今夏は来年4月から使う中学校道徳教科書をどれにするか、日本全国各地で教育委員会の採択があります。
その前に今年6月、私たち市民がその教科書を見る教科書展示会が地域ごとに開かれます。
中学校道徳は8社(光村図書、東京書籍、学研教育みらい、学校図書、廣済堂あかつき、日本文教出版、教育出版、日本教科書)が出しています。
3学年分8社(うち2社(あかつき、日文)は別冊付き)で合計30冊あります。
今の国会を見ていればなんでこんな人たちに「道徳教育を」などと言われなくてはならないの?と思ってしまいます。
いやこんな人たちだからこそ、臆面もなく言うのでしょう。
本当に民主的で平和な世の中を作ろうとしているのなら「特別の教科 道徳」などという教科は作らないでしょう。
道徳心は、人と人との関わりの中で形成されていくその人の生き方、考え方でもあります。
国が勝手に基準を作ってそれを評価するなど、余計なお世話で心の不法侵入、内心の自由を侵す憲法違反です。
「道徳」と称して、政権は勝手に「愛国心」「感動、畏敬の念」など22の項目(徳目)を作りました。
その22の項目(徳目)の中には「人権」、「非暴力」、「意見表明権」など民主主義社会を作る上で大事なことがらは入っていません。
子どもたちに自己責任論をしみ込ませ、世の中に不満を抱いたり文句を言ったりせず、上に従順な人間を作ろうとするものです。
権力者が安心してやりたい放題ができる社会にしようというのでしょう
ともあれ、今夏の初の中学校道徳教科書採択。教育委員会には少しでもましな教科書を選んでもらうようにしなければなりません。
そのために私たちは展示会で教科書を見て市民意見や手紙など、教育委員会に市民の声をたくさん届けましょう。
展示会で教科書を見る時の参考に、教科書を事前に見られた人からの報告や、私自身が5月29日から展示が始まった東京江東区の教科書センターでざっと目を通した感想を紹介します。
【中学校道徳教科書の特徴】
◆自己評価欄のある教科書が8社中、5社
文科省は道徳科評価の在り方を「数値でなく記述式で」、「他の児童生徒との比較でなく、児童生徒を励ます個人内評価を」と言っています。
また、道徳科評価の方向性では「『各教科の評定』や『出欠の記録』等とは基本的な性格が異なるものであることから、調査書に記載せず、入学者選抜の合否判定に活用することのないように」とすら今のところは言っているのです。
ところが中学校道徳教科書8社中、日本教科書(日科)、廣済堂あかつき(あかつき)、教育出版(教出)、日本文教出版(日文)、東京書籍(東書)の5社が、生徒に段階で自己評価させる欄を設けています。
日文、東書は授業への取り組みについての段階自己評価ですが、日科、あかつき、教出の3社は国の決めた項目(徳目)ついて自己評価させるようになっています。
本来、生徒それぞれに多様な思いや考えが許されるはずのものが、国の決めた項目に自分がどれだけ合致したのかと自己評価する中で、多くの生徒は国の決めた価値観が唯一の正解だと自分を思い込ませるようになっていくでしょう。
戦前、「修身科」では甲乙丙丁と段階評価をしました。
自己評価とはいえ、道徳も発足時から段階評価欄のある教科書があれば、それを評価の参考にする担任もいるでしょう。
生徒に学習を振り返させるならば、自由に自分の言葉で書かせるべきです。
自己評価欄は、先行き段階評価に移行していく先鞭となるでしょう。
◆特に問題の多い日本教科書(日科)
この会社は「道徳教育専門の出版社」として新規参入しました。
侵略戦争を賛美する育鵬社の歴史・公民教科書と深く関わる八木秀次氏が設立し、現在の代表は嫌韓ヘイト本(反道徳的!)を出版している晋遊舎の代表をしている武田義輝氏で、その晋遊舎と同じビルの中にあります。
申請された教科書を見て教科書調査官が検定意見を出しますが、日科は検定意見数が他の7社と比べてとびぬけて多く、その多くが字句の間違いでした。
また、学習指導要領では4つの内容項目をA「自己」、B「他人」、C「集団・社会」、D「生命、自然、崇高なもの」との各関わりに大きく分類しています。
このA・B・C・Dの内容を他社は織り交ぜて教材を配列していますが日科はA・B・C・D順に教科書に並べ、1学期はAの内容だけを学ぶことになるなど使いづらいです。
このように完成度の低い、教科書作りを理解していない編集です。
