募しました。その小説には、(いや、少女の書く小説はすべて)悪い人は出てきません。悪い人さえ、やさしさ、と、人を思いやる心を持っています。
少女の作品は当選しませんでした。クレジットの支払いはできません。水道もガスも電気も止められました。少女は街に出ました。街はクリスマスイブを楽しむカップルでいっぱいです。
少女はここ数日、何も食べていませんでした。目的もなく、街をあてどもなく行くと礼拝堂が見えてきました。道沿いの家ではクリスマスを楽しむ人々がローストチキンをかこってにぎやかに話しています。ゴーン、ゴーン。鐘の音が鳴りました。少女は力尽きて雪の中に倒れました。クゥン、クゥン。犬の泣き声がします。数日前に街頭に見捨てられて一人きりでいた、その犬に少女はパトラッシュと名前をつけ。アパートでは飼えないので公園の隅にダンボールで屋根を作ってやり、毎日御飯をわけてもっていってやったのです。犬のほうでも少女に無上になつくようになりました。少女は一人ぼっちの孤独な人間、乞食、友達がいないでさみしがってる子、などを見ると哀しくなって何かコトバをかけるか、お金をあげるかしないといられない性格でした。クゥン、クゥン。パトラッシュが少女にもたれかかり、雪の中にかがみこみました。
「ああ。パトラッシュ。ごめんね。何かあげたいけどあげるものがないの」
パトラッシュも、もともと弱い犬の上、エサもろくに食べられずに弱っていました。
「いいよ。お腹減ってないよ」
「えっ」
少女は驚きました。パトラッシュの目がそう言っているように見えました。少女は穏やかな笑顔で目をつぶりました。
「いこう。パトラッシュ。天国には、やさしい人、嘘をつかない人、人をだまさない人、心の純粋な人しかいないわ。私、天国で、やさしい人達がいっぱい出てくるお話しをうんとつくるわ。天国の人ならそういう小説を読んでくれる人もいると思うの」
少女はパトラッシュを抱いたまま雪の中に倒れ伏してしまいました。少女の意識はだんだん遠のいていきました。
雪が犬と寄り添った少女の体にしんしんと積もっていきます。ゴーン。ゴーン。教会堂の鐘の音が街の中に響きわたりました。それは天使が鳴らした天国行きの夜行列車の合図のようでもありました。

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野田イクゼ(小説)

2015-07-25 00:08:52 | 小説
野田イクゼ

 駅のポスターに医歯薬系の予備校「野田イクゼ」のポスターを時々見かける。その予備校出身者で国立の医学部に入り、今は某科の医者になっている30半ばの白衣のドクター姿の写真がある。何人か別の人の写真があったが、みな何か元気がなさそう。彼らがむなしさを感じるのはきわめて当然のことである。
医者なんて、なんら知性的な仕事ではなく毎日、毎日、おんなじことの繰り返し。封建制の医局の中から死ぬまで抜け出せない農奴である。領主は主任教授である。夜逃げでもしたら死罪である。毎日、ヘトヘトに疲れて、帰りに焼き鳥屋のおやじにあたる。
「おう。おやじ。医者なんてのはなー。これほど惨めな職業はねーんだぞ。わかるか。わかるめえ。息子を医者にしようなんて間違っても思うなよ」
と言うと、焼き鳥屋のおやじは首をかしげつつ、
「そんなもんですかねえ。私には大先生様に見えますが・・・。でも先生がそう言うんですからきっとそうなんでしょう」
「おう。おやじ。わかってくれたか。」
と言って野田先生はビールをがぶ飲みし、焼き鳥をやけ食いするのであった。するとおやじは、
「先生。あんまり飲みすぎるとよくないんじゃないんでしょうか」
と忠告するが、
「べらんめえ。そんなセリフはオレが毎日言っていることだ。この程度じゃアルコール性肝障害にゃあならん。オレはもう焼き鳥食って鳥にでもなっちまいたいくらいだぜ」
と、おやじにあたり、勘定を払って、千鳥足で家路に向かうのであった。
彼の家は二駅離れのところにあるマンションだった。彼は同期で麻酔科の医局に入った女医と卒後二年で結婚した。彼女は当然のことながら専業主婦になった。
ドンドンドン。
「おう。帰ったぞ。」
「お帰りなさい。あなた。また飲んできたのね。あんまり飲むと体に・・・」
彼女の忠告をよそに野田先生は、またビールを飲んだ。
「お前は侵奇で子供もできないし。生きてても教授のいいようにされるだけだし・・・生きてても酒飲むことくらいしか楽しみなんかねーじゃねえか」
野田先生は彼女に訴えるように言う。彼女もしょんぼりしている。
「お前は何のために生きているんだ」
と捨て鉢に聞くが、彼女は答えない。彼はつづけて言った。
「おう。野田イクゼのポスター、みんなから評判悪いぜ。疲れた表情してるって。オレんとこへポスターの依頼があった時、お前が勧めるもんだから、出たが、体裁悪いじゃんか。イクゼの入学希望者も減っちまうぞ。何だってオレを勧めたんだ」
と言って、グオーとそのまま寝てしまった。

   ☆   ☆   ☆

翌日になった。日曜だった。彼は昼ごろ、目をこすりながら起きてきた。食卓に着くと、そこには彼女のつくった目玉焼きとトーストと温かいミルクがあった。二人は向き合って黙って食べた。野田先生は彼女をチラと見た。そして心の中で、彼女が何のために生きているのか、また、疑問に思った。食べ終わると彼女は彼に言った。
「野田イクゼのポスターね。私の生きがいね」
と言って彼女は立ち上がり、窓に手をかけた。その口調には信仰者の持つ晴れがましさがこもっていた。
「私、思うの。きっとあのポスターをみて、私たちのことを小さな小説にしてくれる人がいると思うの。もしそうなったら、私たち、その小説の中で永遠に生きられると思うの」
彼女の頬は上気し、目は美しく輝いていた。新緑の風が少しばかり彼女の髪を乱していた。

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女教師(小説)

2015-07-24 01:39:27 | 小説
女教師

ある学校である。
その学校のあるクラスに伸という優等生がいた。彼は秀才の上、勉強熱心で、ほとんど、全ての学科において学年で一番だった。まず東大は確実である。教師たちは、口にこそ出して言わないが、彼のような生徒は嬉しいこと限りなった。だが伸のクラスの担当の教師の教師が、ある事情があって、他校に転任することになった。そのため京子という、若いきれいな女の教師が、やってきて伸のクラスの担任になった。京子は英語を教えていた。教師というものは、勉強の出来るひ弱な生徒をかわいいと思うもので、京子も伸を、内心、かわいく思っていた。だが意外なことに、京子が来て数ヵ月後に行なわれた中間テストで伸の成績が、全科でガクンと落ちたのである。何かあったのだかろうかと、京子は、伸を教員室へ呼び出した。

伸君、座って。と言われて、伸はすわった。しょんぼり俯いている。伸君、成績が落ちてるの、いったいどうしてなの。伸君なら、もっといい成績とれるはずよ。と言って京子は伸の手を握った。何か悩み事でもあるの。クラスの誰かにいじめられているとか。そんなことありません。伸は、きっぱりいった。じゃ、何で、と言って、京子は、ギュッと伸の手を握った。伸君、先生の目をみなさい、と強気な口調でいった。こんなことを誰にでも平然と言えるほど京子の神経は強くはなかった。相手の伸が、あまりにも弱々しい、内気な女のような性格だから、言えるのである。内心では、京子は、こうやって、キビしく叱ることに、快感を感じていた。伸はおそるおそる顔を京子の方へ向けた。目があった。とたんに伸は顔を真っ赤にして、顔をそむけた。手がわなわな震えているのが伝わってくる。同時に、ズボンの一部のところがムクムクと隆起してくるのが、隠しようもなく、はっきり見える。京子は、この時、伸の成績が落ちた原因を、彼の苦悩の原因を直覚した。それは、伸が、一人、机に向かっている時のイメージまでもが、はっきりしたりんかく、となって、みえた。伸はうつむいて、手を膝の上にのせて、じっとしている。ズボンの隆起は、あいかわらず、みじめに、伸の秘めたがる本心をバクロしている。京子は、一瞬、「ひどいよ。先生」と言って、目に涙を浮かべている伸の顔を、顔をそむけて、憔悴している伸の顔が語っている錯覚をみた。
「ご、ごめんなさい。ムリに問い詰めちゃって」
京子は、あわてて、弁明し、わびようとした。これは、するべき叱責、糾問ではなかった、と後悔した。バツが悪いまま、気まずいフンイキを、どう解決すべきか、京子は、もてあました。毒くらわば皿まで、という気持ちと、伸の思春期の悩みが、本当に自分に由来しているのか、自分は彼に、どのような影響を及ぼしているのか、彼にとって自分は女として、どのような位置づけなのか、そして、その影響の程度は、どの程度なのか、京子は知りたく思った。このまま、伸を帰しては、恥をかかせてしまう。自分の、あさはかさ、から、こういう事態をまねいてしまったのだから、終焉は自分がつけるべきだと思った。
「ご、ごめんね。伸君。先生、無神経なこと聞いちゃって・・・本当にこんなこと聞くのおかしなことだけど、せ、先生が原因なの?」
黙って、かすかにうなずく伸をみて、京子はあまりにも直裁的な聞き方をしてしまった自分に恥じ、もっと、婉曲に、適切な言葉を選べなかった自分の能力を恥じた。
「ご、ごめんね。伸君。で、また、へんなこと聞いちゃうけど、ど、どのくらい影響してるの?」
京子は、言いながら、確かに自分がおかしなことを聞いていることに赤面した。が、そのことが伸の心を逆に開かせるのに有利に作用した。伸を捨て鉢、で、開き直り、に、させた。
「すごく影響してます。勉強しようと机につくと、先生のウエストラインが、頭の中に浮かんできて、勉強が手につかなくて、毎日オナニーしてました。これからは、もうしません。一意専心、勉強に励みます」
と、キッパリと、いささか、投げやりな口調で言った。京子は、自分の聞き方が、まずかった、と、つくづく後悔した。「バカバカバカ」と自分をたたきたい、ほどだった。京子は、土下座して、あやまりたいほどだった。
「ご、ごめんなさい。本当にへんなこと聞いちゃって。恥をかかせちゃって。先生失格ね」
京子の頭はコンランしていた。自分の思慮が浅くて、生徒に恥をかかせてしまった責任をとらなくては、と思った。そういう責任感は、相手が小心な優等生だから、ということは十分作用していて、相手が腕力のある不良だったら、とてもそんな勇気は生まれないだろう。
「ご、ごめんなさい。へんなこと聞いちゃって・・・。無神経なこと聞いて、恥をかかせてしまった責任はとります。ぬ、脱ぎましょうか?」
と京子は言った。伸はうつむいて、哀しそうな顔をしている。その、哀しみは、以前のとは違う、あまりに思慮のない考え方、(そんなことをすれば、よけい相手をはずかしめることがわからない、想像力のなさ)をする目前の教師に対する哀れみの悲しみだった。伸は一瞬、「ありがとうございます。脱いでください。先生の裸がみたかったんです」と言おうかと思ったが、コトバに少し修正を加えた。ソクラテスの助産法が、伸の頭に作用した。伸はこう言った。
「ありがとうございます。脱いでください。先生の裸を前から見たいと思っていたんです。先生の裸をみれば、きっと悩みがきれいになくなって、一意専心勉強にうち込めると思います。そこまでしてくださる教育熱心な先生ははじめてで、ご恩は一生忘れません」
とやや、イヤミを込めて言った。言われて京子は、やっと、そんな行為が相手によけい恥をかかすことだとわかり、また「バカバカバカ」と頭をたたきたい思いになった。ボクシングにテレフォンパンチというのがあるが、絶えず相手より一テンポ遅れたパンチだが、京子の思考はこのテレフォンパンチに似ていた。京子は自分が情けなくなってきた。そもそも教室で脱ぐことはおかしい。情交は、立場的に不道徳であるが、道徳の桎梏で自分を制している生徒に対しては、即物的な性欲の発散で、悩みが解消できるのであれば、それは不道徳ではない、という直感が働いて、京子は言った。
「こ、こんどの土曜、よ、よかったら先生のうちに来て。変なこと聞いて、恥ずかしい思いをさせちゃったバツに、うんとおいしい料理を作ってご馳走してあげます。ど、どう」これは、はじめておかしくないコトバだった。京子はほっとした。だが、京子はもう一つ、聞いておくべきことがあった。それは、直載的に言えば、伸が京子に対して寄せる思いが、単なる代替可能な性欲なのか、それとも恋愛の思慕も加わっているのか、ということである。恋愛感情が入っていたなら、それは道徳に反しない行為とは言えなくなる。

さて、土曜日になった。
もちろん京子は得意の料理はつくっていた。料理をご馳走することが真の目的でないことは双方共にわかっている。チャイムがなった。伸が立っている。
「あっ。伸君。よく来てくれたわね。ちょうど料理ができたところなの。あがって」
と、気軽そうに誘った。京子は内心、うれしかった。(不徳ではあるが)ここは、もう教室ではない。美人教師と、それを慕う男子生徒の、いけない恋、は、古今を貫く小説の、永遠のテーマの一つであり、今、自分がその主役になっているような気がして、うれしかったのだ。しかも相手は奥手で弱い優等生である。男と女を一つの部屋に入れるのは、飢えた野獣と雌鹿を一つの檻の中に入れるのと同じようなものだが、この時のライオンは、いわば、赤ちゃんか子供ライオンで、かりに、襲いかかってきても、容易に御しおおせ、悪戦する子ライオンを余裕で御するのは、かえっておもしろくもある。伸は京子に言われるまま、無言で上がって、食卓についた。
「ピザにしたの。ピザでよかった」
と聞くと、伸は黙って肯いた。伸は、俯いて、モソモソ食べている。それはそうだろう。これはオードブルであって、メインディシュは別のことである。それをください、と伸は言いにくいし、教師にしても、「どうぞ召し上がれ」とは、言いにくい。ダフニスとクロエのように、内面の感情は、わかっていても処すべき方法がわからない。京子にとって、伸の夢想のイメージがわからないのである。伸がイメージするものを実現させることが、伸に恥をかかせてしまった責任だと京子は思った。

