あの不思議な物は、チベット仏教の坊さんが瞑想する時に使うシンキングボールという仏具らしい。それにしてもニンゲン様は心の修行のために色々な事をするものだ。ところが拙者が気持ち良く寝ていると、今度はこれまで聞いたことがない奇妙な音色が聞こえてきたのだ。
その音色は時に草原の大地に吹く風のように、また時には大空を舞う大鷲のように思えた。どうやらそれはモンゴルから伝わってきたホーミーという喉歌らしい。誰がそのような妙な喉歌を唸っているのかと見てみると、案の定あの女人であった。あのような音色を出せる者は不思議なオーラを出すあの女人しかいないだろう。
会席者は、野点のお茶でしばし非日常の世界に誘われ、シンキングボールで瞑想の世界に入り、そしてホーミーで大空を舞った。
しかし、それにしても、とんでもない女人が現れたものだ。ご主人様は、目の前の女人が作り出す不思議な世界にすっかり度肝を抜かれている。
その時、誰かが言った。
「彼女は幸運をもたらす座敷童子(ざしきわらし)なんです」
「なるほど、妖精か・・・。そうであろう。そうに違いない・・・・・・」
ご主人様は呆然とその座敷童子の横顔を眺めていた。