江戸川教育文化センター

「教育」を中心に社会・政治・文化等の問題を研究実践するとともに、センター内外の人々と広く自由に交流するひろば

ヨード剤騒動と理科教育・数学教育

2020-09-07 | 随想
 8月4日に、大阪府の吉村洋文知事が記者会見で「ポピドンヨード入りのうがい薬がコロナウイルスを減少させる」と発表した。
吉村知事は「うがい薬でコロナに打ち勝てるのではないか」とまでコメントしている。
そして、薬局の店頭からうがい薬が消えるなどの混乱が生じ、翌日には知事は「誤解がある」と、火消しに必死となった。
そのあたりはみなさんもご存知のとおりである。

 さて、コロナウイルス対策では、国が的外れな「アベノマスク」に代表されるように「スピード感」もなければ効果も期待薄な対策ばかりで、矢面に立つ地方公共団体の長として結果責任を求められる吉村知事の「勇み足」になったことは明らかだが、別の面から考えてみたい。
つまり、会見を受け止める側のいわゆる「リテラシー」の問題である。

 まず、この記者会見のもとになった実験だが、ポビドンヨード成分を含むうがい薬を使った患者がPCR検査で陽性になる割合が、使わなかった患者より低かったという内容だ。
調査数はまだ41人。
出席した松山晃文次世代創薬創生センター長は『これで患者を治せるわけではない』と付け加えた」とニュースは伝えた。

つまり、比較対象したのは、A群「ヨード剤入りうがい薬でうがいをした人」とB群「そうでなかった人」の2群だけだということだ。
そうすると半数ずつとしても、サンプル数は20人程になる。
これで「ヨード剤入りうがい薬がコロナウイルスに対して効果があった」という結論を導けるのだろうか?

 少なくともこの場合、「うがい薬の有用性を立証」するためには、第3群が必要だったと思われる。
第3群は「ただの水でうがいをした場合」にほかならない。
実験でおこなわれた「PCR検査」は、検体として唾液を使っているそうだ。
ならば、「ただのうがい」でも、ウイルスを減らす可能性があるだろう。
報道でそうした疑問を指摘したという話を聞かないのは、甚だ疑問だ。
新聞やテレビの記者たちだって、義務教育・高等教育を通じて、理科を学んできているはずなのにである。

理科(科学)教育では、実験の方法と導ける結論についてしっかりと考えることが重要である。
しかし、この実験の方法と結果の「吟味」は、おろそかにされやすいのである。
現場では、一定時間内に決まった内容を理解させることが優先される傾向にあるからだ。

 一方、今年度から完全実施となった「新学習指導要領」では、「統計」についての指導が重視されている。
小学校でも6年生に中学校からの内容が下ろされている。
代表値としての「平均値」だけでなく「中央値」や「最頻値」も扱うことになった。

データの改竄を繰り返してきた政府の姿勢からすると「統計的内容の重視」は、ブラックユーモアとしか思えないのだが、問題なのは、いわゆる「サンプル調査」の母集団数とサンプル数について、どう教えてきたか?ということだ。
繰り返すが、この記者会見のもとになった実験のサンプル数はたったの41である。大阪府に限定しても人口は880万人である。
このサンプル数ではとてもじゃないが「効果がある」という結論に至るのは無理がありすぎだと思う。
なぜ、こうした内容がツッコミもなしに報道されてしまうのか?
また、それを間に受けて「うがい薬買い占め」に走る「一般人」が多いのはなぜなのだろうか?

 現場にいたら、「みんなはどう考える?」と、子どもたちに投げかけ反応を見てみたいものなのだが。


-K.H-

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« NHKスペシャル ーシリーズ「... | トップ | 『キューポラのある街』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

随想」カテゴリの最新記事