食事が終わってさて、いよいよメインディッシュになった。伸はうつむいて黙っている。まあ当然といえば当然である。二人きりになったからといって、伸は女教師に襲いかかることなど出来ない小心な性格である。それは京子も想像していた。それで、どうしたら伸に小心な性格を開かせるかを考えた。京子は伸に目一杯、満足させる方法として、役者ごっこ、という方法を考え出した。あくまで演技でなら、伸に恥をかかせないで伸の欲求を満足させる事が出来る。
京子は微笑して言った。
「ねえ。伸君。先生は教師になったけど、役者になりたいとあこがれてたこともあるの。役者のオーディション受けてみたこともあるけど、ダメだったの。役者って、照れたり、恥ずかしがったりしていてはダメなのね。どんな役にでもなりきらなくてはだめだわね。先生は、もう役者になるのはあきらめてるけど、何でも演じられなかった自分に後悔しているの。だから、先生の後悔、解消させてくれない」
と言って、京子は少し緊張したが言った。
「何をするんですか?」
伸は聞いた。
「お芝居するの。迫真の。スリリングな」
「どういう設定のお芝居なんですか?」
「伸君が、一人暮しの女の部屋には言った強盗で、私はとらわれてしまった女という設定はどう」
京子は少し声を震わせながら言った。伸は、
「はい。わかりました」
といった。その口調には男性的な強気さ、が、少し含まれていた。
「ありがとう。じゃあ伸君も、強盗の役になりきらなくちゃダメよ」
と言って、京子はついと立ちあがった。目を閉じて、華奢にして、ふくよかなプロポーションが少し、カタカタ震えている。京子は、いきなり後ろから、グイッと片手をねじ上げられ、思わず、「ああっ」と叫んだ。優等生で、弱々しい伸なのに、予想以上に荒っぽく、いきなり、ねじ上げられたので、驚いたのである。君子は豹変す、とは、このことかもしれない、と京子は思った。
「さあ。両手を頭の後ろで組むんだ。言うことをきかないと、きれいなお顔に傷がつくぜ」
とドスのきいた声で、ナイフで京子の首筋、を、ピチャピチャたたいた。
「は、はい。何でも言うことをききます。だ、だから、おねがい。こ、殺さないで下さいね」
これは京子にとって予想外の展開だった。京子は自分から軽い気持ちで言い出したことが、こんな展開になったことに恐ろしさを感じて身震いした。京子の予想では、気の小さい伸のことだから、「強盗役をやって」といっても、すくんで困ってしまうか、あるいは、強盗役になっても、弱々しげな遠慮がちない言い方になるだろうと思っていた。だが伸は、本当に強盗のような口調で、脅す。京子のキョーフは、伸の本心が、わからないキョーフだった。演じて、といったから無理してヤクザっぽい強盗役を迫真力ある演技で演じているのかもしれない。几帳面で、何事にも頼まれたことは、精一杯の誠実さで、逐行する伸の性格である。ありえないことではない。だが、もしかすると、いつもはおとなしい優等生の伸が内に秘めた本心を、演技という名目で、地でやっているのかもしれない。そのどちらかのわからなさ、が、京子のキョーフで、京子はひれ伏して、「伸君。それ、演技なの。本心なの」とききたく思った。だが、自分から言い出しといて、すぐに降参して、泣きつくことは、あまりにも忍耐力がないものと思われることは、教師としてのプライドからできなかった。京子は、伸に命じられたように手を頭の後ろにもっていき、組んだ。
「ふふ。あり金かっさらう前に、しばらく美人女教師の立ち姿をとっくりと見学させてもらうぜ。動くんじゃねえぜ。一歩でも動いたら命はねえぜ」
京子は狼狽して、カタカタ小刻みに体を震わせている。ああ、伸君。それ、本心なの。演技なの。と、心の中で叫びながら。だまっている京子は、ほっぺたをピシャンとたたかれて、鼻をつままれた。
「おれが何か言ったら、はい、と返事して、ありがとうございます、と言うんだ。わかったか」
とどなられた。京子が黙っていると、再び平手がピシャンととんできた。
「返事は?」
と怒鳴られて、京子は、あわてて、
「は、はい。あ、ありがとうございます」
と答えた。京子の目からは涙がおちていた。教え子に命令され、平手打ちされ、敬語で答えている自分・・・。しかも、そのようにするようにいったのは自分なのだ。しかも伸の行為が、演技であるならば、伸は心を鬼にして、教師の言いつけを守ろうとしている誠実な生徒、ということになる。彼に責任があるのではなく、自分が命じて、こういう状態をつくってしまったと思うと、自分の考えが足りなかったわけで、自分の思慮の浅さを優秀な生徒になじられているようで、京子は自分が情けなくなってきた。しかも、京子には、伸の行為が、演技なのか、地なのかわからない。生徒の心がわからず、生徒に翻弄されている自分がみじめで、自分は、もう弱気の地の涙を流した。
京子が予想していたのは、聖母マリアのように、幼い悩める魂を、よしよしと抱き、なぐさめる母性愛の行為だった。それが自分の予想が足りなかったために、こんなことになるなんて、と思うと、一層惨めな気持ちになるのだった。
「脱ぐんだ」
「えっ」
「脱ぐんだよ。素っ裸になるんだ。色っぽく一枚一枚脱いでいくんだよ。脱がないならこうしてやるぜ」
と言って、後ろから胸をむんずと掴んだ。あっと悲鳴を漏らす。
「脱がないんなら、美人教師の立ち姿をたっぷり楽しませてもらうぜ」
京子は何か、自分のつくった提案が伸を不良にしてしまうのではないかと心配になってきた。自分は優秀だった生徒を、悩ましただけではなく、不良にまでしてしまうのでは、と、心配になってきた。京子はワナワナ、ブラウスのホックを外し始めた。スカートも脱ぎ、ブラジャーとパンティーだけになった。
「さあ。下着も脱げ」
伸に言われて京子はそっとブラジャーを外した。ブラジャーに収められていた豊満な乳房が顕わになった。京子はとっさに片手で乳房を隠し、片手をパンティーに当てた。
パンティー一枚になるとさすがに立ちすくんでしまった。
「お願い。伸君。もうやめて」
「脱がないんなら、無理やり脱がすぞ。さあ、どっちにする」
「ぬ、脱ぎます」
伸に迫られて、京子は最後の一枚のパンティーを降ろして足から抜きとった。これで京子は覆うもの何一つない丸裸になった。
「ああー」
京子は必死に乳房と女の秘所を隠しながら座り込んでしまった。
「伸君。もうやめて。もうそんな、ヤクザっぽい言葉使わないで。先生こわいの。お願い。元のやさしい伸君にもどって」
と言って、京子は、ワーンと泣き出すのであった。
「フン。じゃあ、何でも俺のいうことをきくか」
「聞きます。聞きますから、お願いだから、いつもの伸君に戻って」
「よし、今言った事は守れよ」
「はい」
しばし伸は丸裸で屈みこんでいる京子をニヤニヤ笑いながら、眺めた。
「さあ。立つんだ」
伸は乱暴な口調で言った。
「えっ」
京子は聞き返した。
「立て、と言ってるんだ」
伸は恫喝的な口調で言った。
京子は乳房と秘部を手で隠しながら、そっと立ち上がった。
伸はマジックで京子の足の回りに小さな円を描いた。
それは足を閉じて立っていられるだけの、極めて小さな円だった。
「いいか。この円の中から出るんじゃないぞ」
そう言って伸は京子の豊満な尻をピシャリと叩いた。
そして、ブランデーとグラスを持ってきて、京子の前のソファーにドッカと座り、机に足を投げ出した。
伸はタバコを一服してから、余裕の様子でブランデーをグラスに注ぎ、みじめに丸裸で立っている京子を見ながら飲んだ。
余裕綽々で京子を酒の肴にして、ブランデーを飲んでいる。
「ふふ。京子。どうだ。今の気持ちは」
伸はタバコを吹かしながら言った。
「み、みじめです」
「どんな風にみじめなんだ。具体的に言え」
「教え子の前で裸にされて、見られている事がです」
「しかし、それはお前が申し出たことだろう」
「そ、そうです」
「ふふ。美人女教師のヌード姿をたっぷりと観賞してやるぜ」
そう言って伸はタバコを吹かした。
しばし伸は京子のミロのビーナスのような姿をじっくり眺めていた。
「それじゃあ、そろそろ本格的に責めるとするか」
そう言って伸は立ち上がって、裸の京子の前に立った。
「おい。京子。手を頭の上で組め」
「えっ」
京子は一瞬、聞き耳を立てた。
「手を頭の上で組め、と言ってるんだ」
そう言って伸は京子の頬をピシャンと叩いた。
京子は辛そうな表情でゆっくり、両手を頭の上にあげて組んだ。
隠していた大きな乳房と秘所が顕わになった。
「ふふ。大きな乳房だな。サイズはいくつだ」
「86です」
京子は丸裸を何とか隠そうとピッチリ腿を閉じ合わせている。
「ふふ。恥ずかしい所を見られて恥ずかしいか。じゃあ、見ないでやるよ。後ろを向きな」
言われて京子は踵を返してクルリと後ろを向いた。
京子はほっとした。
後ろを向けば、尻は丸見えになるが、前は見られない。
何より、前では、顔と恥ずかしい所を一緒に見られてしまうことが恥ずかしいが、後ろを向けば、裸は見られても顔は見られない。顔を見られなければ自分が見られているという恥ずかしさから、一人の女の裸を見られているという効果がある。
京子が後ろを向いたため、ムッチリ閉じ合わさった弾力のある尻が丸見えになった。
「ふふ。頭かくして尻かくさず。ピッチリ閉じ合わさった尻の割れ目が丸見えだぜ」
伸がそんな揶揄をすると、京子の尻の肉がピクンと震えた。
「女はみんな、自分の体を男に見せたい願望があるはずた。特にお前のようなプロポーションなら、なおさらなはずだ。本当は、今、見られて嬉しいんだろう」
「そ、そんな事ないです」
「ウソをつけ。お前はビキニで海に行ったことがあるだろう」
「は、はい。あ、あります」
京子は弱々しく答えた。
「自分の体を男達に見せたいから行ったんだろう」
京子は黙っている。
「答えろ」
そう言っても京子はプルプル全身を震わせながら黙っている。
伸はタバコの先を京子の尻につけた。
「ひいー」
京子は悲鳴を上げた。
「答えないと、手加減せず尻にタバコを押しつけるぞ」
「は、はい。そうです」
京子はあせって言った。
「具体的に言え」
そう言って伸はまたタバコの先を京子の尻に近づけた。
ああー、と京子は悲鳴を上げた。
「は、はい。私は自慢の体を男達に見せつけたいために海に行きました」
伸は、ふふふ、と笑った。
「やっぱりな」
「今もこうやって丸裸を見られて嬉しいんだろう」
そう言って伸は京子の尻をピシャンと平手打ちした。
だが京子は苦しげに黙っている。
「ふふ。言いたくないなら、言わないでいいぜ。その代わり、こうしてやる」
そう言って伸は手を頭の上で組んでいるため、無防備になっている京子の腋下をスッと触れた。
「ああー」
京子は不意打ちにあわてて、体をくねらせた。
とっさに頭の上で組んでいた手が離れて、腋をヒシッと閉じた。
「誰が、手をほどいていいと言った。ちゃんと頭の上で組め」
伸は、そう言って、京子の両手をつかんで、無理やり、頭の上に持っていき、しっかりと両手を組ませた。
「ふふ。手は離すなよ。つらくなったら、手をギュッと握りしめて耐えろ」
伸は含み笑いしながらいった。
京子は、伸に言われたように、組んだ手をギュッと握りしめた。
それで伸の責めに耐える準備をした。
京子は伸が見えない。
いつ、責めの手が来るかと思うと、京子は耐えられなくなり、全身を小刻みにプルプル震わせた。
伸も精神的な恐怖感で京子らせる事と、怯えている京子の姿を見るのが面白く、しばしの時間、両手を頭の上で組んで、攻撃の準備をしている京子を楽しげに眺めていた。
そして、伸は遊撃的にスッと京子の腋の下や首筋など、敏感な所を、いきなりスッと触れだした。
「ひいー」
京子は伸の指が触れる度、叫んで、体をくねらせた。
手はほどけないので、責めに耐えるため、しっかり握りしめた。
足はマジックで書かれた円の中から出す事はできない。
京子は一直線の体をくねらせて、伸のくすぐり責めに耐えた。
その姿は伸から見れば極めて滑稽だった。
一直線の体が、伸が触れる度に激しく海草のように、くねった。
京子の体からは玉の汗が沸々と湧き出ていた。
京子は、ハアハアと呼吸が荒くなった。
「伸君。お願い。許して」
京子は、ハアハア、喘ぎながら言った。
「質問に答えな。そうしたら、やめてやるぜ」
「何の質問?」
「だから、さっき、言っただろう。今もこうやって丸裸を見られて嬉しいかどうかだ」
そう言って伸は京子を攻撃しつづけた。
「い、言うわ。言うから許して」
京子は体をくねらせながら言った。
「よし。言いな」
そう言って伸は責めの手をとめた。
京子は荒くなった呼吸がおさまるのを少し待った。
そして丸裸で手を頭の上で組んでいるという、みじめ極まりない姿で言った。
「し、伸君の言う通りです。私は、今も伸君に裸を見られて嬉しいんです」
京子は言った。
それは、京子の本心ではないが、伸が満足するような答えをしなければ、責めがいつまでもつづくからである。
「ふふ。そうだろうと思ってたぜ」
伸は勝ち誇ったように得意げに言った。
「それじゃあ、おやさしい責めはこれくらいで、本格的な責めを始めるぜ」
そう言って伸は皮のベルトを抜きとった。
伸はピシャリ、ピシャリと京子の尻に軽く当てて、威嚇した。
「ふふ。地獄の鞭打ち責めだ。円から出るなよ」
伸は不敵な笑いで言った。
京子は直立してプルプル体を震わせている。
伸はニヤリと笑った後、力の限りベルトを京子の柔らかい尻に振り下ろした。
ビシーン。
京子の尻に振り下ろされたベルトが当たった。
小気味のいい炸裂音が鳴った。
「ああー」
京子はとっさに腰を前に突き出し、激しく体を弓なりに反らした。
ピクピク震えている京子の尻には、クッキリと赤い蚯蚓腫れのベルトの跡が印された。
尻がプルプル振るえ、見るからに痛そうである。
手は頭の上で、痛みに耐えるようにしっかり握りしめている。
「し、伸君。お願い。許して」
京子は涙に潤んだ瞳を伸に向けて訴えた。
だが、伸はピシャンと京子の太腿に軽くベルトを振り下ろした。
「だめだ。お前は責めに耐えると言ったんだ。ちゃんと前を向いて責めに耐え抜け」
京子はガックリしたように顔を前に向けた。
「ふふ。さあ。歯を食いしばれ」
京子は頭の上で手をしっかり握りしめながら体を震わせながら直立した。
伸は力の限り京子の尻を鞭打った。
「ああー」
鞭がピリシと当たり京子は悲鳴を上げた。
だが伸は容赦しない。
たてつづけに京子の体を力の限り鞭打った。
京子は激しく体をくねらせながら悲鳴を上げつつ、
「許して。許して」
と許しを求めた。
だが伸は容赦しない。
「し、伸君」
京子は泣きながら伸に顔を向けた。
「何だ」
伸は鞭打ちを止めた。
「お願い。許して」
「ダメだ」
「お願い。何でも言う事をききます。ですから、もう鞭打つのは許して」
「ふふ。そうか。じゃあ、鞭打ちは、止めてやるよ」
そう言って伸は鞭打ちを止めた。
伸は裁縫バサミを持ってきて京子に見せつけるようにチョキチョキ鳴らした。
「な、何をするの」
京子は恐る恐る聞いた。
伸は答えず、京子の長い黒髪をムズとつかんだ。
そしてハサミで挟んだ。
「や、やめてー。伸君」
京子は叫んだが、伸は容赦なくバサリと京子の美しい黒髪を切った。
そして、それを京子の前にポイと投げた。
「ああー」
京子は切られた自分の髪の毛を見て叫んだ。
京子はクスン、クスンと泣き出した。
伸はつづけて京子の髪の毛を切った。
京子は耐え切れなくなったように振り返って伸を見た。
「し、伸君。許して」
京子は涙ながらに訴えた。
「ふふ。お前はオレの言う事は何でも聞くと言ったじゃないか」
「言ったわ。でも怖いの。お願い。許して」
「いいじゃねえか。髪なんてまた生えてくるじゃないか。坊主頭にするわけじゃなし。ショートヘアーにしてやるよ」
伸はふてぶてしい口調で言った。
「わ、わかりました。た、耐えます」
そう言って京子はクスン、クスンと泣いた。
「わかったよ。髪はもう切らないでやるよ」
そう言って伸は切るのをやめた。
「あ、ありがとう。伸君」
京子は泣きながらペコペコ頭を下げた。
伸は胸と秘部を覆っている京子の両手をつかんでグイと背中に捻り上げた。
「あっ。な、何をするの」
京子はあわてて、とっさに言った。
しかし伸は黙って背中で京子の手首を重ね合わせ、手首を縛り上げた。
手の覆いがとられ、豊満な乳房と女の恥ずかしい所が顕わになった。
京子は後ろ手に縛られて裸の体を隠せず、恥ずかしそうにモジモジしている。
伸は縄をとって、先にわっかをつくり、京子の首に巻いた。
そして、わっかに縄を通した。
伸は椅子を持ってきて、縄の先を持って椅子の上に乗った。
「ほら。爪先立ちになりな」
「何をするの」
「いいから爪先立ちになるんだ」
伸に言われて京子は足首を伸ばし、爪先立ちになった。
伸は縄の先を天井の梁に結びつけた。
そして椅子から降りて、椅子をどけた。
「ああー」
京子はとっさに悲鳴を上げた。
天井の梁に結びつけられた縄はピンと張って余裕がない。
京子は爪先立ちで立ちつづけなくては首が絞まってしまう。
京子は足をプルプル震わせながら苦しい爪先立ちをしている。
一仕事おえた伸はドッカとソファーに座って京子を見た。
伸はグラスにワインを注ぎ、余裕で京子を見た。
「し、伸君。お願い。許して」
京子は体をプルプル震わせながら叫んだ。
だが伸はゆっくりワインを飲みながら、苦しむ京子を眺めている。
これほどみじめな事があろうか。
いつも教壇から教えている生徒に、丸裸で後ろ手に縛られ、爪先立ちで、ひたすら憐れみを乞うているのである。
裸の体を隠すどころではない。
バランスを崩して倒れてしまっては首が絞まってしまう。
京子は足首をピンと伸ばし、足をプルプル震わせながら体のバランスをとった。
京子はピンと足首を伸ばしてバランスをとった。
しかし京子は運動も苦手で筋力もバランス感覚も人並み以下である。
京子はハアハア喘ぎながら、全身からは汗が沸々と出てきた。
伸はそんな京子をワインを飲みながらドッカと机に足を載せて眺めている。
しばしたった。
京子の足がガクガク震えだした。
ヨロヨロよろめく体を京子は必死で足先だけで耐えている。
「し、伸君。もうだめ。お願い。許して」
だが、いよいよ京子は限界に達して伸に哀願した。
京子の体がよろめきだした。
伸はようやく、おもむろに立ち上がった。
そして椅子を二つ持ってきて、京子の両側に置いた。
そして足首の縄を解いた。
「ほら。両足をこの上にのせな。そうすれば、爪先立ちしなくてすむぜ。ただし、足が大きく開いちゃうけど、それでいいならな」
伸は不敵な口調で言った。
「あ、ありがとうございます。か、感謝します」
京子はハアハア喘ぎながら言った。
それは当然だろう。
爪先立ちでバランスを崩したら首が絞まって死んでしまう。
命にはかえられない。
「前向きと後ろ向きとどっちがいい」
伸が京子の乳首をピンと指先ではねて聞いた。
「う、後ろ向きにお願いします」
京子は顔を真っ赤にしながら言った。
それは当然の選択だろう。
前向きでは、あられもない姿になって恥ずかしい所が全て見られてしまう。
「よし。じゃあ、後ろを向きな」
言われて京子は踵を返し、クルリと後ろ向きになった。
尻がプルプル震えている。
伸は京子の爪先立ちの片足を持ち上げて片方の椅子の上に乗せ、ついでもう片方の足を持ち上げてもう一方の椅子の上に乗せた。
これで京子は爪先立ちから開放された。
しかし椅子と椅子との間の距離は1m以上あり、尻の割れ目がパックリ開いてしまっている。
足を目一杯広げてしまっているため、爪先立ちが無くなったとはいえ、足がプルプル震えている。
苦しくても、椅子の上で踏ん張ってバランスをとっていなければならない。
伸はソファーにもどって、ドッカと座った。
目前では後ろ向きの京子が離れた椅子に足を載せ、大きく足を開いている。
伸はグラスにワインを注いでゆとりで飲みながら、目前の京子を眺めた。
京子の尻の割れ目はパックリ開き、尻の穴が丸見えである。
「ふふ。ものすごい格好だぜ。尻の穴が丸見えだぜ」
伸はゆとりの口調でそんな揶揄をした。
言われて京子は意識が尻の穴に行き、羞恥心が起こって、
「ああー」
と叫んだ。
だが隠しようがない。
しばし伸は、椅子に足を載せ、大きく足を開いている京子をゆとりの表情で眺めていた。
「ふふ。今はどんな気持ちだ」
伸はふてぶてしい口調で言った。
「み、みじめです」
京子は後ろ手に縛られた指をギュッと握りしめながら言った。
伸はしばし足を大きく開いて踏ん張っている京子を眺めていた。
京子は足が疲れてきたとみえ、プルプル体を振るわせ出した。
伸はソファーから立ち上がると足を椅子に載せて踏ん張っている京子に近づいた。
「ひいー」
京子は悲鳴を上げた。
伸がティッシュペーパーを縒ってコヨリをつくり、丸出しになった京子の尻の穴にスッと先を触れたのである。
いきなり、敏感な所を刺激されて、京子はコヨリを避けようと尻の穴を締め、腰を上へ上げた。
だが、足を開いて踏ん張っていなくてはならない。
椅子から降りたら首が絞まってしまうのである。
京子は苦しげな表情で怯えている。
だが伸は容赦せず、一休みして京子が安心した頃、いきなりスッと京子の尻の割れ目をコヨリの先で擦った。
「ひいー」
京子は、その度に悲鳴を上げて、さっと尻を上げた。
だが足を踏ん張っていなくてはならない以上、避けようがない。
京子の体はプルプル震えだした。
京子は顔を後ろに回して伸の方へ向けた。
「お願い。伸君。許して」
京子は泣きそうな顔で伸に哀願した。
だが伸は黙ってニヤニヤ、京子を見ている。
「お願い。伸君。どんなにでもみじめになります。ですから、これだけは許して下さい」
京子は涙を浮かべながら訴えた。
「ふふ。そうか。じゃあ、今度は前向きになりな。恥ずかしい姿が丸見えになるけど、何もしないでやるよ」
どうだ、と純が問い詰めると京子は、
「な、なります」
と答えた。
「じゃあ、椅子から降りて前を向きな」
「は、はい」
京子はそっと椅子から降りて、爪先立ちになり、ゆっくり体を回して前を向いた。
乳房と恥ずかしい所が晒されて、京子は顔を赤くして、そむけた。
伸はニヤリと笑ってソファーにもどった。
そしてドッカと座ってワインを飲みだした。
晒し者の京子を酒の肴にして楽しむように。
京子は長時間、立ったままなので、疲れて、爪先立ちはガクガク震えておぼつかない。
京子の弱々しい体はすぐにフラつき出した。
「あ、ああー。伸君。助けて。お願い」
京子は体をプルプル震わせながら、必死にバランスをとりながら、叫んだ。
伸はおもむろに立ち上がって京子の右足をつかみ、右の椅子に乗せ、すぐに左足をつかみ、左の椅子に乗せた。
これで京子は爪先立ちから開放された。
しかし、その姿は言いようもない。
丸裸を後ろ手に縛られて、足を大きく開いて離れた椅子に足を載せて、踏ん張っているのである。
当然、女の恥ずかしい所は丸見えである。
「ふふ。ものすごい格好だぜ」
伸がふてぶてしい口調で言った。
「ああー。み、見ないで」
京子は激しい羞恥心から思わず叫んだ。
「恥ずかしいか」
「は、はい」
京子は顔を真っ赤にして、大きく開いた足を踏ん張って言った。
「じゃあ、見えないようにしてやるよ」
そう言うと伸は厚紙とハサミを持ってきて厚紙をチョキチョキ切り出した。
厚紙の色はピンクである。
京子は不安げな表情で伸が何をするのか見ていた。すぐに、
「できた」
と言って伸は切り抜いたものを京子に見せた。
切り抜かれた厚紙はハートの形をしていた。
「ふふ。これをお前の恥ずかしい所に貼ってやるよ。そうすれば恥ずかしい所は隠せるぜ。どうする」
伸はニヤついて言った。
「は、貼って。お願い」
京子は顔を真っ赤にして、あられもない要求をした。
それも無理はない。
貼れば、女の一番、恥ずかしい所は見られなくなれるのである。
どちらかの選択をせまられたら女としては、貼る方を選ぶしかない。
伸はニヤニヤ笑いながら京子の女の部分に、厚紙をピンクのハート型に切り抜いたものを当ててセロテープで四ヶ所、留めた。
これで京子の恥ずかしい所は何とか隠された。
伸は含み笑いしながら等身大の姿見のカガミを持ってきて、京子の前に立てた。
京子はとっさに恥ずかしそうに顔をそらした。
伸はソファーにドッカと座った。
「そら。カガミを見て自分の姿を見るんだ」
伸はグラスのワインを飲みながら言った。
しかし京子は顔を赤くしてそらしている。
伸は京子が命令に従わないので、業を煮やして怒鳴りつけた。
「おい。カガミを見ろ。見ないと、また尻の穴を責めるぞ」
伸に怒鳴りつけられて、京子はゆっくりカガミを見た。
「ああー」
京子は真っ赤になって声を上げた。
丸裸を後ろ手に縛られて、足を大きく開いて踏ん張っている、みじめな姿が京子の目に飛び込んできたからである。
女の恥ずかしい部分は厚紙で見えないが、ピンクのハート型の覆いが、そこだけ貼られている姿はみじめ極まりない。
だからといって取る事もできない。
どうにもならない状態である。
「ふふ。オレがいいと言うまでカガミから目をそらすなよ」
伸はタバコを吹かしながら言った。
「おい。京子。今、どんな気持ちだ」
伸が煙を吹いて言った。
「み、みじめです」
京子は声を震わせて言った。
「どうみじめなんだ」
「こんな格好を見られていることがです」
京子はかなしそうな顔で言った。
「こんな格好って、どんな格好のことだ。具体的に言え」
「は、裸で、小さな厚紙だけ貼られている格好がです」
「せっかく貼ってやった覆いが嫌なのか?」
伸は執拗に問い詰める。
京子は答えられない。
黙って唇を噛みしめている。
「そうか。せっかく貼ってやった覆いが嫌なのか。じゃあ、とってやるよ」
そう言って伸は京子の女の部分に貼ったピンク色のハートの覆いのセロテープの一つを剥がした。
伸はホクホクした顔で二つ目のセロテープを剥がそうとした。
その時。
「ああっ。やめてっ。伸君。とらないで」
京子は声を張り上げた。
「なんだ。この覆いが、みじめで嫌なんだろ?」
伸は居丈高に言った。
「し、伸君。お願い。いじめないで」
京子はつらそうな顔で言った。
「ふふ。この素晴らしい姿を写真に撮って、クラスの男のみんなに送ってやるよ」
そう言って伸はデジタルカメラを京子に向けた。
「ああっ。やめてっ。お願い。伸君」
京子はあわてふためいて叫んだ。
「写真に撮られるのはそんなに嫌か」
「は、はい」
「しかし、こんなにセクシーな姿は芸術だからな。じゃあ、マスクをかけてやるよ。そうすれば体は撮られても誰かはわからないだろ」
伸がそんな提案をしても京子はつらそうな顔で黙っている。
「じゃあ、マスクはいらないんだな」
そう言って伸はデジタルカメラを京子に向けた。
「ああっ。やめてっ。伸君」
「だってマスクはいらないんだろ」
「マ、マスクをお願いします」
京子は真っ赤になって言った。
「なんだ。かけてほしいんじゃないか。それなら初めからそう言いなよ」
そう言って伸は京子に風邪防止用のマスクをかけた。
目は見えるが、鼻から下の口と顎は隠されている。これでは誰だかは、わからない。
「何か言うことはないか」
伸は思わせ振りな口調で言った。
「か、感謝します」
京子はマスクの中から言った。
「これなら、誰だかわからないぜ。安心して、うんとセクシーなポーズをとりな」
そう言って伸は裸の京子を色々な角度から撮った。
パシャ、パシャ、パシャとシャッターがきられる音がした。
京子も裸の体は撮られても、それが自分である事は知られないため、抵抗せず、撮られるがままにまかせた。
「先生。誰だかは、わからないんだから、うんとセクシーなポーズをとりなよ。女はみんな、淫乱な気持ちももってるはずだよ」
伸はそんな事を言いながら写真を撮りまくった。
十分、撮ったので、伸は、ふー、と息をついて撮影をやめた。
「さあ、もう、おわりだ」
そう言って伸は京子のマスクをはずした。
京子は真っ赤になっている。
たとえ,自分とわからないとはいえ、恥ずかしい。
その時、伸はニヤリと笑った。
「記念に素顔がみえた写真も一枚とっておこう」
そう言って伸はデジタルカメラを京子に向けた。
京子は真っ青になった。
「や、やめて。やめて。お願い」
京子は大声を張り上げて叫んだ。
だが、伸は京子の訴えなど無視してパシャ、パシャと写真を撮った。
「ああー」
写真を撮られてし京子、京子はつらそうな悲鳴を上げた。
「ふふ。この顔の写った写真を添えておけば、マスクをした裸の女も先生だって、ことがわかるぜ。はじめのうち、マスクをした裸の女が誰だかわからなくて、知りたくて興奮するだろうが、最後に先生の顔の出てる写真もあれば、マスクの女が先生だとわかって、見る男達をよけい興奮させるぜ」
伸はふてぶてしい口調で言った。
そしてデジカメを操作して、写した写真を全部、自分のパソコンに送った。
はじめから、こうすることが伸の作戦だったのである。
京子はクスン、クスン、と泣いている。
涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「これで、責めはおわりにしてやるよ」
そう言って伸は椅子を持ってきて、その上に乗り、天井の梁に留めてある吊るし縄を解いた。これで、京子は首絞めの危険から開放された。
だが京子は伸の許しがなければ、椅子から降りれないといった様子で、首の縄を外されても、椅子の上に乗っている。
「先生。降りなよ」
伸に言われて京子は椅子から降りた。
京子は丸裸を後ろ手に縛られた姿で、恥ずかしそうにモジモジしている。
女の部分はハート型の厚紙が貼られている。
「もうこれは必要ないだろ」
そう言って伸は厚紙を剥がした。
京子は隠す物、何一つない丸裸になって、恥ずかしそうにモジモジと膝を寄り合わせている。
「先生。服を着させてやるよ」
そう言って伸は京子のブラジャーをひろって、京子の胸に取りつけた。
京子は丸裸をブラジャーだけ身につけているというみじめ極まりない格好になった。
京子は後ろ手に縛られているため、純のすることに抵抗できない。
恥ずかしそうに膝を寄り合わせている。
「し、伸君。し、下もお願い」
伸が満足そうに眺めているので、京子は恥ずかしさに耐えられなくなって顔を真っ赤にして言った。
だが、伸は京子の訴えなど無視してデジカメを京子に向けた。
「ああっ。やめてっ」
京子は腿をピッタリ閉じ合わせて叫んだが、伸はおかまいなくシャッターを押した。
「ふふ。先生。わるいけど、やはり芸術的なものは貴重な国の財産だよ。先生の体は先生だけのものじゃないんだよ。貴重な国の財産のために、個人的な感情は我慢しな。だがパンティーは、履かせてやるよ」
伸はそう言って、今度は京子のパンティーをひろって、両足に通した。
「あ、ありがとう。伸君」
京子は伸の行為をやさしさと素直に解釈した。
それを見て伸はニヤッと笑った。
伸はスルスルとパンティーを引き上げていった。
だが膝を越した所で手を離した。
そしてデジカメをとって京子に向けた。
パンティーは、あたかも膝の上まで脱がされかかっているかのようである。
しかし、後ろ手に縛られて手が使えないため、どうする事も出来ない。
それは下着姿の女が後ろ手に縛られて、パンティーを脱がされかかってる格好だった。
「ああっ。伸君。やめてっ」
京子は叫んだが、どうしようもない。
パシャ、パシャ。
伸は数枚、みじめな姿の京子を写真に撮った。
そして自分のパソコンに送った。
伸は仕事をおえると、膝の上で中途半端に引っかかっている京子のパンティーをつかんで、引き上げた。
そしてパチンと音をさせて離した。
これで京子はブラジャーとパンティーをしっかり身につけた姿になった。
伸はつづけて、スカートも京子に履かせた。
そして後ろ手に縛っている縄を解いた。
しかし、あらゆる、みじめな事をされて京子は力無くガックリしている。
伸はブラウスを持ってきて京子に着せ、ボタンをはめて裾をスカートの中に入れた。
京子は人形のように、伸にされるがままに身を任せているといった様子である。
だが、これで京子は元通りの姿にもどった。
「おつかれさま」
そう言って伸は京子を横たえさせた。
「先生。疲れたでしょう。ゆっくり休んで下さい」
そう言って伸はグラスにワインを注いで京子に飲ませた。
京子は一心にゴクゴク飲んだ。
伸はニッコリ笑っている。
京子は、心の箍が外れたかのように、ワーンと泣き出して伸にしがみついた。
「伸君。教えて。先生が、お芝居なんて変な提案したから伸君に意地悪な気持ちを起こさせちゃったんでしょ。やさしい伸君に意地悪な性格を芽生えさせちゃったかと思うと、耐えられないの。意地悪な人にならないでね。責任はとります。女の人をいじめたいと思ったら、いつでも先生の所に来て。私にうんと意地悪して欲求を発散して。どんな意地悪されても先生、耐えます」
「先生。それは違います。お芝居だからじゃないんです。僕は生まれつき、女の人を虐め抜く事に興奮するサディストなんです。僕は女の人を虐めることによってしか、女の人を愛せないんです。先生が転任してきてから、ずっと想像で先生を虐めてました。今日、夢が叶って最高に幸せです。ありがとうごさいました」
京子は驚いて伸を見た。
「ええー。本当?信じられないわ。どうして伸君のような、やさしい子がそんな、怖い性格なの」
「性格と性癖は違うんです。安心して下さい。先生。僕は先生のせいで意地悪な人間になったりしません」
京子はほっとした表情になった。
「ああ。伸君。それを聞いて安心したわ」
「先生。ごめんなさい。さんざん、ひどい事をしちゃって。お詫びに僕を裸にして吊るして、うんと鞭打って下さい」
「そんな事できるわけないわ」
京子は強い口調で言った。
「先生。先生の腿の上に頭を乗せて横になっていいですか」
「いいわよ」
伸はニコリと笑って京子の太腿に頭を乗せて横たえた。
伸は京子の体をそっと触った。
「ああー。幸せだ。僕、こうやって先生に甘えたかったんです」
そう言って伸は目を閉じた。
長い時間の激しい緊張の連続で伸も疲れたのだろう。体の力が抜けダランとなり、クークーと小さな寝息が聞こえ始めた。
京子は何とも伸がいとおしくなって、そっと頭を撫でた。
あんな、酷い意地悪をした子を今、抱いていると思うとなにか可笑しくなった。
まだ甘えん坊なんだな、と思った。
「伸君。また私をいじめてね」
京子は寝ている伸の頭を撫でながら、そっと伸に向かって言った。