また、例えば吉田松陰を登場させるために生徒が走り込みで松下村塾の前を通るなど教えたい「偉人」に無理に結びつける話が多かったり、必然性もないのに安倍晋三首相の真珠湾での演説を1頁分も載せたりしています。
自己評価も日科が最も露骨に国の基準に合わせて「中学生で身に着けたい22の心」として4段階で評価させるようになっています。
日本礼賛、愛国心鼓舞の復古主義、国家主義的内容が特に濃く感じられる教科書です。
◆様々な視点から考えさせようとする光村図書(光村)
どの教科書もちょっと見には「なるほど、良い話だな」と思う内容のものが載っています。
しかし、じっくり味わってみると―
・社会のあり方と深く関わることがらでもそこには目を向けさせず、自己責任、心の持ち方の問題にさせてしまう
・「日本すごい!」と愛国心や伝統・文化の押しつけ
・労働を奉仕にすり替え、自己犠牲精神で集団への奉仕を迫る
・道徳の教科書だからと事実を歪曲して美談にしたり、歴史的な背景にはふれない
・「あなたならどうしますか?」と設問があっても、話の結論が最初から決まっていて、期待される答えはわかっており、22の項目(徳目)に誘導されるようになっている。
などの教材がたくさんあります。
その中で光村は生徒たちが広く討議できるよう、また別の視点から物事を見つめられるような設問にしています。
また、同年代の生徒が悩んでいてそれを考えさせるという内容が多く、こういう素晴らしいことがある、見習うと良いというような上から目線の話はあまり出てきません。
社会問題も決めつけでなく事実を示し、生徒自身が考える材料を提供する形にしています。
◆いじめ問題は全教科書に掲載
差別や人権問題、LGBTや多様性、主権者教育、戦争と平和、国際理解などを扱った教科書もあります。
とりあえず、展示会場へ行ってみましょう。
展示会場は居住地の役所で教えてくれます。
役所のホームページや区報(市報)などに載っている場合もあります。
なお、小学校の教科書も採択のため展示されていますが、中学校道徳教科書に集中してみると良いと思います。
-K.I-
★この原稿は筆者の承諾を得て、「郷土教育全国協議会」の機関誌『郷土教育707号』より転載したものです。尚、一部体裁を変えていますが原文のままです。
その前に今年6月、私たち市民がその教科書を見る教科書展示会が地域ごとに開かれます。
中学校道徳は8社(光村図書、東京書籍、学研教育みらい、学校図書、廣済堂あかつき、日本文教出版、教育出版、日本教科書)が出しています。
3学年分8社(うち2社(あかつき、日文)は別冊付き)で合計30冊あります。
今の国会を見ていればなんでこんな人たちに「道徳教育を」などと言われなくてはならないの?と思ってしまいます。
いやこんな人たちだからこそ、臆面もなく言うのでしょう。
本当に民主的で平和な世の中を作ろうとしているのなら「特別の教科 道徳」などという教科は作らないでしょう。
道徳心は、人と人との関わりの中で形成されていくその人の生き方、考え方でもあります。
国が勝手に基準を作ってそれを評価するなど、余計なお世話で心の不法侵入、内心の自由を侵す憲法違反です。
「道徳」と称して、政権は勝手に「愛国心」「感動、畏敬の念」など22の項目(徳目)を作りました。
その22の項目(徳目)の中には「人権」、「非暴力」、「意見表明権」など民主主義社会を作る上で大事なことがらは入っていません。
子どもたちに自己責任論をしみ込ませ、世の中に不満を抱いたり文句を言ったりせず、上に従順な人間を作ろうとするものです。
権力者が安心してやりたい放題ができる社会にしようというのでしょう
ともあれ、今夏の初の中学校道徳教科書採択。教育委員会には少しでもましな教科書を選んでもらうようにしなければなりません。
そのために私たちは展示会で教科書を見て市民意見や手紙など、教育委員会に市民の声をたくさん届けましょう。
展示会で教科書を見る時の参考に、教科書を事前に見られた人からの報告や、私自身が5月29日から展示が始まった東京江東区の教科書センターでざっと目を通した感想を紹介します。
【中学校道徳教科書の特徴】
◆自己評価欄のある教科書が8社中、5社
文科省は道徳科評価の在り方を「数値でなく記述式で」、「他の児童生徒との比較でなく、児童生徒を励ます個人内評価を」と言っています。
