耕一は夢を見ていた。
ブランコに乗っている夢だ。
ブランコが高く上がると、遠くの山が見えた。
《気持ち良いな・・・・》
耕一は、身体がゆっくりと大きく揺れる感覚の中で、そう思っていた。
ブランコの振れが、次第に大きくなって行く。
自分の身体が、青い大空に吸い込まれて行くのではないかと心配になってきた。
その時だ。
「機関長! 機関長!」
部屋のドアを、誰かがドンドンと叩いた。
耕一は、慌てて簡易ベッドから飛び起きた。
船が大きく揺れている。
中古船「あけぼの丸」の船体が、「ギシギシミシミシ」と悲鳴を上げている。
「機関長、台風が接近しているようです。このままだと、船が転覆します。船頭が、直ぐ船を出してくれと云っています!」
千倉から一緒に来た若い乗組員の正一が、真っ青な顔で叫んだ。
時計の針は、午前2時を指している。
《随分足の速い台風だな。もうこんなところまで来たのか・・・》
耕一は、エンジンルームに飛び込むと、かけっ放しにしていたエンジンの回転数を、マックスに引き上げた。
「いつでも船が出せると、船頭に伝えろ!」
激しく揺れる船内を、正一はまともに歩くことが出来ず、狭い廊下の壁に身体をぶつけながら、船頭がいる操舵室へ向かった。
耕一は、揺れる機関室の窓から外を見た。
夜半まで、同じ漁場で常夜灯を灯して停泊していた他のメカジキ船は、一艘も見当たらない。
既に、釧路港に避難したのだろう。
古い船体のあけぼの丸も、高いうねりの海原を、波しぶきを頭からかぶりながら、釧路港を目指した。
だが、激しい暴風雨の中で、船はほとんど前に進まなくなった。
あけぼの丸のその姿は、まるで木の葉が波に弄ばれているようであった。
耕一は焦った。
《燃料が足りない。このままでは港に辿り着けない。クソー、どうすれば良いんだ・・・・》
そんな耕一の焦りをあざ笑うかのように、暴風雨は刻々と激しさを増してくる。
横からの高いうねりが怒涛となって船を襲ってくるのが耕一の目に入った。
その瞬間、彼の身体が宙に浮き、そして天井板に叩き付けられた。
船が転覆したのだ。
続く・・・・・。