平成21年2月18日(水)擱筆



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花と蛇と哲也(小説)

2015-07-23 01:55:36 | 小説
花と蛇と哲也

静子夫人の運転手の川田が、いつもの静子夫人の家への道を行かないのにギモンと不安をもった静子夫人が川田に、おそるおそるきいた。
「あ、あの。川田さん。これは、どこへ行くのです」
というと川田は、
「なあに。ちょっと奥様がすばらしくなれるところへ寄っていくんですよ」
と、ふてぶてしく言う。静子夫人は運転手の川田に敬語をつかい、一方、川田は静子夫人にあまり敬語っぽいコトバづかいをしない。
「か、川田さん、こ、こわいわ。おねがいです。こわいことをなさらないで下さい」
と目から涙をながしそうになりながら言った。
「あんしんしなさいよ。奥様。この上ないほど親切にしていただいている奥様に何で私がひどい目にあわす理由があるんです」
といいながら川田は郊外へとハンドルを切った。
「ほんとうですね。川田さん。ほんとうにこわいことをなさらないで下さいますね」
と静子夫人は、すがるように言った。車は郊外の、ある大きな屋敷へ入った。大きな庭があり、まわりは雑木林である。車が玄関の前にとまった。
「さあ。おりな」
と川田に言われて、
「こわい。ゆるして下さい。お給料で不満があるのでしたらふやします。倍にでも」
といって静子夫人はでようとしない。とうとう川田は業を煮やして、
「ほら、とっととおりるんだ」
といって静子夫人を強引に車からひきずり出した。静子夫人は、ふるえながら、もてあました手を胸と腰におき、弱々しく歩くのだった。静子夫人は、もうこの時、覚悟していたのかもしれない。腕力ではとてもかなわないし、学校の時から、体育以外はオール5でも体育だけは、しりあがりもできないし、とびばこを前にすると、こわい、といってしゃがんでしまう静子夫人である。きっと何か川田にされるのであろうが、もう川田に心をゆだねて、できる限り川田に従えば、川田もゆるしてくれるのでは、との思いに唯一の一縷ののぞみをかけるのだった。
「川田さん。こわいことをなさるんですね」
と静子夫人が哀れみを求めるように言うと、川田はうす笑いをうかべて、
「おそろしいことなんかじゃない。すばらしいことさ。奥様は、これからすばらしくなるのさ」

静子夫人はその館に入った。自分の豪勢な屋敷と同じようだった。静子夫人がモジモジ立っていると、ケバケバしいガラのわるい角刈りのヤクザ男がでてきて、ドッカと静子夫人の前に座った。そして、わらわらと三人のズべ公が入ってきた。
「川田さん。これはいったい」
静子夫人はドキマギして言った。
「ふふ。上玉じゃねーか。ちょっとかわいそうな気もするがな」
とヤクザ男は言った。
「おくさん。あんたはこれから、ここですごすことになるのさ。もう今までの優雅な生活とはおわかれってことなのさ」
と言った。
「どういうことなんです。おしえて下さい」
「ニブイ女だな。あんたは川田に売られて、おれ達森田組のものに一生なったんだよ。川田がいい上玉があるから、ときいたんだが、合格ってわけさ。これから奥さんのすばらしい写真やビデオをつくって、かせがせてもらおうって寸法さ」
「か、川田さん」
静子夫人は柳眉をつり上げて訴えた。
「川田さん。私があなたにどんないじわるをしたっていうのですか」
というと川田は、
「おくさん。へへへ。別にオレは奥さんにウラミなんざありませんよ。むしろ奥さんにはいろいろ親切にしてもらって、何の不満もありませんでしたよ。だが、おくさん、あんたが顔も心もきれいなのがいけねえ。カンネンしな」
「この人たちは何です?」
「森田組の手下さ」
三人は、銀子、あけみ、悦子といった。三人は静子夫人に近寄って、きれいな髪ね、といって、髪をなでたり、手をさわってみたり、項にキスしてみたりする。

「ふふ。静子。もう、こっちのもんだ。今からお前はおれ達のいうことをきくんだぜ。いやがったら、痛い目にあうんだぜ」
と静子夫人をとりおさえてるチンピラが、夫人の頬にナイフをピタピタあてて言う。チンピラ達は静子夫人を取り囲むようにして座り、
「さあ。静子。おめえはお座敷芸者だ。まずは、おめえのストリップショーだ。立ったまま、一枚一枚色っぽく脱いでいくんだ」

静子夫人は、いつもは和服だったが、今日は薄いブラウスにタイトスカートだった。
ふくよかな胸がブラウスを押し上げ、ムッチリした尻がスカートをパンパンに張っていた。
服の上から女の曲線美が、はっきりとあらわれていた。
静子夫人は立ったまま、もどかしそうにしている。チンピラ達のいやらしい視線が、周囲から静子夫人に集まる。チンピラ達の視線が、静子のむっちりした体にあつまる。痛いような視線を払いのけようとしても、執拗につきまとう。
「ふふ。すばらしいプロポーションじゃないか。ヒップもバストもすばらしく豊かじゃないか。いずれ時間のモンダイで、裸がおがめるんだ。あせる必要はねえや。むしろ、おめえが、そうやってじれったがっているのをみてる方がおもしれえや」
とせせら笑った。
このじらし責めは、静子夫人にとってとてもつらかった。彼らはもうすでに、視姦している。自分が女に生まれ、女の体をもっていることがつらくさえ感じだされた。何より手のやり場に困った。尻や胸への視線から守ろうと、胸や尻へ手をやると、よけいチンピラ達の揶揄にあう。
「ふふ。これからとくとおがませてもらうが、静子夫人はどんなパンティーが好みなのかな」
「白かベージュってとこだろ」
「裸にして、いろんなカッコに縛りあげてやれば、やがて時間のモンダイであえぎだすさ」
静子夫人はとうとう耐えられなくなって座りこんでしまった。これ以上チンピラ達の視線にさらされるのが耐えられなかった。
「誰が座っていいといった。立て。立って、一枚ずつ色っぽく脱いでいくんだ」
静子夫人は立てない。静子が立とうとしないので、静子夫人をおさえていたチンピラは、タバコを二本とりだして、ふかし、それを静子夫人の鼻の穴に入れ、口をふさいだ。口で呼吸できないので鼻で呼吸しなくてはならない。息を止めといて、こらえきれず吸い込んだので、タバコがいっしょに吸いこまれ、鼻腔をはげしくシゲキして、夫人はむせた。そして静子夫人の鼻毛をプチッとひきぬいた。夫人は、ひー、と悲鳴をあげた。
「さあ。静子。おめえがいうことをきかねえと、もっと痛い目にあうぜ」
「わ、わかりました」
「どうわかったっていうんだ」
「い、いうことをききます」
「具体的にいえ」
「ふ、服をぬぎます」
静子夫人はクラクラしそうになりながら立ちあがった。足がおぼつかない。チンピラの一人が静子夫人に近寄って、静子の耳に何かをささやきこんだ。
「さあ。言え」
といわれ、静子夫人は毛穴から血がふきだしそうになるほどの思いで、ささやかれたことを言った。
「し、静子のストリップショーをとくとご覧くださいませ」
といって静子夫人はわっと泣きだした。
静子夫人はそろそろと服を脱ぎだした。
ワナワナ震えながらブラウスを脱ぎ、スカートも脱いだ。
静子夫人はムッチリした体にブラジャーとパンティーだけという姿になった。

だがさすがにブラジャーとパンティーは、どうしても脱げなく、立ちすくんでしまった。
「ふふ。今度は下着姿を鑑賞してほしいってことかい」
静子夫人は胸とパンティーの前にそれとなく手が行ってしまう。ここでズべ公の悦子が、いじわるなことをした。静子夫人の後ろに、そっと忍び寄って、ハサミでパンティーとブラジャーをプチン、プチンと切ってしまったのだ。静子夫人は、あっと叫び声をあげた。パンティーとブラジャーはいきおいよく縮んでしまい、ふっくらした尻が丸出しになった。静子夫人は思わずかがみ込んだ。やぶれたブラジャーとパンティーを必死でおさえ、膝をピッタリ閉じた。だが尻はかくせない。
「ふふ。すばらしく色っぽい格好だぜ。尻は丸見えだけどな」
というとみながどっと哄笑した。
「ほら。立ちな。誰がしゃがんでいいと言った」
と言っても静子夫人は立てない。体を小刻みに震わせながら胸と秘部をおさえている。
「ほら。立て。立つんだ」

裸で、必死になって隠そうとして、身をかがませている静子夫人に、川田は、
「ほーらよ」
と言って、新品のブラジャーを投げるのだった。静子は一瞬ためらった。着る時に一瞬、こぼれ見えてしまうこと、敵に情で与えられたブラジャーをつける屈辱感、そして、パンティーとブラジャーの両方なら、ともかくブラジャーだけ着けて、下はない、というのは全裸より、よけいみじめで恥ずかしい格好になってしまう。ブラジャーで秘部を隠すためのものにしようかとも思ったが、それもやはり、おかしい。かといってブラジャーを投げ返すわけにもいかない。悪魔達は、こうして、静子夫人が困る姿を見るのを楽しんでいるのである。迷った末、静子夫人はブラジャーを着けた。着けてみて、やはり、全裸に、勝るとも劣らず恥ずかしく、惨めだった。だが、着けてしまったものを外すわけにもいかない。片手で秘部を押さえながらブラジャーを着けた胸にも自然と手が行った。ブラジャーを着ければ、胸は見られても恥ずかしくない、というものではない。
「ふふ。静子さんて、おかしな格好したがるのね」
とか、
「こんなおかしな格好したがるなんて、静子さんてMの気があるんじゃないの」
「桃のような大きなお尻は丸見えよ」
などという揶揄をうけながらも、静子夫人はなすすべもなく、隠し守れるところを精一杯手で覆い、悪魔達の刺すような視線にじっと耐えるのだった。切れ長の目からは、はやくも真珠のような涙がポタリと頬を伝わりおちた。

川田はブラジャーだけ身につけている静子夫人の後ろに回り、胸と秘部を覆っている手をグイと後ろに捩じ上げた。
「あっ。な、何をなさるの」
静子夫人は不意打ちされて思わず声を出した。
しかし川田は、容赦なく、静子夫人の両手首を重ね合わせて縛りあげた。
手で隠していた秘部が丸出しになり、静子夫人は丸裸にブラジャーだけ身につけて、後ろ手に縛られているというみじめ極まりない格好になった。
「ああー」
静子夫人は、思わず叫んだ。
静子夫人はもう女の秘部は隠しようがない。だが何としても女の羞恥心が膝をピッタリ閉じ合わせ、女の体の最後の砦を守ろうとする。尻がプルプル震えている。前を守りつつ、後ろも、無防備だが、守らねば、という心理から尻をピッチリ閉じあわせた。
「ほら。もっとしっかり立って胸をしゃんとはるんだ」
そう言って川田は静子の尻をピシャンと叩いた。
命令されて静子夫人は直立して胸をはった。
川田は、へっへ、と笑いながら、静子夫人の後ろに回ってブラジャーを外した。
「ああー」
と静子夫人は声を上げたが、後ろ手に縛られているため、どうすることも出来ない。
ふっくらした二つの乳房が顕わになった。
もはや静子夫人は覆うもの、何一つない丸裸で後ろ手に縛られて、見られているという屈辱きわまりない姿である。

森田は、俯いている静子夫人のあごをグイと挙げた。
「ふっふ。奥さん。あんたにゃ、背中に、すばらしい女朗蜘蛛の刺青を彫り込んでやるよ。奥さんは天女のように美しくなるぜ」
というと、静子夫人はハッと顔を青ざめて、激しく体をばたつかせながら、
「お、お願い。森田さん。そんなことだけはなさらないで。そ、そんなことだけは・・・」
それは当然だった。そんなことをされたら、もう夏、海水浴にも行けなくなるし、健康ランドにも入れなくなる。静子夫人にとって健康ランドは、楽しみの一つだった。実業家夫人というのは、夫の事業の経営に、少しでも予想外の不調が生じて、売り上げが思うようにいかないと、そのイラツキのはけ口が夫人に向けられるため、実業家夫人というのは、傍目でみるように、必ずしも楽ではない。そのため、静子夫人はストレスをため込まないため、静子夫人にとって、健康ランドは大事な楽しみだった。特に、静子夫人は、薬湯と、ジェットバスが好きだった。
「私が、あの人のお小言を聞くことで経営が無事成り立っていくならば」
と、けなげなひとり言を風呂の中で一人、つぶやくのだった。夫の事業に口出しをしない、静子夫人だったが、「不況で、人員削減しなくてはならんな」といった時、思わず、「お願いです。あなた。リストラはなさらないで」といって、「うるさい。女は仕事に口を出すな。きれいごとでこの不況を乗り切れるか」と、怒鳴りつけられたこともあった。そういうストレスを発散できる唯一の楽しみの健康ランドが・・・。そう思うと静子夫人は気が遠くなりそうな思いになるのだった。健康ランドには、入り口にも、ロッカーの一つ一つにも「イレズミのある方、暴力団関係の方の入場は、固くお断りします」と書いてある。イレズミのある暴力団員が、堂々と、健康ランドに入っても、現状では従業員は、みつけ次第追い出すことは出来ない。内心、「厄介なのが来たな」と舌打ちするだけである。しかし、静子夫人は、そういう、野放図、傍若無人、な、神経はとてもとても、もっていない。学生時代も、友達に、「ねえ。静子。明日の物理のノートとっといてくれない」と言われると、それをしないと友情にヒビが入ることを恐れて、一言逃さず、ノートして、わかりにくいところは、あとで参考書で調べて、夜遅くまでかけて、清書し直して、頼んだ友達に渡すのだった。

ここで静子夫人の高校時代の様子を少し書いておこう。もちろん、静子夫人は私立のミッション系のお嬢様女子高で過ごした。静子夫人はいつも図書館に入り浸る文学少女だった。休み時間も、借りてきた本を一人で静かに読んでいた。トルストイ、ドフトエフスキー、モーパッサン、アナトール・フランス。それらが書かれた時代に心を馳せるのだった。
「静子。本ばっか読んでないで、遊ぼうよ」
と手をひいたのは親友のA子だった。
「そうよ。今時、文学少女なんて、ダサいよ」
と言ったのは、同じく親友のB子だった。この二人が静子夫人の親友だった。いわゆる仲良しトリオ、というやつである。例によって、例のごとく、学校の帰りにバーガーショップに寄る。A子が、
「ねえ。B子。数学の矢野、ムカつくと思わない?」
と言うとB子は、すぐに、
「うん。ムカつく。いえてる」
と言う。
「静子はー?」
とA子が、静子に目を向けると、静子はあわてて、
「は、はい。ムカつきます」
と言う。A子が、
「本当にムカついてんの?静子、数学出来るのに何がムカつくの?」
と言われると、
「い、いえ。あ、あの・・・」
と口篭もってしまうのだ。
「ほーら。やっぱりムカついてないじゃない。無理に合わせなくてもいいのよ。静子は私達と違って優等生だもん」
と言われると、静子夫人は、わっと泣き出すのであった。

ちなみに静子は、推薦入学で慶応義塾大学文学部に入った。
静子の卒業論文は、以外や以外、団鬼六作の「花と蛇」研究だった。
静子は、それを徹底的に批判し、非難し、こんな悪魔小説はこの世から無くすべきだ、と結論づけた。

悪魔達はさんざん後ろ手に縛められた丸裸の静子夫人さんざんを嬲り抜いた。
銀子、あけみ、悦子の三人がオドオド佇立している静子夫人を取り囲み、胸を揉んだり、尻の割れ目を開いたり、乳首に洗濯バサミを取りつけたり、小唄を歌わせたりした。