また、道徳科評価の方向性では「『各教科の評定』や『出欠の記録』等とは基本的な性格が異なるものであることから、調査書に記載せず、入学者選抜の合否判定に活用することのないように」とすら今のところは言っているのです。
ところが中学校道徳教科書8社中、日本教科書(日科)、廣済堂あかつき(あかつき)、教育出版(教出)、日本文教出版(日文)、東京書籍(東書)の5社が、生徒に段階で自己評価させる欄を設けています。
日文、東書は授業への取り組みについての段階自己評価ですが、日科、あかつき、教出の3社は国の決めた項目(徳目)ついて自己評価させるようになっています。
本来、生徒それぞれに多様な思いや考えが許されるはずのものが、国の決めた項目に自分がどれだけ合致したのかと自己評価する中で、多くの生徒は国の決めた価値観が唯一の正解だと自分を思い込ませるようになっていくでしょう。
戦前、「修身科」では甲乙丙丁と段階評価をしました。
自己評価とはいえ、道徳も発足時から段階評価欄のある教科書があれば、それを評価の参考にする担任もいるでしょう。
生徒に学習を振り返させるならば、自由に自分の言葉で書かせるべきです。
自己評価欄は、先行き段階評価に移行していく先鞭となるでしょう。
◆特に問題の多い日本教科書(日科)
この会社は「道徳教育専門の出版社」として新規参入しました。
侵略戦争を賛美する育鵬社の歴史・公民教科書と深く関わる八木秀次氏が設立し、現在の代表は嫌韓ヘイト本(反道徳的!)を出版している晋遊舎の代表をしている武田義輝氏で、その晋遊舎と同じビルの中にあります。
申請された教科書を見て教科書調査官が検定意見を出しますが、日科は検定意見数が他の7社と比べてとびぬけて多く、その多くが字句の間違いでした。
また、学習指導要領では4つの内容項目をA「自己」、B「他人」、C「集団・社会」、D「生命、自然、崇高なもの」との各関わりに大きく分類しています。
このA・B・C・Dの内容を他社は織り交ぜて教材を配列していますが日科はA・B・C・D順に教科書に並べ、1学期はAの内容だけを学ぶことになるなど使いづらいです。
このように完成度の低い、教科書作りを理解していない編集です。
また、例えば吉田松陰を登場させるために生徒が走り込みで松下村塾の前を通るなど教えたい「偉人」に無理に結びつける話が多かったり、必然性もないのに安倍晋三首相の真珠湾での演説を1頁分も載せたりしています。
自己評価も日科が最も露骨に国の基準に合わせて「中学生で身に着けたい22の心」として4段階で評価させるようになっています。
日本礼賛、愛国心鼓舞の復古主義、国家主義的内容が特に濃く感じられる教科書です。
◆様々な視点から考えさせようとする光村図書(光村)
どの教科書もちょっと見には「なるほど、良い話だな」と思う内容のものが載っています。
しかし、じっくり味わってみると―
・社会のあり方と深く関わることがらでもそこには目を向けさせず、自己責任、心の持ち方の問題にさせてしまう
・「日本すごい!」と愛国心や伝統・文化の押しつけ
・労働を奉仕にすり替え、自己犠牲精神で集団への奉仕を迫る
・道徳の教科書だからと事実を歪曲して美談にしたり、歴史的な背景にはふれない
・「あなたならどうしますか?」と設問があっても、話の結論が最初から決まっていて、期待される答えはわかっており、22の項目(徳目)に誘導されるようになっている。
などの教材がたくさんあります。
その中で光村は生徒たちが広く討議できるよう、また別の視点から物事を見つめられるような設問にしています。
また、同年代の生徒が悩んでいてそれを考えさせるという内容が多く、こういう素晴らしいことがある、見習うと良いというような上から目線の話はあまり出てきません。
社会問題も決めつけでなく事実を示し、生徒自身が考える材料を提供する形にしています。
◆いじめ問題は全教科書に掲載
差別や人権問題、LGBTや多様性、主権者教育、戦争と平和、国際理解などを扱った教科書もあります。
とりあえず、展示会場へ行ってみましょう。
展示会場は居住地の役所で教えてくれます。
役所のホームページや区報(市報)などに載っている場合もあります。
なお、小学校の教科書も採択のため展示されていますが、中学校道徳教科書に集中してみると良いと思います。
-K.I-
★この原稿は筆者の承諾を得て、「郷土教育全国協議会」の機関誌『郷土教育707号』より転載したものです。尚、一部体裁を変えていますが原文のままです。