十勝の活性化を考える会

     
 勉強会や講演会を開催し十勝の歴史及び現状などを学ぶことを通じて十勝の課題とその解決策を議論しましょう

子どもと遊んだ神 (読み聞かせ)

2020-12-19 05:00:00 | 投稿


私は、広い広い砂利原の中ほどを守るために天国から降ろされている、ヘビの神でありました。私が守っている砂利原は広いので、近くにあるアイヌのコタン(村)から毎日のように大勢の子どもたちが遊びに来ます。
 大勢来る子どもたちに交じって、身形(みなり)の貧しそうな男の子が一人います。みんなが来たあと、その子が一足おくれで来ると、先に来ていた子どもたちが、その子を目がけていっせいに石を投げたり、流木の端をぶつけるなどしていじめます。
 その子の着ているものは、破れたり裂けたりした刺し子で、それも垢だらけのうえに、さらに垢びかりしているような着物です。子どもたちは石や木端を投げつけるばかりでなく、しまいにはその子をめちゃくちゃに殴ります。殴られた男の子は、大声をあげて泣きながら神である私の近くまで来ては、一人でしょんぼりとし、夕方近くなるとどこかへ帰っていきます。
 それを見ていたヘビの神の私は、次の日から毎日その子の来るのを待っては、一緒に遊んでやりました。私と一緒に遊ぶようになってからは、その子はコタンの子どもたちにいじめられることもなく、毎日毎日楽しく過ごしては、日暮れ近くなるとどこかへ帰っていきました。
 そうしていたある日のこと、その子が赤いお膳に薄いお椀を二つ並べ、一つのお椀にはおいしそうな団子を山盛りに入れ、もう一つのお椀にはおいしい肉、それも脂身のものを山盛りに入れて持ってきてくれました。
いや、その団子や肉のおいしかったこと。神である私も初めて食べるようないい味で、二つのお椀に入っていたものを一度に全部食べてしまいました。持ってきたものを食べ終わった私は、その子をうんと褒めたりお礼をいいながら、赤いお膳に、私が持っていたカムイイコロ(宝刀)を一本入れてあげました。それを受け取った男の子は本当にうれしそうに、何度も何度も、上へ下へと押しいただき、オンカミ(礼拝)を重ね、カムイイコロを持って帰りました。


 それから二、三日過ぎたある日のこと、人声がするので見てみると、立派な風采をした二人の男が私の方へ近づいてきます。一人は何やら大きいトックリ(瓶)のようなものを背負っています。もう一人の方はイナウ(木を削って作った御幣)を削る材料などを背負い、私の前まで来て、それらを背中から下ろしました。二人は私の前にどっかと座り、いろいろなイナウをたくさん削り、私のためにと一そろいの祭壇をこしらえました。
祭壇の前には、先ほど背負ってきたトックリの中から酒を出して供えるなど、荷物の中から次々とおいしい団子や肉や魚を出して並べました。それらを並べ終わってから、初めて年上らしい男が私の方へ向き、次のようにいいました。
 「ヘビの神よ、お聞きください。私はオキクルミという者で、ここにいる者は私の弟のサマユンクルという者です。毎日あなたが一緒に遊んでくれていた子どもは、私の子であったのです。
兄弟がいないためか遊び相手を欲しがるので、毎日アイヌの子どもらと遊ばせましたが、昼間は遊びに来ていても、夜になるとどこかへ行って見えなくなるので、子どもたちにいじめられてばかりいました。
それと着ている着物も、実はいいものを着せてあるのですが、それをそのまま見られると、神の子どもであることがわかり遊んでもらえません。それで、わざとあのように垢だらけの破れたり裂けたりした刺し子に見せてあったのです。
そのため、なおさらアイヌの子どもたちに嫌われ、遊んでもらえなかったのです。それを神であるあなたが、汚がりもせずに一緒に遊んでくださり、本当にありがとうございました。遊んでくださっただけでもありかたいのに、そのうえあの子に宝物までくださいました。あの宝物は神の国でもめったに見ることのできない珍しいものでした。
今日は神であるあなたに、私の子どもと遊んでくれたお礼と、宝物をくださったお礼に、私ども二人でここへやって来たのです。ここへそろえたイナウ、それと酒や食べ物をお受け取りください」
と言いながら、私にそれらのものをくれました。私は丁寧に礼拝をしながらそれを受け取ると、オキクルミとサマユンクルの二人も礼拝して帰っていきました。
 二人が帰ったあとで考えてみると、この砂利原を守るために天国から降りてきてから、長い時間がたったことに気づきました。そこで、アイヌの国の神々からもらったものを土産に、神の国へ帰ることにしました。
私は、仲間を集めてそのことを話して聞かせ、次にこの砂利原を守る者を決め、私がしたのと同じように、その者にこの広い砂利原の上端から下端までを守るようにいい聞かせました。
そして、私はオキクルミとサマユンクルがくれたイナウや酒、それに肉や魚、たくさんの土産を持って、天の上、神の国へ帰ってきました。
神の国へ帰ってきた私は、大勢の神々を招待し、土産にもらってきたものを神々にも分けあたえました。それらは大変に喜ばれ、私はもう一段高い位の神になることができました。
 だから、今アイヌの国土にいるヘビたちよ、どんなやり方でもいいから、アイヌたち、そしてアイヌの国にいる神たちの役に立つようなことをしなさい、と位の高いヘビの神が語りました。


語り手 平取町荷負本村 木村こぬまたん(昭和36年10月29日採録)

「十勝の活性化を考える会」会員K

 

十勝の活性化を考える会」会員募集