そして十分静子夫人を玩んだ後、森田は静子夫人を別の六畳の部屋へ連れて行った。
そこは森田組の組長の一人息子、森田哲也の部屋だった。
彼はヤクザの息子に似合わず、たいへん真面目な勉強家の秀才で、まだ高校生なのに西洋哲学を全て読みつくしているほどだった。彼は東大の哲学科を目指していて、将来は哲学者となって人類を救済することが自分の使命だと思っていた。
丸裸で後ろ手に縛られた静子夫人が入ってきて、勉強中の哲也が振り返った。哲也と目が合うと静子夫人ははっと羞恥の念が起こってきて、頬を赤くした。
「おい。哲也。お前も勉強ばかりしてないで、少しは遊べ。お前にこの女をあずけるから、この女をオモチャにして、好きなようにもてあそべ」
よいしょ。こらしょ。
そう言いながら銀子が木馬を持ってきて部屋の中に据え置いた。
それは丸い丸太に角材の脚を四本つけた簡単な木馬だった。
「ほら。とっとと木馬に乗りな」
銀子はそう言って静子夫人のふっくらした尻をピシャリと叩いた。
後ろ手に縛られた静子夫人が丸太の前でモジモジしているので、銀子は静子夫人の肩をドンと押し、片足を持ち上げて強引に静子を木馬に跨がせた。
「ああっ」
静子夫人は木馬に乗ったとたん声を上げた。
木馬の背は高く、両足首をピンと伸ばして、やっと足の親指の先が床に着くか着かないかの高さだったからである。
そのため静子夫人の柔らかい女の部分に木馬の背がめり込んできたのである。
銀子は腰を屈めると、ピクピク震えている静子夫人の片方の足首を縛り、20cmくらい余裕をつくって、もう一方の足首に縛りつけた。
これで静子夫人は木馬から降りる事が出来なくなった。
「ふふ。哲也。オレはこれで消える。静子と二人水入らずで、うんと楽しみな」
そう言って森田は銀子に目を向けた。
「おい。銀子。お前も出るんだ。人が見ていては哲也もやりにくにだろう」
「そうね。哲也さん。二人水入らずで、うんと楽しんで」
銀子は笑って言った。
森田は部屋を出た。
銀子もそれにつづいて部屋を出た。
「でも、たまには、ちょっと、どんな様子か見に来させてもらうわよ」
銀子はペロッと舌を出して笑って、戸を閉めた。
部屋は丸裸で後ろ手に縛られて木馬に跨った静子夫人と哲也の二人になった。
哲也は木馬に乗っている静子夫人をじっと眺めた。
静子夫人は哲也に見つめられて頬を赤くした。
真面目な人間に、劣情なく、裸を見られることは、助平丸出しのヤクザ達に見られる以上の羞恥を感じたからである。
哲也は保健体育や生物学の教科書や参考書を開いて、女の肉体の構造やホルモンの周期などを調べだした。
哲也は学校の成績はオール5の秀才だった。
だが哲也は学問のみに価値があるものだと思っていたので、女の事はくだらない事だと思っていたので女に関しては全く、無知だった。
そのため、いまだに、どうやって子供が生まれるのかも知らなかった。
それが目前に裸の女を見て、女とは何かという興味が起こり出したのである。

哲也は本を読み終わると静子夫人の所に行き、太腿を触ったり、胸を触ったりと静子の体を触り出した。
しかし、それは劣情からではなく、女というものを知ろうとする知的好奇心の手つきだった。
そして静子夫人の体を触っては、本を読み、ふむふむ、と納得したように、一人で肯いた。
そしてまた、静子夫人の体を調べだした。
哲也は静子夫人の尻の割れ目をグイと開いた。
「ああっ。哲也さん」
黙って羞恥に耐えていた静子夫人が思わず声を出した。
「て、哲也さん。は、恥ずかしいわ。あ、あんまり見ないで。お願い」
静子夫人は顔を赤くしながら声を震わせて言った。
本当の学者は何か疑問が起こると、とことんまで調べようとする。
哲也は自分の知的好奇心の暴走に、静子夫人の発言によって気づかされた思いがして、静子の体を調べるのを止めた。
それで机にもどったが、あいかわらず、本を読んでは、静子夫人の方に視線を向けた。
哲也の視線は静子夫人の女の部分に集中した。
静子夫人は、それを感じとって、顔を赤くして女の部分を木馬で隠すように腰を動かした。
それでも哲也の視線は一点、木馬に隠された女の部分に集中している。
「あ、あの。て、哲也さん」
と言って静子夫人は切り出した。
「た、助けて」
静子夫人は顔を赤くして小声で言った。

言われて哲也は能面のような顔つきで静子夫人を見たが、頬杖をついて考え出した。
哲也は小声でボソッと呟いた。
「静子夫人は助けて。という。しかし、僕は哲学者として、身を立て生きようと考えている。ニーチェも言っているが、真理は善悪を超越したところに有る。僕が今、助けることは簡単だ。しかし、それは安易な感傷主義、英雄主義ではないのか。人類を滅ぼしてきたのは、安易な感傷主義ではないか。行動は、戦士、政治家の徳であり、静観することが哲学者の徳で、僕はそれを堅持する、と誓ったではないか。そもそも僕は善と悪の定義をできていない。芭蕉も深い哲理を内に秘める人であったが、路傍に捨てられた赤子をみて、ああ、汝、汝が運命のつたなさを泣け、といって、手を出さなかった。ここは、やはり、ことの成り行きを静観すべきだ」
哲也はそんな独り言を言った。
「ああ。哲也さん。理屈を言ってないで助けて」
静子夫人は、すぐに哀切的な口調で言った。
「理屈だと。これは真理の追究のための真剣な戦いなのだ」
哲也は怒鳴った。が、すぐにはっと気づいたように黙り込んだ。
合理主義をモットーとする彼は、感傷的に怒ろうとした自分を恥じたのである。
「哲也さん。ねえ。うん。いや。助けてくれたら、いいことさせてあげるわ」
と静子夫人は口を半開きにして豊満な乳房をプルンと揺すり、媚態を示した。
静子夫人は、この変人に色仕掛けで誘いをかければ、自由になってこの屋敷を脱出できるかもしれないと考え、それに一縷の望みをかけようと思ったのだ。

哲也は一瞬、つられそうになったが、煩悩、欲情、感情、の赴くまま、これら、すべては哲学者の敵だ。と自分に言い聞かせた。人をだます、色仕掛けは、はたしてよい徳といえるだろうか。という理屈がついたのはいうまでもない。
静子夫人は、
「あはん。あっは~ん」
と切ない、喘ぎ声を出しながら、体を海草のようにくねらせ、哲也にねだるように言うのだった。
「ねえ。哲也君。哲学なんかより、私と一緒に遊ばない。そっちの方が面白いわよ」
哲也は、
「何を!!」
と言って、目を吊り上げて、立ちあがった。静子夫人をぶってやろうかと思った。これは、自分が子供扱いされた侮辱からではなく、自分が絶対の真理だと思う哲学が侮辱された、と思ったからだ。彼の直感がそう感じた。しかし、手を構えてぶとうかと思っていた時に、別の考えが浮かんで彼を思いとどまらせ、彼は力なく、椅子に座りこんでしまった。
「哲学より、欲情的行為の方が面白い。静子夫人はそう言った。しかし、静子夫人が言った、この命題が非であるとどうやって証明すればいいのだ。哲学は確かに真理だ。しかし、哲学が欲情行為より、面白さ、という点で、上であるとは、証明されていないではないか。証明されていないものを否定することほど非哲学的行為は無いではないか」
こういう理論が彼の頭を擦過したからである。
「ああ。哲也君。哲学とか、難しいことを考えるえらい人は、目前で困っている人を助けてはくれないの」
といって静子夫人は、
「ああん」
といってプルンと豊かな胸をゆらした。これをみて、さすがの哲也も、劣情に負けそうな気が起こって立ちあがろうとした。が、自分に、
「待て。劣情が起こって女に触れる。これは、カント哲学でいう、因果律の奴隷以外の何物でもないではないか。人類のおろかな歴史は、人間がこの因果律で行動してきたところにある。ユートピアを実現させる人間の自由を獲得するには、この因果律を何が何でも截ち切ることからはじめなくてはならない」
そう思うと哲也の目には、静子夫人の媚態が人類を破滅に導く悪魔のささやきに、見えてくるのだった。やはり、この悪魔は懲らしめなくてはならない。と、静子夫人をみているうちに思うのだった。そして、静子夫人をいたぶっている森田組とは、そのことを自分より先に考えているようにも思え、哲也は自分をこえた思想的論敵なのかもしれない、とおそれを感じて、難しく考え込むのだった。

「ああ。哲也君。お願いだから、助けて。難しいことを考えるえらい人は、困っている人を助けてはくれないの」
哲也は一瞬、この、きわめて明白で、妥当に思える、訴え、を、実行に移すことに何の間違いもないように思えた。哲也の心のうちに、その行動に、誤りが全くないか、どうかを検証してみた。
「確かに彼女の言うことは正論だ。それにしたがって行動しようしとしている僕は、因果律に支配されていることになる。しかし、自由を得る因果律の破壊は、人間の営みのすべてに当てはめるべきことではない。曖昧模糊として、自分でも正しく掴めない、正義の名をかりて、その実、自分の無意識下で、自分の欲求を満たしたい、不純な夾雑物が、あるような時に、いさめなくてはならないことであり、この場合には、何ら不純な夾雑物はないのではないか」
そう思うと、
「よし」
と思って、哲也は静子夫人を助けようと近づいた。静子夫人は、
「ああ。ありがとう。哲也君」
と言って、涙を流した。この涙をみた時、また、哲也に、別の考えが進入してきた。彼は自分に言い聞かせた。

「僕は自分が哲学者になると、かたく決心した。哲学者は、どんなことがあっても自分を、テオリア、の立場に置かなくてはならない。哲学者は、この世とかかわりを持ってはならない。もし、ほんのちょっとでも世界と関わったら、もはや世界は、純粋な客体ではなくなってしまう。自分の行為が混じった世界となり、純粋に世界を客体としてみることは、不可能となる。自分が、関わった世界を客体としてみようとするなど不純な行為、以外の何物でもない。そういう、きれいな使い分け、をするのは、ニセ哲学者だ。行動が小さければ、世界は、変わらないという考え方は邪道だ。大海に一滴ならインクをたらしても、大海は、変化しない、と考える誤りと同じだ。僕はもはや哲学者の資格を失い、僕は社会の一員となり、僕を含めた世界というものを別の純粋な哲学者に、考究してもらうことになる」
こんなプライドが静子夫人を救出から阻止した。
静子夫人は希望をたたれてガックリした。
「かなしいわ。私。でも、よくわからないけど、哲也君のように、真面目にものを考えている人に、見守られていると、何だか幸せだわ。私ってMの気があるのかもしれないわね。あの人達は、無理難題をふっかけて、私をいじめることしか考えていないんですもの」
と言って、切れ長の目から一筋、涙を流した。

そこへ森田が入ってきた。
森田は夫人をみると、理由も言わず、いきなり、静子夫人をピシャリと平手打ちした。
「な、何でたたくのですか。人をたたく時には、理由くらいおっしゃったらどうです」
「おー。このアマ。いつのまにか反抗的になりやがった。奴隷という自分の立場を忘れやがったのか。たたく理由なんざねえよ。たたきたくなったから、たたいただけよ。いつの間に、どういう心境の変化で生意気になりやがったんだろうね」
哲也の真面目さに、ほだされて、悪に立ち向かう勇気、から、つい、もらしたコトバだったが、同情を求めるように、チラと哲也の方をみたが、無表情にして、一心に、静子夫人をみている哲也をみると、希望を失った落胆から、哀しげな表情にもどり、森田に向かい、
「ごめんなさい。生意気なことをいった静子を、うんとお仕置きして下さい」
と訴えるように言うのだった。
「おー。やっぱり調教した甲斐あって、人間が出来てきたじゃねえか。よし。望み通りうんと仕置きしてやるぜ。だが丸裸ではかわいそうだからな。褌はさせてやるぜ」
と森田は薄ら笑いで言った。
「暴逆的に全部脱がせないで、褌はさせるとは、この男達、武士の情けがある、のだ。やっぱり根っからの悪い人間ではないのだな」
と哲也は感心するのだった。

「ああ。哲也さん。違うのよ。わざと褌をつけさせて、この男達は私を心のそこから、おとしめ、なぶりぬいているだけなのよ。武士の情けなんかではないのよ。こんなことされるの、裸にされるのより、もっと惨めで恥ずかしいの。SMがわかる人なら、それはわかるわ。哲也さんはSMがわからないから武士の情けなんて、悪魔たちを変な風に解釈してしまうのよ」
と叫びたい思いだった。

「へっへっ。あとで浣腸もしてやるよ」
森田は薄ら笑いして言って静子夫人の豊満な尻をピシャリと叩いた。
哲也は、小首をかしげた。
浣腸・・・。何のために浣腸するんだろう。女は便秘症が多いから、静子夫人も便秘症で、きっと便秘を楽にしてやるためだと思い、ヤクザにもやさしさ、が、あるのだなと、感心するのだった。
静子夫人は、いいかげんあきれて、
「私は便秘症ではありません。全くニブイったら…このうすらトンカチ!!」
と、一瞬言ってやりたい気持ちになるのだった。

それじゃあな、と言って森田は部屋を出て行った。
それと入れ替わるように銀子が入ってきた。
銀子はしばし木馬に跨っている静子夫人を眺めていたが、
「ふふ。いいスタイルね。美しい夫人の乗馬姿は、なかなかいかすわ」
と言った。
静子は恥ずかしそうに顔をそむけた。
銀子はつづけて言った。
「普通、拷問用の木馬の背は、削って尖らせてあるものだよ。そんなスベスベした丸い背に乗せてもらえるなんて、幸せじゃないか」
そう言って銀子は静子夫人の尻をピシャリとたたいた。

哲也は腕組みして考え込んだ。
「幸せ。なぜ幸せなのだろう。確かに日本は、大戦後、驚異的な経済成長をして、GDP世界第二位国になった。戦争中の日本に比べれば、確かに、日本人は物質的に豊かになった。しかし、この状況は幸せ、とは、思えない。戦時中に比べると現代は、格段の幸せの時代だ。しかし、人々は、物質的享楽にうつつをぬかし、その幸せのありがたさを忘れている。もしかすると銀子は、そういうことを言っているのかもしれない。戦時の不幸を忘れるな。感謝の心を忘れるな。と。戦時中は食糧は、配給制になり、いつ空襲に襲われるか、わからない暗黒の時代だった。確かに戦時中の悪夢の時代に比べれば、相対的に幸せ、といえるのかもしれない」
そう考えると、哲也は、銀子が深い思慮を持った憂国の女士に見えて、敬意の気持ちが起こってくるのだった。

銀子はしばし、木馬に跨っている静子夫人を眺めていたが、ニヤリと笑い、静子夫人の乳房を指先で突いた。
「これは何?」
銀子は楽しそうに聞いた。
「そ、それは静子のおっぱい」
静子夫人は顔を真っ赤にして言った。
銀子は、ふふふ、と笑った。
「これは何?」
そう言って銀子は静子夫人の乳首をピンと指ではじいた。
「そ、それは静子の乳首」
静子夫人は、顔を赤くして答えた。
銀子はまたしても満足げに笑った。
「じゃあ、これは何?」
と言って銀子は静子夫人のヘソをつついた。静子夫人は、悪魔達のからかいにいいかげん腹を立て、
「それは、臍にきまってるでしょ。そんなことも分からないの。あなた幼稚園からやり直したらどう」
とキッと言った。銀子は、
「あっ。言ってくれたね。今の反抗は高くつくよ。ある責めを、勘弁してやろうかと迷っていたけど、やっぱり決行ね」
と言ってピシャリと平手打ちして部屋を出ていった。

銀子はすぐにもどってきた。籠をもっている。
中で何かがゴソゴソと気味悪く蠢いている。
銀子はおもむろに籠をあけて、中のものを取り出した。
それは2mもある錦蛇だった。
銀子がヘビの頭をつかんで静子夫人の方に向けた。
「ひいー」
静子夫人は思わず声を張り上げた。
そして恐怖に全身を震わせ、身を引いた。
ヘビはチョロチョロと赤い舌を出して物欲しげに静子夫人を見ているようにみえた。
「ねーえ。かわいいヘビちゃん。奥さまの体の上を這い這いしたいのね」
銀子はそう言ってヘビの頭をなでた。
「はいはい。待ってな。これから二人でゆっくりランデブーできるのよ」
銀子はヘビに言い聞かすように言った。
静子夫人は恐怖におののいて、
「ぎ、銀子さん。や、やめてー。助けてー。な、何でも言うことは聞きます。それだけはやめて」
と哀願するのだった。
静子夫人はヘビが自分の体の上を這いまわるのを想像して何度も哀願した。
銀子はしばし、余裕の表情でヘビの体を撫でながら、怯える静子夫人を見ていたが、いきなり、ヘビを裸の静子夫人の体に巻きつけた。
「ひいー」
静子夫人は絹を裂くような悲鳴を上げた。
だが、後ろ手に縛られて、木馬に跨っているため、どうすることも出来ない。
ヘビは静子夫人の体のぬくもりを楽しむかのようにズルズルとゆっくり静子夫人の体の上を這い回りだした。
「ひいー。と、とって。とって下さい。お願いです。銀子様」
静子は青ざめた顔で訴えた。
銀子は、ヘビを巻きつけられた静子夫人を笑いながら眺めていたが、しはしして、おもむろにヘビを取り、籠の中にもどした。
「か、感謝します」
静子夫人は汗だくで言った。
銀子はニヤニヤ笑っている。
静子夫人は、やっと地獄の責めから開放されて、ハアハアと荒い呼吸をした。
「ぎ、銀子さん。私から何もかも奪い取って、惨めのどん底に落してさも楽しいことでしょうね。いいですわ。もう、助かることなど諦めました。惨めのどん底で生き恥を晒す私をうんと笑うがいいわ」

黙って見ていた哲也は額に皺を寄せ考え込んだ。

ヘーゲルは人類の歴史は、階級闘争の歴史と、喝破したが、確かに裕福な資産家の夫人がこうしてヤクザ達にみぐるみ剥がれているのは、やはり、階級闘争の歴史の現実で、ヘーゲル哲学が、まざまざと目前で現実として証明されているのを見せつけられているような気がして、かの偉大なドイツ哲学者にあらためて感服するのだった。
哲哉はそんな事を小声でブツブツ呟いた。
静子夫人もいいかげん、この変わり者にあきれ果て、
「感心してる場合じゃないでしょ。何もかも私から奪い取って、搾取しているのは、この人達ではありませんか。私の方こそ、階級闘争の革命をしたいくらいですわ」
と、憤怒の目をチラと哲也に向けるのだった。

「じゃあ、また後でうんと楽しい事をしてやるからね」
と言って銀子はヘビの入った籠を持って部屋を出て行った。

銀子が去った後、哲也は立ち上がった。何か名セリフを言おう、という考えが哲也を立ち上がらせたのだ。偉大な思想家は、皆、名言を言うので、自分を偉大な思想家と信じる哲也は、名セリフを言うべきだと思ったのだ。それで、芭蕉が旅の道中で、路傍で泣く赤子をみて、
「ああ。汝、己が運命のつたなさを泣け」
と言って去ったのを思い出し、
「ああ。女よ。汝、己が運命の不遇なるを泣け」
と詠嘆的に言った。教養のある静子夫人は、これが芭蕉の「野ざらし紀行」の言葉を借りたものであることを、すぐに感じ、内心、
「芭蕉は一人旅の道中だったから、路傍の赤子に会うたびに、いちいち身元ひきうけ人になるお金も時間もなかったからでしょ。あなたは、縄を解いて、逃がしてくれれば、それだけでいいではないですか。全然当を得てないわ。もう、いいかげんにして。このウスラかんちがい!!あなたの考え方の間抜けさにこそ、私は泣きたいですわ」
と内心、叫びたくなるのだが、森田の息子の機嫌を損ねては、自分が不利になるだけなので、さも感動したように、
「ああ」
と言って、ガックリ肩を落し、絶望した女らしく演じてみせるのだった。それをみて、哲也は、
「やはり俺は偉大な思想家なのだ」
と、勇壮な表情で、納得したように、得心するのだった。

しばし静かな時間がたった。
木馬の上で静子夫人は疲れ果ててた。
もう、怒る気力も失せていた。
「哲也さんてどこどこまでも冷たいのね。人間的でないのね。でも哲也さんは感情の赴くままに行動していないんですもの。哲也さんに見守られているとこんな苦しみも何だか快感に変わっていくような感じだわ。もう静子は哲也さんに見守られているのなら、どんな酷いことをされても幸せです」
ここにきて、哲也にも悩みの感情が起こり出した。純粋なテオリアなど存在しない。現に彼女の心は僕の存在によって、影響を受けて変化、作用、している。自分が善意で静子夫人を救出する。これは意志だ。しかし静子夫人を世界を救う哲学のために静観する。これもやはり意志だ。現に彼女は僕の静観という態度によって影響を受けている。世界に影響を与えている。触れている。テオリアとは単なる即物的なものではない。本当のテオリアとは精神的にも世界と関わりを持たないことだ。静子夫人は今、善悪を超えた境地にいる。むしろこの精神が開放された時、彼女がどう行動に出るか、ということに人類の行きつく先の、答えがあるのではないだろうか。
この思いが哲也の中でどんどんふくらんでいった。
「認識の最良の方法はテオリアなんかじゃない。認識の最良の方法は行動だ」
哲也はそう言った。
哲也は立ち上がって静子夫人の縄を解いた。
「ああ。哲也さん」
静子夫人は哲也にしがみついて泣いた。
「逃げなよ。服もあるよ。僕を縛って、ナイフで人質にしなよ」
「誰がそんなことするもんですか」
哲也はズボンとシャツを静子夫人に渡した。
静子夫人は、いそいでそれを履いた。
静子夫人は哲也にしたがって屋敷から彼らに見つからないよう出た。
家に戻った静子夫人は夫に一切を話した。
夫には代議士の友人も多く森田組を潰すことなど、わけはなかった。
静子夫人は悪事を働かないことを条件に森田組の事は警察には言わないと電話した。森田組は、しぶしぶそれを受け入れた。
しかし、静子夫人は一人でいると時々、耐えられない思いになるのであった。
そして時々、哲也に電話をかけてこう言った。
「て、哲也君。お、お願い。家に来てくださらない。今日も静子をうんといじめて」


平成20年12月24日(水)擱筆

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棋士物語(小説)

