大阪・中之島香雪美術館で行われている展覧会「上方界隈、絵師済々Ⅰ」に行ってきました。
後期になって京都画壇から大坂画壇に展示作品が総入れ替えされています。
大坂画壇の絵師たちの知名度は正直、そうそうたる京都画壇の絵師からは見劣りします。
しかし素晴らしい作品の数々を見ると、「なぜ知名度が低いのか」に大きく関心を持つようになるでしょう。
目次
- 沈南蘋(しんなんびん)を知っていますか?
- 木村蒹葭堂(きむらけんかどう)を知っていますか?
- 大坂でも四条派は町衆にバカ受けした
- 大坂画壇の絵師たちの実力に圧倒される
沈南蘋(しんなんびん)を知っていますか?
展覧会は三章構成で、第一章は「沈南蘋到来」です。
読めない漢字をあえて前面に押し出すことで、異国情緒を強調する演出でしょう。
そう、沈南蘋(しんなんびん)とは徳川吉宗に招聘された清朝の宮廷画家で、1731(享保16)年から2年間だけ長崎に滞在しました。
宋・元時代の古典的な画風で花鳥画を描き、当時マンネリ化していた狩野派にはない画風がたちまち人々を魅了します。
伊藤若冲や円山応挙が一世風靡した写実的な表現も、実は沈南蘋の影響を強く受けているのです。
わずか2年の滞在の間に長崎の絵師・熊代熊斐(くましろゆうひ)が南蘋の画風を習得し、南蘋派(なんぴんは)と呼ばれた熊代の門人たちによって、写実的で優雅な画風が日本中に広められました。
熊代の門人では、宋紫石(そうしせき)/森蘭斎(もりらんさい)/鶴亭(かくてい)ら、近年注目度が上がっている個性的な絵師がいます。
第一章は、大坂で人気を博すようになった南蘋派の作品です。
沈南蘋「梅月図」、熊斐「鶴性松見図」、鶴亭「牡丹小禽図」と、実に上品で優雅な花鳥画が並んでいます。
多くの人が、異国情緒にあふれたセンスのよい画風に驚くでしょう。
木村蒹葭堂(きむらけんかどう)を知っていますか?
木村蒹葭堂(きむらけんかどう)は大坂の商人ですが、沈南蘋と同じくらいの難読人名です。
「枇杷に小禽図」一点だけが出展されていますが、大いに注目されます。
蒹葭堂も沈南蘋と並んで知名度は低いですが、江戸時代を通じて全国でも一番の知識人と称される「浪速のスーパースター」でした。
文学や書画といった芸術はもちろん、本草学(=博物学)などの自然科学全般に造詣が深く、膨大な書物/地図/楽器/標本など、いわゆる博物館に収蔵されるような珍品の日本一のコレクターとして、全国に知られるようになります。
彼の自宅は、武士から町人まで身分にかかわらずあらゆる知識人が全国から集まる、日本一の文化サロンでした。
蒹葭堂は鶴亭から南蘋派の画風を学んでいます。
本草学の標本を写実的に表現できる画風として注目したのでしょう。
蒹葭堂が活躍したのは18c後半で、円山応挙とほぼ同世代です。
上方の絵師たちが写実画になびくのに、蒹葭堂の及ぼした影響ははかりしれなかったと考えられています。
蒹葭堂は伊藤若冲とも交流がありました。
若冲が描く鶏の絵に、日本の伝統的なやまと絵の趣よりも、中国的な異国情緒を感じませんか?
美術館が入居するフェスティバルタワー
大坂でも四条派は町衆にバカ受けした
第二章は、大坂で大流行した四条派作品を、松村景文(まつむらけいぶん)を中心に紹介しています。
四条派の祖・呉春の異母弟の松村景文は、花鳥画で京都や大坂の町衆に絶大な人気がありました。
兄弟弟子の岡本豊彦が得意とした「山水画」は、モチーフを理解するにはどうしても「難しい」と感じられがちです。
その点、景文が得意とした花鳥画は誰にでも理解しやすく、しかも飾った室内に華やぎを与えます。
景文の洗練されたタッチは、応挙→呉春とバージョンアップを続けてきた写実絵画の魅力をさらに増しました。
肩ひじを張らなくても、誰もがその上質な表現を理解できたのです。
松村景文の「牡丹小禽図」白鶴美術館や「箭竹図」香雪美術館は、景文の個性がとてもよくわかる作品です。
応挙や呉春よりもさらに洗練されていると、強く感じられます。
大坂画壇の絵師たちの実力に圧倒される
第三章は、京都ではなく大坂で活躍した絵師たちを紹介しています。
森狙仙(もりそせん)や西山芳園(にしやまほうえん)ら、実力をたっぷりと感じることができる作品が揃っており、大坂画壇にスポットがあたる絶好の機会を提供してくれています。
昨年も京都・八幡の松花堂美術館で「ご存知ですか?大坂画壇」という絶妙のネーミングの展覧会が行われていました。
私が、大坂画壇の絵師たちの知名度の低さの理由に関心を持つようになったのは、この展覧会がきっかけです。
猿で有名な森狙仙の「子犬図」「猪図」からは、動物の毛のモフモフ感を描かせたら右に出る者はいない、狙仙の超絶技巧をしっかりと感じることができます。
西山芳園「花鳥図」は、京都の四条派とは異なる筆致が魅力的です。
かなりさっぱりしています。
美術館のロビー
江戸の絵師たちの個性は奥が深い。
これからも無名の絵師たちにスポットをあてる展覧会を、期待してやみません。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
なぜこれほど「知」が集まったのか? 驚きの交友ネットワーク
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利用について、基本情報
中之島香雪美術館
企画展「上方界隈、絵師済々 Ⅰ」
主催:香雪美術館、朝日新聞社
会期:2019年12月17日(火)〜2020年3月15日(日)
原則休館日:月曜日、12/29-1/7
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※2/2までの前期展示、2/4以降の後期展示ですべての展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車、4番出口から徒歩3分
京阪中之島線「渡辺橋」駅下車、12番出口から徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、7番出口から徒歩8分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅(西梅田駅)→メトロ四つ橋線→肥後橋駅
※この施設が入居するビルに有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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