最近、ご主人様は拙者を裏山の竹薮に連れて行くようになった。そしてこう言うのである。
「おいクロチャン、タケノコはまだかな?タケノコの匂いはまだしないのかな?」
なんでも、近くにある野菜直売所で、タケノコが1本千円で売られていたという。 それを見てきたご主人様は興奮気味に言うのである。
「あの程度のタケノコならうちの竹薮にもたくさん出てくるぞ。去年はイヤになるほど食べたぞ。早く見つければお小遣いがかせげるし、お前にももっとおいしいドックフードを買ってあげることもできるのだぞ」 と、そそのかすのである。
ケモノのイノシシはそのタケノコが大好きなのだそうだ。だからタケノコの頭がまだ地面に出てこないのに、その匂いを嗅ぎつけて掘りくり返し、散々食い散らかすのだそうだ。うちの竹薮にもやつらが掘りくり返した無残な跡があちこちに確かにあった。
しかし拙者はタケノコのどこがそんなに旨いか分からない。したがってあんなものに興奮する人間様の気持ちが理解できない。よってタケノコ堀りにも関心がわかない。ゆえに拙者の嗅覚はほとんど反応しないのである。
「『ここ掘れワンワン!』と教えてくれる利口なワンちゃんがどっかにいないものかな・・・・・」
ご主人様の嘆きのつぶやきが聞こえてきた。