2015-07-22 01:01:21 | 小説
棋士物語

官能小説の第一人者として二十年以上にわたり、ひたすら執筆しつづけてきた団鬼五であるが、膨大な作品群の単行本化によって、あとは印税収入で、あそんで暮らせる身分になると、断筆宣言をして、今までかせいできた金で、横浜の山の手に、一億二千万かけて、大邸宅を建てた。
鬼五には、将棋の趣味もあり、自身アマ六段の腕である。ある将棋雑誌をかいとって、オーナーになった。官能小説を書くのは、結構つかれるので、それはもうやめて、余生は、将棋関係の執筆や、釣りをしたりして、のんびりすごそうと思った。
趣味と将棋雑誌への掲載の実益をかねて、有名なプロ棋士を自宅に招いては、対談や、対局したりして、それを将棋雑誌に載せていた。鬼五の家には将棋界の問題児、大池重暗、も出入りしていた。
大池は鬼五を親分のように慕い、また、体格もガッシリしていて、鬼五のボディーガード役的な存在でもあった。
将棋界における鬼五の存在は大きかった。
自身アマ六段の実力がある上に、強靭な文体で書くために、将棋関係の人間だけでなく、将棋マニアでない、一般の読者も鬼五の将棋エッセイをおもしろがって読むので、棋界の世間へのアピールにもなるので、将棋界にとっても、鬼五は貴重な存在だった。大山、升田、のような、もはや伝説的棋士とも対局した。
将棋界でも、鬼五は、親分格、黒幕的存在になってしまった。若手の新人がタイトルを獲得すると、家に招いて、対談したり、対局したりした。そして、それを将棋雑誌に載せていた。趣味と実益を兼ねていた。
そして、ある、どえらい天才的新人が、次々とタイトルを獲得し、とうとう、前人未到の七冠王を獲得し、永世棋聖の称号を獲得した。沖縄に生息する毒蛇のような名前だが、きわめて人当たりのいい好青年である。これは、もう、将棋界だけではなく、マスコミ的話題になった。
そして彼は人気女優と結婚した。
彼女は彼と同い年であり、朝の連続テレビドラマのヒロインとして一躍人気を得た。
ある雑誌の対談がきっかけで二人は付き合うようになり、ついに婚約した。
鬼五は二人の結婚の仲人をした。
二人はハネムーンにヨーロッパへ行き、帰国して、鬼五の家に、お礼を兼ねて挨拶に行った。将棋に関する話題は尽きず、気づくともう日は暮れかかり、鬼五の再婚の妻の亜紀子夫人に、今日は、うんと手をかけて御馳走を作りますから、泊まっておいきなさい、といわれ、二人は、その晩、鬼五の家に泊まることにした。
この鬼五の再婚の妻は、鬼五が五十を過ぎてからの再婚であったが、鬼五には、もったいないほどの、つつましい、和服のにあう絶世の美女だった。
その日の夕食は、酒蒸しはまぐり、海老のいそべ焼き、八幡巻き、イクラの紅葉あえ、鯛の白酒焼き、結びやなぎ、日野采の桜漬け、海老のたき込み御飯、若竹汁、であった。
家には、将棋界から追放されている大池も、ひそんでいたが、大池は、世間で脚光を浴びてるこの七冠王にシットし、また、以前、この七冠王と、鬼五の家にきた、彼女に心をときめかせ、プロボーズしたのだが、
「いやよ」
の一つ返事で、あっけなく断られ、愛情の三十%は憎しみに逆転していた。
その晩は、鬼五夫妻と新婚の山賀夫妻の四人のなごやかな夕食となった。鬼五と山賀は、将棋については話題は尽きなかったが、亜紀子夫人が、新婚の二人を慮って、鬼五をはずさせ、食事を下げてから、マロンシャンティーに高級ブランデーを持ってきて、
「となりにお床がのべてあります。お風呂は一階の右手の奥にありますから、遠慮なく、お使いください。では、私はこれで失礼します」
と言って、部屋を出ていった。実に心くばりのある鬼五夫人である。まるで鬼五の小説に出てくる静子夫人みたいである。
 山賀夫妻は、ほんのりほろよいかげんである。そこへいきなり、ズベ公三人と、大池がでてきた。大池は、ズベ公に命じてエミを取り押さえさせると、喉元に刃物をあて、山賀に向かって、
「おい。おとなしくお縄をちょうだいするんだ。さもないと、かわいいワイフがあの世行きだぜ」
とおどす。山賀は、
「おのれ。ひきょうな。お前は、そういう根性だから、将棋界から追放されたんだ。エミにちょっとでもふれたら、ただではすまさんぞ」
と言うと、大池は、ふてぶてしく居直って、
「ふふ。どうすまさんというんだ」
といって、エミに振り返り、
「なあ、エミ。あんなヤサ男のどこがいいんだ。おれと結婚してくれ」
と言って、エミをくどきにかかった。怪力をみせようと二の腕に瘤をつくってみせた。
「フン。あなたなんて最低よ。こんなことが世間に知れたら、どうなると思ってるの。よくそんな頭で棋士がつとまるわね」
と、突き放した口調で言う。
「鬼五先生は日本将棋連盟に顔がきくんだ。先生にとりなしてもらって、プロ棋士になるよ。たしかに、こんなことは犯罪だ。だけど僕はもう、寸借サギまでして、おちるとこまでおちて、もうこわいものなんてないぜ。それより、こんなスキャンダルは君の方で困るんじゃないかな」
と言って、大池はエミににじり寄った。
「なあ、たのむよ。エミ。オレは、君のためなら何でもするよ」
と言って、大池はエミの膝にしがみついた。が、エミはカツンと膝蹴りをくらわした。このいかりの矛先は山賀に向けられた。
「くっ。やい。山賀。いざ、尋常に勝負しろ。エミ。みてろ。ほれ直させてやる」
と言って、大池は将棋盤を持ってきて駒をならべはじめた。大池は内心、自分は無冠の帝王で、実力でなら誰にも負けない、との不敵な自負をもっていた。
一方、山賀も、プロ殺し、などと言われる、このアウトロー棋士を、一回、完膚なきまでに負かして、増長満の鼻をおってやりたく思っていた。山賀は、
「おう。ねがってもないところだ」
と言って、二人は、将棋をさしはじめた。エミは、後ろ手で縛られていて、スベ公三人に取り押さえられている。
「あなた。ガンばって」
とエミが声援する。この声援は新郎よりもむしろ、敵の闘志と憎悪を燃え立たせた。山賀は、手堅く、矢倉居飛車戦法できた。大池は、
「へっへっへっ。矢倉居飛車ときた。おぼっちゃまのとくいな矢倉居飛車―」
と下品なヤジをとばす。精神的に動揺させようとのコンタンだが、そんなことで動じる七冠王ではなかった。
序盤から、スムーズな展開で、一方的に追いつめ、十分もかからず、大池は、
「ちくしょう」
と言って、駒を盤に投げつけ、投了した。
大池はいきなり立ちあがり、山賀におそいかかり、縛り上げようとした。ズベ公二人をうながして、
「おい、手伝え」
と言った。二人の対戦中、ひそかに縄をゆるくしておいたエミは、縄をふりほどくと、彼女をとりおさえていたズベ公をドンと突き倒した。
「あなた。すぐにケーサツにデンワします。それまで、まってて」
と言って部屋を出た。大池は、エミにつきとばされたズベ公に、ヤツを追え、と言った。で、言われたズベ公はエミの後を追った。
エミは足が早いが、ここは一億二千万もかけた十五部屋もある、さしずめ、ミノタウロスの住むラビリントスである。ある部屋をあけると、ミノタウロスたる団鬼五が、グーグー寝ていた。追手はせまってくる。
「よし。ここは、このヘッポコエロダヌキを人質にとって、ケーサツにデンワするんだ」
と思った。エミは、鬼五の着ているものを全部脱がし、丸裸にすると、鬼五を後ろ手に縛り上げ、その縄尻を、梁にとりつけられていた滑車に通して、ギイギイ引き上げ、縄尻を大黒柱につなぎとめた。そして、抵抗できないようにするため、足首を縛り上げた。さいわい日本刀やら短刀がおいてある。鬼五の蒐集品らしい。
エミは鬼五のほっぺたをピシャリとたたいた。
「あっ。お前は山賀エミ」
「そうさ。お前にセツメイしてるヒマはないんだ。おとなしく人質になっていうことをきくんだ」
といって、短刀のみねを、男の一物の上においた。エミは枕もとの電話をとると110番した。
「もしもしケーサツですか。ここは、ヨコハマの変態作家、団鬼五の家です。今、あの大池が、とんでもないショーガイザタをおこしてまして、きてください」
「よし。わかった」
鬼五は当惑した。何たって、こんなことに。
「ふー。あとはケーサツがきてくれるのをまつだけだ」
エミは、やっと肩の荷がおりた安堵感で、ほっと一息、胸をなでおろした。もう安全である。裸で縛られてる鬼五をみていると、エミの心に、正義感も、ちょっぴり加わったイタズラ心がおこってきた。
エミは以前、鬼五の小説を読んで、生理的ケンオ感を作者の鬼五にもっていた。女を裸にして、ヘンタイじみたことをする話や、そんな感性をもった鬼五を内心、身の毛もよだつ思いで、ゾッとしていた。あんな悪魔小説を世に出すヤツは、こらしめねば、と内心、思っていた。
「やい。エミ。何だってこんなことしやがるんだ。はなしやがれ。なんで仲人をしたオレにこんなことをするんだ」
「ふん。今まで笑顔で接してたけど、内心では、ゾッとしていたんだよ。あんな犯罪を何とも思わないズベ公や大池を、かっとくくらいだから、たたけば、ほこりもでるだろう。変態作家、団鬼五のさいごってやつさ」
エミは、おかしさにこらえきれず、クスクス笑いたした。
「ふふ、小きみいいったらありゃしない」
エミは、鬼五の玉をけった。
「ひいー。いたい。いたい。やめろ」
「ふふ」
エミは鬼五の耳をつねったり、鼻をひねったり、ヘソに短刀をあてたりした。エミのオテンバ、Sのイタズラ心がむくむくおこってきた。
「さあ。こういいな。エミ女王様。わたくしがわるうございました。どうかおゆるしください」
「何だってオレがそんなこといわなくちゃならないんだ」
「ゴチャゴチャうるさいよ。理屈をいうんじゃないよ。いわないんなら、もう一回タマをけるよ。こんどは本気でけるよ」
鬼五が口を開かないので、エミは、近くにあったムチをとり、鬼五の尻をピシッとたたいた。
「ヒイー」
鬼五の悲痛な悲鳴が上がる。
「ほら、いうのか、いわないのか、どっちなんだよ」
といって、エミは鬼五の頬をピシャンとたたいた。
「エ、エミ女王様。わたくしがわるうございました。どうかおゆるしください」
鬼五は、弱々しげな口調で、エミに命じられたセリフを言った。
攻撃は強いが、防御が弱いボクサーがいるが、鬼五は、その典型だった。
「心がこもってないよ」
とエミは再び、ぴしっとムチでたたいた。鬼五は悲痛な悲鳴を上げて、泣きじゃくりながら、おどろに乱れた黒髪を振り乱してもう一度言った。
「エ、エミ女王様。わたくしがわるうございました」
くやし涙が一筋、鬼五の頬を伝わりおちる。オニの目にも涙。
その時、大池とズベ公が戸を開けて、入ってきた。
「あっ。先生。何たることに…」
「近づくんじゃないよ。近づくと、この、のらくら包丁でタマをちょん切るよ。もう、とっくにケーサツにデンワしたから、すぐにかけつけてくるよ。それまで、こいつは人質だよ」
と言って、エミは、鬼五の屹立した一物の上に備前長船をのせた。(こういう時に屹立するとはどういうことか。一見、完全なSで通っていた鬼五にも、実はかくれたMの気があったのだろう)
だが大池は、腕組みをして、ふてぶてしく笑った。
「ふふ。エミ。どうせお前がすぐケーサツにデンワするだろうと思って、お前が部屋をとびだした後、すぐに、ケーサツ署長にデンワして、『これからビデオの撮影、で、ケーサツに助けを求めるデンワが入りますが、お芝居なのでどうか、ご了承ください。』といっといたんだよ。ケーサツ署長は、鬼五先生の奥さまの、お父さんで、鬼五先生は、署長と顔見知りで、一緒に、よく酒を飲みにいったりするんだよ」
「おお。大池。おまえはやることにぬかりがないな。よくやった」
と鬼五は、ほくそえんでいう。
「ま、まさか」
といってエミが青ざめ、ひるんだ瞬間、ズベ公二人がエミにおそいかかり、刀をうばいとるや、後ろ手に縛り上げてしまった。そしてすぐに、ズベ公は鬼五の縛めを解いた。
鬼五は大急ぎで浴衣を着た。そして、エミの前にデンと胡座をかいて座り、ズベ公に目くばせした。
ズベ公はエミの縄尻を、梁にかかった滑車に通し、縄尻の先を大黒柱につなぎとめ、エミを立ち縛りにしてしまった。エミは、縄ぬけしようと、もがいてみたが、さっき、縛られた時、縄ぬけされたため、ズベ公は、今度は絶対ぬけられないよう、きつく、スキなく、幾重にも、キビしく縛り上げたため、どうもがいてもムダだった。
ズベ公は、エミのスカートのチャックをはずし、スカートを、むりやり剥ぎ取った。
エミの清楚なパンティーと、それにつづく美しい形の脚があらわになった。羞恥心が、何とか、みられることから守ろうと脚を寄せ合わせる。
鬼五によびよせられて、大池も鬼五の近くにドンとすわり、捕り物の仕事を終えたズベ公も加わって、エミは円座の中心で、立ち縛りで、悪鬼どもの野卑な視線を浴びる晒し者の立ち場になった。
だが、心は決して屈していなかった。
「ふふ。エミ。よくも女だてらに、すばらしいことをやってくれたじゃねえか」
と、立場が逆転した鬼五は、余裕綽々とした口調で、口元をニヤつかせて言う。
「フン。ヘッポコ変態エロダヌキ」
「何だと、このアマ」
と言って、大池はエミにおそいかかろうとしたが、
「まあまて。大池。こういう鼻っ柱の強いヤツほど実は色責め、が面白いんだ」
と言って、鬼五はニヤつきながら、大池を制した。
大池は鬼五の方をみて、相好をくずし、
「へへ。先生。このアマ。どう責めやしょう」
「おう。いわずもがなよ。わしにこんな狼藉をはたらいた女ははじめてよ。いわれずとも、これから、こってりと責めてやるさ」
「フ、フン。小説で、やってるようなことを本当にやったら手がうしろにまわるのはお前たちの方だよ」
といいつつも、エミは、小刻みにパンティーからつづく脚を寄せ合わせ、カタカタと全身を震わせている。
「ふふふ。たしかに犯罪だな。だが親コクソだぜ。はたしてコクソできるかな」
と大池がうす笑いでいう。
「フ、フン。こ、こわかないよ」
といいながらも、エミは、カタカタ体を震わせている。
大池はエミににじり寄って、態度をガラリとかえた、あまえた口調で、
「なあ。エミ。おれのせつない気持ちをうけいれてくれ。おれは、君のためなら奴隷になってもいいんだ」
といって、腿にふれようとした。エミはカツンと膝げりをくらわした。
「触れるんじゃないよ。この変態コンビ。ニタモノ親子丼」
「クッ。このアマ。かわいさあまって憎さ百倍ってやつだ」
といって、パンティーをひきずりおろそうと、ゴムに手をかけた。
「まあまて。大池。こういう鼻っ柱の強いヤツほど、じっくり気長にいくのが面白いんだ」
二人は顔を見合わせて、
「ふふふ」
と笑いあった。鬼五が、
「ほな、ぼちぼちいくとするか」
といった。その時、大池は何か、思いついたらしく、
「へへ。親分。最高の責め、をおもいつきましたぜ」
といって、鬼五に、その内容を耳打ちした。鬼五は、
「なるほど。そいつは面白い」
といって、
「ふふふ」
とふきだし笑いした。大池は、ズべ公に言って、山賀を連れてこさせた。
後ろ手にキビしく縛り上げられた山賀が、ズベ公二人に取り押さえられて、入ってきた。二人の視線が合うと、エミは、
「あなた」
と弱々しくいった。山賀は瞬時に大池に憎悪の目を向けると、
「クッ。大池。きさま、というやつは」
といって、鬼五にふり返り、
「先生。こんなことは、やめさせて下さい」
鬼五は、やや照れくさそうに笑って、
「山賀君。すまんな。君には、うらみはないが、君の女房は、わしに煮え湯を飲ませたんだ。天下の鬼がコケにされた、とあっては、すまんのだ。それに、わしは君のようなエリート棋士は、あまり好かん。わしは、大池のような無手勝流が、好きなんじゃ」
「先生。妻の失礼のバツは私がうけます。いかようにもすきなように責めなぶってください。そのかわり、どうか、妻はゆるしてやって下さい」
「ああ。あなた。ゆるして。私が、図にのってしまったばかりに。こんなことになってしまって」
といって涙を流した。
「君のせいじゃない。卑劣な大池がわるいんだ」
「何だと。きさま。ぽっとでの新人のくせに。よーし。じゃあ。つぐなってもらおうか。では、まず指裂き責めだ。ふふ。苦労しらずのエリートぼっちゃんがどこまで耐えられるかな」
といって大池は指を裂きはじめた。ハンバできたえたバカ力である。
山賀は、
「ああー」
と悲痛な叫びを上げた。
「ふふ。もう、ピシャリとカッコよく駒をさせねえよう、引き裂いてやる」
大池は責めの力を強めた。
「次はペンチで爪をひきはがすとするか」
「ああ。大池さん。ゆるして。私が悪いのですから、私を責めて下さい。なんなりと」
「ふふ。愛し合う者どうしの美しい、かばいあい、ってわけかい。じゃあ、何でもいうことをきくか」
「き、ききます」
「よーし」
といって大池はニタリと笑った。
「ふふ。安心しな。お前を裸にしたりなんざしねえよ。そのかわり、お前が亭主にこうするんだ」
といって、大池は、ヒソヒソとエミに耳打ちした。それをきくや否や、エミは、
「ああー。そ、そんなこと」
といって、はげしく首を振った。
「ふふ。したくねえなら、しねえでいいぜ。亭主が痛い目をみるだけだ」
といって、再び山賀のもとに来て、グイと右手の指をムズとつかんで、今まで以上の力を込めて、指裂きの責めをはじめた。
「ああー」
涙がでている。
「ふふ。温室そだちのぼっちゃんのわりには、がんばるじゃねえか」
「や、やめて。や、やります」
耐えきれず、エミは叫んだ。
「そうかい。じゃあ、やりな」
大池は、責め、をやめ、ドッカと胡座をかき、さもうれしそうに、ニヤニヤ、エミを見ている。
だがエミは困惑した顔つきで、なかなか行動する勇気がもてない。
待っても、行動しないエミに業を煮やした大池が、
「ほれ。とっととやらねえか。そうかい。やらねえのかい。そんなら、亭主の指を裂くまでだ」
と言って、再び山賀の右指をムンズとつかんだ。咄嗟にエミは、
「や、やります。やりますから、やめて!!」
と叫んだ。エミはしばらく心内の苦悩に口唇を噛んでいたが、とうとう決断して重たい口を開いた。
「よ、よしお。ここへきな」
といって、彼女は耐えられず、
「ああ」
と苦悩のコトバをもらした。そして、声を震わせながら、
「さ、さあ、はいつくばって足をお舐め。わ、私のかわいい奴隷」
といって、
「ああー」
と泣いた。夫は言われた通り、はいつくばって言われた行為をした。
「ほら。つぎ」
と、大池にせかされて、エミはコトバをつづけた。
「ほら。奴隷らしくしっかりきれいに舐めるんだよ」
彼は奴隷のように、大切そうに足指の股を一本一本ていねいに開いて、舐めている。
「あ、あんまりだわ」
と言って彼女は、大池に、悲しみの目を向けた。が、大池の表情には、とりあう気持ちなど全く見られない。
「ほら。つぎ」
と、また大池にせかされて、エミはコトバをつづけた。
「さあ、こ、こんどは左足をお舐め」
エミは、泣きじゃくっている。
「エミちゃん。いいんだよ。僕は君のためなら、こんなこと何でもないんだよ」
「ほら、ああ、言ってるじゃねえか」
エミは目を閉じて、むせび泣いている。ポタポタと真珠のような大粒の涙が、止まることなく頬を伝わりおちている。
「ふふ。何で泣く。前から、お前が、したがっていたけど、できなかったことをかなえてやってるんじゃねえか。うれしいのに泣くってのは、どんな料簡だ」
といわれて、彼女の涙は、いやがりつつも、たしかによろこびの感情がおこった自分を責める涙にかわった。
大池はピンと張りつめられた縄尻の先を大黒柱からはずして、しゃがめるくらいのゆとりをもたせてから、再び縄尻の先を大黒柱に固定した。
「さあ、次は」
といって、大池はまた小声でエミに耳打ちした。
「ああー」
といってエミは泣いた。
「さ、さあ。お、お前は、人間ザブトンだよ。お尻をのせてやるから、しっかり、ニオイをお嗅ぎ」
といって、おそるおそる夫の顔の上に腰掛けた。
エミはとうとう耐えられなくなって、飛び跳ね、ちぢこまり、ああ、自分は百年に一度、出るか出ないかの、天才で、自分には、もったいないほどのハンサムな君に、こんなことをしてしまいたい、なんて思う自分に、そして、してしまった自分に、はげしい自己ケンオがおこり、泣きじゃくりながら、
「あなた。どうか私を捨ててください。私は、こんな女なんです。私を捨てて、もっと、ふさわしい人とむすばれて下さい」
「いいんだよ。エミちゃん。僕は、そんな君も好きなんだ」
山賀はひたすらエミを庇おうとする言葉をかける。
その時、鬼五の妻が入ってきた。
「あなた。いったい何をなさっているの」
「いや、わしは、その」
とヘドモド言いためらって、
「大池がわるいんだ」
と言った。
「大池さん。あなた、そんなことする人なら、うちの父のケーサツ署長にいいますよ。それと、あなた、こんなことを注意しないような人なら、離婚しますよ。私は本気です」
夫人に注意された鬼五は、
「ちっ。しゃーないな」
と言ってスゴスゴと逃げるように部屋を出て行った。
鬼五の唯一の泣きどころであった。

