クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー仲間の運命

2014-12-07 21:57:28 | 物語

あけぼの丸の乗組員10人は、真っ暗な荒海に投げ出された。

9月中旬の北の海の水は、既に冬の冷さだった。

その冷たい海の荒波に飲み込まれまいと、仲間達は転覆した船に必死でしがみついた。

だが、しがみついている手がかじかんできて、次第に指の感覚がなくなってくる。

 

陸の方を見ると、波のうねりのかなたに、灯台の明かりが小さく見えた。

「おい、俺はあの灯台まで泳いで行くぞ」

仲間の一人は、そう云うと、船から手を離して荒海の中に身を入れた。

それにつられて、他の男がもう一人、

「俺も行くぞ!」

と叫んで、後を追った。

《いくら泳ぎに自信があっても、この荒波の中を泳ぐのは無謀だ》

二人が暗い海に消えた時、耕一はそう思った。そして、

《死んでもこの船から身体を離さないぞ!》

と、船のロープを、しびれる手で必死に自分の身体に巻きつけた。

 

 

 

耕一が幸運だったのは、船から脱出する時に、係留用ロープが手に引っかかったことであった。

無我夢中でそのロープにしがみついたことにより、耕一は波に飲まれずにすんだのだった。

耕一の近くで、ロープにしがみついている男がもう一人いた。

「台風が来た!」

と、真っ青な顔で機関室に駆け込んできた正一だった。

真面目で良く働く若い正一を、耕一は弟のように可愛がっていた。

「正一! そのロープを絶対に離すなよ! ロープを身体に巻きつけろ!」

ロープを離しそうになる正一を、耕一は懸命に励ました。

だが、しばらくすると、ロープを巻きつけた正一の身体が動かなくなった。

意識を失いかけているのかもしれない。

耕一は、正一の近くに身体を動かして、その顔を平手打ちした。

「正一! しっかりしろ! 眠るんじゃないぞ。眠ったらおまえは死ぬぞ!」

耕一の平手打ちで、意識を取り戻した正一は、また、必死にロープにしがみついた。

次の瞬間、強風と共に、また大波が船を襲った。

その大波の中で、耕一も意識を失いかけた。

そしてその大波と共に、正一の姿が消えていた。

 

 

 続く・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント (3)
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