   ☆   ☆   ☆

ふたりは、無事もとの生活にもどった。
ある日の朝食。
彼女は、鼻歌交じりに、おぼえたてのクリームシチューを作った。
「さあ、あなた、おいしい」
女は立ち直りがはやい。
「あなた。寝癖の毛はちゃんと梳かさないとだめよー」
などと言ってクスクス笑っている。
「今度の試合、負けないでね。負けたら浮気しちゃおっかなー」
とムジャキに笑っている。この時、若者に、はじめて、妻に対して、やさしいイジワルとでもいうような気持ちが起こってきて、内心で微笑した。
「はい。女王様。全力をつくしてガンバリます」
とたんに、彼女はあの時の悪夢を思い出して表情をこわばらせた。
「い、いや。おねがい。そのことは、もういわないで」
若者は、どこふく風と、聞きながした。
「だって僕、勝つ自信ないし、エミちゃんに、みすてられたら、つらいもん」
といって、テーブルから降り、四つん這いになった。
「な、なにをするの。おねがい。もうやめて」
若者は、少女の、美しい貝殻のような爪をみて、清流に洗われたような潤いのある足の指を、あの時のように、そっと開いた。
「おねがい。やめて」
彼女は、泣きはじめた。若者は、聞く耳をもたない。
「あなたは、僕の女王様ではないですか。さあ、どうか、あの時のセリフで命令してください」
少女は、体を震わせながら泣いた。恥ずかしさ、の、なかに、心をみすかされることを、そして、心のわだかまり、が、とれたような、そして、ちょっぴり、本心を込めることに、つらい快感を、いじめられる安堵感を、少女は目を閉じ、声をふるわせながら、涙を一筋ながしながら、そのコトバを言おうとした。
「さ、さあ、はいつくばって足を…」
だが、その先はどうしても出てこなかった。
「おねがい。ゆるして。もうやめて」
少女は、言えず、泣きくずれた。テーブルから落ちて、床に座りこんで、クスン、クスン、と泣いている。
「ゴメン。エミちゃん。ごめん」
若者は少女の肩を抱いた。
朝日が朝食の主のいないテーブルをいざなうように、二人きりの部屋をつつみこんでいた。

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信乃抄(小説)

2015-07-21 00:28:39 | 小説
信乃抄

 信乃。弱冠16才。父のかたき伝兵衛をうつため、侍従の佐助とともに、城をでる。噂に聞く、かたき伝兵衛は石見の国にいると聞き、その方角めざして出る。
「よいですね。佐助。必ずや父のかたき伝兵衛をうつのですよ」
と佐助に言う。信乃にはもちろん武芸の心得などない。というより、力もなく、運動神経もニブイ。佐助は気が弱く、雑役と信乃の遊び相手くらいしかできない、幇間ものである。
日は高く、松の木があったかったので、足腰の弱い信乃は、さっそく、
「佐助。あの松の木陰で一休みしましょう」
と言って松の木の根方に腰を降ろした。信乃が水筒から水をのみながら、
「佐助。きっと父のカタキうちましょうぞ」
と、城でつくったキビダンゴのゴハンツブを頬っぺたにつけながら、
「はやくみつかるといいわね」
と微笑する。
「あだ討ち免許状も、もっているもんね」
と付け加える。
信乃はピクニック気分。これがあまい。全然あまい。しかし、信乃は、本当にあだ討ちができると思っている。
するとそこに深編笠の侍がやってきた。信乃のとなりに
「よろしいか?」
ときいて、こしかける。信乃は、
「はい」
といって微笑を返す。侍が、
「みればまだ若いのにどこへの旅か」
と問うので、信乃は己れの父の敵討ちの旅でございます、と答えた。
では、伝兵衛とは、いったいいかなる人物だったのかときくと、信乃は自分が描いた人相書きをわたした。そして、伝兵衛が父を殺したいきさつを話した。聞きおわって侍は、
「それは。気の毒な。拙者も伝兵衛のうわさは聞いておる。ならず者だが剣のうではなかなかの者ときいておる。姫君には伝兵衛は斬れまい。あきらめて城へ帰るがよろしかろう」
と言う。が、
「いえ。にっくき父の仇。この世のはてまでも、さがし出し、必ずや仇をうってみせましょうぞ」
と言う。その後、侍は数時間かけて、姫君を説得したが無駄だった。
「ならばしかたがない。言ってつかわそう。拙者がその伝兵衛でござる。姫君が、あだうちにくる、というのを聞いて、待っていたのだ」
と、聞くと、姫は柳眉をあげて、
「おのれ。伝兵衛。父のかたき。いざ、尋常に勝負」
と言って、短刀を構える。が、はっきり言って運動神経のニブイ信乃と伝兵衛では勝負にならない。信乃が、エイッ、といって伝兵衛にむかっていくのを伝兵衛はするりとかわす。
「ふふ。その腰つきではとても無理でござる。姫は城でおはじきでもやっているのがおにあいでござる」
といって伝兵衛は自分の刀は松の木にかけておき、余裕綽々で姫をあしらう。伝兵衛は姫から何回か短刀をとりあげてしまう。そして、
「ほれ。姫。がんばれ」
と、言って、うばった短刀をかえしてやると、一時、気力がうせた姫も、再び伝兵衛に向かってゆく。だが何度やってもムダだとわかると、何回目かの後に刀をとりあげられると、ついに信乃は、
「くやしゅうございます」
と言って地にふしてしまった。
「拙者はもう帰るぞ」
と伝兵衛が言っても、姫はあきらめきれなそうな様子である。伝兵衛も、もうちょっとこのあだうちゴッコがたのしみたく思って、
「拙者はもう家に帰る。信乃殿はどうする。ついてきたくばついてくるもよかろう。もしスキあらば拙者に切りかかるがよかろう」
とカラカラと笑った。
「そういたします。必ずやカタキはうちます」
そこへ、ちょうどよく、エッサ、ホイサと二人のカゴかきが通りかかった。伝兵衛は、カゴかきを止めた。
「姫。今日はもうつかれておろう。これにのっていくがよい」と言う。
「ありがとうございます」
といって姫が乗ろうとすると、カゴかきの二人は、いきなり、かくしもっていた縄で姫の手をむんずとつかんで、後ろ手に縛りあげてしまった。
「何をするのです」
というと、伝兵衛はカンラカラと笑って、
「この二人は拙者の子分じゃ。いくら拙者とて寝ている間に首をかかれたのではかなわぬ。で、縛っておこうと思うのは当然ではないとは思わぬかな」
ボーゼンとみていた佐助も、全然、体力がないので、とりおさえられ、縛られてひきつれていかれた。
 伝兵衛の家につれていかれた姫だったが、カゴかきだった二人のクモ助は、伝兵衛の家に着くと、籠からおろし、後ろ手に縛られた姫を座らせた。伝兵衛が今日の姫の奮闘の様子を子分に話してきかせると二人は笑いながら、
「それはみごとな戦いっぷりでしたな。ぜひ我々も拝見したかったものだな」
と言い合う。
 三人は酒をのみながら姫をさかなにする。
「しかし本当に美しい、というか、かわいい。どれ。体もさぞすばらしいであろう。拝見させてもらおうか」
といって、一人が姫の体をさわろうとすると、カンネンしていた姫だったが、さすがに、 「あっ」と言って、顔をそむける。伝兵衛は、
「まあまて。いきなり無体なことをするもんじゃない。ものごとはまず順をおってするものだ。拙者もどうしたら、姫にあだうちをあきらめさせられるか考えておる。素直にあきらめてくれればいいが、いくらおなごとはいえ、つけねらわれているのはいやでな」
 伝兵衛はニヤリと笑って、よし、お前の侍従の佐助を拷問して殺してしまおう。といって子分は佐助を竹刀でパシパシなぐりだした。信乃は、
「あっ」
と言って伝兵衛に嘆願した。
「伝兵衛どの。おやめさせ下さいませ。佐助は私につかえる大切な侍従です」
 すると伝兵衛は、
「ふふ。ただでやめさすわけにはいかぬよ。世の中そうあまくない。かわりに姫が裸になるというのならやめさせてやろう」と言う。
 二人が佐助の体をパシパシたたくのをやめないので、姫はとうとう、
「伝兵衛どの。やめさせて下さい。かわりに私が裸になります」
と言った。
子分二人は、まってましたとばかり、信乃から服をはぎとった。信乃は一糸まとわぬ丸裸にされた後、武士の情けだといわれて、褌をつれさせられ、再び後ろ手で縛りあげられた。ふくよかな胸があらわになる。
「ふふ。信乃どの。美しい体じゃの。思わず触れたくなるわい」
「ところで信乃どの。信乃どののあだうちには少し、手加減がひつようじゃな。信乃どのには信乃どのにふさわしい勝負がいい。これから子分にくすぐり責めをさせるが、10分ガマンできれば、姫の勝ちをみとめ、拙者は、あだうちをはたされようぞ」
といって子分に目くばせする。二人の子分は待ってましたとばかり、信乃をくすぐりはじめる。
「あっ」
といって信乃は身をふるわせて不自由な体を何とかさけようとしつつ、口を一文字に閉じて耐えようとする。しかし、子分二人は首筋や脇腹などを執拗にくすぐりつづけた。信乃は、とうとう耐えきれなくなって、
「おねがい。やめて」
といってしまった。伝兵衛は、ガッカリして、
「8分でござった。あと2分ガマンできれば、みごとあだうちできたものを。こちらまでなさけなくなってくる。・・・して、信乃どの。これからどうする。まだ、あだうちをつづけられるか」
と伝兵衛が聞くと、信乃は、
「あきらめました」
といってガックリ首をおとした。伝兵衛はふき出しそうになるのをガマンしながら、
「そうそう。人間は、あきらめが大事」
心の中でもう一度自分にも信乃にも念をおすため、
「もう一度チャンスを与えてやろう。ラストチャンスですぞ。拙者も酔って、ひとねむりしたくなったことだし。よし」
といって子分に目くばせし、一人が信乃の顎を掴んで口をあけさせると、もう一人は信乃に徳利の水を無理矢理、全部のませた。そして信乃を柱につなぎ止めた。
「信乃どの。そなたも武家女のはしくれなら、人前でそそうをすることはあるまいな。あだうちにはまず胆力が必要でござるぞ。信乃どのには胆力がない。一夜、我慢せられい。みごとガマンしたら服と刀を返し、尋常に勝負してつかわそう。尿意にまけてあだをうてなかったとあらば、末代までの恥ですぞ」
信乃は早くも腰をもじつかせ、おそってくる尿意と戦う。顔をゆがめ耐える姿をみて、伝兵衛は、
「おお。さすが武家女の誇りの高さ。しかし何と申すか、信乃どののかたきうちにまさにふさわしい戦いでござるの」
と、からかう。
三人が、どれ、ひとねむり、といって、茣蓙に横になり、うたたねした。

   ☆   ☆   ☆

翌日、三人が目をさますと、信乃の前の床に水溜りが出来ていた。信乃は涙ぐんでいる。
「信乃どのにとっては父のカタキをうつことより小用をたすことの方が大事なのでございますな」
と言って、コトバでなぶりものにする。くやし涙が信乃の頬を伝わる。
「ふふふ。信乃どの。信乃どのをみていると、かわいくていたぶりたくなってくるわ。信乃どのもせっかく敵討ちにきたのだから、あだうち人の気力をみせられい。ひとつ、信乃どのに似合った、責めをおもいついたわ。さらし責めじゃ。信乃どのは、今日、その姿で、街道を、佐助どのと、二人なかよくならんで20人通る者の目にさらされるのじゃ。そうしておけば、わしも安心じゃ。いやなら、こやつの首を斬る」
といって、佐助の首に刀のみねを当てる。
「おやめください。信乃はさらし者の責めをうけまする」
と伝兵衛に言った。こうして姫の恥ずかしい姿を人目にさらしてしまえば、信乃も自分がみじめになって、仇討ちなどということなど、できない無力者なのだということを身にしみてわかるだろうとも思ったからである。
信乃も佐助も覆う物一枚もない丸裸で、後ろ手に縛られて、子分に縄じりをとられ、街道に出された。そして街道沿いの二つの松の木に、それぞれ縛りつけられた。二人はみじめ極まりない一糸纏わぬ立ち縛りである。伝兵衛は、なぶりの言葉を言う。
「ふふふ。さっそうと旅に出たあだうち武家女が、かたきにしてやられ、なぶられ、裸の晒し者になる気持ちはどうじゃな。くやしいかな」
答えられい。答えねば、といってまた、佐助の首に刀のみねをあて、答えねば、こいつの首を斬る、と言っておどす。信乃は、
「くやしゅうございます」
といって、がっくり首をおとす。季節は初夏で鴬の声が谷間にさえずる。
「さもあろう。これで姫も思い知ったであろう。あだうちは、殺すか、殺されるか、の命がけの戦いなのじゃ。お手玉遊びとはちがう。姫は世間知らずだから、こうして恥ずかしい目にあっているのでござる。わしにあたるのは八つ当りというものでござる」
といって姫のあだうち心を折ろうとする。
「信乃どの。通行人が通っても目をつぶってはならぬぞ。20人。一回でもつぶったら、佐助の首がとぶ」
数時間して通行人が丸裸で松の木に縛りつけられている信乃と佐助の前を通ったが、何ごとか、と目をみはり、そのたび、信乃と佐助は、
「無念でございます」
といって、うつむいた。この間、伝兵衛と二人の子分は道の反対側に、少しはなれて、松の木を背にすわり、酒をかっくらう。子分二人が、通行人が通った時、信乃が目をつぶらないで耐えたかどうかを見分させるため、信乃と向かいにすわり、伝兵衛は、ひとねむりする。
 日がかたむき、ようやく、20人通行人が通り、信乃が目をつぶらなかったことを子分が伝兵衛に告げると、伝兵衛はほくそ笑んで、腰を上げ、信乃の前に立ち、
「信乃どの。よく耐えられた。これで信乃どのは胆力の勝負で勝たれたのじゃ。さすが武家女の心意気じゃ」
と小バカにしてカカカと笑う。信乃と佐助は松の木からはずされ、後ろ手にしばられたまま、子分二人に縄じりをとられ、伝兵衛の家へと歩まされた。信乃の尻が伝兵衛の目にとまり、伝兵衛は、
「それにしてもみごとにふくよかな尻じゃ。腰のくびれがもうちょいほしいところじゃがな」
とか、
「今日はたのしい一日じゃった」
などという。

 家についた五人は、また、信乃を柱にしばりつけると、今度は信乃の両足首を、膝をまげさせて、しばり、後ろの柱にしばりつけた。
クモ助二人は、また街道で悪さをするため、信乃を縛ると伝兵衛の家を出て行った。
家には、伝兵衛と信乃と佐助の三人になった。
伝兵衛は信乃の足首を、それぞれ縛り、柱に縛りつける。信乃の脚はM字になり、恥ずかしさから、信乃は顔をそむける。
「ふふ。信乃どの。すごいかっこうでござるな」
といってコトバでなぶる。伝兵衛はニタリと笑って、酒徳利を信乃の恥ずかしい所の前におく。伝兵衛は信乃の前にあぐらをかき、柱につなぎとめられ、脚はM字にされ、酒徳利だけで恥ずかしい部分がみえない状態になっている信乃を芸術品をみるようにほれぼれみながら、
「信乃どの。すばらしいかっこうでござるな」という。
信乃は恥ずかしさにうつむきながら、
「ああー。無体な」という。
「さて、徳利をとったらどうなるかな」
といって、笑う。信乃は哀訴するように、
「伝兵衛。こんな事をしてあなたは面白いのですか」
と、訴えると伝兵衛は、
「ああ。おもしろいね。男だからな」
と、笑っていう。
「どうしてこのような悪シュミなことをするんですか」
と、涙声で訴えると、伝兵衛はほくそえんで、
「ふふ。信乃どのを辱めの極致におとしておくことで、信乃どのの復讐心をなえさせるためでござる。万一、又、信乃どのが短刀で拙者に勝負をいどんだ時、今の姿のことをいってやれば、信乃どのの気をくじくことができる。兵法の極意は戦わずに勝つことでござる。ふふ。シュミと実益をかねる」
伝兵衛はつづけて言う。
「それにしてもすばらしいかっこうでござるな。信乃どののかぐわしいニオイがほんのりと伝わってくるようじゃ」
といってことばでなぶる。
「カタキの前にこのようなかっこうをさらす気分はいかがなものでござるかな」
信乃は自分がなさけなくなって、あだうち旅になんかでなければよかったとつくづく思って、自分のおろかさをくやんだ。伝兵衛が、
「さて、酒をのみたくなったし、徳利をとらせてもらおう」
といって、手をのばすと信乃は思わず、
「やめて」
といった。伝兵衛が思わせ振りに、
「ふふ。徳利をとられたくないというのなら、そうせんでもいい、が、それには、ちゃんとどうしてほしいか自分のコトバでたのみなされ。とるかとらんかは信乃どのの返事で考える」
信乃は涙声で、
「徳利をとらないでください」
といった。伝兵衛は笑って、
「それならとらんであげてもいい。拙者も武士のなさけはもっている。信乃どのにとってまだ誰にも見られたことのない恥ずかしい所だからな。しかし、その格好の方が、より滑稽でござるぞ」
といってわらいものにする。
「それにしてもすばらしいプロポーションでござるな。腰のくびれがもうちょいほしいところだが」
と、言って、芸術品を鑑賞するように信乃を鑑賞する。信乃はまさか、こんなことになろうとは、恥ずかしいやら、くやしいやら、みじめやらで、自分がなさけなくなってきた。が、キッと伝兵衛に、
「伝兵衛。あなたは仏心がチリほどもないのですか。死んでも成仏できませんよ」
というと、伝兵衛はせせら笑って、
「親鸞どのは、善人なおもて往生す。いわんや悪人もや、といっておる」
信乃は、すぐに自信に満ちた口調で言い返した。
「それは違います。それは、悪人の自覚のある人間が救われるという意味です」
と、みじめなかっこうでさとすと、伝兵衛はせせら笑って、
「だから拙者は悪人だといっておる」
といって笑う。信乃は、これにはいい返せなくて、あきらめて、
「信乃は地獄へおちた女でございます。気のすむまでなぶりなさいまし」
と、涙まじりの鼻声でいう。伝兵衛は、
「ふふ。なぶりはしない。無上の美を心ゆくまで鑑賞させてもらうだけじゃ。それによって信乃どののあだうち心をなえさせるためじゃ」
という。信乃は伝兵衛がいうように侍邸でお手玉をやっていた方がよかったと思って後悔した。
「それにしてもすばらしいプロポーションじゃな。腰のくびれがもうちょいほしいところだが」
と、何度も同じことをいう。
「伝兵衛。あなたは・・・。もっと日本の不況がどうしたらよくなるか、とか、まじめなことを考えられないのですか」
「ふふ。知らんな。では、そういう姫は、そんなむつかしいことを知っているのかな。どうせ姫だって、お手玉とおはじきくらいしか知らんだろう」
「それは・・・」
といって信乃は言い返すコトバをみつけられなかった。
「信乃は地獄へおちた女でございます。気のすむまでなぶりなさいまし」
信乃は、投げやりな口調で言った。

「ふふ。信乃どの。信乃どのを見ているうちに、また信乃どのにふさわしい責めを思いつきましたぞ。信乃どのには女人の恥を美しいように引き出す哀愁のある責めは似合わない。そういうのは、もうちょっと大人の女人でないとな」
と言って伝兵衛はぐいっと酒を一飲みし、正座して、体を震わしている信乃の顔をほくそえんで見ている。
「どんな責めだと思いなさる。信乃どの」
と伝兵衛は、信乃にからかいの質問をかける。信乃はうつむいて、
「わかりません。もう信乃は生きた屍です。何なりと好きなように責めてください」
と、項垂れて力なく言う。
「ふふ。まあ、そうなげやりになってはいかん。何度挫折しても、それでも苦難に立ち向かっていくのが人生で大切なことではないかの」
と伝兵衛は、もっともらしそうなことを吹きかける。が、本心は信乃を変質的になぶりたいだけである。
「ふふ。信乃どの。どんな責めか教えて進ぜよう」
信乃「・・・」
伝兵衛「へび責めじゃ」
信乃は瞬時に、その言葉からその責めをイメージして、見栄も外聞も忘れ、
「いやっ。いやっ。いやー」
と、キョーフにおののいて絶叫した。
「ふふ。信乃どのも武家女なら、いかなる試練にも耐える武士の心意気が必要でござるぞ。やる前から白旗を揚げていてどうなさる。信乃どのには、武家女の気骨がないから拙者が少し、鍛えて進ぜようというのでござる」
信乃は、ヘビ責めの恐怖に怯えて震えている。
「ふふ。信乃どの。ヘビ責めに見事耐えたら拙者は腹を切って信乃殿に敵討ちされよう。拙者も浪人とはいえ、武士でござる。武士に二言はござらぬ」
伝兵衛はつづけて言った。
「ふふふ。信乃どの。ヘビ責めに耐えられなくなったら、やめてしんぜよう。ただし、佐助殿が身代わりになってもらおう。こう言ってもらおう。『私を助けて。代わりに佐助を拷問にかけて』とな」
「伝兵衛。あ、あなたはなんという・・・」
信乃は、わなわなと口を震わせた。
「伝兵衛。あなたは人の心をもてあそぶ鬼です」
伝兵衛は、信乃の訴えなど無視して麻袋を持ってきて、信乃の前にドサリと置いた。何やら麻袋が不気味に動いている。
「ふふふ。幸いマムシ酒を作るために捕まえたマムシを袋の中に入れてある」
伝兵衛は信乃の恥ずかしい所の前にある酒徳利をとった。そして、替わりに蛇の入った麻袋を信乃の女の部分の所にドサッと置いた。麻袋の中で蛇がズルズルと這い廻る動きを袋ごしに肌で感じた信乃は見えも外聞も忘れ、
「ひー。やめてー。お願い。とってー。伝兵衛様―」
と、激しく泣きながら全身をブルブル震わせた。伝兵衛は、「やめてー」、と言う信乃の叫びを無視して、口元を歪めて笑いを作りながら、
「では、ちと、袋をほどいてみるとするか」
と言って、きつく縛ってあった袋の紐を緩めると、袋の中を蠢いていた蛇がゆっくり這い出てきて、信乃のみずみずしい弾力のあるふっくらとした太腿に信乃の体のぬくもりを求めるかのようにその体をのせ始めた。
「ひー。助けてー」
信乃は蛇が肌に触れた途端、小屋をゆるがすほどの大声で絶叫した。蛇は信乃の肌のぬくもりを心地よいと感じたのか、より心地よい場所は無いかと求めるかのごとく、信乃の肌を絡みつきながらよじ登りだした。
「ひー。助けてー。やめてー」
「ふふ。助ける条件の言葉が足りませぬぞ。『私を助けて。代わりに佐助を拷問にかけて』でござる」
蛇は信乃の肌のぬくもりを心地よいと感じたのか、より心地よい場所は無いかと求めるかのごとく、信乃の肌の上を不気味にずるずると這い回りだした。
「ひいー」
信乃は絶叫した。
「私を助けて。代わりに佐助を拷問にかけて」
信乃はとうとう、伝兵衛にいわれた言葉を言って、わっと泣き出した。
伝兵衛は、信乃の体に絡みついているマムシをとった。そして、袋に入れて、袋を信乃の前から、どかした。
信乃は泣きじゃくって佐助を見た。
「姫様。お心を痛めないで下さいませ。私は姫様のために死ねるのであれば幸せでございます」
佐助が言った。
「ふふ。なんと忠義心のあつい家来をもたれて、信乃どのも幸せ者でござるな」
伝兵衛が言った。
「しかし自分が助かりたいためなら、人の命はどうなってもいい、というのはちょっと情け心のない鬼女でござるな。自分が救われるためなら人はどうなってもいいというのでござるな。しかもこのように命をかけて慕う、ありがたいしもべを」
伝兵衛は、つづけて言った。
「ふふふ。信乃どのも非情な心の持ち主じゃ。拙者に負けるとも劣らぬ、羅刹女、非情なお方でござるな」
と人間を冒涜する。
「さーて。次は何をしようかな」
と伝兵衛がうそぶいているのを信乃は泣きながら、
「どうとでもお嬲りなさいまし。信乃はあなたがしめしたがっているごとく、生きている資格のない人間でございます」と言う。

「まあ、今日はもうこれくらいにしておこう」
伝兵衛は、そう言って、酒をグビグビ飲んでゴロリと横になった。
しばしして、グーグー鼾が聞こえ出した。
信乃は、しめた、と思った。
後ろ手に縛られている佐助に、こっちへ来るように目で合図した。
佐助は、ゆっくり、いざりながら、信乃の所に来た。
信乃は、そっと佐助に耳打ちした。
「佐助。伝兵衛は、油断して寝ています。今がチャンスです。私の後ろに廻って、歯で私の縄を解いておくれ」
佐助は、言われた通り、伝兵衛に気づかれないよう、ゆっくり、信乃の後ろに廻って、歯で信乃の縛めを、解こうとした。佐助は、歯で必死に信乃の縄を縄の結び目に食い付いた。しばしして、ついに、縄が解けた。

信乃は、忍び足で、歩いて、伝兵衛に盗られた短刀を手にした。
伝兵衛は寝ている。
「伝兵衛かくご」
信乃は、ことさら、大きな声を出した。
寝首をかく事は、相手が、悪人といえども、卑怯なことで、あくまで、相手と対決して、仇を討とうという誇りが、言わせたのである。
それに、伝兵衛は、剣の達人。寝ているところを突いても一打ちで倒せるものではない、自分の死も覚悟の上で、運あれば、相打ちを、と考えたのである。
伝兵衛は、寝ぼけまなこで、目を開いた。
「伝兵衛。いざ、尋常に勝負」
そう言って、信乃は、短刀を握りしめ、伝兵衛に向かって、駆け出した。
が、伝兵衛の間近に近づいた時、足がもつれて、寝ぼけまなこで、横になっている伝兵衛の体の上に倒れた。しかし、短刀は確実に伝兵衛の脾腹に刺さった。傷口から鮮血が流れ出した。
信乃は、瞬時に、これから、どうすればいいか、迷った。
当然、この程度では、伝兵衛は短刀を取り上げて、刀で反撃してくるだろう。
信乃は死を覚悟した。同時に、人を刺した事など一度もない信乃は、仇とはいえ、罪業の念に襲われた。
だが、伝兵衛は、刀を抜いて応戦しようとはしなかった。
ゴロンと寝たまま、信乃を見つめた。
「で、伝兵衛。どうしたのです。どうして、私にかかってこないんです」
信乃が言ったが、伝兵衛は、黙っている。その眼差しには険がなく、慈恩の観さえあった。
「伝兵衛。私にはあなたを討つことは不可能だと悟りました。そのため、せめて、一太刀して、討たれる覚悟でした。どうして、刀をとらないのですか」
信乃は、声を大に聞いた。
「ふふ。信乃どの。見事、仇をとられたの。見事でござった」
信乃は、びっくりした。
「伝兵衛。いったい、どうしたというのです」
「信乃どのは、見事、あだ討ち、を果たされたのじゃ」
信乃は、ますますわけが解らなくなった。
「伝兵衛。いったい、どういうことなんです」
信乃は、伝兵衛の肩を揺すった。
「信乃どの。わしは、腎の臓器が病んでいてな。あと、わずかな命なのじゃ」
信乃は、吃驚した。
「では、あなたは、わざと私に討たせたのですか」
伝兵衛は、黙っている。その瞳には、慈しみさえあった。
「どうしてです。どうして、そのような事をしたのです」
信乃は伝兵衛の肩を揺すって聞いた。
「老い先、短い命。せめて信乃どのの手にかかって死にたいと思ったのじゃ」
「な、なぜです。なぜ、そんな事を考えるんです。理由を教えて下さい」
信乃に肩を揺すられて、伝兵衛は語りだした。
「ふふ。信乃どの。拙者は根っからの悪人でござる。しかし何だか信乃どのの手にかかって死ぬのはうれしい気持ちでござる。拙者は今まで誰も相手にしてくれなかった。そして悪いことをした時だけ、そしられ、嬲られた。拙者は人の情けを知らずに生きてきた。この人相とせむしの体のため。しかし信乃どのは拙者を相手にしてくれた。いくら、おこっても拙者をけなす言葉は言わなんでくれた。拙者はあだ討ちされて死んでいく。しかし信乃どのにあだ討ちされて死ぬのは無上にうれしい」
伝兵衛はつづけて言った。
「ふふ。信乃どの。いろいろ意地悪して本当に申し訳ござらぬ。信乃どのがあまりにもかわいかったのでいじめたくなってしまったのでござる。拙者は根っからの悪人でござる。しかし信乃どのの手にかかって死ぬのはうれしい気持ちでござる。おっと、涙が出てきた。悪人が泣いては様にならんな」
信乃の目に涙があふれてきた。
「伝兵衛様。しっかりなさってください。けっして死んではいけません。伝兵衛。あなたは愛を受けずに生きてきたんですね。だから心がすねてしまったのですね」
「ふふ。信乃どの。拙者はもう助からないし、助かりたいとも思わぬよ。信乃どの。拙者のわがままを聞いてくださるか」
「何ですか。伝兵衛様。何なりとおっしゃって下さい」
「信乃どの。手を握って下さらぬか。その感触を地獄へのお守りとしたい」
「伝兵衛どの。あなたはけっして地獄へなど落ちませぬ」
信乃は伝兵衛の手を握った。
「ああ。あたたかい。握ってもよろしいか」
「いいですとも」
伝兵衛はギュっと信乃の手を握った。
「ふふ。しかし信乃どののみじめな裸の姿はじつに美しかった。脳裏に焼きついて離れない。冥土の無間地獄でも、苦しくなったら思い出してお守りにしようぞ。信乃どのの玉を転がすような声と、モジつかせた裸の姿と、あわせて」
信乃は数々の辱めを思い出して赤面した。が、伝兵衛の呼吸が荒くなると必死になって、体を揺さぶった。伝兵衛は断末魔の最後の言葉をもって気力を振り絞り、
「さよなら。信乃どの。愛を・・・あ・り・が・と・う・・・」
「伝兵衛。伝兵衛」
信乃は泣きながら、いつまでも伝兵衛の体を揺さぶりつづけた。

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潮騒(小説)

2015-07-20 00:02:30 | 小説
潮騒     1996.4月

 初江は入社一年目の夏、みなが太陽を求め、海外へ羽をのばしにいく話を楽しそうにしているのを、ポツンと一人、黙って聞いているような子だった。同僚の、くったくのない笑顔の中にはどうしても入れなかった。退社からねるまでの時間も一人さびしいものだった。ゴハンを食べ、テレビをみて、風呂に入って眠る。その繰り返しの毎日。休日、渋谷や新宿へ少しお洒落してショッピングへ行くことくらいが単調な生活の中でのささやかな楽しみだった。結局はさびしい夕暮れとともに帰路につくことがわかっていても・・・。たまに彼女に話しかけてくる見知らぬ男もいた。そんな状態でむかえた一週間の夏期休暇だった。どこでもよかった。自分の存在の無意味さに耐えきれず、あてもなく電車に乗った。終着駅につくとローカル電車にのりかえた。そしてその終着駅で降りた。そこはさびしい漁村だった。薄曇りの天気だった、が、時おり雲間から夕日がもれる。少し寒さを感じさせる潮風に抗して彼女は海の方へ近づいた。
海は時おり日の光をうけてきらめいている、はてのない水平線が彼女をいざなった。その景色は今の彼女の心をそのまま表していた。彼女はさびれた漁の小屋に身をもたせた。
夕日が水平線に達しても彼女はそこをはなれられなかった。
「もし今、自分がこのままいなくなってしまえば・・・」
ふとそんなことを思っていた時だった。
「もし」
誰かが後ろから声をかけた。初江はふり返った。浅黒い、がっしりした体格の若者だった。だまっている彼女に若者は無遠慮に話しかけた。
「君。今日とまるところまだきまってないんだろう」
黙っている初江の手を若者はつかんで言った。
「だったら僕の所にきなよ。たいした所じゃないけど」
初江の了解もとらないまま若者は彼女の手をひいていこうとする。力が強いので抵抗することが出来ない。不安を感じだした初江は、
「はなしてください。私、旅館にとまるお金はありません」
と言った。若者は、どこふく風、と相手にしない。
「だったらアルバイトで旅館の手伝いしてよ」
電灯がちらほらつきはじめた。気の小さい初江はことわることが出来ない。それに相手の若者も朴訥だが悪い人間には思えない。やむなく初江は彼に従った。
「君、名前は」
「・・・初江」
「僕は新治」
旅館へつくまで新治は一方的に自己紹介をした。彼は父がいず、母親と旅館を営んでいること。夏は海水浴客でにぎわうが、他の季節は海釣りする釣り人のための船宿となっていること。などを話した。初江は黙って聞いていた。
旅館につき新治はいきおいよく戸を開けた。
「ただいま。かあさん」
「おかえり」
母親は新治のうしろの初江に気づくと、すぐ丁寧に、
「いらっしゃいませ」
と、言っておじきした。新治は母親に、彼女が客ではなく、金がないため、住み込みのバイトをさせてくれないか・・・とたのまれて、連れてきた、と説明した。うつむいている彼女を新治の母親はしばし思案げにみていたが、その表情はすぐに気持ちのいい笑顔にかわった。
「たすかります。じゃ、さっそく」
と言って母親は初江を厨房へ連れて行き、あらましを教えた。言われるまま初江は洗いものをした。母親はどの食器はどこ、と、丁寧に教えた。初江は内気だったが、のみこみがはやい。仕事も雑ではない。旅館には一組の客がいるらしい。にぎやかな話し声が聞こえてくる。新治の母親は、彼らが東京から来ている四人の釣り仲間だと初江に教えてくれた。なんでも役員クラスの人達だという。新治の母親にたのまれて、初江は配膳することになった。初江は、
「それは」
と言って断ろうとしたが新治の母親は初江に善をわたしてしまった。部屋からは釣り人達の今日の漁の収穫らしい話がにぎやかに聞こえる。初江が声を震わせて、
「失礼します」
と言って部屋に入った。すると一同の笑い声が一瞬ピタリと止まった。緊張から食器がカタカタなっている。もう少しでこぼれそうになった。あぶなっかしい。
「ありがとう。腹ペコペコだ」
一人がさりげなく言った。初江は無事、配膳をおえると、
「失礼します」
と言って部屋を出た。内心胸をほっとなでおろした。新治の母親は刺身のきりかたやもりつけも教えてくれた。その晩、初江は釣り人の釣った鰈をおかずにご馳走に近い夕食をうけた。新治が初江に用意してくれた部屋は海の見える四畳半の部屋だった。初江は風呂にはいって、床についた。アルバイトという感じがまるでしない。まるで自分が客のようである。見知らぬ場所ではなかなか寝つきにくい初江だったが寂しげな潮の遠鳴りを聞くともなく聞いているうちにいつしか心地よい眠りがおとずれた。
 翌日、初江が新治の母親に自分のするべき仕事を聞いた。が、母親は特に何もしなくてもいいと言った。なぜかと初江が聞くと、新治の母親はその理由を話してくれた。新治は自分の釣船が小さくてもいいからほしくて、工場でアルバイトして資金をためていたのだが、船はいささか値が高い。でも釣り客四人は新治が心根のやさしそうな素敵な女性を娶ったから祝いの祝儀に相当の額をだしてくれた。のだという。はじめは本当の事を言わず、隠し通そうかと思った。でも四人の釣り客は毎年くるおとくいさんだし、わかってしまう。それで、新治があなたを連れてきたいきさつを正直に話した。四人はちょっと信じられない、というような表情をしたが、それでもいっこうにかまわない、という。だからそれが理由だという。初江はちょっときつねにつつまれたような気がしたが、そんなものなのかと納得した。でもやはり、何もしないわけには行かない。
と言って色々な雑用を聞いてはこまめに働いた。四人の客は二泊三日の予定だったが,もう少しのばす、という。どうも、あなたのおかげらしい、と新治の母親は言った。
 三日目。四人は朝から乗合船で沖に出るが初江と新治にも一緒にこないかとさそった。
新治は釣り好きだったが、遠慮する、と言ったが、ぜひにと言う。四人は気さくな人ばかりである。初江は釣りは知らなかったが、責任のようなものを感じていたので、いかなければ、と思った。初江がまったく自分は釣りを知らない。というと、だからこそ海釣りの面白さを教えると四人の一人が言った。その日は凪だった。絶好の釣り日和。朝日に向かっての船出は心地よい。船はかなりの沖で停泊した。陸地が見えない。初江は少し恐怖を感じた。
板子一枚下は・・・。それに初江は泳ぎをしらない。釣り人は逞しい人間である。大自然と戦う人間である。四人の釣り人は初江に仕掛けをつけたロッドを渡した。初江にはわからないが、一人が、すこしでもブルッと手応えがあったら言うようにいって、各々、仕掛けをつくったロッドを海原に投射した。新治は艫に座ってみなの世話をした。四人の釣り人は、時々かかったと言って、力強くリールをまいた。新治はその時協力してあみですくった。釣り人は魚をつると初江に、これはかわはぎといって餌とりがうまくて釣り人をなやませる魚。でも味はとてもよく、刺身でも焼いてもうまい。などと、その魚について説明した。また、釣りや海のことをいろいろ教えてくれた。そうなると初江もだんだん自分も釣ってみたい欲求が起こってきた。だがぜんぜん手ごたえがない。待つこと数時間、初江は、「あっ」と言った。初江のとなりにいたある会社の社長のところに新治はいそいでいき、新治はいそいで役をかわった。社長は初江のさおを力強くつかんだ。たしかなあたりだった。社長は初江に言った。いいかい。まけ、といったら力強くリールをまいて。社長は魚のてごたえをたしかめながら適時、まけと言った。初江も真剣だった。格闘すること数分。ついに魚は姿をあらわした。やった。石首魚だ。初江にはわからないその魚は日の光をうけて美しい水のしたたりをひいている。
そのままじっとしてて、社長は初江にそう言い、慎重に指図して、ついにアミの中におさめた。みなが初江を見てパチパチと拍手した。初江にとってもこれほどの喜びを感じたことはなかった。

   ☆   ☆   ☆

 初江は一週間の休暇をその旅館で過ごした。新治の母親は彼女に色々な事を経験させてくれた。
その一週間は初江にとって最も充実した日々だった。
初江が帰る日が来た。新治は初江を駅に見送りに行った。
「本当にありがとうございました」
初江は自分の心がとてもすがすがしいのを感じた。電車が来た。新治は初江の住所も素性も知らない。新治は一瞬ためらいの表情を示したが、照れながら頭をかいて言った。
「また・・・来てくれる」
初江は瞬時に新治の気持ちを感じ取った。初江は誠実に、
「はい」
と答えた。初江は電車に乗った。思い出の景色が一望される。

   ☆   ☆   ☆

一週間の短い夏季休暇が終わった最初の出勤日。
同期の同僚は皆、海外旅行で日焼けしている。気をひきしめて、との課長の訓示。みな持ち場の席に着いた。初江の隣の同僚がふと初江に目をとめて聞いた。
「あなたもどこかへ行ったの」
初江は、
「はい」
と答えた。パソコンに向かってキーボードに手をのせた。単調な生活が始まる。しかし以前と全く同じではなかった。小さくはあったが、生きている事の喜びが心の片隅にあった。

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イスラム国は外人部隊

2015-07-18 00:37:55 | 考察文
イスラム国は、イスラム教の、宗教としての、戦争(ジハード)、と、思っているのは、間違いない。

しかし、それは、イスラム国の、首脳のヤツラだけの思想である。

ヨーロッパ、特に南欧など、その他の国でも、失業率20%などという国は、ざらである。

背に腹はかえられない。

イスラム国に入れば、「衣」「食」「住」は、確保される。

思想的に、感化されて、イスラム国に参加する人間より、就職先として、イスラム国に、入る人間も、多いだろう。

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佐助と春琴(小説)

2015-07-17 15:21:29 | 小説
佐助と春琴

むかしむかし、あるところに春琴という女の三味線ひきがいました。春琴は琴の芸ですぐれておりましたが、4才の時、失明してしまいました。佐助というひ弱な小僧が春琴の身のまわりの世話をして、春琴が通う琴の先生のところまで、手をひいてつれていくのでした。佐助は春琴の家にデッチでやとわれていたのですが、それは春琴の家が裕福な商屋で春琴は花よ蝶よと大切に育てられたのでした。佐助は春琴の身のまわりの世話をする役と同時に春琴のいい遊び相手でもありました。春琴は佐助に何でもいいつけていましたが佐助は春琴に命令されることがうれしかったのです。というのは春琴はとてもかわいく佐助は内心、春琴に恋こがれていたからです。春琴が食べのこしたものがあると、それを食べるのがうれしかったのです。佐助に給料がでると佐助は中古の三味線を買って、家にもってかえりました。そして、夜になると一人そっと三味線の練習をするようになりました。ある日の夜、春琴が厠に行くと、闇の中からペンペンペンと三弦の音がきこえてきます。だれ、というと、その音はぴたりと止まりました。だれ、だれかいるの、と言っても返事がありません。翌日、春琴がそのことを佐助に話すと、佐助は照れくさそうに、それは私です。と言って心の内を話した。お師匠様の美しい三味線の音を聞いているうちに自分も下手の横好き程度くらいでもいいから弾けるようになれたらな、と、照れくさそうにいいました。春琴は一も二もなく、いいわ、じゃ、私が教えてあげる。と言ってそれから佐助は弟子の一人となり、持ち前の熱心さからどんどん上達していきました。
佐助が春琴の手を曳いて行くと、春琴は佐助どん、ありがと、と微笑するのでしたが佐助はもったいのうございますお師匠様というのだった。お師匠様は、三味線の稽古や好きなことをなさっていてくださればそれだけでかたじけなくありがたいのでございます。でも佐助どん。世の中がみえないってさびしいわね。私ってきれい。佐助どんってどんな顔してるのかしら、などというと、佐助は返答に窮するのであるが、お師匠様は、アイドルタレントなみに美しく、わたくしには、とてももったいなくございます、などというと、でも、おっ母さまが、お前と佐助は、おにあいだね、などといつも言うから、きっとケンソンしてるのね。私は原作のようにいじめたりしないから安心してね、というが、なぜ春琴が原作を知っているかというと佐助が原作「春琴抄」を読んであげたからである。佐助は自分はお師匠様の手となり足となり目となってお師匠様におつかえするんだ、お師匠様には楽しい人生を送ってもらうんだ、といって、春琴が知りたがってる世間のようすを精一杯説明するのだった。春琴は、でも顔がわからなくって声だけわかるっていうの、インターネットのEメールやチャットのように、わからない故のおもしろさがあるわね、などという。佐助は春琴に精一杯そとの様子をはなすと同時に、いったい目がみえない世界というものは、どんなものなのか知ろうと目をつぶってゴハンをたべてみたりトイレで用をたしてみたりすることもありましたが、ごはんも全然おいしくなく、トイレに行ってもころんでしまい、これは大変つらいことだと言って、春琴に対する同情をますます強めるのだった。が春琴は、それは佐助どんがいつも目をあけてみていて、たまにつぶるからそうなるのであって、いつも目がみえないと嗅覚や方向感覚がよくなるからちょっと違うわよ、なんて言ってクスッと笑う。しかし佐助が春琴のまわりのことは全部やってしまうので春琴の心の自立心をかえって弱めてしまった傾向なきにしもあらず。佐助がいなくなると春琴は心細くなり、佐助どん、佐助どん、という。佐助は、そこにちょっとうれしさを感じ、それが嵩じて春琴を土蔵に連れて行って、戸をしめ、息をひそめ、春琴が佐助をよび、たすけを呼んで泣きだしはじめた頃、お師匠様、といってポンと肩をたたく、と春琴は、ひしっと佐助の体にしがみついて、わーとなきだすのであった。さらに嵩じて、春琴が風呂に入ってる時、佐助が着物をとってしまって、春琴が佐助どん、おねがい、キモノを返して、といって恥ずかしそうに隅にかがみこんんでしまった、ということがあったか、どうかまではわからない。小説における必然性は全くないので、あったといっても、なかった、といっても別にどうでもいい。竹馬の友とは、まさに、こういう仲をいうのであろう、佐助は春琴にとって、よろこびもグチも、胸襟をひらける、家族以外の唯一の存在であった。視力の不自由な人は劣等感のかきねの中に住んでいて、気がねしたいい方をするのだが、春琴は佐助に対してそれがなく、あーあ、おなか減っちゃったな、なんて言うのである。すると佐助がまんじゅうと茶をもってきて、春琴一人分の時もあれば、二人分の時もあり、一人分の時は春琴がモグモグ食べるのをみるのが佐助にとって楽しかったのだが、佐助どんも食べなよ、といわれると、佐助は自分も目をつぶって食べます、といって目をつぶると、口を開けなよ、まんじゅうをちぎって入れるから、といわれて口を開けてまっていると、あついお茶をブバッと口の中に入れて、あちちち、とあつがっている佐助を、フーフーお茶をさましながら飲んで、風呂の時のおかえし、といっているのだから春琴も罪がない。こわい、こわい、目がみえないのはつらい、といって佐助をピシャピシャたたく時もあった。佐助は自分の目が潰れることでお師匠様の目がみえるのならよろこんで目をあげるのにと思って、じっと春琴の弱音を耐え聞き、いっそ自分の目もつぶれてしまえ、と、ある雨の日、どろ水で目を洗っているところを家人にみつけられ、ばかなまねは二度とおやめ、ときつく注意されたこともあった。
お師匠様が目がみえたならきっと自分は相手にしてもらえない、お師匠様が自分を相手にしてくれるのはひとえにお師匠様の目がみえないからで、それはお師匠様のせいではなく自分は弱みにつけこんでいるようなものだと佐助は思い、お師匠様とつきあうには自分を罰しなくてはと思いこむようになった。そこで村の悪童にこんなことをしてくれないかともちかけた、悪童はよろこんで二人仲間をひきつれてやってきた。それは悪童といえども春琴をからかうには良心がとがめた。どうか自分が春琴にさそいをかて、かけおちしたところを主にとらえられて二人折檻されるということで、というと悪童はよろこんで、二人をすわらせて背中合わせに縛りあげた。佐助は目かくしをされた、やい、うぬら、あるじの目をぬすんで恩も忘れ、あり金かっさらってにげるとは何てりょうけんだ、たっぷり折檻してやるからかくごしろ、とおどす、悪童仲間がたのしげにとりかこみ、見物にする。
しかしこの女は何ていい女なんだ脱がしてこの女だけ折檻しよう野郎は簀巻にして重石をつけて沼に放り込め、といって春琴のアゴをグイとあげる。春琴の着物の裾をめくり手を這わせ入れようとする春琴はびくっとキョーフにふるえ佐助どんと、たがいに後ろ手に縛られて、手と手がふれあっている佐助の手をギュッとにぎる、春琴は佐助以外のこの世のものはみなキョーフなので困ったことがおこると佐助にたすけを求めるしかない。ほらでっかいクモを入れてやる、といって胸元のあたりに、五指の先をクモの脚の動きに似せて触れる、と春琴は悲鳴をあげる、やめろ、おししょうさまをそそのかしたのはおれだ、責めるならおれを責めろゴクアク豚、という、悪童は、ほくそえんで、へっへっ。それなら手前の望み通り手前を責めてやらあ、そのかわりちょっとでも泣きをいれたらこの女だけ裸にしていたぶってやる、という、よし、きんたまをひきちぎってやれ、といって二人が佐助の褌をとりきんたまをつかんで力まかせにつねったり、ひっぱったりする、佐助は、だんだん油汗をかきながら苦痛に耐える。うっうっと耐えきれず、うめきをもらす。一人が佐助のほっぺたをつねる。このとき春琴の手が佐助の手をひしっとにぎっているのがわかる。ああ、こうしているのがいいのだ、おれはいつも何もくるしみもうけずにお師匠様をめでている。そんな自分がうけるべき当然のばつをおれはいまうけている。しかももったいなくも、お師匠様は自分をいたわってくださっている。そう思うと佐助は苦しみの中に、いつもはアイマイとしてつかめない安心を感じるのだった。悪童は二人に合図する。二人は竹でピシピシ佐助の脚や胴をたたいたり、指をさいたり、土をめいっぱいくらわしたり、ミミズをのましたりする。が、佐助はむごく責められれば責められるほど、春琴の苦しみに少し近づけるような気がするのだった。これは、すべて佐助が、あらかじめ悪童にいっておいて、自分にはどんなひどいことでもかまわない、春琴にはおどしだけにしておいてほしい、といったからである。悪童は、ひとやすみ、といって二人を連れて土蔵をでて、錠をしめてしまった。ほったらかしにされ、来てくれなければ、いつまでも闇の中に閉ざされっぱなしである。だが佐助はそれがむしろうれしかった。こうしてお師匠様と背中あわせに縛られていると久遠の恍惚の中にいるようで、お師匠様はいつもこんな闇の中に住んでいる、お師匠様の肌がふれる、影をふむことさえはばかられるお師匠様と。佐助はこれにかこつけてお師匠様の肌とのふれあいを感じて勃起していた。お師匠様はそうは思っていないだろう。男が女の体に触れたいと思うのと同様、女は男の体に触れたいとは思わない。そのことをお師匠様は気がついていない。佐助どん、困ったわね、などと春琴が自然の問いをするので、そうですね、と自然をよそおって答えるが、佐助は射精せんほどに勃起していた。お師匠様に自分の胸中がみぬかれるのではないか、というキョーフが佐助の体をふるわせて。ああ、お師匠様の髪がふれている、お師匠様とお尻をふれあわせている。佐助はこの感触を一生おぼえておこうと思った。

こういう遊びは、やる方にしても、面白いし、また、やられる方の佐助にしても、嫌なだけのものでもない。双方の欲求が満足されるとなると、遊びは、その程度をエスカレートしていく。悪童は、女の子達を連れて来るようになった。春琴が師範として、教えている女の子達である。いつものように、春琴を後ろ手に捕縛して土蔵に入ってきた悪童がドッカと座り、縄尻をグイと引いて春琴も隣に座らせる。そこへ、褌一枚だけの佐助が女二人に捕まえられて、入ってきて手首を幾重にもはずれないようきつく縛り上げられて、その縄尻を天井の梁にまわし、ギリギリまで引き絞って、つま先立ちにまでする。さーて、こいつをどうするかな、と、悪童が言う。本当は、こいつを吊るしたほうが面白いんだがな、と言って、人質として悪童の隣に端座している春琴の縄尻をグイと引く。男を吊るしても色気がねえぜ。よし。いっそのこと、佐助は下ろして春琴を吊るしてやれ、というと、春琴はピクッと体を震わせる。やめろ。お師匠様に手を触れたらただでは済まさんぞ。と佐助が言う。いつも気の小さい佐助が強気で言う。ふふ。どうすまさん、というんだ。お前はこいつが目が見えないのをいいことに分不相応に、ちゃっかり自分の恋人にしてやがるんじゃねえか。よし。やれ。ちょっとでも泣きを入れたら春琴を吊るすからな。と言う。女二人が、にじり寄って、佐助の顔をつねったり、なでたりして弄びながら、ふふ、あんたも悪い人ね。春琴が目が見えないのをいいことにちゃっかり恋人にしちゃうんだから。たっぷり、お仕置きしなくちゃね。と言ってススキの葉やネコジャラシで体のあちこちを擽ってみたり、ピシャンと頬っぺたを叩いたりする。女は竹でピシャピシャ尻といわず、体のあちこちを叩く。ふふ。これもとっちゃお。と言って、佐助の褌をとる。と、ムクムク、佐助の摩羅が勃起してきて、天井を向いていく。素っ裸を女に見られて興奮するなんておかしいんじゃねえか。それとも、女のどっちかに気があるんじゃねえか。というと、二人の女は、わー。佐助ちゃんに好かれてたなんてうれしいわ。でも私達のどっちが好きなのかしら。白状するまでいろんなことしていじめちゃおっと、という。ふふ。佐助ちゃんて、興奮するとこんなに大きくなるのね。信じられない。でも玉はプラプラして、男の子の裸って、みっともないわね、と揶揄する。どっちが本命なのかしら、といって、勃起した竿をスッと撫でてみたりする、と、思わず射精しそうになって、佐助は、や、やめろ、といって膝を撚り合わそうとする。かまわねえ。どんどん虐めてやれ。といわれて女の一人が後ろに廻って、後ろから両腋をくすぐるのをもう一人の女は屈んでゆっくり下をしごきだす。佐助は、「お、お願いだ。そ、それだけは」と言って、しごいてる女に言う。ふふ。何をされても我慢する、といったのはどいつだ。そんなことで根を上げてどうする。ぶ、ぶつなり、蹴るなり、何なりしろ。お願いだからそれだけはやめてくれ、という。ふふ。言われずとも徹底的にしめあげてやる。よしやれ。といわれて、女は二人、それぞれ紐をもってきて、佐助の玉にはずれないようにしっかりくくりつけ、その縄尻をエーイと言って両側へ引っ張る。ああーと大きな悲鳴をあげて佐助は激しく全身をよじり、首を振り、のたうち、必死に苦痛に耐えようとする。しかし、なかなか佐助が根を上げないので、女達はもてあまし気味になって、佐助ちゃんて、けっこうガマン強いのね。しかたないわ、じゃ、こうしておきましょう、といって、今まで引っ張っていた縄尻に重石をそれぞれ結び付けてぶらんと垂らした。佐助は、あうっ。あうっ。と、アシカのような声を出す。ふふ。アシカみたい。ねえ。とってほしい。と、油汗を流している佐助の頬っぺたを撫でながら聞く。女達はだんだん面白くなってきて、図にのって小鉢をもって土蔵の外へ出て、それに小用をたす。そしてそれを持って戻ってくると佐助どんは何でも聞くんだよね。といって、さあ、これをお飲み、と言って鉢を佐助の口へおしつける。女は佐助の口を強引にこじ開け、無理矢理流し込む。さ、こんどはあたいの番だよ、といってもう一人が同じようにする。佐助が呑みおえると二人はキャッキャッと笑い、やだー。飲ませちゃったー、と言い合う。悪童は、ふっ。ションベン飲ますくらいじゃ全然手ぬるいわ。といって、竹をとると、みじめな姿の佐助の尻をピシピシと赤くなるまで叩く。佐助は、ああーと悲鳴をあげる。

お願い。もうやめて。佐助どんを虐めるのはやめて。私が代わりになります。と春琴が耐えられなくなって言う。舌を噛みます。という。フン。じゃあ、今日はこのくらいにして勘弁してやらあ。と言って、悪童は春琴の縛めを解くと女二人を引き連れて、ゾロゾロと引き揚げていく。土蔵の中はシーンとしている。春琴がおそるおそる佐助に近づく。ああ。佐助どん。私のために酷い目にあわせて、ごめんね。わたし何て言ってあやまったらいいか。お師匠様。いいんです。あいつらのいったことは本当なんです。私はお師匠様が目が見えないのをいいことにつけこんでいるんです。このくらいの罰をうけるのは当然です。という。佐助どん。解いてあげるからね、といって、縄尻を手探りで探そうとする。がなかなか見つからない。この時春琴に複雑な気持ちが起こった。縄を解くべきだ、という心と反対に、何かもう少し佐助をこのままにしておきたいという気持ちである。佐助どん、かわいそう。といって、春琴は佐助の腰にしがみついた。鞭打たれた尻を撫でるように触った。畢竟、顔は佐助の男のところに近づいている。ある別の意図を持ちつつ、「痛かったでしょう」といって、佐助の男にそっと手をおいてみる。と、それはどんどん膨れ上がっていく。ああっ。お師匠様。や、やめて下さい。と、佐助ははげしく頭を振る。ああっ。と言って佐助はとうとう体内にたまっていた液体を迸らせた。

ある時、春琴はあるいたづらを思いついた。それは佐助の弱々しさにつけこんで、佐助を土蔵の中に閉じ込めてしまえ、といういたずらである。佐助は悪童に、よういにつかまえられてしまう、ところをみると、案外弱いのかもしれない。ある時この土蔵での、遊びが終わった時、悪童たちが春琴の縄を解いて、次に佐助の縄を解こうとすると、春琴は、待って、といって、佐助どんの縄は、自分が解くから、と言って、彼らを返した。おそるおそる佐助の縛められた手を触ってみると、土蔵の中心の大黒柱に、がっしりと、縛りつけられていて、佐助の力では、解くことができそうもない。春琴の心にあるよろこびの感情がおこった。いつも自分に親切にしてくれる佐助ではあったが、一生盲目で生きなくてはならない、ひけめの悔しさ、それは、常日頃の春琴にはない感情だった。自分が一生、ひけめのつらさを抱いて生きるのが、自分の定められた宿命であって、それに不服をいうのは、わがままだと思っていた。誰かを拘束の不幸にあじあわせて、困らせてやればいい気味などという発想はよけい自分が惨めになるだけだった。誰かをいじめて、一時の拘束にすることは、一時のものであり、一方、春琴の盲目の拘束は一生のものである。力づくで誰かを拘束してみても、遊びが終われば、いっそう自分が惨めになるだけである。相手から、やーい。春琴はひがんでると、言葉に出されずとも思われるのがつらかった。しかし、佐助の様子をみていると、いつも自分に傅くばかりで、気も弱く、いっつも無口で、人の心を憶測したり、見抜いたりする能力が足りないようにも思われた。考えの足りない、人のいい、世話役、兼、遊び友達、だった。この人間になら、自分の心の奥に潜んでいる、欲望を、見破られることなく、マンゾクできる。と思った。春琴は佐助の体や、顔をなぞってみた。すると、少しした後、縄を解いてくれるだろうと思ったからだろう。口元が心地よく、微笑んでいるのが、手の感触でわかった。佐助、お前は気が弱いから、いじめられるのよ。私は帰るけど、お前は少し自分の弱さを反省して、こうしてなさい、と言って、立ちあがろうとすると、佐助は、弱声で、「お師匠様。お師匠様をお守りできなかったのは、確かに私の力不足です。でも、ここは暗くて、こわうございます。いつ、出していただけるのでしょうか」と聞く。ので、春琴は、それはお前がもうちょっと強くなるまでよ、と言って、目隠しして猿轡をして、ぼろ布団をかけた。そして閂をかけ、錠を閉めてしまった。佐助は自分の考えに気づいていない、と思うと、内心しめしめと思った。閂を閉めると、佐助の、猿轡の中から自分を呼ぶ声がする。夕食の時、母親に、佐助どんが見えないけど、どうしたのかしらね、と聞かれて、春琴はあわてて、今、佐助どんは琴の練習に熱中してるから、私がもっていきます、といった。佐助は土蔵の中である。誰が来たかと思って佐助はビクッとした。春琴のおぼつかない足取りと、手でまさぐることで、見えない闖入者が春琴であることがわかった佐助は、猿轡を解かれると、ああ、お師匠さま、解いてください、もう許してください、と弱々しげに言った。この時、佐助は本当に弱虫なんだなと思って、春琴はうれしくなった。春琴は今まで、いたわられてばかりいて、育ってきた。童女は人形遊びをするのが好きだが、それは女には幼いうちから、母性的な愛というものが、物心つく頃から、生まれてくるのであって、自分がお母さんとなって、弱い、頼りない、ものを守ってあげたい、という、感情を人形遊びの中で、人形に一方的に話しかけることによって、マンゾクさせるのである。春琴も、もちろん人形を与えられたが、春琴は、あまり人形遊びを、する気にはなれなかった。それは目が見えないため、人形が男なのか、女なのか、どういう顔、形をしているものなのか、わからず、かわいいのやら、どんな容姿なのか、所詮、手探りでは、わからず、目のみえない少女にとっては、かわいい人形も、人間の形をした得体の知れないものに過ぎなかった。どんなに人がかわいいといっても、わからないものに愛着を持つことはできない。一目でもその人形をみていたなら、その姿が脳裏のうちに焼きついて、盲目であっても人形をかわいがることはできる。しかし、一度もみたことのないものは、どう努力しても、得体の知れないものであって、キョーフ感が起こることはあっても、愛着を持つことはできない。また、人形遊びは、童女が自立が起こり始める頃おこり、弱いものを守ってやりたいという、母性愛の生まれ、であるが、それは、自分が弱いものを守ってあげれるという逞しさの自信に支えられている。それはちょうど、親に甘えること、親の胸中に抱かれている心地よさ、より、自分の意志で行動したいという欲求の方がうわまわるのと、時期を同じくしているが、春琴が守ってやれるほど、弱いものはなく、春琴は守られる、お人形であって、一生、自分はあまり、人に世話をかけない、お人形として生きる定めなのだという意識が、バクゼンとあって、自分は将来、お母さんとなって、子供を守り、育てるんだという普通の子が持つ感情がおこらなかったことも春琴に人形遊びに、関心をおこさせにくかった一因であった。弱いものが、弱いものを守ることはできない。できるとすれば、自分より絶対的に、より弱いものである。春琴は食事を土蔵へ持っていった。佐助の猿轡を解くと、佐助は、お師匠様。どうか、お許しください。と泣いて許しを乞うばかり。この時、春琴にむず痒い快感が起こった。それは人形遊びの快感である。人形遊びの快感とは、守り、なで、時に叱ったり、いじめたりする絶対支配者のそれである。ダメダメ。佐助。お前は気が弱いから、もっと胆力をつけなくちゃならないわ。でも食事はあげるから、口をアーンとおあけ、といって、あけさせた。口にご飯を入れてやったり、味噌汁をのませてやったり、縛められて自分では何もできない佐助に食事を食べさせる。この時、春琴の心を人形遊びの快感がくすぐっていた。ゴハンが食べ終わって、てっきり縄を解いてもらえると思っていた佐助の口のまわりを拭くと、春琴は再び佐助に猿轡をしてしまった。そして、佐助にボロ布団をすっぽりかぶせると、そのまま、また立ちあがって、土蔵の錠を閉めて、帰ってしまった。この晩、春琴はとても幸福な気持ちで、床についた。今までずっと無意識のうちにあった、自分が一番不幸せな人間だという抑圧がなくなっていた。それは土蔵の中でおびえて身動きできず、縛られてブルブル震えている佐助がいたからである。佐助は自分が食事を運び、食べさせてやらなければ自分では何もできない赤子同様である。その上、佐助は、春琴がひがみの心をマンゾクさせるために人を不幸にしてみたがったり、しているんだと、人の心を推測したがる性格でもないし、また万一、そういう心を知ったからといって、はしゃぎ、からかい返す性格でもない。だからといって、佐助をいじめ殺そう、などという気持ちは全くなく、むしろ、春琴にとって、佐助はこの世で一番かわいい、唯一の友達である。みんながもってるものを自分はもってないから、不幸なのであって、悟りを開いた人間でない限り、人間は自分より不幸な人間がいると、自分が幸福になったような気持ちになるのである。春琴はどのくらい、佐助を閉じ込めておこうかと思ったが、丸一日たって翌日の夕方、佐助のところに行くと、こらえきれず、もらした尿のため、床はぐっしゅり濡れていて、ガマンできなかったらしく、便も垂れ流し、鼻をつくような排泄物のニオイで、ムンムンしていた。佐助は、丸一日、柱に縛りつけられたままだったので、垂れ流してしまった自分の排泄物のまとわりつく不快感と合わせ、眠るに眠れず、グッタリとして、ぼんやりうつろな表情をしていた。春琴が、猿轡を解いてやり、「よしよし。よくガマンしたね。もう縄を解いてやるから安心おし」というと、うつろな表情が一変して、ワーンと泣き出した。

さて小説である以上、一応結末をつけなくてはならない。原作では春琴が、かなりスパルタ式稽古をして、わがままな性格も加わって、上達の悪い弟子にバチを投げつけたり、体罰を加え、破門した。春琴のワガママさ、に腹を立てていたもの、恨みをもっていたもの多く、その復讐で春琴は、顔に熱湯を浴びせられ、佐助、お前にだけは見られたくない、と言って、その心を察した佐助は、針で自分の目をつく、ということになっている。盲目になった佐助は、春琴と二人、極楽の蓮台の上で身を寄せ合っている気持ち、で、むしろ幸せだ、ということになっている。原作のあらすじを読んだ時、言い知れぬ官能の刺激を感じた。作者である谷崎氏の特異な性的嗜好があるとはいえ、これは人間を超えた愛の行動であると当時の文壇で絶賛され、それゆえ、「春琴抄」は、文学的に高い評価を得ている。しかし、自分が、軽い気持ちで書いてみたこのお話しでは春琴は熱湯をかけられるスジアイも生まれないし、恨みをかう人間もつくれない。その上、春琴の身の回りの世話役である佐助が盲目になってしまったのでは、身の回りの世話をすることにも著しく支障をきたしてしまう。加えて、浮気に都合のいい条件があるのに、一人の女性に一生仕えるということだけで十分過ぎるくらいである。春琴が一人になっては、かわいそう、と思う心に自分の一生を殉じた、ということに止めておこう。人間には、超えられない枷の中で生きることに、生きることの緊張も張りもある。
「へへ。お師匠様、目が見えない。へへ。お師匠様、ひがんでる」
と言ったりして、愛しながらもからかう。春琴は佐助と結婚する。盲者と結婚できる勇者は容易には探せない。結婚する、ということは、もはや一体となる、ということであり、春琴は、佐助を通して目と自由に走りまわれる足を得た、と言ってもいい。
「あーあ。佐助どん。目が見えてうらやましいなー」
という。こんな感じでこの夫婦は、終生、子供のふざけっこのような感じなのである。佐助の介助によって春琴は傷病することなく長命した。春琴の死後、佐助は妻妾をもつことなく春琴の死後二十一年間ひっそりと暮らした。佐助が死んだ時、佐助の遺言によって、佐助の骨は春琴の墓に加えられ、春琴、佐助の墓、との墓銘が書かれた。死んだ後には、もはや盲目のひけめも苦しみもない。二人が本当に幸せになったのは、死んでから後であるといってもいい。
東京の、ある寺に手入れする者もなく、長年の風雨に晒されてボロボロになった小さな墓石がある。僅かに、春琴、佐助の墓、との文字が見える。遠い昔、一組の夫婦が生涯童心のまま、生きたことを知る者はいない。マンション建築のため、近くこの荒れ寺も取り壊される。

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佐々木さやか。お前もか

2015-07-16 11:28:56 | 政治
戦争法案が、衆議院で強行採決されて、参議院に行く。

はたして、公明党の、佐々木さやか、さんは、この違憲戦争法案に、賛成するだろうか。反対するだろうか?

所詮、美人と、弁護士のレッテルと、創価学会の後押しで、つらい、やっかいな、弁護士の仕事より、6年間、何もしないで、遊んでいられる、楽な公務員の仕事に就きたかっただけなのか?

池上彰の、政教分離の質問にも、彼女は、答えず、無視した。

「佐々木さやか(ブルータス)。お前もか」

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